法人向け保険の中には、保障が一生涯続く「終身保険」があります。
法人が終身保険に加入する背景には、経営者や役員の万が一に備えた死亡保障の確保や、退職金・弔慰金の準備、事業承継時の資金確保など、さまざまな目的があります。
しかし、契約形態や経理処理、税務上の取り扱いには注意が必要です。法人が保険を活用するためには、正しい経理処理を把握し、加入目的に適した保険商品を選ぶことが大切です。
本記事では、法人契約できる終身保険の種類や特徴、活用する主な目的とメリット、経理処理の方法、契約前に確認すべきリスクや注意点を解説します。
代表的な商品もいくつか紹介するので、法人で終身保険の契約を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
法人契約できる終身保険の特徴

終身保険は、被保険者が死亡するまで保障が続く「生涯保障」の生命保険です。途中解約しない限り必ず保険金を受け取れます。
保険料の変動がなく、年齢が上がっても契約時の金額で保障を継続可能です。また、商品によっては解約返戻金(それまで支払った保険料から一定割合が返還されるお金)を受け取れます。
法人が契約する場合、費用負担の見通しがしやすく、保険金もしくは解約返戻金を必ず受け取れるため、中長期的な資金計画に組み込みやすい点が特徴です。
法人向け終身保険の種類
法人が契約できる終身保険にもいくつか種類があります。
「生涯保障」「解約返戻金あり」という点は同じですが、それ以外は種類ごとに特徴があるため、詳しく解説します。
定額終身保険
もっとも基本的なタイプの終身保険で、契約時に決まった保険料・保障額・利率が契約期間中ずっと変わらないのが特徴です。保険内容がシンプルで分かりやすいため、初心者にも適しています。
- 将来の保険料が上がる心配がない
- 契約内容が明確で安心感がある
- インフレに弱い(死亡保険金や解約返戻金が実質的に目減りするリスク)
変額終身保険
支払った保険料の一部を株式や債券などの金融資産に投資して運用し、その成果に応じて死亡保険金や解約返戻金が増減するタイプの終身保険です。複数の運用先(特別勘定)から選べる商品もあります。
- 運用がうまくいけば配当を受け取れる
- 投資性と保障を兼ね備えている
- 保険料が割高
- 運用実績次第では配当を受け取れない場合がある
外貨建て終身保険
米ドルや豪ドルなどの外貨で保険料を払い込み・運用し、保険金を外貨で受け取るタイプの終身保険です(特約により日本円での受取が可能な場合もある)。円建てに比べて高利率で運用されるケースが多く、資産形成目的で注目されています。
- 円建てより高い利率が期待できる
- 為替差益による資産増加の可能性がある
- 為替変動リスクがある(円高時に受け取り額が減少)
- 為替手数料や解約控除などの費用が発生する
低解約返戻金型終身保険
一定期間中、解約返戻金を大幅に抑えることで保険料を割安に設定しているタイプの終身保険です。途中解約しない前提での長期運用に向いています。
- 通常の終身保険よりも保険料が安い
- 支払い期間終了後は返戻率が上昇
- 早くに解約すると返戻金が極端に少ない
積立利率変動型終身保険
積立金に対して、一定期間ごとに市場金利をもとに利率が見直されるタイプの終身保険です。金利が上昇すれば、将来の保険金や解約返戻金も増加する可能性があります。
- インフレ時に保険金が増える可能性がある
- 金利が低下すると、返戻金も増えにくい
- 最低保証があるとはいえ、将来の額は不確定
他の生命保険との違い
終身保険以外にも、法人向けの生命保険にはさまざまなタイプがあります。
主な生命保険の種類と特徴は以下の通りです。
- 終身保険
- 保障が一生涯続く生命保険。原則として解約返戻金がある。
- 定期保険
- 保障が一定期間の生命保険。原則として解約返戻金はないが、例外(逓増定期保険など)もある。
- 養老保険
- 保障が一定期間の生命保険。満期時に満期保険金が受け取れる。
- 収入保障保険
- 死亡保険金を一括ではなく、毎月年金形式で受け取る生命保険。保障は一定期間。
- 個人年金保険
- 老後の生活資金を準備するための貯蓄型生命保険。年金受取開始までは、積み立てた保険料額に応じて保障。
また、生命保険以外の保険(医療保険やがん保険など)でも、保障期間に応じて「終身型」「掛け捨て型」と分ける場合があるため、混同しないよう注意しましょう。
法人で終身保険を活用する主な目的とメリット

