法人向けの医療保険は、経営者の万が一の病気・ケガによるリスクに備えるため、または従業員の福利厚生として活用されることのある保険です。
一方で、法人契約の場合は、保険料の損金算入の範囲や、給付金を受け取ったとき/従業員に支払ったときの扱いなど、税務・経理の論点も踏まえて検討する必要があります。
ここでは法人保険の中でも医療保険を検討している経営者に向けて、
- 医療保険の基本的な特徴
- 法人向け医療保険の損金算入(考え方)
- 社長・従業員向けの法人保険の活用方法
を解説していきます。
※保険料の取扱い(損金算入・資産計上)や名義変更、給付金の処理は、契約内容(解約返戻金の有無・水準、払込方法等)や対象者範囲などで異なります。実務では設計書・契約内容に基づいて確認しましょう。
法人保険としての医療保険はどういうもの?
法人向けの医療保険に加入しようと考えている経営者の方。
保険というと自分が加入する時でさえよく分からないのに、法人保険なんてもっとわからない…という方もいらっしゃるでしょう。
そこで、法人向けの医療保険について、基本的な特徴を説明していきます。
法人向けの医療保険とは、法人が契約者となり、社長や会社役員、従業員を被保険者とする医療保険です。
具体的な保障内容は、入院費や手術費といった治療にかかる費用を、給付金という形で一定の範囲内でカバーするものになります。
一般的なものとして、1日の入院で1万円の入院給付金の支給、手術は入院給付金の何倍、というように設定するものが挙げられます。法人保険とは言うものの、個人向けの医療保険とほとんど同じイメージです。
なお、保障内容は保険会社や商品設計によって付帯サービスが異なる場合があります。
たとえば、入院後に通院をした場合に支給される「通院給付金」があったり、医療の専門分野で活躍する名医の意見が聞ける「セカンドオピニオンサービス」が利用できたりします。
このようなサービスについては、自分や従業員のニーズに合わせて選ぶと良いでしょう。
法人が医療保険に入るメリット
先ほどの説明を読むと、法人保険としての医療保険は個人向けの医療保険とほとんど変わらないのではないか?と思った方もいらっしゃるかもしれません。
では、法人が医療保険に加入するメリットはどこにあるのでしょうか?
法人向け医療保険の特徴について、大きく以下の3つに分けて説明していきます。
- 保険料の取扱い(損金算入の考え方)
- 将来的に社長個人へ名義変更を検討できる場合がある
- 従業員の福利厚生として利用できる場合がある
保険料の取扱い(損金算入の考え方)
法人保険としての医療保険では、保険料を損金として算入できる場合があることが特徴として挙げられます。
法人保険の保険料を損金として計上すると、会社の利益が圧縮されます。会社の利益が減ると法人税の課税対象となる金額が減ることになるため、企業が支払う税金を抑えられる場合があります。
ただし、払い込む保険料のうち、いくら分を損金として計上できるかは、保険商品(解約返戻金の有無・水準、払込方法など)によって異なります。
たとえば、一定の要件を満たす短期払込契約については、被保険者1人あたり当該事業年度に支払う保険料合計が30万円以下であれば、当期に全額を損金算入する取扱いが認められるケースがあります。
一方で、30万円を超える場合や、短期払込の要件に当てはまらない契約は、保険料の一部を資産計上し、期間の経過に応じて費用化する取扱いとなるなど、処理が変わります。
法人保険の節税メリットを意識して加入する際には、どの条件で、どの程度を損金算入できるのかを、設計書・契約内容に基づいて確認したうえで、保険代理店の担当者や税理士と相談して検討すると安心です。
将来的に社長個人へ名義変更を検討できる場合がある
法人保険としての医療保険では、将来的に社長個人へ名義変更(契約者変更)を検討できる場合がある点も特徴のひとつです。
保険料の払込期間を5年~10年ほどで短く設定し、法人が保険料の払込を終えた後に名義変更を行う設計が検討されることがあります。
ただし、医療保険を法人から個人に移す際は、名義変更時点の評価額(解約返戻金相当額など)で個人が買い取るのが一般的です。税務上の扱い(給与・退職金・譲渡損益など)にも影響するため、実行前に確認が必要です。
また、名義変更時に必要となる金額は、契約内容や経過年数によって変わります。具体額は設計書で確認しましょう。
従業員の福利厚生として利用できる場合がある
法人保険としての医療保険は、従業員を被保険者とすることで、社員のための福利厚生として活用できる場合があります。
ただし、法人保険を福利厚生として運用するためには、設計と社内運用に注意が必要です。
