退職金制度を新しく設ける、あるいは既存の制度を見直す場面では、退職金規程(規定)の作成や改定が必要になります。担当する経営者や人事担当者の多くは、まずテンプレートや他社のサンプルを探すところから始めるのではないでしょうか。

ただし、退職金規程はひな型の空欄を埋めれば完成する文書ではありません。条文を書く前に、支給対象や条件、支給額の計算方法などを、会社自身が決めておく必要があります。

この記事では、退職金規程に定める項目と計算方法に加え、作成手順や変更時の注意点を解説します。規程の作成や改定に取り掛かる際の参考資料として、ぜひご活用ください。

退職金規程(規定)は退職金制度の内容をまとめた社内ルール

退職金制度・退職金規程・就業規則の関係

退職金規程(規定)とは、会社の退職金制度のうち、労働条件として従業員に約束する内容を条文にまとめた社内ルールです。

退職金制度は、支給内容から原資の準備までを含む会社の仕組み全体を意味します。一方の退職金規程は、どのような基準で支給するかを示します。

従業員にとっては「自分の支給条件や退職金の計算方法を確かめる基準」、会社側にとっては「退職者ごとに判断がぶれないよう支給基準を統一するためのルール」が、退職金規程の役割です。

なお、労働基準法では「退職金」ではなく「退職手当」という用語が使われています。退職金規程に定める退職金は、原則として法令上の「退職手当」に該当します。

退職金規程と就業規則の関係

退職金規程は、就業規則を構成する要素の1つです。

そもそも、法律上の就業規則は必ずしも1つの文書を指すものではありません。労働時間や賃金、服務規律などのルールをまとめた規則類の総称であり、複数の規程によって構成することも可能です。

退職金規程も同様に、就業規則の本則とは別に作成した場合でも、法律上は就業規則の一部として扱われます。

また、退職金規程を独立した文書として作成する義務はなく、就業規則の本則に直接記載することも可能です。この場合、独立した退職金規程が存在しなくても、就業規則の中に退職金に関する定めが設けられていることになります。

常時10人以上の事業場で退職金制度を設ける場合は規定の作成が必要

退職金制度の導入自体は任意ですが、常時10人以上の労働者を使用する事業場で制度を設ける場合は、退職金に関する事項を就業規則として定める義務があります。

特に、次の事項は必ず定めなければいけません。

  • 退職金の支給対象となる労働者の範囲
  • 退職金の決定・計算・支払方法
  • 退職金の支払時期

ただし、先述のとおり独立した文書の作成は必須ではありません。就業規則の本則に記載する方法と、別の退職金規程として作成する方法のどちらでも、法的な記載義務を満たせます。

一方、常時10人未満の事業場には、労働基準法第89条による就業規則の作成・届出義務はありません。ただし、退職金の支給を定めた場合は、規程や労働契約などに基づく支払義務が生じます。

「規定」と「規程」の違い

「退職金規程」は「退職金規定」と表記することもありますが、両者を使い分ける厳密な基準はありません。

文書名を「退職金規程」とする法律上の義務はなく、厚生労働省や労働局の資料でも両方の表記が使われています。

社内の文書名として「退職金規定」を使っていても、内容に問題がなければ有効です。実際に表記を選ぶ際は、就業規則や他の社内規程の名称とそろえておくと、文書同士の関係が分かりやすくなります。

※一般的な使い分けとしては、「規程」はルールや文書の全体を、「規定」は個々の条文やその中の定めを指します。この使い分けに沿えば、文書全体は「退職金規程」、その中にある一つひとつの決まりごとは「規定」となります。
ただし、上記のとおり文書全体を「退職金規定」と称しても、名称の違いだけで効力が変わることはありません。

