法人保険に加入をしたあとで満期になる前に解約した場合、保険の種類によっては解約返戻金を受け取ることが可能です。
契約後の経過時間が長かった場合などは、解約返戻金が多額になることもありえます。そのため、解約返戻金の使い道については、事前にある程度考えておくことが大切です。
また、解約返戻金の受け取りにあたっては、税金の処理も重要になります。
適切な対応を行わないと税負担が増加してしまうリスクがあることを認識しておくことが必要になってきます。
そこで、解約返戻金のメリット・デメリットや活用方法などについて解説します。
加入の前にチェック!法人保険の解約返戻金とは?
法人保険の解約返戻金とは、保険期間の途中で解約したときに契約者に戻ってくるお金のことです。
法人契約に加入している会社は、いつでも保険契約を解約する権利があります。その権利を行使した時点で、保険会社に運用されながら留保されている保険料のうち、契約者に帰属する分について資金が返還される仕組みです。
保険会社が受け取った保険料は、保険金の支払いや事業運営に必要な経費などとして使った以外は保険会社の残っており、将来の保険金支払いに備えて運用されています。
解約返戻金は、法人が解約するまでに支払った保険料の一部が、解約返戻金として戻ってくるものだと理解しておけばよいでしょう。
保険会社は、保険業法の定めにより、受け取った保険料のうち将来の保険金支払いに必要な資金を責任準備金として保有しておくことが義務付けられています。解約返戻金は、この責任準備金から解約にかかる手数料を控除した金額です。
その金額は、契約後の経過期間に応じて計算することができ、どの時点で解約すると支払った保険料の何%が解約返戻金として戻るかについてはあらかじめ知ることができるのが一般的。
支払った保険料に対する解約返戻金の割合のことを返戻率といいます。返戻率は、保険会社や保険の種類ごとに違う状況です。なかには、解約返戻金が全く期待できない種類の保険もあります。
解約返戻金は使途の制限はないため、受け取った会社はその資金を自由に使うことができます。
解約返戻金があるのはどんな保険?
すべての保険について解約返戻金があるわけではありません。保険の種類によっては解約返戻金がないものもあります。
また、同じ保険料を同じ期間支払ったとしても、保険の種類が変われば戻ってくる解約返戻金も違ってきます。
解約返戻金の返戻率は一定ではなく、商品の特性や保険会社の収益構造などによって変わる仕組みです。
そのため、法人保険に加入する場合は、代表的な保険の種類ごとの解約返戻金の有無や返戻率などについて知っておく必要があります。
1つ目は、徐々に保険金額が増加する逓増定期保険です。
定期保険の一種ですが、解約する時期によっては解約返戻金があり、保険期間の前半にピークがくることが特徴です。商品によっては返戻率が100%近いこともあるのが嬉しい点です。ピークのあとは満期に向かって減少し、最後はゼロになります。
2つ目は、保険期間が長い長期平準定期保険です。
商品にもよりますが、一般的には保険期間の半分あたりにおける返戻率は70%前後、保険期間の後半では100%を超えることもあります。ただし、満期の直前になると急激に返戻率は下がり、満期時点ではゼロになることが特徴です。
3つ目は、法人専用のがん保険です。
終身タイプのがん保険は解約返戻金があります。加入後数年経過すると返戻率が85%を超えるものもあります。
4つ目は、死亡保険金だけでなく満期保険金もある養老保険です。
契約後数年間は返戻率が90%に満たない期間が続きますが、後半は90%を超え最後は100%に近くなっていくものもあります。
3つのメリット
加入した法人保険の解約返戻金を有効活用するためには、解約返戻金のメリットを理解しておくことが大切です。
解約返戻金を活用するメリットを理解しておけば、法人保険を単なる保障を得る目的以外にも活用できるようになるでしょう。解約返戻金を受け取る主なメリットは3つあります。
1つ目は、資産運用できることです。
会社の資金を自ら運用する場合、運用リスクを負わなければいけません。投資を行う場合、うまく運用できれば資産を増やすことができますが、失敗すると損をする可能性があります。
