
経営者や人事・労務の担当者でも、退職金制度について詳しく知らないケースは少なくありません。
「企業が時従業員の退職時に支払うもの」というイメージはあっても、どのような支給方法があり、どうやって制度設計を行うかは、専門的な知識が必要です。
この記事では、退職金制度の代表的な種類と原資の準備方法を比較し、導入時の選び方や手続きの注意点を解説します。
退職金制度の導入は、企業にも多くのメリットがあり、人材の確保や定着を後押しする効果も期待できます。本記事で制度ごとの違いを理解したうえで、自社の人事方針や経営状況に合った仕組みを考えましょう。
退職金制度とは何か?
退職金制度とは、企業が従業員に対し、退職に伴って一定額を支給する制度のことです。
長期勤続に報いる「功労褒賞」としての役割だけでなく、賃金の後払い、退職後の生活保障などの側面があります。
企業にとっては、人材の確保・定着や従業員の意欲向上につながる点がメリットです。
制度の運用や退職金の支給には費用がかかりますが、従業員の将来を支えることは、企業の長期的な成長や安定した組織づくりにもつながります。
退職金制度の導入に法律上の義務はない
退職金制度を設けることは、法律で会社に義務付けられていません。退職金は企業がそれぞれの賃金体系や経営状況に応じて設ける制度であり、導入するかどうかは企業の判断に委ねられています。
また、退職金の金額や支給方法についても、法律で一律の基準が定められているわけではありません。退職一時金や企業年金などの仕組みがあり、支給条件や金額の決め方も企業によって異なります。
退職金制度の導入は小規模事業所でも珍しくない
実際にどのくらいの企業が退職金制度を導入しているかは、いくつかの調査があります。
厚生労働省の調査では、退職給付(一時金もしくは年金)制度がある企業の割合は全体で74.9%です。ただし、この調査では30人以上を雇用している企業が対象となっています。
| 企業規模 | 退職給付制度がある企業の割合 |
|---|---|
| 調査対象の企業全体 | 74.9% |
| 1,000人以上 | 90.1% |
| 300〜999人 | 88.80% |
| 100〜299人 | 84.70% |
| 30〜99人 | 70.10% |
※調査対象:日本標準産業分類(平成25年10月改定)に基づく16大産業で常用労働者30人以上を雇用する民営企業。
いくつかの自治体調査では小規模な事業所のデータがあり、おおむね60~80%程度が退職金制度を導入、もしくは退職金を支給しています。
| 調査地域 | 9人以下 | 10〜29人 |
|---|---|---|
| 埼玉県川越市 | 62.1% | 77.0% |
| 北海道帯広市 | 72.8% | 78.8% |
| 大分県 | 60.3% | 77.4% |
※川越市は正規従業員数による区分で、退職金支給の設問も正規従業員が対象です。帯広市は原則として従業員5人以上の事業所を調査しています。
今回取り上げた調査では、企業・事業所の規模が小さいほど、退職金制度の導入割合や退職金を支給する割合が低い傾向です。
一方、小規模な事業所でも6割程度は退職金制度の導入などをしており、決して大きい会社だけの施策ではないとわかります。
【出典】
厚生労働省|令和5年就労条件総合調査 4 3 退職給付(一時金・年金)制度
川越市|令和7年度労働基本調査報告書 規模別にみた退職金支給の有無
企業が退職金制度を導入するメリット
法律上の義務がなくても、会社が退職金を設けることには下記のメリットがあります。
- 人材の確保:求職者に提示する労働条件を充実させる
- 人材の定着:長期勤続を促し、従業員の離職を抑える
- 従業員の意欲向上:勤続や貢献を評価し、働く意欲を高める
- 福利厚生の充実:従業員の退職後の生活を支援し、会社への信頼を高める
特に、人材の採用や育成に時間がかかる企業では、経験を積んだ従業員の定着によって技術やノウハウが蓄積され、採用・教育コストの抑制も期待できます。
ただし、退職金制度を導入するだけでこれらのメリットが得られるわけではありません。自社の人事方針や経営状況を踏まえ、目的に合った制度を設計することが重要です。
退職金制度の種類

退職金制度の種類は、制度の形態によって「退職一時金制度」と「退職年金制度」の2種類に分けられます。
- 退職一時金制度:退職時などにまとめて支給
- 退職年金制度:退職後、一定期間または生涯にわたって年金を支給
※退職年金制度でも、一時金による支給を選択肢として設ける場合があります。
どちらか一方だけを導入する企業もあれば、両方を併用する企業もあります。
それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の状況に合わせた制度設計が大切です。
①退職一時金制度