独立した文書として退職金規程(規定)を作るメリット

すでに触れているとおり、退職金規程は独立した文書として作る義務はありません。就業規則の本則に、退職金に関する項目を加えるという方法も可能です。

それでも退職金規程を独立した文書として作成することが多いのは、退職金に関するルールを管理しやすくするためです。

特に、支給条件や計算方法が複雑な企業では、退職金規程を別文書にすることで、制度の管理や改定にかかる負担を軽減できます。

就業規則の本則を簡潔に保てる

退職金に関する定めは、支給条件や算定方法が複雑になりやすく、条文の数も多くなる傾向があります。

例えば、勤続年数や退職理由によって支給額が変わる制度では、基本的な計算方法だけでなく、支給率や減額条件などの規定も必要です。

これらをすべて就業規則の本則に盛り込むと、退職金に関する条文が多くなり、労働時間や休日、休暇などの規定も含めた文書全体が長くなります。

そこで、就業規則本則には退職金制度の存在と別規程への委任を記載し、詳細は退職金規程にまとめる方法を取ることで、本則の構成も簡潔に保てます。

退職金に関するルールをまとめて管理できる

退職金規程を独立させると、支給対象者の範囲や計算方法、支払時期などを1つの文書にまとめられます。

勤続年数の端数処理や休職期間の扱いなど、細かな条件を退職金規程にまとめておけば、共通のルールに基づいて支給額を算定できます。担当者が変わっても対応しやすくなることや、従業員に対しても根拠となる規定を示しやすい点もメリットです。

さらに、退職一時金と企業年金などを併用している会社では、各制度の適用対象や支給額の調整方法を定めることもあります。退職金規程を独立させておくと、複数の制度に関するルールをまとめて管理することも可能です。

制度変更時の改定作業を進めやすくなる

退職金規程を独立させることで、支給率の見直しや制度の変更があったとき、条文の改定作業を進めやすくなります。

例えば、退職金の計算方法を変更する場合、就業規則の本則にすべてのルールを記載していると、本則の中から関連する条文を探して修正する必要があります。

一方、退職金規程が独立していれば、改定対象を退職金規程にまとめられます。支給率表や計算式などの関連資料も同じ文書で管理しておけば、変更前後の内容を比較する際にも役立つでしょう。

また、退職金規程だけで改定履歴を管理できるため、過去の支給条件を確認する際にも利点があります。特に、退職時期によって異なる支給条件を適用する場合は、いつ、どのような変更を行ったのかを記録しておくことが重要です。

ただし、別規程に分けたからといって、法的な手続きが簡略化されるわけではありません。退職金規程も就業規則の一部であるため、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、作成・変更時の意見聴取や届出、従業員への周知などが必要です。

退職金規程(規定)で定める主な7項目

退職金規程で定める主な7項目

退職金規程に記載すべき主要項目は、次の7つが挙げられます。

項目決める内容記載例の一言
①適用対象支給対象とする従業員の範囲「正社員就業規則の適用を受ける従業員」
②勤続年数の条件最低勤続年数、勤続年数の数え方「勤続○年以上で退職した者に支給する」
③退職理由別の取扱い自己都合・会社都合・定年・死亡ごとの扱い「自己都合退職は別表の自己都合欄を適用」
④算定方法と計算式算定方式、基礎額、支給率、端数処理「算定基礎額に別表の支給率を乗じる」
⑤支払方法・支払時期一時金か年金か、支払期日、死亡時の支払先「退職日から○か月以内に一時金で支払う」
⑥不支給・減額対象となる事由と範囲「懲戒解雇の場合は全部または一部を支給しない」
⑦外部制度との関係中退共・特退共・企業型DCとの給付の関係「中退共から支給される額を本規程の退職金に充当する」

※記載例は条文の書き出しのイメージです。また、空欄の数値や範囲は自社の制度内容に応じて決めます。

各項目の役割や注意点を把握してから、実際の作成作業に入りましょう。

①適用対象となる従業員

最初に、退職金を誰に支給するのかを明記します。

重要なのは、対象者をあいまいにせず、明確な基準を示すことです。たとえば、「正社員に支給する」とだけ書くのではなく、「正社員就業規則の適用を受ける従業員」のように、対象の線引きをはっきりさせます。

