中小企業が会社の利益のなかだけで、退職金を準備するのは大変な面があります。
そもそも、退職金の相場がどれくらいかわからないと準備をする計画も立てにくい部分があります。
そこで今回は退職金制度の必要性やその種類、中小企業退職金共済の仕組みについて解説していきます。退職金の仕組みを整えることは、従業員のモチベーションのアップにもつながります。
退職金制度を導入する際の注意点も踏まえて、押さえるべきポイントをしっかり把握しましょう。
ズバリ!中小企業退職金の相場はいくら?
退職金について考えるときには、まずは相場を把握しておくことが肝心です。東京産業労働局が中小企業を対象とした調査による退職金の統計表を公表しています。
学歴別退職金のめやす(※従業員数100~299人の場合)
学歴 | 退職区分 | 勤続年数 | |||
---|---|---|---|---|---|
5年 | 10年 | 20年 | 30年 | ||
大卒 | 自己都合 | 40万円 | 109万7,000円 | 390万円 | 826万円 |
会社都合 | 65万3,000円 | 161万円 | 494万9,000円 | 962万7,000円 | |
高卒 | 自己都合 | 29万円 | 85万3,000円 | 297万9,000円 | 658万円 |
会社都合 | 52万1,000円 | 133万7,000円 | 389万6,000円 | 772万7,000円 |
退職金の相場は業種や会社規模、地域によって異なるところはありますが、一般的な相場を押さえたうえで退職金制度の仕組みを整えていきましょう。
退職金の割合は大学卒を100%としたときに、高専・短大卒では大学卒の80%程度、高校卒では70%程度となっています。
また、勤続年数が3年に満たないときには退職金を支給しない企業もある点も踏まえておきましょう。
退職手当はないとだめ?その必要性とは?
退職金は制度として備える法的な義務はありません。したがって、就業規則に退職金の支払いに関する定めをしていなければ、会社が支払う必要がないものだと言えます。
雇用形態が終身雇用から実力成果主義に変化してきたため、景気の低迷などの影響によって、退職金制度を設けている企業の数も減少傾向にあるのです。
以前よりも雇用環境が流動的になっており、働く側も転職によって仕事を変える機会が多くなってきたことも背景にあります。
ただ、その一方で退職金制度を導入することによって、従業員のモチベーションアップにつながるメリットもあるでしょう。
退職金があることで従業員は、退職後の生活の安定を思い描くことができ、安心して業務をこなしてくれるという期待が持てます。業界内で将来性のある事業を行っている会社であれば、雇用の安定化が競争力の源にもなるでしょう。
自社の実情に合わせて、退職金制度を設けるかどうか慎重に見極めることが大切です。
退職手当には2種類ある!
退職金と言っても「退職一時金」と「退職年金」の2種類があります。
退職時に全額が支払われるのが退職一時金です。退職年金は企業年金と呼ばれており、国民年金や厚生年金などの公的年金とは別に、各企業が私的に導入する年金のことを指しています。
どちらかの制度を導入している企業もあれば、どちらも導入していない企業もあるでしょう。
また、退職一時金と退職年金を併用している企業もあり、いくつかのパターンに分類されます。
そして、2種類の退職金制度は「確定給付型」と「確定拠出型」によってさらに細かくわかれているのです。
まず、確定給付型の退職一時金制度としては基本給連動型・ポイント制・定額制の3種類があります。「基本給連動型」は退職時の基本給をベースにして計算する方式のことです。基本給に勤続年数をかけて、さらに給付率をかけ合わせたものを退職一時金として算出します。
終身雇用の時代には多くの企業が取り入れていたものの、企業業績に関係なく金額が算出されるため見直されている傾向にあるのです。
「ポイント制」は名称の通り、役職や職能、保有資格や社内での評価などを細かくポイント化して、退職金を算出する方法だと言えます。
それぞれのポイントを合算して退職金の額を決めるため、企業業績に対する貢献度が強く反映されるのです。大手企業を中心にポイント制が広まりつつあります。
「定額制」は基本給をベースとせずに、勤続年数を重視する仕組みです。退職事由係数と勤続年数、役職などによって給付額を決めるため、とてもシンプルな制度設計になっています。
管理の面でも、ほかの制度に比べて負担が少ないため、中小企業で広く取り入れられているのです。
そして、確定拠出型の退職一時金では「中小企業退職共済制度」と「特定退職金制度」があります。
2つの制度の違いは運営母体が異なるというものです。国が運営しているのが中小企業退職共済制度であり、商工会議所などが運営しているのが特定退職金制度です。
どちらの制度も自前で退職金制度を導入するのが難しい中小企業や個人商店を対象にしています。社外積立型の制度設計となっており、掛け金は事業主が拠出をして退職金の原資とするものです。
確定給付型の退職年金は「確定給付型企業年金制度」「厚生年金基金制度」「キャッシュバランスプラン」の3つに分かれます。
確定給付型企業年金制度は固有の法律に基づく企業年金の仕組みであり、基本的に企業側が掛け金を支払って独自に運用するという特徴があります。
給付額については企業側が提示をするため、従業員にとっては運用リスクを負わなくて済むといったメリットがあります。
厚生年金基金制度は1966年から始められているもので、基金に加入をすることで厚生年金の上積みを図ることができるものです。掛け金は企業と従業員が折半をして支払うものであり、給付については企業側が保証する仕組みとなっています。
