
企業型DC(企業型確定拠出年金)の導入を検討しているものの、何から手をつければよいのか、誰に何を相談すればよいのか迷う経営者や担当者は少なくありません。
企業型DCの導入は、会社側で決めることを整理し、外部機関と協力しながら進めるのが一般的です。また、導入後の管理業務まで見据える必要があります。
この記事は、企業型DCを導入するまでの実務手順に絞って解説します。10ステップの流れに沿って、各段階で会社が決めること、外部機関や従業員と進めることを分けて整理しました。
導入期間や費用の目安、運用開始後の管理業務まで解説するので、自社の企業型DC導入にぜひお役立てください。
企業型DCの導入方法10ステップ

企業型DCは、現在の退職金制度の確認から従業員への投資教育まで、10ステップの流れで導入を進めます。会社だけで完結する手続きは少なく、運営管理機関などの外部機関や従業員と分担しながら進めるのが基本です。
各ステップで「会社が決めること」「外部機関と進めること」「従業員と行うこと」を整理すると、次のとおりです。
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| ステップ | 会社が決めること | 外部機関と進めること | 従業員と行うこと |
|---|---|---|---|
| Step1. 現在の退職金制度を確認する | 既存制度の扱い(新設・併用・移行) | 移行時の確認(社労士など) | - |
| Step2. 制度設計の方針を決める | 導入方針・目的 | - | - |
| Step3. 加入対象者・掛金など制度を設計する | 加入対象者、掛金、拠出方法 | 制度設計の相談(支援機関・運営管理機関) | - |
| Step4. 制度運営と資産管理の体制を整える | 委託先の選定 | 見積もり・提案の比較 | - |
| Step5. 運用商品のラインナップを決める | 提示する商品構成の方針 | 運営管理機関等と商品構成を協議・検討 | 労使で商品構成を協議・検討 |
| Step6. 規約を作成し労使協議を行う | 協議に出す制度案 | - | 労働組合または過半数代表者と協議・合意 |
| Step7. 就業規則・退職金規程を確認・変更する | 変更する規程の内容 | 規程の確認(社労士など) | 変更内容の周知 |
| Step8. 規約を確定し地方厚生局へ申請する | 規約の確定 | 規約作成の支援、厚生局への申請 | - |
| Step9. 加入者情報を登録する | 登録する加入者の確定 | 運営管理機関を通じた登録 | 加入に必要な書類の提出 |
| Step10. 従業員へ制度説明・投資教育を行う | 教育の実施方法 | 教材・セミナーの提供 | 運用商品の選択(加入者) |
表のとおり、会社が中心となるのは方針の決定と制度設計です。運用商品の選択は加入者本人が担います。
ただし、規約の承認を得て掛金の拠出が始まっても、手続きは終わりではありません。運用開始後も、会社には掛金の納付や入退社への対応などの管理業務が続きます。
※順序は一般的な一例です。制度設計から規程変更までの工程は並行して進むことが多く、運営管理機関によっては段取りが前後する場合もあります。
Step1. 現在の退職金制度を確認する
まずは、自社が現在採用している退職金制度を必ず確認します。これは、既存制度の内容によって、企業型DCの位置づけや必要な手続きが変わるためです。
確認するのは、退職一時金、確定給付企業年金(DB)、中小企業退職金共済(中退共)などの制度の有無です。あわせて、退職金規程に定めた支給水準や支給条件も確認しましょう。
そのうえで、現在の退職金制度を残すのか、企業型DCへ切り替えるのかを検討します。現在の状況によって、主に次の3つの導入パターンが考えられます。
| 現在の状況 | 検討する導入パターン | その場合に考えること |
|---|---|---|
| 退職金制度がない | 新設 | 企業型DCを退職給付の柱とするか |
| 既存の退職金制度を残したい | 上乗せ・併用 | 既存制度との役割分担、掛金の配分 |
| 既存制度の全部または一部を見直したい | 一部または全部の移行 | 不利益変更にあたらないか、積立済み資産を移換できるか |