短時間・有期雇用労働者を対象外とする場合は、パートタイム・有期雇用労働法に照らした確認が必要です。職務内容や配置変更の範囲などを踏まえ、不合理な待遇差や差別的な取扱いに当たらないか確認しましょう。

②勤続年数の条件

退職金の支給に必要な勤続年数と、その算定方法を定めます。主な論点は次のとおりです。

  • 試用期間を勤続年数に含めるか
  • 休職期間をどう扱うか
  • 育児・介護休業期間をどう扱うか
  • 1年未満の端数を切り捨てるか、月単位で計算するか
  • 定年後の再雇用など、雇用形態が変わる前後の期間を通算するか

ポイントは、算定時に差別的な取り扱いをしないことです。

たとえば、男性は勤続3年以上、女性は勤続5年以上とするなど、性別によって退職金の支給条件に差を設けることは、男女同一賃金の原則に反します。

また、育児・介護休業について、「3か月の育児休業なのに、退職金の算定上は1年間勤務しなかったものとして扱う」といった、実際の休業期間を超えて不利に扱うことは認められません。

「勤続何年目から」は会社が任意に定められますが、勤続年数の認定基準に不当な差異を設けないよう注意が必要です。

③退職理由別の取扱い

退職金の支給条件や計算方法を退職理由によって分ける場合は、それぞれの区分と適用基準を規程に定めます。退職理由ごとに、支給条件や支給率を明記しなければいけません。

特に注意したいのは、自己都合と会社都合の区分です。単純に2つで分けるのではなく、退職勧奨に応じた退職や希望退職制度への応募など、会社側の事情が関係する退職に対してどのように扱うのか定めます。

また、定年退職や死亡退職についても、自己都合・会社都合のどちらと同じ支給率を適用するのか、独自の基準を設けるのかを明確にします。定年後の再雇用がある場合は退職金の支給時期、死亡退職では受取人となる遺族の範囲や順位なども検討事項です。

さらに、懲戒解雇による退職金の減額・不支給を設ける場合は、その条件を規程に明記する必要があります。ただし、規定があれば必ず減額・不支給が認められるわけではなく、過去の功績を損なうほどの重大な背信行為があったかなど、個別の事情を踏まえた判断が求められます。

④算定方法と計算式

退職金の代表的な3つの計算方法

退職金の算定方法は会社が任意に決められますが、支給額を具体的に計算できるよう、計算式や適用条件を規程に定める必要があります。

代表的な算定方法は「算定基礎額×支給率方式」「定額制」「ポイント制」の3つです。

算定方法計算の仕組み規程に定める主な項目
算定基礎額×支給率方式退職時の基本給などを基礎額とし、勤続年数などに応じた支給率を掛ける算定基礎額の決め方、支給率表、退職理由別の取扱い
定額制勤続年数などの区分ごとに定めた金額表から支給額を決める勤続年数ごとの支給額、適用対象者、退職理由別の取扱い
ポイント制勤続年数や等級、役職などに応じて付与した累積ポイントに単価を掛けるポイントの付与基準、単価、退職理由別の取扱い

算定基礎額×支給率方式では、退職時の基本給を算定基礎額とする方法が代表的です。勤続年数に応じた支給率表を用意し、自己都合退職と会社都合退職で異なる支給率を設定することもあります。

定額制は、勤続5年なら○万円、10年なら○万円といった金額表を用いる方式です。基本給を計算に使わないため、昇給や賃金改定によって退職金額が直接変動することはありません。

ポイント制は、勤続年数だけでなく、在職中の役割や責任の違いを退職金額に反映できる点がメリットです。一方で、従業員ごとにポイントの付与履歴や累計を管理する必要があり、ほかの方式と比べて管理項目が多くなる場合があります。

いずれの方式でも、算定に必要な数値や条件を明確にすることが重要です。計算式だけでなく、支給率表や金額表などを規程の別表にまとめ、勤続年数や支給額の端数処理についても定めておきます。

