ランサムウェア攻撃とは、不正プログラムによってシステムを暗号化するなどして、身代金を要求したりデータを盗んだりするサイバー攻撃です。情報の漏えい脅迫や事業停止まで被害が連鎖しやすく、調査や復旧、賠償など多額の対応費用がかかります。
サイバー保険は、こうしたランサムウェア被害に伴う支出を補償し、事故対応と事業継続を支える備えとなります。
一方で、サイバー保険はあらゆる被害をカバーするものではなく、特にランサムウェアの身代金は補償対象外になりやすいため注意が必要です。
この記事では、サイバー保険がランサムウェアに対してどのように有効なのか、補償範囲の観点から解説します。あわせて、ランサムウェア被害の影響や対応フローもお伝えするので、万が一に備えたい経営者やIT担当者の方はぜひ参考にしてください。
サイバー保険でランサムウェア被害はどこまで補償されるか
ランサムウェアによる主な被害内容としては、以下が挙げられます。
- 事業停止:
システムやデータにアクセスできなくなり、事業がストップする - 各種対応に伴う支出:
復旧~再発防止にかかる費用、損害賠償や争訟費用など多額の資金が必要となる - 社会的信用の低下:
サービス停止や情報漏えいにより、企業として信頼を喪失する
サイバー保険は、上記の被害に対して金銭的な面から企業を支えます。
補償範囲① 事故対応費用:調査・封じ込め・復旧の一部
ランサムウェア被害を受けたとき、まず必要になるのが「拡大を止めるための事故対応費用」です。
サイバー保険の補償対象となり得るのは、以下に挙げる支出です。
- 原因調査:
ログ解析、侵入経路特定、フォレンジック(法的証拠の確保) - 封じ込め:
感染拡大防止、端末・サーバー切り離し、暫定対策 - 復旧:
システム復旧、データ復元、再稼働に必要な最小限の作業 - 対外対応:
説明補助、問い合わせ対応(コールセンター等)、広報支援 - 専門家支援:
弁護士、危機管理、サイバーセキュリティの支援・ソリューション
これらに必要な費用を補償し、スムーズな事故対応を支援します。
ただし、「復旧費用ならすべて補償」というわけではなく、機器刷新や恒常的な対策強化(平時の改善投資)とみなされる費用は補償対象外となるケースが一般的です(契約プランや約款などによって異なります)。
サイバー保険を比較する際は、ランサムウェアの状況に対してどこまでが「事故対応」として対象になり得るか、加入前に確認しておきましょう。
補償範囲② 賠償責任:情報漏えい・取引先影響への対応
ランサムウェアは暗号化だけでなく、情報の持ち出し(漏えい)が絡むケースも増えています。暗号化解除の要求に加えて情報公開を示唆され、企業の賠償リスクが上がります。
サイバー保険では、たとえば以下のような賠償責任に対応しています。
- 個人情報・取引先情報の漏えいで損害賠償を請求される
- 委託先や連鎖で被害が拡大し、責任関係の整理が必要になる
- 踏み台化で第三者被害が発生し、賠償が争点になる
賠償金だけでなく、争訟費用(訴訟・弁護士費用等)や示談交渉費用も補償対象となるケースが一般的です。
一方で、サイバー保険は責任の成立、因果関係、免責金額、限度額などの条件で支払いが左右されます。特に、漏えいの「疑い段階」で補償されるかは重要なので、比較時に確認しましょう。
補償③ 利益損害・事業中断:ランサムウェアの影響で失った利益
ランサムウェアによって業務が停止すると、その間の売上・利益は減少します。復旧が長引くほど損害も膨らみ、最悪の場合は事業そのものを揺るがしかねません。
サイバー保険では、ランサムウェアを起因とする売上・利益減少も特約(オプション)でカバーしている商品があります。また、復旧までの代替システム確保や一時的な外部委託などの補償も、同様にオプションで提供される場合があります。
医療や金融、EC事業などの「システム停止が売上停止に直結する事業」は特に影響が大きいため、利益損害を重視した補償プランを検討してみましょう。
【補償以外】付帯サービス(事前対策や対応支援など)
サイバー保険は、金銭的な補償以外にも様々なサービスが付帯するものもあります。
- セキュリティに関する資料提供や研修の実施
- 外部モニタリングサービス
- リスク診断、ベンチマークテスト
- 24時間対応の電話相談窓口
- 初動判断の支援範囲
- 専門家やソリューションの紹介
サイバー保険に加入するときは、利用できる付帯サービスやその使用条件、運用方法まで確認しておくと、自社のセキュリティや初期対応の強化に役立ちます。
ランサムウェア対策で失敗しないための「比較チェックポイント」
一口に「ランサムウェア対応」といっても、保険商品によって「支払いの発動条件」に差があります。
いざという時に「条件を満たしていないので支払われない」という事態を避けるため、見積もりの際は以下の2点を必ず確認しましょう。
- 利益損害の「待機期間(免責期間)」は何時間か?
