サイバー保険は、サイバーリスクによる支出の補償を目的とした保険です。
保険会社ごとに異なる特長はありますが、補償内容の構造は共通している部分が多く、基本を押さえておけばスムーズに比較検討できます。
本記事では、サイバー保険のベースである「第三者への賠償」「事故対応の各種費用」を詳しく解説。あわせて、オプションや付帯サービスの内容、複数社のサイバー保険を比較するときのポイントもお伝えします。
サイバー保険で確保できる補償内容がどのようなものか把握し、自社に適切なプランを選びましょう。
サイバー保険の主な補償内容
サイバー保険の補償内容は、「賠償責任に関する費用」と「事故対応費用」を基本補償として、オプションなどで関連リスクをカバーする設計が一般的です。
具体的な補償内容は保険会社によって異なるため、複数商品の見積もりが保険選定のカギとなります。
① 賠償責任
賠償責任の補償は、サイバー攻撃や情報漏えいに起因して、顧客・取引先など第三者に損害が生じた場合の賠償金をカバーします。
また、事故対応の過程で必要になる争訟費用(訴訟対応や弁護士費用など)も含まれる場合があります。
賠償が問題になりやすい代表的な場合は、次のようなケースです。
- 不正アクセスで顧客情報が外部に流出し、損害賠償を請求されるケース
- システムの脆弱性を突かれて業務サービスが停止し、取引先に損害が発生するケース
- 委託先やクラウド環境を含む業務の連鎖で事故が拡大し、責任範囲の整理が必要になるケース
- PCが乗っ取られ、サイバー攻撃の踏み台として悪用された結果「加害者」になってしまうケース
賠償の支払いは「何でも補償する」わけではなく、支払い条件(責任の成立、因果関係、免責金額、限度額など)に左右されます。
補償内容を比較するときは、「賠償の対象となる損害の範囲」「争訟費用の扱い」「免責事項」をチェックし、自社に想定されるリスクをカバーできるか検討しましょう。
② 事故対応の各種費用
事故対応費用の補償は、サイバー事故の発生に伴う業務上の様々な支出をカバーします。
以下はサイバー事故発生時の基本的な対応フローですが、各段階で必要となる支出を補償します。
- 調査:
原因究明、ログ分析、端末・システムの調査、データの確認、法的証拠の調査収集(フォレンジック) - 復旧・封じ込め:
マルウェアの除去、感染拡大の防止、システム復旧、バックアップからの復元、再発防止の初期対応 - 通知・広報:
関係者への連絡、コールセンターなどの設置、広報対応、説明資料の作成 - 専門家対応:
法務対応、危機管理の助言、外部ベンダーのサポート手配 - 監視・追加対応:
不正利用の監視、追加調査、必要に応じた追加対策
事故対応は発生直後から行う必要があるため、補償内容もスピード感が重要です。パンフレットや見積書などで、支払いの時期や条件を確認しましょう。
③ 利益損害と営業継続費用(オプション)
利益損害と営業継続費用の補償は、オプションとして提供されているケースが多い項目です。サイバー事故が原因で業務停止になったとき、売上減少や追加コストを補償します。
以下は、具体的な補償内容です。
- 逸失利益:
業務停止により減少した利益や売上など - 収益減少防止費用:
代替システムの手配費用など - 営業継続費用:
営業を継続するための一時的な増員費用など
ECサイトやSIerなど、システム停止が事業停止に直結するような企業の場合、これらの補償は特に重要となります。また、2022年の改正個人情報保護法以降、個人情報保護委員会への報告や本人への通知が義務化されたため、事故対応の工数は増えています。
想定される支出と、上限金額・支払い条件などを考慮し、自社の状況に適した補償内容を確保しましょう。
【金額目安】サイバー事故の賠償・対応費用のシミュレーションと補償例
「補償内容はわかったけれど、実際どれくらいの金額規模になるのか?」という点は、多くの企業が気になるところです。
サイバー事故の恐ろしさは、システムそのものの修理費よりも、被害者への対応や調査にかかる「事故対応費用」が想定以上に膨らみやすい点にあります。たとえば、対応費用だけで数千万円規模になるケースも珍しくありません。
ここでは、「①個人情報漏えい」と「②ランサムウェアによる業務停止」の2つのモデルケースを用いて、補償の内訳と金額規模をシミュレーションします。
※あくまで一般的な試算です。実際の支払額は契約内容や損害認定によって異なります。
より正確なシミュレーションは、保険代理店などにご相談ください。
ケース① 情報漏えい(1万件)が発生した場合