移行のパターンでは、既存の退職金制度を変更することで、退職金の支給額や支給条件が従来より不利になるケース(不利益変更)があります。従業員にとって不利な内容へ変更する場合は、原則として従業員の同意(就業規則の変更によって対応する場合は、変更内容の合理性と従業員への周知)が必要です。
また、既存制度で積み立てた資産を企業型DCへ移す場合、その条件は制度ごとに異なります。そのため、社労士や運営管理機関に、自社の規程や積立状況をもとに確認してもらう必要があります。
Step2. 制度設計の方針を決める
既存の退職金制度との関係を整理したら、次に企業型DCをどのような制度にするか、大まかな方針を明確にしましょう。ここで決めた方針が、次のステップで加入対象者・掛金・拠出方法を決めるときの判断基準になります。
主に整理しておきたいのは、次の3点です。
- どの従業員まで加入対象にするか
- 掛金にどの程度の差を設けるか
- 掛金を会社が負担するのか、従業員が給与の一部から拠出する選択肢を設けるのか
たとえば、福利厚生として幅広く利用してもらうなら、多くの従業員を対象にして掛金を一律にする設計が考えられます。一方、退職金制度として勤続年数や給与水準を反映したい場合は、それらに応じて掛金に差を設ける方法も選択肢になります。
Step3. 加入対象者・掛金など制度を設計する

前項で決めた方針をもとに、具体的な制度設計を行っていきます。主な検討項目は次の3つです。
- 加入対象者
- 掛金
- 財源となる拠出方法
各項目は、導入支援会社や運営管理機関から設計案の提示を受け、相談しながら決めるのが一般的です。
①加入対象者は「一定の資格」で範囲を決める
企業型DCの加入対象者は、原則として厚生年金被保険者である従業員全員です。ただし、規約で「一定の資格」を定め、職種や勤続期間などによって加入範囲を限定できます。
ただし、一定の資格の設定には合理的な理由が必要です。特定の個人を狙って除外する設定や、性別などを理由とする不当な差別にあたる設定は認められません。
加入対象を限定する場合は、職種や勤続期間などの基準を明確にし、同じ条件に当てはまる従業員には一律に適用します。既存の退職金制度や雇用区分との整合も確認しながら、対象範囲を決定します。
②掛金は拠出限度額内で定額・定率から選ぶ
企業型DCの掛金は、規約で定めた方法により会社が年1回以上、定期的に拠出します。設定方法は主に次の3つです。
| 設定方法 | 内容 | 向いている目的 |
|---|---|---|
| 定額 | 全員一律、または資格ごとに一定額 | 福利厚生の拡充、管理を簡単にしたい場合 |
| 定率 | 給与の一定割合 | 給与水準に連動した退職金にしたい場合 |
| 組み合わせ | 定額部分+定率部分 | 最低限の水準を確保しつつ差をつけたい場合 |
ただし、掛金の設定は、法律で定められた拠出限度額を超えない範囲でなければいけません。DBなど他の企業年金の有無によって、限度額の上限は異なります。
| 他の企業年金 | 企業型DCの拠出限度額(月額) |
|---|---|
| なし | 5.5万円 |
| DBなどあり | 5.5万円から他制度の掛金相当額を差し引いた額 |
上記は2026年11月30日までの拠出限度額です。2026年12月1日からは、他の企業年金がない場合は月額6.2万円、DBなどがある場合は月額6.2万円から他制度の掛金相当額を差し引いた額へ引き上げられます。
参照:厚生労働省|確定拠出年金の拠出限度額
また、会社が拠出する掛金に加えて「従業員本人による上乗せ拠出(マッチング拠出)」を認める場合は、その旨も規約に定めます。マッチング拠出を利用する場合も、事業主掛金と加入者掛金の合計は拠出限度額が上限です。
なお、以前は加入者掛金を事業主掛金以下とする制限がありましたが、2026年4月1日に撤廃されています。
③選択制DCを採用するか決める
企業型DCの制度設計の一つとして、従業員が企業型DCに加入するかを選べる「選択制DC」があります。加入を選んだ場合は会社が事業主掛金を拠出し、加入しない場合は掛金相当額を給与等として受け取る仕組みです。