- 利益損害(事業中断)の補償には、一般的に「待機期間(免責期間)」が設定されています。「システム停止から〇〇時間は補償対象外」という時間のルールを確認しましょう。
- 事故の定義に「おそれ(疑い)」が含まれるか?
- 保険の支払い条件(事故の定義)が「情報漏えいの発生」や「損害の確定」に限定されていると、調査段階の費用が補償されない可能性があります。
ランサムウェア対応は被害が確定する前の「怪しい挙動」の段階で専門調査(フォレンジック)を入れるのが鉄則なので、「情報漏えいのおそれ」や「不正アクセスの痕跡発見」の段階から補償対象になるかを確認しましょう。
上記のポイントを抑えると、ランサムウェア対策として実効性の高いサイバー保険を選びやすくなります。
身代金は補償対象外になりやすい(日本のサイバー保険の場合)
ランサムウェアは「身代金 (Ransom)」と「ソフトウェア (Software)」の造語であり、身代金請求が主な目的です。しかし、日本の保険会社が販売するサイバー保険では、原則として身代金の支払いは補償対象外(特約でもカバー不可)としています。
単に「約款上の損害定義に含まれない」というだけでなく、保険会社がそこを補償範囲に含めない背景には、以下の3つの理由があります。
- 反社会的勢力への利益供与になるリスク
身代金を支払うこと自体が、コンプライアンス違反や法令違反(利益供与)に抵触するリスクがある - 犯罪の助長につながる
「日本企業を狙えば儲かる」と思われ、さらなる犯罪ビジネスの呼び水になる恐れがある - 支払っても解決する保証がない
「支払ったがキーが送られてこない」「一部しか復元できなかった」というケースが多数あり、解決手段として確実性がない
身代金を支払っても必ずしも解決するとは限らず、むしろコンプライアンス違反や被害拡大などにつながりかねません。
このような背景から、日本のサイバー保険は「被害を受けたシステムの復旧」や「被害者への対応」といった、適法かつ確実な復旧プロセスを支援する設計になっています。
海外のサイバー保険では補償されるケースもあり
国内では身代金支払いが補償されない一方、海外のサイバー保険では補償範囲に含まれるケースもあります。
ただし、近年は制約が厳しくなっている傾向です。
- サブリミット:基本補償とは別枠の上限
- 事前対策の徹底:セキュリティ対策やインシデント対応フローの厳格化
- 事前承認:支払い判断や交渉の介入
海外でのランサムウェア攻撃は、被害の規模が大きくなりやすく、対応の難易度も上がります。日本企業が海外進出などで「海外のサイバーリスク」に備えたい場合は、現地の状況も考慮に入れてプラン設計を行いましょう。
被害の費用相場と企業・組織への影響
ランサムウェアの対応にかかる費用は、個別のケースで大きく変動します。
以下は、過去の事例などから想定される費用項目とその相場です。
| コスト項目 | 何にお金が出る?(具体例) | 相場(具体的な価格帯) |
|---|---|---|
| 事故原因・被害範囲の調査 (初動+フォレンジック) |
侵入経路特定、ログ解析、暗号化範囲特定、証拠保全、レポート作成 | 300〜400万円 (PC・サーバ数台の調査の目安) |
| 追加の端末解析 (台数が増えた場合) |
感染端末が多い/サーバが複数/横展開が疑われる時の追加解析 | PC:72〜180万円/台、サーバ:120〜300万円/台 (事業者ヒアリングの例) |
| ファスト・フォレンジック (短期に全台スキャン/抽出) |
全端末を短期でスクリーニングして“怪しい端末”を絞る | 数万円/台〜(例:3万円/台、10万円/台 など) |
| 対外対応コンサル (危機管理/広報助言) |
記者対応、説明文案、謝罪/公表の設計、二次炎上回避の助言 | 10〜100万円 |
| 法律相談 (弁護士など) |
個情法対応、通知方針、契約・損害賠償、当局/取引先対応 | 30〜100万円 |
| DM・書面通知 (顧客/取引先) |
お詫び状/通知、印刷・封入・発送 | 1万人にDM送付:約130万円 |
| 新聞広告などの周知 | 社会的影響が大きい場合の告知・周知 | 地方紙に広告:約50万円 |
| コールセンター設置 | 問い合わせ対応、クレーム受付、FAQ運用 | 3か月対応で700〜1,000万円 |
| 見舞金・見舞品 | プリペイド等の補償、謝罪対応 | 1万人にプリペイド送付:約650万円 |
| ネット炎上防止 (監視/火消し) |
SNS監視、投稿対応、火消しオペレーション | 300〜900万円(ケース例) |
| ダークウェブ調査 | 漏えいデータ有無の確認、売買状況の調査 | 数百万円以上になるケースも |
| クレジット情報モニタリング | 不正利用監視サービス (カード/個人情報の監視) |
月100〜500万円 |
| システム復旧 (リストア/再構築) |
AD再構築、端末再キッティング、サーバ復旧、バックアップ復元 | 数百〜数千万円 |
| 再発防止 (セキュリティ強化) |
EDR/MDR導入、ID強化、ネットワーク分離、監視強化、訓練 | 数百〜数千万円 |