しかし、解約返戻金がある法人保険に加入することで運用のプロである保険会社に資産を運用してもらうことが可能です。解約返戻率が高い時期に解約すれば、運用成果を含む資金を解約返戻金として受け取ることができる場合があります。
2つ目のメリットは、事業資金として活用できることです。
法人保険は、契約者である会社が希望すればいつでも解約できます。解約返戻金がある法人保険に加入しておけば、必要なタイミングで解約をすることによって、資金調達が可能です。
受け取った解約返戻金には使途の制限はありません。設備投資や退職金の支払いなど事業資金として活用できることがメリットです。資金が必要な時期に合わせて計画的に解約することで資金繰りが楽になるでしょう。
3つ目は、急に資金が必要になった場合の資金調達手段として活用できることです。
資金が必要になったにもかかわらず金融機関からの融資を受けられない状況だったとしても、法人保険を解約して解約返戻金を受け取ることで、資金を調達できます。解約はいつでもできるため、急な資金需要にも対応できることがメリットです。
3つのデメリット
法人保険から解約返戻金を受け取ることには多くのメリットがあります。
しかし、一方ではデメリットも存在します。デメリットについて正しく理解しておくことで、デメリットを最小限にしながらメリットを最大化することができるようになるでしょう。主なデメリットは3つ。
1つ目は、受け取った解約返戻金の使い道がなく、ただ会社に留保することになると、税負担が増加してしまうことです。
契約返戻金を受け取った場合は、法人税法上、益金として処理することになっています。益金は課税所得を増加させる処理です。
そのため、受け取った解約返戻金をそのままにしておくと、税負担が増加する結果になります。解約返戻金を受け取った場合の資金の使い道を考えておくことが重要です。
2つ目は、解約返戻金の返戻率が100%を下回って損をする可能性があることです。
返戻率は、支払った保険料総額に対する解約返戻金の比率のことで、返戻率が100%を下回ると受け取り額が支出額よりも少なかったことを意味します。
せっかく支払った保険料に対して少ない金額だけしか受け取れなければ会社としては損をしたことになります。解約返戻金は解約時期によって返戻率が異なる仕組みです。
できるだけ不利な返戻率にならないタイミングで解約することがポイントです。
3つ目は、資金が先行して出て行ってしまうことです。
解約返戻金は、保険契約の途中解約によって戻ってくる保険料だととらえることができます。そのため、資金の流れとしては、保険料支出が先にきて、そのあとで解約返戻金の入金という順番です。
解約返戻金の受け取りを目的に法人保険に加入する場合は、先行して保険料支出という形で資金が減少することを認識しておくようにしましょう。
最大限活用するためのポイント3つ
ポイント1:出口戦略を考える
解約返戻金を有効に活用する主なポイントは3つあります。
1つ目は、受け取った解約返戻金の使い道の検討です。
法人保険の出口戦略を明確にしておくことと言い換えることもできます。出口戦略が重要になる理由は、税負担の増加の回避です。
解約返戻金の受け取りによって増加する益金は、税負担を増加させることになります。
しかし、受け取った資金を損金計上できる支出として使うことで、税負担の増加を回避することが可能です。解約返戻金の主な使い道としては4つあげられます。
①収益物件の購入
収益物件とは、賃貸料収入などの形でお金を生み出す資産のことで、賃貸不動産などが該当します。ただし、賃貸不動産の取得によって損金計上できる部分には限りがあることが注意点です。
土地を取得した場合は、損金計上できる部分はほとんどありません。
また、建物については、使用期間にわたって分割して処理する減価償却費相当額を損金計上することになるため、解約返戻金の益金が生じた事業年度だけ見ると、すべての益金を相殺することができないというデメリットもあります。
②法人所有の建物などについて大規模修繕やリフォーム