⑤支払方法・支払時期

金額の決め方とあわせて、どのように、いつまでに支払うかも規程に定めます。主な記載事項は次のとおりです。

  • 一時金か年金か
  • 振込などの支払手段
  • 支払期日
  • 死亡退職時の支払先

支払期日は「退職日から2か月以内」など、具体的に定めます。退職金は規程に定めた期日までに支払えば足りますが、定めがない場合は労働基準法第23条により、請求から7日以内の支払いが必要です。

また、銀行振込で支給する場合は本人の同意が必要です。死亡退職時の退職金についても、受取人となる遺族の範囲や順位を明記しておくことで、支払先を巡るトラブルの防止につながります。

⑥不支給・減額に関する条項

懲戒解雇や重大な不正、競業行為などを理由に退職金を支給しない、または減額する場合は、その根拠となる条項を規程に定める必要があります。条項がないまま、退職時の会社判断で不支給にすることはできません。

ただし、不支給条項があれば全額不支給が常に認められるわけではありません。退職金には賃金の後払い的な性格もあるため、それまでの勤続の功を失わせるほどの重大な背信行為があったかどうかなど、具体的な事情を踏まえた判断が必要です。

条文は「全部または一部を支給しないことがある」のように、行為の程度に応じて一部の減額にとどめられる形にしておくと、実際の判断との食い違いを避けやすくなります。

また、退職後に在職中の重大な不正が判明する場合に備え、支給済みの退職金の返還を求める条項を設ける方法も可能です。もっとも、返還条項があっても返還請求が必ず認められるとは限らず、不支給と同様に行為の重大性などが問われます。

⑦中退共・特退共・企業型DCと退職金の関係性

社外の退職金制度を利用する場合は、各制度から支給される給付と、会社が規程で定める退職金との関係が条文から読み取れるようにします。関係が曖昧なままだと、支給額をめぐって従業員と認識がずれやすくなります。

中退共は、独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する中小企業向けの退職金共済制度です。規程では、中退共から支給される退職金を会社の退職金として扱うのか、会社の規程で計算した額との差額を別途支給するのかなどを定めます。

特退共(特定退職金共済)を利用する場合も、共済から従業員へ支給される退職給付金と会社独自の退職金との関係を明確にします。特退共は商工会議所などの実施団体ごとに内容が異なるため、加入先の規約に沿った記載が必要です。

企業型DC(企業型確定拠出年金)を併用する場合は、退職一時金に上乗せする制度なのか、退職一時金の一部を企業型DCへ移行したのかなど、退職一時金との関係を必要に応じて規程に書きます。企業型DCそのものの掛金や給付の詳細は、退職金規程ではなく企業型DC規約で定めます。

どの制度を利用するにしても、各制度の仕組みと退職金規程の間に矛盾が生じないようにすることが重要です。

退職金規程(規定)の作り方4ステップ

退職金規程の作り方4ステップ

退職金規程づくりは、条文を書く作業から始めるのではなく、制度の中身を固める作業から始まります。

  1. 制度の目的と原資の準備方法を決める
  2. 対象者・支給条件・算定方法を決める
  3. モデルを参考に規程案を作成する
  4. 意見聴取・届出を行い従業員に周知する

各ステップでどのようなことを意識すればよいか、ポイントを押さえておきましょう。

Step1. 制度の目的と原資の準備方法を決める

最初に、何のために退職金を支給するのかを決めます。目的を定めることで、制度設計の方向性が定まります。

たとえば、長期勤続に報いることが目的であれば、勤続年数に応じて金額が伸びる設計が基本です。採用や定着といった人材施策の一環と位置付けるのであれば、等級や役職を反映できる算定方法を重視します。