退職一時金制度は、従業員が退職する際に、退職金をまとめて支給する制度です。支給額の算定は、勤続年数や退職時の給与、退職理由などに応じて計算します。
退職金原資の準備は、企業が社内で準備するほか、中小企業退職金共済(中退共)などの外部制度を利用する方法もあります。
従業員が退職時にまとまった資金を確保できる一方、企業側は将来の支給に備えなければいけません。特に社内で資金を準備する場合は、退職者が集中した際の資金繰りに注意が必要です。
| 制度の概要 | 従業員の退職時などに、退職金をまとめて支給する制度 |
|---|---|
| 主な仕組み | 社内準備方式、中小企業退職金共済(中退共)、特定退職金共済(特退共)など |
| 企業側のメリット | 支給条件や金額の算定方法を自社で設計できる。外部の共済制度を利用すれば、計画的な資金準備も可能 |
| 企業側のデメリット | 退職金の原資を確保する必要がある。社内準備方式では退職者の集中による資金負担が生じる |
| 従業員側のメリット | 退職時にまとまった資金を確保でき、生活費や住宅ローンの返済など幅広い用途に使える |
| 従業員側のデメリット | 受給後は自分で資金を管理する必要がある。社内準備方式では企業の経営悪化によって支払いに影響が生じるおそれがある |
※中退共は一定の条件を満たせば分割払いが可能です。
②退職年金制度
退職年金制度は、従業員の退職後、一定期間または生涯にわたって年金形式で給付する制度です。一時金とは異なり、退職後も継続的に収入を得られる点が特徴です。
代表的な仕組みには、確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(企業型DC)があります。
- 確定給付企業年金(DB):あらかじめ給付額の算定方法を定め、企業などが年金資産を管理・運用する制度
- 企業型確定拠出年金(企業型DC):企業が掛金を拠出し、従業員自身の運用結果によって給付額が決まる制度
両者は給付額の決まり方や企業が負担するリスクが異なります。導入にあたっては、掛金などの費用負担や運用管理の仕組みを比較することが重要です。
| 制度の概要 | 退職後、一定期間または生涯にわたって年金を支給する制度 |
|---|---|
| 主な仕組み | 確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(企業型DC)など |
| 企業側のメリット | 掛金を通じて退職給付の原資を計画的に準備できる。企業型DCでは掛金額に基づいて費用を管理できる |
| 企業側のデメリット | 継続的な掛金や運営管理費用が発生する。DBでは積立不足による追加負担が生じる場合がある |
| 従業員側のメリット | 退職後も継続的に年金を受け取れる。企業型DCでは自分で運用商品を選んで資産形成できる |
| 従業員側のデメリット | 原則として一定の年齢まで受給できない。企業型DCでは運用結果によって受給額が減少するリスクがある |
※DBや企業型DCでも、制度の規約に応じて一時金での受給が認められます。
退職金制度の原資を準備する方法

企業が退職金制度を設ける方法には、社内で原資を準備する方法と、企業年金や共済などの外部制度を利用する方法があります。
代表的な5つの仕組みを比較すると、次のとおりです。
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| 仕組み | 原資の準備・管理方法 | 受取額の決まり方 | 運用リスクの主な負担者 | 企業の継続的な負担 | 受け取り方 |
|---|---|---|---|---|---|
| ① 社内準備 | 会社が社内で準備・管理 | 会社が定めた算定方法 | 会社(資金を運用する場合) | 外部への定期拠出は不要 | 一時金 |
| ② DB | 事業主が掛金を拠出し、外部で管理・運用 | 規約で定めた算定方法 | 会社 | 掛金拠出+積立不足時の追加掛金 | 年金が基本(規約により一時金可) |
| ③ 企業型DC | 事業主が掛金を拠出し、加入者ごとの口座で管理 | 掛金と運用成果 | 従業員 | 掛金拠出+運営管理手数料など | 年金が基本(規約により一時金可) |
| ④ 中退共 | 事業主が掛金を納付し、勤労者退職金共済機構が管理 | 掛金月額と納付月数など | 制度側(会社の追加負担なし) | 毎月の掛金納付 | 一時金が基本(要件により分割可) |
| ⑤ 特退共 | 事業主が掛金を納付し、商工会議所などが管理 | 掛金月額と納付月数、運用実績など | 制度側(給付額が変動する場合あり) | 毎月の掛金納付 | 一時金が基本(制度により年金可) |
※特退共は運営団体によって給付内容が異なります。
このほか、退職金相当額を在職中の給与や賞与に上乗せして支給する「前払い退職金制度」もありますが、退職時の給付に備えて原資を準備する仕組みではないため、今回の比較からは外しています。