多種多様な法人向け保険がある中で、あえて終身保険を選ぶ理由は何でしょうか?
主な加入目的とメリットについて、わかりやすく解説します。
経営上のリスク対策(事業保障)
法人が終身保険に加入する主な目的の一つは、経営上のリスク対策です。経営者や役員の万が一に備えることで、事業の継続性を担保します。
キーパーソンの不在は、売上減少や信用低下、ひいては資金繰りの悪化や借入金の早期返済請求といった影響を及ぼします。
このようなリスクに対し、保険で万が一に備えていれば、保険金を当面の運転資金として活用可能です。
このように、法人にとって終身保険は、経営の安定性を高める重要な手段となります。
事業承継時の資金確保
法人向け終身保険は、事業承継に伴う費用の備えとしても有効です。
事業承継には、相続税や贈与税、弁護士費用など、さまざまなコストが生じます。事業規模や会社の形態(株式会社か有限会社か)などにもよりますが、数百万円~数千万円かかるケースもありえます。
これらの費用に対して、保険に加入しておけば資金確保が容易になり、後継者の負担を軽減可能です。
退職金・弔慰金の準備
解約返戻金を受け取れる終身保険は、退職金や弔慰金の準備にも活用できます。
保険という形で積み立てることで、計画的に資金を準備可能です。
退職金・弔慰金制度によって福利厚生を充実させれば、人材の確保・定着や勤労意欲の向上など、企業にとってもプラスに働きます。
終身保険の経理処理

法人契約の保険には、保険料や保険金、解約返戻金の経理処理について厳正なルールが定められています。
終身保険の場合どのような経理処理になるのか、正しい知識を押さえておきましょう。
保険料:受取人が法人か遺族かで処理が異なる
保険料支払い期間中の経理処理は、保険金の受取人が法人か被保険者の遺族かで異なります。
法人が受取人の場合、保険料はすべて資産として計上します。支払い期間中の損金算入はできません。
遺族が受取人の場合、保険料は「給与所得」とみなされ、経理処理もそのルールに準じます。個人の所得税や社会保険料に影響する点に注意が必要です。
保険金受取人 | 保険料の経理処理 |
---|---|
法人 | 資産計上 |
役員・従業員の遺族 | 給与所得 |
保険金や解約返戻金:資産計上分との差額を益金 or 損金として計上
法人が解約返戻金を受け取ったときは、それまでに資産計上していた保険料との差額を益金または損金として処理します。
→差額の5,000万円を雑収入として計上
→差額の1,000万円を雑損失として損金算入
終身タイプの医療保険などはルールが異なるので注意
医療保険などのいわゆる「第三分野保険」にも終身タイプの商品がありますが、ここまで解説した終身保険とは経理処理のルールが異なるため注意が必要です。
貯蓄性 | 基本的に低いかまったくない |
---|---|
主目的 | 医療費、がん治療費などの特定リスク保障 |
法人受取の場合の経理 | 原則全額損金算入(資産計上が必要なケースあり) |
遺族・被保険者受取の場合の経理 | 「福利厚生として処理する場合」と「給与所得として処理する場合」がある |
第三分野保険は契約形態によって処理方法が変わるため、詳しくは税理士などの専門家に確認しましょう。
契約前に確認すべき注意点

さまざまなメリットがある終身保険ですが、自社のニーズに合ったものを契約しなければ意味がありません。
法人が終身保険を契約するにあたって、注意すべきポイントを解説します。
配当の有無
法人向け終身保険には、配当がある「配当型」と、配当がない「無配当型」があります。
配当型は運用成績が良ければ配当金の分配を受け取れますが、保険料が割高になります。また、運用が悪化すれば配当金は受け取れないため注意が必要です。
無配当型は配当金がない反面、保険料が割安なのでコスト面では有利です。
メリットとデメリットの両方を考慮し、自社の目的や資金計画に合わせて選ぶようにしましょう。
特約の内容
法人向けの終身保険は、さまざまな特約を付加できる場合があります。
- 定期保険特約:死亡保障を一定期間手厚くする。
- 入院・手術給付金特約:入院や手術の費用を補う。
- 介護特約:介護費用を補う。
- 三大疾病特約:がん、急性心筋梗塞、脳卒中の治療費を補う。
- 傷害特約:怪我による死亡や障害を保障する。
- 余命6ヶ月特約:余命6ヶ月と診断された時点で、死亡保険金の一部または全部を事前に受け取れる。
法人が終身保険に加入する際は、特約の内容を十分に理解し、適切に選ぶことが求められます。
キャッシュフローへの影響
終身保険は長期間にわたって保険料を支払うことになるため、資金繰りを綿密に計画する必要があります。
解約返戻金を資金調達に活用する場合は、解約返戻率(支払った保険料に対する解約返戻金の割合)のピークと資金の需要時期が合うよう設計しましょう。
なお、保険料の支払いは全期間払い(定められた期間で分割して支払う方法)のほか、短期払いや一時払いなどを選べる場合があります。自社の財務戦略に合わせて、どのように支払うか検討してみましょう。
代表的な商品例