ECサイトへの不正アクセス等で、顧客の個人情報が約1万件流出したケースです。この場合、被害者対応にかかる費用と、法律上の損害賠償が主な支出となります。
| 支出項目 | 内容 | 区分 | 支払額目安 |
|---|---|---|---|
| 原因調査費用 | 専門家によるフォレンジック調査 | 基本補償 (事故対応費用) |
500万円 |
| 通知・対応費用 | お詫び状送付、コールセンター設置 | 基本補償 (事故対応費用) |
800万円 |
| 損害賠償金 | 被害者への見舞金・賠償金 | 基本補償 (事故対応費用) |
500万円 |
| 争訟費用 | 弁護士への相談・対応依頼 | 基本補償 (事故対応費用) |
100万円 |
| 合計支払額 | 約 1,900万円 | ||
情報漏えい事故では、基本補償(賠償+費用)だけでカバーできる範囲が広いのが特徴です。通知費用は件数に比例して膨らむため、顧客数が多い企業は上限額に注意しましょう。
ケース② ランサムウェアで工場・事業が停止した場合
サーバーがランサムウェアに感染し、システムダウンにより業務(工場や受注センター等)が2週間停止したケースです。復旧費用のほかに、本来得られるはずだった利益の損失が発生します。
| 支出項目 | 内容 | 区分 | 支払額目安 |
|---|---|---|---|
| 原因調査費用 | 感染経路の特定、影響範囲調査 | 基本補償 (事故対応費用) |
500万円 |
| データ復旧費用 | システムの再構築、データ復元 | 基本補償 (事故対応費用) |
1,000万円 |
| 逸失利益 | 停止期間中の売上総利益の減少 | オプション (利益損害補償) |
3,000万円 |
| 営業継続費用 | 代替手段にかかった追加コスト | オプション (利益損害補償) |
500万円 |
| 合計支払額 | 約 5,000万円 | ||
このケースのように、システム停止が売上に直結する業種では、基本補償だけでは損害の大部分(ここでは3,500万円分)をカバーできません。
「利益損害」や「事業中断」と呼ばれるオプションへの加入が、事業を守るために極めて重要となります。
補償対象外のサイバーリスク
サイバー保険はサイバーリスクによる事故に伴う損害や各種費用を幅広くカバーしますが、事故や損害の内容によっては対象外となる場合もあります。
補償内容を過大評価しないよう、以下の2つは押さえておきましょう。
故意の損害
保険契約者や被保険者の故意による損害、いわゆる不正行為によるサイバー事故は、原則として補償対象外になります。「内部不正や意図的な違反行為まで保険で肩代わりしない」という考え方が、保険の基本だからです。
ただし、「企業としての不正」ではなく、従業員などの「個人の不正」に起因する損害については、オプションなどで補償に組み込める場合があります。範囲や条件などの具体的な内容は保険商品次第なので、見積もりの際に確認しておきましょう。
ランサムウェアの身代金(国内保険会社の場合)
日本国内のサイバー保険では、ランサムウェア攻撃で支払った身代金は原則として補償対象外です。理由は、「反社会的勢力への利益供与につながる」「補償があることでかえってサイバー攻撃が増加する(支払わせやすくなる)」という背景があります。
外資系保険会社など、一部のサイバー保険では補償される場合もありますが、社会的なリスク(犯罪への加担)と実利的なリスク(支払っても解決する保証がない)の2つの側面から、セキュリティ専門機関などは支払いに応じないよう強く呼びかけています。
ランサムウエアに感染した場合、攻撃者が要求してきた身代金を支払っても、データやシステムの制限が解除される保証はありません。身代金は支払わず、次の流れを参考に、各ケースに応じてシステムの復旧を行うことをおすすめします。
引用:JPCERT/CC|ランサムウエア対策特設サイト
万が一ランサムウェア攻撃を受けた場合は、身代金の支払いには応じず、ランサムウェアの駆除や復旧作業などに注力しましょう。
補償以外で利用できるサービス(セキュリティ支援・電話サポートなど)
サイバー保険は、補償(保険金)という金銭的な備えだけでなく、セキュリティ向上や事故発生時のフォローまで支援している場合があります。
補償以外のサービスとして一般的なのは、次のような支援です。
- 電話サポート・相談窓口:
事故発生時の初動相談、対応方針の整理 - 専門家の紹介:
フォレンジック・法律・広報・サイバーセキュリティなど各分野の専門ベンダー紹介 - 簡易診断・教育支援:
平時のリスク低減のための診断や研修 - 事故対応支援の手配:
対応体制の構築、必要な各種手続きの案内
これらの付帯サービスが充実していれば、自社のリソースを節約しながらセキュリティ対策を強化できる可能性があります。補償内容とあわせて、どのようなサービスを利用できるか確認しましょう。
サイバー保険の補償内容を比較するときのポイント
サイバー保険は、保険会社によって補償の仕組みや支払い条件、事故対応のサポート体制まで含めると差が出ます。
ここでは、企業がパンフレットの概要を見比べるときに、最小限でブレにくい比較軸を整理します。
基本補償とオプションの区分
まずは、基本の補償内容をオプション(特約)がどのように分けられているか確認しましょう。
一般的には、「賠償責任」と「事故対応費用」が基本補償、「利益損害と営業継続費用」がオプションという構成です。その内訳(補償対象となる事故内容や費用項目)に、保険会社ごとの違いがあります。
「基本が手厚いがオプションが薄い」「基本は標準だが特約が包括的」などの特長を見極め、加入するサイバー保険を選びましょう。
支払い額
次に見るべきは、支払い額(保険金額)と、その内訳の限度設定です。
サイバー事故は、損害賠償が大きくなる場合もあれば、調査・封じ込め・通知・広報など費用が積み上がって大きくなる場合もあります。そのため、単に「総額の上限」だけでなく、賠償と費用で限度が分かれているか、さらに費用が項目ごとに分割されているかを確認します。
特に事故対応費用は「最初に出ていく支出」なので、上限が低いと初動対応にブレーキがかかる場合があります。比較では、サポートの有無だけでなく「実際に費用として支払い対象になる範囲と上限」を優先して確認しましょう。
支払い条件
サイバー保険に入っていても、いざ事故が起きたときに支払いを受けられなければ意味がありません。細かい支払い条件を確認し、自社が想定するリスクに合っているか検討しましょう。
具体的には、以下のポイントをチェックします。
- 事故の定義:
サイバー攻撃の発生に限定されるか、情報漏えい(漏えいのおそれを含むか)まで含むか - 因果関係の要件:
事故に起因する費用・損害として認められる範囲 - 事前承認の要否:
外部専門家や各種サービス利用に保険会社の承認が必要か - 待機期間・補償期間:
利益損害などで発生する待機期間、支払い対象期間 - 故意・重大な過失の扱い:
管理不備がどの程度まで免責に影響するか
同じ項目でも、会社によって表現や運用が異なる場合があるため、比較の場面では「この条件だとどんな場合に出ないか」を具体例で想像しながら確認するとズレが減ります。
免責事項(補償の対象外となるケース)
免責事項は、サイバー保険に限らず損害保険全般で必ず設定されます。
サイバーリスクでは「事故対応に見えるが、実際は対象外になり得る」支出が混ざりやすいため、次のようなケースは特に注意します。
- 平時の対策費用
- 事故が発生していない段階のサイバーセキュリティ強化(恒常的なシステム更新、機器入替、包括的なセキュリティ対策など)は、事故対応費用として認められない場合があります。
- 改善目的の支出
- 事故の復旧を超えて、性能向上や刷新を目的とした改修費用は、事故に起因する復旧とは区別されやすいです。
- セキュリティ対策の不備による損害
- ウイルス対策を怠ったり、管理やメンテナンス(システム更新)が杜撰だったりすると、「リスクを放置した」として補償されない場合があります。
- 事故と無関係な費用
- 広報施策、コンサル費用、業務委託費などでも、事故との因果関係が薄い場合は支払い対象外になり得ます。
- 契約前から存在する事象
- 既に侵害されていた、既に漏えいしていたなど、契約開始前に起因がある場合は対象外になりやすいです。
- 故意・不正
- 社内の故意行為、重大な義務違反、法令違反が絡む場合は免責になり得ます(不正アクセスなどの外部攻撃とは論点が異なります)。
対象外の判断は「事故の発生」「起因」「必要性」「相当性」といった条件で左右されます。約款や重要事項説明で「どの費用が、どんな場合に対象外になるか」を確認しておきましょう。
サイバー保険の補償内容についてよくある質問
サイバー保険は、パンフレットの概要だけだと「補償されると思っていたのに対象外だった」「特約が必要だった」といった誤解が起きやすい分野です。ここでは検索されやすい論点を、支払い条件・免責事項・比較の観点に寄せて整理します。
サイバー攻撃の「おそれ」段階でも費用は支払われますか?