また、選択制DCを採用する場合は、掛金相当額の原資をどのように用意するかも決めます。主な方法は次の2つです。
| 方法 | 仕組み | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 既存給与を組み替える | 給与規程などを見直し、既存給与の一部を選択枠に振り替える | 会社は新たな原資を用意せず導入できる。DCを選んだ従業員は税・社会保険料の負担が軽くなる場合がある | DCを選ぶと現金で受け取る給与が減る。将来の厚生年金や傷病手当金などが減る可能性もある |
| 別の原資を用意する | 前払い退職金など、既存給与とは別に選択枠を設ける | 既存給与を減額せずに導入できる | 会社に新たな負担が生じる場合があり、既存の退職金制度との調整も必要 |
特に既存給与を組み替える方法では、DCへの加入によって給与として受け取る額や社会保険料の算定額が変わるため、従業員への十分な説明が必要です。
Step4. 制度運営と資産管理の体制を整える

制度設計が固まったら、企業型DCを実際に運営するための体制を整えます。企業型DCでは、大きく「制度を運営する業務」と「従業員の年金資産を管理する業務」が必要です。
制度運営では、運用商品の選定・提示や加入者への情報提供、加入者記録の管理、運用指図の取りまとめなどを行います。これらの業務は会社自身で行うこともできますが、専門知識やシステムが必要になるため、実務では「運営管理機関」へ委託するのが一般的です。
一方、掛金や運用資産の管理は、信託銀行や生命保険会社などの「資産管理機関」と資産管理契約が必須となります。運営管理業務と異なり、資産管理を会社自身で行うことはできません。
| 区分 | 主な役割 | 会社が行うこと | 主な委託・契約先 |
|---|---|---|---|
| 運営管理 | 運用商品の選定・提示、加入者記録の管理、運用指図の取りまとめなど | 自社で行うか、運営管理機関へ委託する | 銀行、信託銀行、保険会社、証券会社、DC専門会社など |
| 資産管理 | 掛金・年金資産を会社の財産と分けて管理する | 資産管理機関と契約する | 信託銀行、生命保険会社など |
なお、金融機関によっては、運営管理と資産管理の両方に対応しており、一括して任せることもできます。
Step5. 運用商品のラインナップを決める
従業員が選択できる運用商品は、会社自身で選定・提示するか、委託する運営管理機関が提示するラインナップをもとに労使で検討します。選定できる運用商品の数は、法令で3本以上35本以内と定められています。
参照:e-Gov ポータル|確定拠出年金法 第23条第1項
参照:e-Gov ポータル|確定拠出年金法施行令 第15条の2
商品の質や手数料、リスク・リターン等も考慮しつつ、加入者が自分の運用方針に応じて選べるよう性質の異なる商品を組み合わせます。また、一度決めて終わりではなく、商品の運用実績や手数料、商品構成などを確認しながら定期的に見直すことも大切です。
なお、加入者が運用商品を選ばなかった場合に適用する「指定運用方法」を設けることもできます。設定する場合は、運用関連業務を担当する者が候補を選定・提示し、労使でその内容を決定します。
Step6. 規約を作成し労使協議を行う
制度設計がまとまったら、その内容をもとに企業型年金規約を作成します。規約には、加入資格や掛金の額・算定方法、運用商品の提示方法、給付に関する事項など、企業型DCを運営するためのルールを定めます。
規約案を作成した後は、労働者側への説明と協議が必要です。厚生年金被保険者の過半数で組織する労働組合(該当する労働組合がない場合、厚生年金被保険者の過半数を代表する者※)から同意を得なければいけません。
※過半数代表者は、投票や挙手など民主的な方法で選出し、選出の経緯も記録に残します。会社が指名して決めることはできません。
規約作成~労使協議の流れ
- 規約案の作成:これまで決めた制度内容を規約に反映する
- 説明:制度の目的や仕組み、加入資格、掛金などを伝える
- 協議:規約案について労働者側と意見を交わし、必要に応じて修正する
- 同意:労働者側から規約への同意を得る
これまで設計してきた内容について労働者側の意見を確認し、必要に応じて規約案を調整しつつ、最終的な内容を固めます。