なお、社内準備以外の4つの仕組みは、制度そのものに退職資金の運用が組み込まれています。制度によっては、企業もしくは従業員が運用リスクを負担するため注意が必要です。
①社内準備

社内準備は、退職金の支給に必要な資金を会社が自社で確保する方法です。勤続年数や退職時の給与などをもとに支給額を定め、従業員が退職した際に会社から直接支払います。
外部制度への掛金拠出は必須ではなく、支給条件や金額の算定方法を自社で設計できる点が特徴です。
一方、将来の退職金を支払うための資金は会社が確保しなければなりません。特に退職者が集中すると多額の支出が発生するため、計画的な資金準備が重要です。
②確定給付企業年金(DB)

確定給付企業年金(DB)は、将来の給付額の算定方法をあらかじめ定める企業年金制度です。
企業が掛金を拠出し、信託会社や生命保険会社などを通じて年金資産を管理・運用します。運営方式には、企業が実施主体となる「規約型」と企業年金基金を設立する「基金型」があります。
従業員にとっては、運用成果にかかわらず規約に基づいた給付を受けられる点がメリットです。
一方、運用成績が想定を下回るなどして積立不足が生じた場合は、企業が追加の掛金を負担することがあります。また、導入後も年金財政の管理が必要です。
③企業型確定拠出年金(企業型DC)

企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が掛金を拠出し、従業員自身がその資金を運用する企業年金制度です。
従業員は預貯金や投資信託などから運用商品を選び、掛金と運用成果に応じた給付を受けます。
DBとは異なり、企業は運用成績の悪化による給付額の減少を補填する必要はありません。企業は掛金額を基準に費用を管理できる一方、従業員が運用リスクを負います。
また、企業には加入者への投資教育や制度の管理業務が求められます。運用を従業員に任せる制度ではありますが、企業側に対応が不要になるわけではない点には注意が必要です。
④中小企業退職金共済(中退共)

中小企業退職金共済(中退共)は、中小企業の退職金制度の整備を支援するために設けられた共済制度です。
企業が従業員ごとの掛金を毎月納めると、勤労者退職金共済機構が資金を管理・運用します。退職金は機構から従業員へ直接支払われるため、企業が退職時にまとまった資金を用意する必要はありません。
掛金月額は原則として従業員1人につき5,000円〜30,000円の範囲で設定でき、一定の短時間労働者には特例もあります。また、新規加入時や掛金増額時には、条件に応じた国の助成制度を利用可能です。
ただし、加入には業種別の企業規模要件があります。従業員は原則として全員加入となり、掛金の減額にも制限がある点に注意が必要です。
⑤特定退職金共済(特退共)

特定退職金共済(特退共)は、商工会議所などが運営する退職金共済制度です。
企業が従業員ごとの掛金を納め、運営団体が生命保険会社などに資金の運用を委託します。退職時には、掛金や加入期間などに応じた退職金が支払われる仕組みです。
中退共と同じく、退職金の原資を社外で準備できる点が特徴です。また、運営団体によっては中退共との併用も認められています。
一方、加入条件や掛金の設定、給付内容は運営団体によって異なります。導入にあたっては、利用する団体の規約や給付条件を確認しましょう。
自社に合う原資準備方法の選び方

退職金制度を選ぶ際は、企業規模だけでなく加入条件や資金負担、従業員構成、管理体制などを比較することが大切です。
社内準備・DB・企業型DC・中退共・特退共は、それぞれ異なる特徴があります。また、複数の仕組みを併用する方法もあるため、自社の経営方針や退職給付の目的に合わせて制度を設計する必要があります。
業種・企業規模・今後の成長見込みを確認する
まず、各制度の加入条件や企業規模による制限を確認します。
社内準備と企業型DCには、企業規模による一律の制限はありません。DBは規約型と基金型で条件が異なり、基金型では原則として300人以上の加入者が必要です。
一方、中退共は業種ごとに常用従業員数や資本金の基準があり、特退共は運営団体によって対象地域や加入条件が異なります。
また、将来の事業拡大や拠点の移転も考慮する必要があります。たとえば、中退共は企業規模が加入要件を超えると契約の終了が必要ですが、一定の条件を満たせばDB・企業型DC・特退共への資産移換が可能です。
退職金に充てられる予算を考える
次に、退職金のために毎年いくら支出できるか、将来どこまでの負担を許容できるかを確認します。
社内準備では、外部へ定期的に掛金を拠出せず、退職時に会社から支給する設計も可能です。ただし、退職者が集中すると多額の支払いが発生するため、計画的な資金確保が欠かせません。
中退共・特退共・企業型DCは、掛金を継続的に拠出する仕組みです。毎月の支出額を事前に把握できる一方、従業員が増えれば掛金総額も増加します。