あわせて、将来の支給額をどう準備するかも決めます。準備方法は、主に次の2つです。

  • 会社が預金や法人保険などを活用して原資を準備し、退職時に支払う方法
  • 中退共などの社外制度に掛金を拠出し、制度から給付される仕組みを使う方法

どちらの方法でも、将来の支給見込額と会社の資金負担を踏まえ、長期的に継続できる制度とすることが重要です。

Step2. 対象者・支給条件・算定方法を決める

対象者・支給条件・算定方法チェックリスト

目的と原資の方向性が決まったら、規程に書く制度の中身を一つずつ確定させます。条文を書き始める前に、次の項目がすべて「決定済み」になっているかを確認しましょう。

確認項目決定済み/未決定
支給対象とする従業員の範囲□決定済み □未決定
最低勤続年数と勤続年数の数え方□決定済み □未決定
退職理由別の取扱い□決定済み □未決定
算定方式と支給率・金額表・ポイント単価□決定済み □未決定
支払方法と支払時期□決定済み □未決定
不支給・減額の取扱いを設けるか□決定済み □未決定
社外制度を使う場合の給付との関係□決定済み □未決定

また、算定方式が決まった段階で、勤続年数や役職が異なる複数のモデルケースを用意し、退職金額を試算しておくことをおすすめします。今後数年の支給見込額と会社の資金負担を予測し、負担が想定を超える場合は、条文にする前に支給率や対象者を調整しましょう。

Step3. モデルを参考に規程案を作成する

制度の中身が固まったら、公的機関が公開しているモデルを参考に条文を作ります。代表的なものは、厚生労働省の「モデル就業規則」と、中退共が公開している退職金規程の例です。

厚生労働省のモデル就業規則には退職金に関する条文例が含まれており、法改正に合わせて改定されています。利用する際は、最新の版であるかを確認してから参照すると、改正前の条文を写してしまうリスクを避けられます。

ただし、モデルや他社のサンプルは、あくまで条文の構成や言い回しを確認するための資料です。そのまま転用するのではなく、一文ずつ内容を確認しながら、自社の制度設計に合うよう修正しましょう。

Step4. 意見聴取・届出を行い従業員に周知する

退職金規程の作成・変更時に必要な手続き

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の一部である退職金規程を作成・変更する際に、法律上の手続きが必要です。

まず、労働者の過半数が加入する労働組合がある場合は、その労働組合の意見を聴きます。そのような労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者からの意見聴取が必要です。

上記の意見聴取を行い、その意見を記した意見書を添えたうえで、所轄の労働基準監督署へ届け出ます。

ここで求められるのは意見を聴くことであり、同意を得ることではありません。反対意見が出た場合も、その内容を記載した意見書を添付して届け出ることになります。

また、届出とは別に、作成・変更した規程を従業員へ周知する義務があります。周知の方法は次のとおりです。

  • 作業場の見やすい場所への掲示、または備付け
  • 書面での交付
  • 社内システムなど、電子的に常時確認できる状態にする方法

退職金規程は、従業員に内容が周知されて初めて労働条件の基準として機能するため、作成・変更後の周知まで確実に行う必要があります。

退職金規程(規定)がない場合・変更する場合の注意点

退職金規程がない・変更する場合の注意点

退職金制度と退職金規程に関して、知っておきたい注意点が2つあります。

  • 規程がなくても支払義務が生じる場合がある
  • 減額・廃止は不利益変更に注意する

第一に、退職金規程がなくても、会社に退職金の支払義務が生じることがあります。「規程の有無=支払い義務の有無」ではない点に注意が必要です。

第二に、すでに設けた退職金制度を変更する場合は、従業員の労働条件を不利益に変更しないよう注意しなければいけません。不利益変更とみなされた場合、その変更は無効になる可能性があります。

それぞれの具体的なポイントを押さえて、トラブルを防ぎましょう。

規程がなくても支払義務が生じる場合がある

退職金制度の導入は企業の任意ですが、何らかの形で支給根拠が成立する場合、その支払いは拒否できません。そして、退職金規程以外の理由で支給根拠が成立する場合があります。

たとえば、雇用契約書などの労働契約に支給条件が書かれている場合は、その内容が支給の根拠として有効です。また、一定の基準による支給が長年繰り返されている場合、労使慣行として認められ、その基準での支払義務が生じるケースもあります。