対象者範囲は「合理的な基準」で一律に
福利厚生の目的は、従業員の働く意欲や安心感を高め、働きやすい環境を整えることにあります。
そのため、特定の従業員だけを恣意的に対象にするのではなく、雇用形態や勤続年数など合理的な基準で対象範囲を定め、対象者が一律に利用できる形にすることが重要です。
社内ルール(就業規則・社内規程等)を整える
運用の透明性を高めるためにも、対象者・目的・運用方法を、就業規則や社内規程(福利厚生に関するルール)として文書化しておくと安心です。
また、会社が給付金の受取人で、受け取った給付金相当額を従業員に見舞金等として支給する場合は、支給目的や支給基準、社内規程の整備状況などにより、福利厚生費としての扱いか給与扱いとなるかが変わることがあります。支給方法を決める際は、税務上の位置づけも含めて確認しましょう。
法人保険に加入する際の注意点
法人保険としての医療保険に加入する際には、注意点もあります。具体的には下記の2点が挙げられます。
- 法人が受け取る給付金(保険金)は、課税対象になる
- 社長や役員・従業員に支払う場合、給与扱いになることがある
法人が受け取る給付金(保険金)は課税対象
まず挙げられるのが、法人が受け取る給付金(保険金)は課税対象になるという点です。
個人で医療保険に加入した場合、一定の給付金は非課税とされることがあります。
一方で、法人契約で受取人が法人の場合、受け取った給付金(保険金)は法人の収益となるため、原則として益金算入(会計上は雑収入など)として処理します。
したがって、法人が給付金を受け取った際には、企業が支払う税金が増えることにつながる場合があるため、資金の使途や年度内の損金とのバランスも含めて検討しておくことが大切です。
社長や役員・従業員に支払う場合、給与扱いになることがある
法人が給付金(保険金)を受け取り、社長や役員・従業員に支給した場合には、支給した金額が給与扱いとなるケースがあります。
一般的に、会社が従業員に対して支払う見舞金は、目的や支給基準などに照らして妥当と認められる範囲であれば、福利厚生費として扱われることがあります。
ただし、社会通念上の範囲を超える金額や、恣意的な支給とみなされる場合には給与として扱われる可能性があります。
給与扱いになると、受け取った従業員側に所得税や住民税が課税されることがあります。また、役員に対して支給した場合は、法人側で損金に算入できない取扱いとなることもあり得ます。
支給の設計は、社内規程の整備とあわせて、税理士など専門家に確認すると安心です。
効果的な活用法は「経営者の保障」と「従業員の福利厚生」
ここからは、法人保険としての医療保険を活用する方法について説明します。
法人向けの医療保険は、主に2つの活用方法があります。
- 経営者の万が一の場合の負担カバー
- 従業員の福利厚生
経営者の万が一のときに
法人保険としての医療保険は、経営者の万が一のリスクに備えるため利用することができます。入院や手術による医療費や、休業等に伴う支出の一部を、給付金でカバーするという考え方です。
経営者に万が一のことがあった場合、さまざまな場面で金銭的負担を余儀なくされる可能性があります。特に中小企業や家族経営の企業では、社長が倒れてしまうと事業が立ち行かなくなり、会社の利益が減少することも考えられます。
こうした事態に備えて、経営者が病気で入院したときに給付金が出るようにしておくと、もしものときの選択肢を広げられます。
従業員の福利厚生
法人保険は、従業員の福利厚生としても活用できます。福利厚生を充実させることで、従業員の働く意欲を向上させることができるでしょう。
最近では、福利厚生が充実した会社で働きたいという人も多く見られます。法人保険で福利厚生を充実させ、働きやすい環境を提供することは、職場の定着率を上げることにもつながります。
法人向け医療保険は「目的」と「取扱い」をセットで検討
今回は法人保険としての医療保険について、基本的な情報や活用法について説明してきました。
法人向けの医療保険は、経営者の万が一の際に備えること、従業員の福利厚生を充実させることといった目的で検討されることが多い保険です。
一方で、法人契約では保険料の損金算入の範囲や、給付金を受け取ったとき/従業員に支給したときの扱いなど、税務・経理の論点も伴います。
会社の状況に合う設計にするためにも、目的(誰の何のリスクに備えるか)を明確にしたうえで、契約内容と取扱いを確認しながら検討してみてください。
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