終身保険は、各保険会社がさまざまな商品を法人向けに開発・販売しています。
代表的なものをいくつか紹介するので、商品選びの参考にしてください。
終身保険[無配当]:東京海上日動あんしん生命
東京海上日動あんしん生命の「終身保険(無配当)」は、法人向けの終身保険商品であり、経営者の万一に備えるための一生涯の保障を提供します。
不慮の事故による死亡・高度障害に備える「災害割増特約」や、不慮の事故による身体障害に備える「傷害特約(本人型)」などの付加が可能です。
経営者の万一に備えるための死亡保障を提供し、事業承継や相続対策、退職慰労金の準備など、法人のさまざまなニーズに対応します。
終身保険/低解約返戻金型逓増定期特約II:エヌエヌ生命
エヌエヌ生命の「逓増定期保険 主契約:終身タイプ」は、保険金額が契約年数の経過に応じて増加する終身保険です。
特約基準保険金額(初年度保険金額)から、5倍を限度として逓増(徐々に増加)します。
不慮の事故による死亡・高度障害に備える「災害割増特約」や、不慮の事故による身体障害に備える「傷害特約(本人型)」などもあり、経営者の万一に備えられます。
あさひの一時払終身:朝日生命保険
朝日生命の「あさひの一時払終身」は、まとまった資金を一時払保険料として払い込むことで、死亡・高度障害状態に対する保障を一生涯準備できる保険です。
契約から5年経過後、年金移行特約を付加することで契約の一部または全部を年金に移行できます。
年金コースには「10年確定年金」や「10年保証終身年金」があり、ライフプランに応じた選択が可能です。解約返戻金と合わせて、柔軟な資金需要に応えられます。
アクサの「一生保障」の終身保険 保険料長期割安型:アクサ生命
アクサ生命の「一生保障」の終身保険 保険料長期割安型(正式名称:無配当終身保険〈低払いもどし金特則付〉)は、一生涯の死亡・高度障害保障を提供する終身保険です。
契約から一定期間(低払いもどし期間)中の解約返戻金を抑制することで、保険料を割安に設定しています(低払いもどし期間中の解約返戻金割合は70%)。
保険料払込期間は、15年・20年・終身払、または55歳~80歳満了の5歳刻みで選択できます。保険金額の設定は300万円~7億円まで、10万円単位で設定可能です。
まとめ

法人向けの終身保険は、事業保障・退職金準備・事業承継資金確保といった多様なメリットがあります。また、解約返戻金の活用や、配当・特約の選定による自社に最適化した契約が可能です。
一方で、経理処理や保険料負担には細心の注意が必要です。法人のキャッシュフローや税負担への影響を十分に考慮して計画を立てましょう。
終身保険の選択は、法人にとって財務戦略の一環となります。目的を明確にし、制度の仕組みを正しく理解することが、効果的な保険活用の第一歩です。
迷ったときは法人コンサルティングに特化した保険代理店などに相談のうえ、最適な保険設計を行うようにしましょう。
財務戦略コネクトで最適なコンサルタントを無料で
ご紹介!
財務戦略コネクトは月間33万ユーザーが利用する法人保険.NETが提供する経営者に無料で財務戦略のプロをご紹介するサービス。
- 適正納税の範囲で安定した財務を確保したい
- 損害保険や生命保険など万が一のリスクに備えた法人保険に加入したい
- 財務対策として最適な法人保険をプロの目線から提案してほしい
- 退職金準備や事業継承など出口戦略をそろそろ考えていきたい
世の中には節税や税金対策を謳う単に会社にプールするお金を減らすリスクの高いサービスがたくさんあります。
しかし法人保険の2019年の税制改正により全額損金参入が難しくなったように、今求められるのはルールの範囲内で適正納税をしつつ、
法人に1円でも多くのお金を残し、会社の成長のために最適な資金投下を行う「財務戦略」。
これらを全て知り尽くした財務戦略のプロを"無料"で経営者の方にご紹介します。
ぜひお気軽にご登録ください。