Step7. 就業規則・退職金規程を確認・変更する
企業型年金規約と合わせて、就業規則や給与規程、退職金規程などを確認し、必要に応じて新設・変更します。
必要となる対応は、企業型DCの導入方法によって異なります。
| パターン | 主な対象規程 | 変更の骨子 |
|---|---|---|
| 退職金制度として新設 | 退職金規程など | 企業型DCによる退職給付、加入資格などを規定する |
| 選択制DC | 給与規程・賃金規程など | 選択枠を設け、給与等として受け取るか事業主掛金に充てるかの手続きを定める |
| 既存制度からの移行 | 退職金規程など | 給付の算定方法や移行内容を変更し、従業員への不利益が生じる場合は必要な対応を行う |
具体的な条文は、既存規程の構成や制度内容によって変わります。企業型年金規約と内容が食い違わないよう、自社の規程に合わせて整備することが必要です。
なお、常時10人以上の労働者を使用する事業場で就業規則を変更した場合、労働者側の意見書を添えたうえで労働基準監督署へ届け出ることも必要です。変更後の就業規則は、従業員への周知も行います。
Step8. 規約を確定し地方厚生局へ申請する
労使協議で企業型年金規約に合意したら、必要書類をそろえて管轄の地方厚生局(または地方厚生支局)へ承認申請を行います。
申請先は、企業型DCを実施する事業主の主たる事務所の所在地を管轄する地方厚生(支)局です。複数の事業主で一つの企業型DCを実施する場合は、代表事業主が申請します。
主な申請書類は次のとおりです。
- 企業型年金規約
- 労働組合または過半数代表者の同意書
- 労働組合の現況または過半数代表者の選出を証する書類
- 労使協議の経緯を示す書類
- 就業規則・給与規程・退職金規程などの写し
- 運営管理機関へ委託する場合は、その選任理由書
- 厚生年金適用事業所・事業主であることを確認できる書類
加入資格の設定や他制度からの資産移換など、制度内容によって追加書類が必要になる場合もあります。
申請後は、規約が法令上の承認基準を満たしているか審査されます。不備があれば修正や追加書類を求められるため、余裕をもった日程で申請しましょう。
Step9. 加入者情報を登録する
規約の承認を受けたら、規約で定めた加入資格に該当する従業員について、加入者情報を登録します。記録関連業務を運営管理機関へ委託している場合、その機関へ加入者情報を通知します。
登録する主な情報は、氏名、生年月日、基礎年金番号、資格取得日などです。選択制DCを採用している場合は、従業員本人の加入意思を確認し、その結果も登録内容に反映させます。
また、掛金の拠出にあたっては、加入者ごとの事業主掛金額を通知する必要があります。マッチング拠出を採用している場合は、加入者掛金についてもあわせて管理が必要です。
Step10. 従業員へ制度説明・投資教育を行う
加入者登録が完了したら、従業員が企業型DCの仕組みを理解し、自分で運用商品や資産配分を選べるよう制度説明と投資教育を行います。投資教育は事業主の努力義務であり、導入時だけでなく加入後も継続的に実施することが求められています。
導入時に伝える主な内容は次のとおりです。
- 企業型DCの仕組みや税制、給付の受け取り方
- 運用商品の仕組みと特徴
- リスク・リターンや分散投資など資産運用の基礎知識
- 老後の生活設計を踏まえた運用の考え方
実施方法は、セミナー形式や研修動画・eラーニング、個別相談などから、従業員数や勤務形態に合わせて選びます。
投資教育は自社で行うほか、運営管理機関や企業年金連合会などへ委託することも可能です。ただし、外部へ委託した場合も、従業員が継続して学べる機会を確保することは会社の役割となります。
導入期間と費用の目安
企業型DCの導入期間と費用は、制度設計の内容や依頼する運営管理機関によって大きく変わります。
一律の数値を当てはめるのではなく、何によって期間が延びるのか、費用がどの項目で構成されるのかを把握し、自社の見積もりと照らし合わせて判断しましょう。
導入期間は申請審査を含め数か月単位で逆算する