明文化された定めがまったくない会社でも、退職金の支払義務が生じる可能性はあるため、注意が必要です。

減額・廃止は不利益変更に注意する

一度決めた支給率の引き下げや退職金制度の廃止は、従業員にとって労働条件の不利益変更にあたります。

労働契約法第9条では、従業員の合意なく就業規則を変更し、労働条件を不利益に変更することを原則として禁止しています。

ただし、同法第10条に基づき、変更後の規程を従業員に周知し、変更内容が合理的と認められる場合は、個別の合意がなくても変更が有効になることがあります。

第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

引用:e-Gov 法令検索|労働契約法

合理性の判断では、従業員が受ける不利益の程度や変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合などとの交渉状況が考慮されます。

特に退職金は、長年の勤続を前提に従業員が受給を見込んでいるため、減額や廃止による影響が大きくなる場合があります。そのため、変更案を固める前に次の事項を確認することが重要です。

  • 変更前の勤続期間に対応する給付をどう扱うか
  • 一定期間は旧規程との差を縮める経過措置を設けるか
  • 対象従業員へ変更理由と個別の影響をどう説明するか

変更前の勤続期間に対応する給付の扱いや、合理性が認められる減額の範囲は、一律に決まっているわけではありません。

特に大幅な減額や制度の廃止を予定する場合は、変更案の段階で弁護士や社会保険労務士に相談し、法的な問題がないか確認しておくことが重要です。

よくある質問

退職金規程を作る際や見直す際に、特に質問の多い質問と回答をまとめて紹介します。

会社に退職金制度の導入義務はありますか?

会社に退職金制度の導入を一律に義務付ける法律はありません。退職金を支給するかどうかは、会社が自ら決める事項です。

ただし、就業規則や労働契約などで支給条件を定めた場合は、会社はその内容に沿って支給する義務を負います。

文書に定めがなくても、一定の基準による支給を繰り返していると、労使慣行として支払義務が認められる可能性があります。「規程を作っていないから義務はない」とは言い切れません。

基本給25万円の場合、退職金はいくらですか?

退職金額は基本給だけでは決まりません。会社の退職金規程が定める算定方法、勤続年数、退職理由などによって金額が変わります。

例えば、退職時の基本給を算定基礎額とする方式で、勤続10年・自己都合退職の支給率を5.0と仮定して計算すると、下記のようになります(仮定の数値であり、一般的な相場や目安ではありません)。

退職金額=25万円×5.0=125万円

定額制やポイント制を採用している会社では、上記とは異なり基本給を使わずに金額が決まります。自社の金額を知るには、退職金規程の計算式と支給率表(または金額表)を確認する必要があります。

退職金の5年ルールとは何ですか?

「退職金の5年ルール」は、労務と税務で異なる意味で使われています。

労務上の5年ルールは、退職金の請求権の消滅時効です。労働基準法第115条により、退職金を請求できる時点から5年で時効となります。

税務上の5年ルールは、会社の退職金と確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の老齢一時金を別々に受け取る際の税金に関するものです。従来は、確定拠出年金を先に受け取り、5年以上の間隔を空けて会社の退職金を受け取れば、原則として退職所得控除の重複調整を避けられました。

しかし、2026年1月1日以後に受け取る確定拠出年金の老齢一時金については、調整対象となる期間が拡大され、いわゆる「10年ルール」に変更されています。対象となる勤続期間などが重複する場合、退職所得控除が調整されることがあります。

なお、会社の退職金を先に受け取り、後から確定拠出年金の老齢一時金を受け取る場合は、原則として前年以前19年内の退職金が調整対象となります。受取順序によって調整年数が変わるため、注意が必要です。

まとめ

退職金規程に定める内容は、従業員との約束です。支給条件を共有しておくことは、退職時の行き違いを防ぎ、従業員が将来の生活を考える際の安心にもつながります。

作成や見直しで迷う点があれば、「従業員にどう説明するか」を考えてみてください。支給対象や金額の決まり方を説明できるか確かめることが、まだ決まっていない条件を見つける手がかりになります。

条文の書き方や法的な確認は、専門家の支援を受けながら進めることも可能です。会社として約束する内容を一つずつ具体化し、従業員と共有していくことが、制度への信頼を支えます。

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