DBは将来の給付額の算定方法を先に定めるため、運用状況などによっては当初の想定を超える掛金が必要になる場合があります。
制度ごとの費用を比較する際は、現在の資金余力だけでなく、10年後・20年後の従業員数や退職者数も踏まえて試算することが大切です。
従業員構成や人材方針との相性を見る
従業員の年齢構成や勤続年数、採用・離職の状況によって、退職金制度に求める役割は異なります。長期勤続を重視するのか、中途採用による人材確保を重視するのかが比較のポイントです。
長期勤続を促したい企業では、勤続年数に応じて退職金額が増える設計が考えられます。一方、中途採用が多い企業では、入社時期による待遇の差にも配慮が必要です。
従業員の転職が多い場合は、退職時に年金資産を引き継げるかも重要になります。企業型DCでは、一定の条件を満たせば転職先の企業型DCやiDeCoなどへ資産を移換できます。
また、制度によって加入対象者が異なる点にも注意が必要です。中退共や特退共では、原則として社長などの役員は加入できないため、役員退職金は別の仕組みで準備する必要があります。
特退共では、運営団体によって加入できる従業員の年齢条件なども異なります。自社の従業員構成と人材方針を踏まえ、各制度の加入条件や給付の仕組みを比較することが大切です。
制度を運営・管理できる体制があるか確認する
退職金制度は、導入後も継続的な管理が必要です。会社側に発生する業務は、制度によって異なります。
社内準備では、退職金の算定や支給原資の管理を会社が担います。DBでは年金財政の確認、企業型DCでは加入者への投資教育などが必要です。
中退共や特退共は外部機関が退職金の原資を管理するため、会社側の事務負担を抑えられる面があります。ただし、加入や掛金変更、退職時の手続きなどは会社側で対応しなければなりません。
特退共では、運営団体ごとに手続きや契約条件が異なる点にも注意が必要です。
人事・総務の担当者数や外部専門家の利用も踏まえ、自社で継続的に管理できる制度かどうかを確認します。
1つに絞らず複数の仕組みを併用することも検討する
退職金制度は、必ずしも1つだけを採用する必要はありません。代表的な組み合わせには、次のようなものがあります。
- 会社独自の退職一時金+企業型DC
- DB+企業型DC
- 中退共+会社独自の退職一時金
- 中退共+特退共
複数の仕組みを組み合わせれば、給付内容や企業の負担を分けて設計できます。
例えば、会社独自の退職一時金と企業型DCを併用すれば、会社が定める退職金に加え、従業員自身が運用する年金資産も準備できます。
ただし、併用によって必ず企業負担が小さくなるわけではありません。DBと企業型DCを併用する場合は、DBの掛金相当額に応じて企業型DCの拠出限度額が変わる点にも注意が必要です。
なお、すべての退職金制度を自由に組み合わせられるわけではありません。制度によっては同一従業員の重複加入に制限があるため、併用する場合はそれぞれの加入条件を確認する必要があります。
退職金制度を導入するときの注意点
退職金制度を導入する際は、支給条件を明文化し、必要な労使手続きや従業員への周知を行う必要があります。
また、一度定めた退職金の支給条件は、会社の判断だけで自由に変更できるわけではありません。将来的な制度の見直しも考慮して、導入時の内容を慎重に決めることが重要です。
支給条件を明確にして就業規則・退職金規程に反映する
退職金制度の導入にあたっては、誰に、どのような条件で、いくら支給するかを明確にします。主に定める内容は次のとおりです。
- 支給対象者:正社員や契約社員など、どの従業員を対象とするか
- 支給条件:勤続年数や退職理由など、どのような条件で支給するか
- 支給額の算定方法:勤続年数や給与などをもとに金額をどう決めるか
- 支給方法・時期:一時金や年金などの支給方法と支払時期
これらの内容は、就業規則や退職金規程などにまとめて従業員に周知します。
なお、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、退職金の定めを就業規則に記載する義務があります。労働者の過半数が加入する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する人)の意見を聴き、意見書を添えて労働基準監督署に届け出ることも必要です。
10人未満の事業場には就業規則の作成・届出義務はありませんが、退職金を設ける場合は支給条件を書面で明確にしておくことが重要です。
採用する制度に応じた申請・手続きを行う
退職金規程の整備とは別に、利用する制度によっては外部機関への申請や契約手続きが必要です。
DBや企業型DCを導入する場合は、年金規約を作成して所定の労使同意を得る必要があります。また、DBでは規約の承認や基金設立の認可、企業型DCでは規約の承認を受ける手続きがあります。