企業型DCの導入期間は、制度設計の開始から運用開始まで4〜6か月程度が目安です。ただし、既存制度からの移行や選択制DCの導入など、制度設計や社内調整が複雑になる場合は、さらに時間がかかることもあります。
工程を4段階に分けると、各段階で期間を左右する要因が見えてきます。
| 段階 | 期間を左右する要因 | 長くなりやすいケース |
|---|---|---|
| 準備・制度設計 | 既存制度の整理、経営層の意思決定の速さ | 既存制度から移行する、選択制DCを採用する |
| 労使合意・規程整備 | 協議の回数、規程変更の範囲 | 労働組合との協議が長引く、複数の規程を改定する |
| 申請・審査 | 書類の完成度、厚生局からの差し替え指示 | 書類の不備で再提出になる |
| 登録・教育 | 従業員数、拠点の数 | 拠点が多く、説明会の日程調整が難航する |

なかでも地方厚生局への規約申請は、承認まで1〜2か月程度を見込む必要があります。
申請後の審査期間だけでなく、その前の制度設計や労使協議、規程整備にも時間がかかるため、余裕をもったスケジュールを確保しておきましょう。
費用は初期費用と毎月の運営費用に分かれる
企業型DCでは、導入時の初期費用に加え、運用開始後も制度の管理・運営に費用がかかります。金額や料金体系は委託先や加入者数によって異なるため、複数の項目を含めて見積もりを確認することが重要です。
| 区分 | 主な費用 | 見積もりで確認すること |
|---|---|---|
| 初期費用 | 導入手数料、制度設計・規約作成・申請の支援料など | 規程変更や申請支援がどこまで含まれるか |
| 運用開始後の費用 | 運営管理、記録管理、資産管理、投資教育などにかかる手数料 | 会社単位の固定額か、加入者数に応じて増えるか、支払頻度 |
| 運用商品にかかる費用 | 投資信託の信託報酬など | 商品ごとの手数料水準 |
運営費用は加入者数に応じて増える項目が多いため、採用計画を踏まえた数年後の人数まで試算しておくと、長期的なコストを比較しやすくなります。
運営管理や資産管理などにかかる事務費・手数料は、規約で負担者や負担方法を定めます。加入者に負担を求める項目を設ける場合は、加入者の資産形成への影響も含めて確認が必要です。
運用開始後の管理業務

企業型DCは、運用を開始した後も会社側に継続的な管理業務が発生します。掛金の納付や入退社への対応だけでなく、投資教育、運用商品の見直し、規約変更、行政への報告なども必要です。
主な管理業務を順に見ていきます。
①掛金を計算・納付する
会社は、企業型年金規約で定めた方法に従って加入者ごとの事業主掛金を計算し、規約で定めた日までに資産管理機関へ納付します。
記録関連業務を運営管理機関へ委託している場合は、加入者ごとの掛金額をその機関へ通知することも必要です。マッチング拠出を採用している場合は、加入者掛金についても同様に管理します。
定率で掛金を設定している場合や、給与と連動する制度設計では、昇給などによって掛金額も変わります。給与計算との連携を含め、規約で定めた時期に正しい金額を拠出できる体制を整えておくことが重要です。
②入退社や従業員情報の変更に対応する
新入社員や新たに加入資格を得た従業員がいる場合は、加入者として必要な情報を登録します。反対に、退職などで加入資格を失った場合には、資格喪失の手続きが発生します。
氏名や住所、他の企業年金への加入状況など、登録済みの情報に変更が生じた場合も更新が必要です。記録関連業務を委託している場合は、所定の期限までに運営管理機関へ通知します。
入退社の情報は給与・社会保険の手続きとも関係するため、人事担当者と企業型DCの事務担当者で情報がずれないように管理しましょう。
③退職者へ資産移換の案内を行う
従業員が退職して企業型DCの加入資格を失った場合、会社側では資格喪失の手続きを行うとともに、退職者へ年金資産の移換について案内します。
会社が行う主な対応は、次のとおりです。
- 退職者の資格喪失に必要な情報を運営管理機関などへ通知する
- 資格喪失が見込まれる日までに、年金資産の移換手続きが必要になることを説明する
- 移換先の選択肢や手続期限、自動移換の仕組みについて案内する
資産移換に関する説明は会社の義務であるため、退職手続きの中で漏れなく案内できるようにしておく必要があります。