支払われる場合はありますが、商品・プラン・特約、そして約款上の表現によって差が出ます。
一般に、事故が発生した場合だけでなく、攻撃の兆候があり「情報漏えいのおそれ」や不正アクセスの可能性が認められる場合に、原因調査や封じ込めなどの対応費用が対象になる場合があります。
一方で、次のような点で支払い可否が分かれます。
- 「おそれ」「疑い」「発生のおそれ」など、支払い対象となる事故の定義
- 事故に起因する費用としての必要性・相当性(どこまでが各種対応として必要か)
- 事前承認の要否(外部専門家やサービス利用の条件)
平時のサイバーセキュリティ診断や、事故とは無関係な対策費用は対象外になりやすいため、「おそれ対応」と「平時の対策」は分けて確認します。
テレワーク中や従業員の私物端末(BYOD)での事故は補償されますか?
多くのサイバー保険では、業務遂行に起因する事故であれば、テレワーク中の自宅やカフェからのアクセス、あるいは従業員個人の端末(BYOD)を利用した業務であっても補償対象となるケースが一般的です。
ただし、無条件で補償されるわけではなく、主に「業務遂行性(仕事中の事故か)」と「管理状況」が問われます。
- 会社が業務利用を許可・把握している端末であるか
- 会社のセキュリティポリシー(パスワード設定やOS更新など)に準拠しているか
会社に無許可で個人端末やフリーソフトを使用していた場合(いわゆるシャドーIT)は、業務との関連性が認められず、補償の対象外となるリスクが高まります。
加入商品の約款で「業務の範囲」や「使用端末の定義」を確認するとともに、社内ルールの整備もあわせて進めることが大切です。
セキュリティ対策が不十分だと支払いに影響しますか?
影響する可能性はあります。サイバー保険は、外部からの攻撃による事故が発生した場合の損害を補う設計ですが、契約上の義務違反や、故意・重大な過失に近い管理不備がある場合は、免責事項として支払い対象外になり得ます。
ただし「対策が完璧でないと支払われない」という意味ではなく、争点になりやすいのは次のような場面です。
- 長期間放置された脆弱性を起因として、同様の事故が繰り返し発生した場合
- 不正アクセスや感染の兆候があったのに、必要な対応を取らず損害が拡大した場合
- 事故対応の過程で、必要な証跡(ログなど)が残らず因果関係が整理できない場合
企業側としては、基本的なサイバーセキュリティ対策(権限管理、バックアップ、更新管理、ログ保全など)を整えつつ、事故が起きた場合に「何をしたか」「どの費用が必要だったか」を説明できる状態を作ることが、請求の実務上も重要になります。
まとめ
サイバー保険の補償内容は、基本として①賠償責任と②事故対応の各種費用の2つが中核です。ここが手薄だと、サイバーリスクが顕在化して事故が発生した場合に、損害と費用の両面で対応が難しくなります。
一方で、利益損害(事業中断)やランサムウェアなどの恐喝対応は特約(オプション)で差が出やすく、必要な補償範囲・上限・条件は企業の業務内容や扱う情報によって変わります。
サイバー保険を比較するときは、
- 基本とオプションの区分
- 支払い額(上限・免責)
- 支払い条件・免責事項(対象外になりやすい場合)
を同じ尺度で揃え、パンフレットの概要だけで終わらせず約款や重要事項説明で確認することが、事故対応時のギャップを減らすコツとなります。
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