個人事業主やフリーランスとして事業を行っていると、サイバー攻撃やウイルス感染、情報漏えいといった事故が他人事ではなくなります。実際、業務用メールの不正アクセスや顧客情報の漏洩が発生した場合、対応費用や賠償責任が発生することもあり、事業継続に大きな影響を及ぼします。
こうしたリスクへの備えとして「サイバー保険」に注目する人は増えていますが、その多くの商品が企業向けで、個人向け(個人事業主やフリーランスが加入できるもの)は中々見つけられません。
本記事では、「個人向けに対応しているサイバー保険が少ない理由」と、個人事業主・フリーランスが現実的に検討できる選択肢をわかりやすく解説します。
※本記事は「事業を行う個人」を対象としています。私生活でのネットトラブル(SNSの誹謗中傷やネット詐欺など)への備えをお探しの方は、各損害保険会社の「個人賠償責任保険」や特約をご確認ください。
個人向けに対応しているサイバー保険は少ない
結論から言うと、日本国内で「個人向け」と明確に位置づけられたサイバー保険商品は多くありません。現在提供されているサイバー保険の大半は、企業や事業者を対象とした商品として設計されています。
個人事業主やフリーランスが加入できるケースも多少ありますが、「個人でも加入できる」と明示しているサイバー保険は少なく、事業内容や業務規模、契約条件によって判断されるのが一般的です。
サイバー保険が企業向け商品として設計されている理由
サイバー保険が企業向け商品として設計されている最大の理由は、想定しているサイバーリスクの内容が「企業活動」に直結しているからです。
多くのサイバー保険では、以下のような事故を補償対象としています。
- 外部からのサイバー攻撃やウイルス感染による業務停止
- 顧客情報・取引先情報の漏えいに伴う賠償責任
- 事故発生後の調査、原因究明、再発防止対応にかかる費用
- 顧客や取引先への説明・対応に必要な各種サービス
これらは、「企業が業務として情報を管理・利用している」ことを前提にしたリスクです。そのため、保険会社が提供するサポート内容も、企業の事故対応を想定したものになっています。
また、補償金額や料金設計も企業向けが前提です。企業規模や業務内容、取り扱う情報量によってリスクが大きく異なるため、画一的な個人向けプランを作りにくいという事情があります。
加えて、サイバー保険は法人向け市場から発展してきた経緯があります。企業の情報漏えいや不正アクセスによる損害が社会問題化したことが、商品提供の出発点であることから、個人向けには一部のサイバー保険しか対応していない状態となっています。
個人向けに対応しているサイバー保険や代替サービス
個人事業主やフリーランスの場合、「サイバー保険に加入できるか」だけでなく、「加入できない場合にどう備えるか」を考えることが重要です。
企業向けに設計されたサイバー保険をそのまま利用できない場合でも、サイバー事故による損害や対応費用をカバーするための代替となる商品・サービスは存在します。
ここでは、個人事業主・フリーランスが検討できる選択肢として、以下の4つを紹介します。
- 個人事業主でも加入可能なサイバー保険
- 制度商品(加入条件つき)のサイバー保険
- フリーランス向けの賠償責任保険
- 個人向けの「不正利用補償」
個人事業主でも加入可能なサイバー保険
一部の保険会社が提供するサイバー保険は、「法人」ではなく「事業者」を対象としており、条件を満たせば個人事業主でも加入できる場合があります。
- 損保ジャパン「サイバー保険」
- 三井住友海上「サイバープロテクター」
このようなサイバー保険に加入に必要なのは、事業としての活動が明確であることです。具体的には、以下のような要素がチェックされます。
- 継続的な事業活動があるか
- 業務として顧客情報や業務データを扱っているか
- サイバーリスクの高い業務内容か(IT・Web制作など)」
ただし、「個人事業主でも加入可能」とされる商品であっても、すべてのケースで契約できるわけではありません。個別の審査があるため、直接問い合わせたり公式情報を確認したりなどして、加入できるか判断しましょう。
制度商品(加入条件つき)のサイバー保険
制度商品とは、商工会議所や業界団体、特定の会員組織に加入している事業者を対象に提供される保険商品です。個人事業主やフリーランスが加入できる団体の中には、サイバー保険を制度商品として提供している場合があります。
- 商工会議所「情報漏えい賠償責任保険制度」
- 日本美容医療リスクマネジメント協会「サイバーリスク保険」