なお、実際に移換先を選び、移換の申請を行うのは退職した従業員本人です。転職先に企業型DCがある場合はその制度へ移すほか、状況に応じてiDeCoなどへの移換も選択肢となります。
従業員が資格喪失後6か月以内に必要な手続きを行わなかった場合、年金資産が国民年金基金連合会へ自動移換されることがあります。
④継続的に投資教育を行う
会社の努力義務として、導入後も加入者に対する投資教育を継続的に行うことが求められます。加入者が制度や運用商品の特徴を理解し、自らの判断で運用商品を選択・見直せるようにすることが目的です。
具体的な教育内容としては、次のようなものがあります。
- 企業型DCの仕組みや掛金、給付、税制
- 運用商品の種類、それぞれの特徴や手数料
- リスクとリターン、長期運用、分散投資などの基礎知識
- 自分の運用状況や資産配分の確認・見直し方
- 公的年金なども含めた老後の生活設計
教材の提供や研修の実施は、運営管理機関や企業年金連合会などへ委託することも可能です。
⑤運営管理機関や運用商品の内容を見直す
運営管理業務を外部へ委託している場合、少なくとも5年ごとに運営管理機関の業務を評価し、委託内容を見直すよう努めなければいけません。運用商品の構成や手数料、加入者への情報提供などを確認し、必要があれば改善を求めたり、委託先を変更したりすることを検討します。
運用商品のラインナップも、定期的な見直しの対象です。手数料や運用実績、商品構成などを確認し、加入者にとって適切な選択肢が用意されているかを確認します。
ただし、すでに提示している商品を除外する場合は、原則として、その商品を選択している加入者等の3分の2以上の同意が必要です。商品の追加とは手続きが異なるため、見直しの際は運営管理機関と必要な対応を確認します。
⑥毎年の業務報告書を提出する
企業型DCを実施する会社は、事業年度ごとに運営状況をまとめた業務報告書を作成し、地方厚生(支)局へ提出します。記録関連業務を運営管理機関へ委託している場合は、その機関を通じて提出するのが原則です。
主な報告内容は、以下のとおりです。
- 企業型年金の承認番号や厚生年金適用事業所の情報
- 加入者・運用指図者の人数、資格取得者・資格喪失者の状況
- 事業主掛金・加入者掛金の額や拠出状況
- 返還資産額の状況
- 個人別管理資産の状況
- 指定運用方法の利用状況
- 企業型DCの加入資格を失った人の状況
提出期限は、事業年度終了後3か月以内です。毎年発生する手続きのため、必要な情報をそろえられるよう社内の年間スケジュールに組み込んでおくとよいでしょう。
⑦制度変更に応じて規約を変更する
加入資格や掛金など、規約に定めた制度内容を変更する場合は、企業型年金規約の変更手続きが必要です。
必要となる手続きは、変更内容によって次のように異なります。
| 手続き区分 | 具体例 | 労使同意 | 行政手続き |
|---|---|---|---|
| 承認が必要な変更 | 加入資格、事業主掛金の算定方法、加入者掛金の拠出方法、運用方法の提示に関するルールなどの変更 | 原則必要 | 変更前に承認申請 |
| 軽微な変更 | 事業主・実施事業所の追加や削除、運営管理機関へ委託する業務内容の変更など | 原則必要 | 変更後に届出 |
| 特に軽微な変更 | 事業主や実施事業所の名称・所在地の変更、規約内容を実質的に変えない条項の移動など | 不要 | 原則として変更後に届出 |
| 届出も不要な変更 | 市町村名の変更などに伴う所在地表記の変更、運営管理機関の名称・住所のみの変更など | 不要 | 承認・届出とも不要 |
承認が必要な変更では、労働組合または過半数代表者の同意を得たうえでの申請が必要です。軽微な変更でも原則として労使同意が必要ですが、特に軽微な変更では同意手続きが不要となる場合もあります。
また、制度変更の内容によっては、就業規則や給与規程、退職金規程などの改定も必要です。変更時には規約だけでなく、必要な労使手続きや関連規程まで含めて確認しましょう。
企業型DCの導入方法についてよくある質問
企業型DCの導入を検討する際に、経営者や人事担当者からよく寄せられる疑問と、その回答を紹介します。
従業員が少ない会社でも企業型DCを導入できますか?