中退共や特退共では、運営機関との共済契約や従業員の加入手続きが必要です。中退共では、加入対象となる従業員の同意も求められます。
申請先や必要書類は制度によって異なるため、導入前に運営機関などへ確認しておく必要があります。
制度の変更・廃止には労働条件の不利益変更に注意する
退職金の減額・廃止や、退職一時金から企業型DCへの移行は、従業員に不利益を及ぼす場合があります。労働契約法では、使用者が労働者との合意なく、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更することを原則として認めていません。
ただし、変更内容を従業員に周知し、不利益の程度や変更の必要性などから合理的と認められる場合は、個別の同意がなくても変更が有効になることがあります。
制度を見直す際は、従来の退職給付の扱いや従業員への影響を確認し、十分な説明や労使協議を行うことが重要です。必要に応じて経過措置を設けるほか、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談し、変更内容や必要な手続きを確認することが大切です。
よくある質問
退職金制度に関するよくある疑問について、法律上の扱いや制度ごとの条件を踏まえて回答します。
退職金が無い会社は違法ですか?
退職金制度がないこと自体は違法ではありません。会社に退職金制度の導入を義務付ける法律はなく、制度を設けるかどうかは企業の判断次第です。
ただし、就業規則や労働契約などで退職金の支給を定めている場合は、原則として支払義務が生じます。また、明文化されていなくても、一定の基準で支給する慣行が成立していれば、会社に支払いを求められる場合があります。
退職金は何年目から支給されますか?
退職金の支給に必要な勤続年数は、法律で一律に定められていません。会社の退職金規程や利用する制度によって条件が異なります。
例えば、会社独自の退職一時金では「勤続3年以上」といった条件を設定できます。一方、中退共では掛金の納付月数が12か月未満の場合、原則として退職金は支給されません。
また、企業型DCの老齢給付金は原則60歳以降の受給となり、加入期間などによって受給開始年齢が変わります。DBについても、加入期間などの受給要件が規約で定められています。
退職金はどのように計算しますか?
退職金の計算方法は、会社が採用する制度によって異なります。会社独自の退職一時金では、主に次のような方式が使われています。
| 方式 | 計算方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 算定基礎額×支給率方式 | 基本給などをもとにした算定基礎額×勤続年数などに応じた支給率 | 給与や勤続年数を反映できる |
| 定額制 | 勤続年数などに応じて定めた金額を支給 | 支給額があらかじめ決まっている |
| ポイント制 | 在職中の累積ポイント×ポイント単価 | 勤続年数や役職、貢献度などを反映できる |
算定基礎額×支給率方式では、退職時の基本給をそのまま使う方法のほか、退職金算定用の金額を別に定める方法もあります。
なお、DBは規約で定めた算定方法、企業型DCは掛金と運用成果によって給付額が決まります。中退共や特退共では、掛金月額や納付期間などが主な算定基準です。
DB・企業型DCの一括受取や中退共の分割受取は可能ですか?
DBと企業型DCは、制度の規約に定めがあれば、一時金で受け取ることも可能です。一方、中退共は一時金による支給が基本ですが、一定の条件を満たせば分割払いも認められています。
中退共の分割払いには、次の条件があります。
- 5年間の分割払い:退職時に60歳以上で、退職金額が80万円以上
- 10年間の分割払い:退職時に60歳以上で、退職金額が150万円以上
さらに、中退共では一時金と分割払いを組み合わせる方法もあり、別途金額の条件が設けられています。
なお、特退共の受取方法は運営団体によって異なります。また、退職給付を一時金で受け取るか年金で受け取るかによって、税務上の扱いも変わるため注意が必要です。
まとめ
退職金制度の導入は、従業員の福利厚生だけでなく、企業が安定的かつ持続的な組織を作るためにも重要な施策です。
給付方法や原資の準備方法によってメリット・デメリットが異なるため、長期的な視点での制度設計が重要になります。
退職金制度は、会社が従業員に示す将来の約束でもあります。その約束を長く守るには、会社が負担を続けられる形で制度を設計することが大切です。
制度の種類が多くて迷う場合は、候補を決める前に運営機関や専門家へ相談する方法もあります。まずは導入の目的と予算を伝え、具体的な制度案や費用の試算を依頼してみてください。
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