制度商品の特徴は、加入対象が会員や特定業種などの「身内」に限定される点です。団体への入会や所定の手続が必要となるため、「誰でもすぐに加入できる商品」ではありません。
そのため、「すでに対象団体に所属している」「加入条件を満たせる」という個人事業主・フリーランスの選択肢となります。
フリーランス向けの賠償責任保険
サイバー保険に直接加入できない場合の代替策として、業務賠償責任保険も重要な選択肢です。
フリーランス向けに提供されている業務賠償では、業務上のミスや事故によって第三者に損害を与えた場合の賠償責任を補償します。
- フリー株式会社「フリーナンスあんしん補償」
- ITフリーランス支援機構「サイバーリスク補償プラン」
サイバー攻撃そのものを包括的に補償する商品ではありませんが、「結果として発生した賠償責任」に備えるという意味では、実務上の代替として利用されるケースがあります。
補償範囲や対象となる事故内容は商品ごとに異なるため、サイバーリスクがどこまで含まれるかを確認することが重要です。
個人向けの「不正利用補償」
個人事業主やフリーランスに襲いかかるサイバーリスクの1つが、不正アクセスなどによる金銭的被害(キャッシュアウト)です。このリスクに対しては、クレジットカード会社などが提供する「不正利用補償」が、サイバー保険の機能を一部代替できると言えます。
- JCB:カード不正利用時の補償制度
- 三井住友カード:カードの不正利用に対する保障制度
- アメリカン・エキスプレス:オンライン・プロテクション
事故対応サービスや業務停止リスクまでカバーするものではありませんが、事業用カードの不正利用など、サイバー攻撃によって実際に発生しやすいリスクへの対策になり得ます。
よくある質問
個人事業主・フリーランスがサイバー保険(または代替策)を検討する際、特に陥りやすい疑問とその回答を紹介します。
スムーズな比較検討ができるよう、事前に押さえておきましょう。
個人事業主・フリーランスが備えるべきサイバーリスクとは?
事業・業務で発生し得るサイバーリスクの中身は、企業と個人事業主・フリーランスの間にそれほど違いはありません。
- 業務用メールやクラウドサービスへの不正アクセス
- ウイルス感染や不正プログラムによる業務データの破損
- 顧客情報・取引先情報の漏えいに伴う賠償責任
- サイバー事故発生後の対応にかかる時間的・金銭的負担
個人事業主・フリーランスが特に意識すべきなのは、「影響を一人で受け止めなければならない」という点にあります。
企業であれば、専門部署や外部委託によって対応できますが、個人は、事故対応そのものが業務停止につながることもあります。
そのため、「損害額の大きさ」だけでなく、「事故対応にかかる負担」も含めてリスクを捉えることが重要です。
個人事業主・フリーランスができるセキュリティ対策は?
サイバー保険や代替商品を検討する前提として、基本的なセキュリティ対策を講じておくことは不可欠です。
多くのサイバー事故は、複雑な攻撃よりも、管理不足や設定ミスが原因で発生しています。
最低限意識したい対策は以下の通りです。
- 業務で利用するサービスごとのパスワード管理の徹底
- 二要素認証の利用など、不正アクセス対策
- OSやソフトウェアの定期的な更新
- 業務データのバックアップ取得
- 不審なメールやファイルを安易に開かない運用ルール
これらの対策を行っていない場合、「サイバー保険に加入できない」「加入していても補償されない」という可能性があります。
セキュリティ対策は、事故を防ぐためだけでなく、保険やサービスを適切に利用するための前提条件として考えましょう。
まとめ
個人事業主やフリーランスが「個人向けサイバー保険」を探しても、選択肢はそれほど多くありません。
サイバー保険は企業向け商品として設計されているため、個人事業主が加入できるかどうかは、事業内容や契約条件によって判断されます。
一方で、一部のサイバー保険は個人向けに対応していたり、賠償責任保険など代替となるサービスがあったりと、個人でもサイバーリスクに備えることは可能です。
重要なのは、「自分の事業にとって現実的なリスクは何か」を整理し、必要な対策・補償を組み合わせることです。
サイバー事故は、規模の大小にかかわらず事業に影響を与えます。補償内容や対応サービスを正しく理解し、自身の事業に合った備え方を判断することが、個人事業主・フリーランスにとって現実的な対策となります。
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