従業員が少ない会社でも、企業型DCの導入は可能です。厚生年金の適用事業所であれば、従業員数による制限はありません。
以前は厚生年金の被保険者数が300人以下の会社を対象に、手続きや規約の内容を簡素化した「簡易型DC」という仕組みがありましたが、2026年4月1日に通常の企業型DCへ統合されました。
注意したいのは、運営管理機関ごとに受け付けている企業規模が異なる点です。数人規模の会社では引き受けてもらえない場合もあるため、相談の初期段階で自社の従業員数を伝え、対応してもらえるかを確認しておくと安心です。
社長・役員も企業型DCに加入できますか?
厚生年金の被保険者である社長や役員は、企業型DCの加入対象にできます。厚生年金に加入していない非常勤役員などは、原則として対象外です。
役員だけを加入対象にしたり、役員と従業員で掛金額に差を設けたりするには、報酬や退職金制度などの違いに基づく合理的な理由が前提となります。単に「役員だから」という理由で有利な条件を設けると、地方厚生(支)局に申請しても、承認されないおそれがあります。
また、加入対象を限定する場合は、職種・勤続期間・年齢・加入希望の有無など、法令上認められた資格基準に沿った設計が必要です。
企業型DCは中退共やDBと併用できますか?
企業型DCは、中退共ともDBとも併用できます。既存の退職金制度を残したまま、企業型DCを上乗せする形で導入する会社も少なくありません。
ただし、拠出限度額への影響は制度によって異なります。中退共を併用しても企業型DCの拠出限度額は変わりませんが、DBなどの企業年金と併用する場合は、他制度の掛金相当額を差し引いて計算します。
- 企業型DCのみ:5.5万円
- ほかの企業年金との併用:5.5万円-他制度の掛金相当額
※2026年12月1日以降、企業型DCのみの場合は月額6.2万円、ほかの企業年金と併用する場合は月額6.2万円から他制度の掛金相当額を差し引いた額へ引き上げられます。
なお、中退共やDBで積み立てた資産を企業型DCへ移す場合は、制度ごとに移換の条件や制限があります。併用にとどめるのか、一部を移行するのかによって手続きが大きく変わるため、まず現在の退職金制度の内容を確認することが必要です。
企業型DCを導入するときはどこに相談しますか?
企業型DCの導入を検討するときの主な相談先は、運営管理機関、社労士、導入支援会社です。それぞれ得意とする支援内容が異なります。
| 相談先 | 主に相談できる内容 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 運営管理機関 | 制度設計、運用商品の選定・提示、規約作成や申請の支援、投資教育など | 委託先の候補から具体的な制度案や費用を比較したい |
| 社労士 | 就業規則・給与規程・退職金規程の整備、労使手続き、既存制度との調整 | 退職金制度の変更や選択制DCの導入など、労務面の対応が必要 |
| 導入支援会社 | 制度設計の整理、運営管理機関の選定支援、導入スケジュールの管理、従業員説明など | 社内だけでは導入準備や関係者との調整が難しい |
導入だけでなく、制度開始後の運営まで総合的な支援を受けたい場合は、運営管理機関(銀行・信託銀行・保険会社・証券会社・DC専門会社など)への相談がおすすめです。
相談前に、現在の退職金制度と導入目的をまとめておくと、自社に合った提案を受けやすくなります。
まとめ
企業型DCの導入では、最初から制度の細部まで決める必要はありません。まずは現在の退職金制度を確認し、「なぜ導入するのか」を社内で整理することが大切です。
この2点が明確になれば、加入対象者や掛金、既存制度との関係など、次に検討すべき内容も見えてきます。専門的な手続きについては、運営管理機関や社労士などの支援を受けながら進めることもできます。
企業型DCは、導入すること自体が目的ではなく、自社の退職給付や福利厚生をどのような形にしたいかを考えるための選択肢の一つです。まずは現状の制度と導入目的を書き出し、自社に合う制度設計を検討するところから始めてみましょう。
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