この使用方法の注意点は、修繕によって建物などの価値が増加するかどうかです。
基本的に、元の状態に戻す修繕支出は全額損金計上できますが、資産価値が上昇するリフォームなどの場合は、支出した全額を損金計上できず、分割して複数の事業年度にわたって損金計上することになります。
③設備投資
新規投資や更新投資として支出をすることによって、使用期間の各事業年度における減価償却費分を損金計上できます。
④退職金
退職金は、役員に対する過度な支払いの場合を除いて、全額損金算入が認められます。4つの方法のなかでは、税負担を減少させる効果が最も高い方法です。
ポイント2:正しく経理処理をする
解約返戻金を受け取って活用する場合の2つ目のポイントは、正しく経理処理することです。
法人税の増加を抑えるためには、税金対策をすることも大切になります。
しかし、適正な処理を行っておかないと、受けられる税制上のメリットも受けられなくなってしまうおそれがあります。そのため、解約返戻金に関わる正しい経理処理方法を理解することが重要です。
解約返戻金を受け取った場合、その金額を益金として処理することになっています。
ただし、前払い保険料や、過去に支払った保険料のうち損金算入できずに資産計上していた保険料積立金、配当を保険会社に留め置いていた場合の配当積立金などの資産がある場合は、これらを取り崩す必要があります。
最終的には、解約返戻金相当額から資産取り崩し額の差額を益金、または損金として計上するのが正しい経理処理方法です。
資産取り崩し額よりも解約返戻金が多ければ益金、逆の場合は損金として処理します。また、受け取った資金を支払いに充当した場合の処理も必要になります。
減価償却の必要がない退職金支払いや消耗費品購入などに使った場合は、支払った金額の全額を損金として計上します。
減価償却が必要になる設備投資などに使った場合は、減価償却計算を行い、該当する事業年度分の減価償却費を損金として計上します。
ポイント3:同じ法人保険に再加入する
解約返戻金活用の3つ目のポイントは、同じ保険に再加入することです。
多額の利益が生じている場合や解約返戻金の使い道がなく現預金が増加する場合は、法人税の計算上、益金が多くなり税負担が増加します。
解約返戻金の使い道がないからといって、無理に使途を考えると、無駄な支出を行ってしまう可能性があるため注意が必要です。
解約返戻金を退職金や設備投資などに使う予定がない場合は、解約返戻金を使って再度同じ保険に加入するというのも選択肢のひとつになります。
解約返戻金を前払い保険料として同じ法人保険に加入することによって、解約前と同じ保障を継続することができるようになるメリットが生まれます。
また、解約返戻金相当の保険料を一時払いすることで加入後の保険料負担を少なくできることもメリットです。もちろん、法人保険に加入する段階から、解約返戻金の使い道をしっかり予定しておくことが大切です。
しかし、事業の状況は変化する可能性は否定できません。加入当初予定していた支出が必要なくなることもあるでしょう。
解約返戻金の使い道が見つからない場合は、再度同じ保険に加入することを検討してみましょう。
解約返戻金の使い道を考えてみよう!
法人保険には、解約返戻金があるものとないものがあります。
解約返戻金があるタイプの保険に加入するメリットは、保障を得られるだけでなく、資金調達手段としても活用できることです。
法人保険を解約して受け取る解約返戻金は、その資金をどのように使うかがポイントです。
経営の観点から有効活用することはもちろん、税金対策の観点からも使途を計画しておくことが重要になります。
適切な使い道がなく受け取った解約返戻金をそのままにしておくと、益金が増加して税負担が重くなることにつながります。法人保険を賢く利用するためには、解約返戻金の正しい処理を理解して、使途を明確にしてから加入することが大切です。
法人保険に加入する段階で出口戦略を考える重要性について、経営者は認識しておく必要があるでしょう。
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