| 機器の入替 (端末/サーバ更新) |
“クリーン環境”へ戻すための入替・更改 | 例:大規模マルウェア感染の試算で端末・サーバ入替 1億4,200万円 |
| 事業停止の利益損失 (ダウンタイム) |
工場・物流・受注停止、サービス停止による売上機会損失 | 例:ECカード漏えい試算で利益損失 3,000万円(停止期間の売上) |
| 身代金 (支払った場合) |
暗号解除/データ暴露回避を口実に支払い要求 | 支払実績(海外):中央値 $140k〜$400k、平均 $376,941〜$1,130,070(四半期により変動) |
| 合計 (被害総額の“現実的な目安”) |
上記+社内工数や損失の合算(ただし未計上も多い) | 国内調査の平均:2,386万円(ランサムウェア) (IPA) 別調査では直近2年の平均 6,019万円・中央値 3,800万円、事例で9,740万円〜2億5,000万円など |
※あくまでおおまかな目安です。実際の損害・支出とは異なる場合があります。
場合によっては数千万円~数億円の被害が発生する恐れもあり、ランサムウェア被害の影響で倒産に追い込まれる可能性もあります。
特に、企業体力の少ない中小企業にとって、サイバー保険は検討価値の高い保険商品と言えるでしょう。
サイバー保険の加入前に必要なランサムウェア対策
ランサムウェアは進行が早いため、被害を抑えるためには事前対策も重要です。また、対策の有無や内容が、サイバー保険の引受査定や保険料設定に影響を与える場合もあります。
ここでは、ランサムウェア対策としてサイバー保険に加入するとき、合わせて実施すべき対策を解説します。
なお、「端末・サーバーの監視」や「初動対応の策定」などは、サイバー保険の付帯サービスで支援を受けられるケースも多いため、保険比較時の判断材料としてもチェックしておきましょう。
多要素認証(MFA)の徹底
多要素認証(Multi-Factor Authentication)とは、多数の認証方法を組み合わせて認証を行う仕組みです。
メールやVPN、管理者アカウント(特権ID)などの「システムの入口」に多要素認証を導入することで、ランサムウェアの感染や暗号化を防ぎやすくなります。
- 知識情報(パスワードや「秘密の質問」など)
- 生体情報(指紋など)
- 所持情報(スマホのアプリやSMSなど)
これらは「一部の例外」を作ると効果が弱まるため、役職などに関係なく設定することが大切です。
バックアップ体制の構築
ランサムウェアによる暗号化を受けても、スムーズに元の状態に戻すことができれば、被害を最小限に抑えられます。
特に重要なのは、バックアップデータを通常データとは別の場所に保管することです。ネットワークを切り分けたり、管理権限を分けたりといった対策をすることで、「被害の横展開」防止にも効果的です。
また、実際に復旧できるか確認するために、定期的なバックアップのチェックとテストも推奨されます。
バックアップはただ取るだけでは意味が薄く、「いつでも戻せる状態」を常に維持することが大切です。
端末・サーバーの監視
ランサムウェア感染を100%防ぐ方法はないため、「早く気づいて止める」ための体制が大切になります。
監視で押さえるべき観点は次の通りです。
- 端末監視(EDR等):
異常動作や不審な兆候を検知 - ログの収集と保護:
ログを改ざんされにくい形で保護 - 異常な通信・データ移転の検知:
大量送信や不審なアクセス(漏えいの兆候)を早期把握 - アラート:
異常時の通知設定と担当者・手順・判断基準の策定
暗号化が進む前に検知できれば、影響範囲が限定され、復旧の費用や事業への損害が小さくなります。
初動対応の策定
ランサムウェアに対する初動対応をあらかじめ決めておくことも、被害の拡大防止には重要です。
社内の確認ルートや責任者の権限、社外との相談窓口が定まっていないと、対応が後手に回り、事態の悪化を招くかもしれません。
- 社内連絡網(情シス→経営→法務/広報など)
- 隔離の手段(サーバー切り離しの手段の準備など)
- 社外の相談先(保険会社窓口、調査会社、弁護士など)、その連絡先と担当者
- 感染発覚時のルール(むやみに電源を切らない、ログ消去をしないなど)
また、定期的にシミュレーションを行い、具体的に「いつ誰が何をする」を確認することで、よりスムーズな初動対応が取れるようになります。
まとめ
サイバー保険でのランサムウェア補償は、事故対応にかかる費用や賠償責任、利益損害などに備えることが可能です。
一方で、身代金の支払いは補償に含まれないのが原則(国内の場合)なので、もし実際に請求されても毅然とした対応を取ることが大切です。
ランサムウェアは数千万円の高額な損失につながる可能性もあり、サイバー保険による備えは企業防衛として検討価値の高い施策です。
業種や事業内容、企業規模などによって相性もあるため、まずは複数のサイバー保険を比較し、自社に最適な補償を確保しましょう。
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