キャッシュバランスプランは、確定給付型と確定拠出型の特徴をそれぞれで備えている仕組みです。掛け金は企業負担となっているものの、給付については一定額までを保証する一方で、景気動向によって金額が変動するものとなっています。
企業と従業員がリスクを共有する制度設計となっているのです。確定拠出型の退職年金である「確定拠出年金制度」は日本版401kとも呼ばれています。
特徴としてあげられるのは、掛け金そのものは企業側が負担するものの、運用先は従業員が決めるといった点です。そのため、運用結果によって給付額が変動するものの、運用の責任自体は従業員が取ることになります。
2002年に確定給付企業年金法が成立したことで、従来から続けられていた税制適格退職年金は2012年に廃止されました。税制適格退職年金は掛け金の全額が損金として扱われるなど企業にとって有利な制度でした。
中小企業退職金共済と同じで、たとえ企業が倒産したとしても退職年金を受け取れるといった特徴があります。
しかし、制度が廃止されたことで企業は独自に運用をしていかなければならなくなり、退職一時金を用意することが新たな負担として発生しました。
仮に企業が倒産してしまった場合には退職金が支払えなくなる可能性もあるため、生命保険を退職金とする形の退職年金が注目を集めています。
創業したら加入を!中小企業退職金共済のしくみ
中小企業が活用できる退職金制度として「中小企業退職金共済」があります。事業主が契約を結び、掛け金を負担することによって従業員の退職金を用意できる仕組みです。
従業員は退職時に企業から退職金共済手帳をもらい、請求をすることによって従業員に直接支払われるものとなっています。
仮に企業が倒産したとしても退職金が支払われるため、従業員にとっては安心できる制度設計なのです。
中小企業退職金共済は掛け金の一部を国が負担してくれるというメリットもあります。新規で加入をする場合には、掛け金の月額2分の1(従業員ごとに上限5,000円)を1年間助成してもらえます。
また、1万8,000円以下の掛け金を増額する際にも、1年間は増額分の3分の1を国が助成してくれます。
月々の掛け金は全額非課税として認められ、法人の場合には損金として、個人事業主のときには必要経費として処理することができるのです。
掛け金は加入をしてからいつでも変更ができるため、業績に合わせて続けていくことができます。月々の掛金は5,000~3万円のあいだで設定することが可能です。
また、中小企業退職金共済事業本部が従業員ごとに、納付状況や受け取れる退職金の試算額を知らせてくれるため管理の面でも楽だと言えるでしょう。
従業員側から見ても、退職金を直接口座に振り込んでもらえるため安心できる仕組みなのです。
過去の勤務期間や掛け金の納付期間などは通算することができるため、退職金の受け取りを繰り越していくことも可能でしょう。中小企業退職金共済制度に加入している企業間で転職をしたときには、納付月数を通算することができます。
共済制度に加入できる企業は一般業種であれば、資本金3億円以下または常用従業員数が300人以下であることが条件です。
サービス業では資本金が5,000万円以下または常用従業員数が100人以下、小売業では資本金が5,000万円以下または常用従業員数が50人以下となっています。
安定的に人材を確保して、長く働いてもらうためにも創業時に加入をすることを検討してみるといいでしょう。
共済に掛け金月額1万円で加入をすると、2018年4月現在で10年後には126万5,600円を受け取れます。20年後で266万6,600円、30年後で421万3,100円となっており、加入年数が長くなるほど受け取れる退職金額が有利な仕組みとなっているのです。
共済制度における退職金額は、基本退職金と付加退職金の2本建てで成り立っています。基本退職金は掛け金の金額と納付月数に応じて決められるものであり、予定運用利回りが1%として設計されているものです。
付加退職金とは実際の運用利回りが予定運用利回りである1%を上回ったときに、基本退職金に上積みされるものとなっています。
納付月数43カ月目とそれ以降12カ月ごとに加算されていく仕組みです。共済制度での注意点は納付月数が1年未満の場合には退職金が支給されないため注意をしておきましょう。
1年以上2年未満のときは支払った掛け金よりも下回る金額となり、2年以上3年6カ月のあいだでは掛け金相当額が支給されます。加入から3年7カ月を越えてくると、掛け金よりも多くの金額を受け取ることができます。
同居の親族を雇用している場合も、共済に加入することができます。該当者が小規模企業共済に加入していない、賃金台帳に賃金の支払い事実があることが加入の条件です。親族を共済に加入させることで、引退後のライフプランも描きやすくなるでしょう。
また、社内に退職金制度を導入するときには「退職金規程」を定めて、従業員にわかりやすい仕組みを提示しておくことも大切です。賃金や役職などで規程を作り、従業員のモチベーションをアップさせていきましょう。
自治体によっては掛け金の補助を行っているところもあるので、事業展開をする自治体に問い合わせてみることも心がけることが大切です。
従業員の生活を保障するため考える
企業が退職金制度を設けるかどうかは、義務的なものではないため自主判断ということになります。しかし、退職金制度を積極的に取り入れることによって、従業員の生活を保障して意欲的に長く働いてもらえる労働環境を作りやすくなります。
自前で退職金を積み立てていくのは大変ですが、中小企業退職金共済などの制度を利用すれば企業業績に合わせて、無理なく退職金の用意をすることができます。
掛け金の一部を国が補助してくれたり、仮に倒産をしてしまったりしても退職金が支払われるので、中小企業にとって心強い味方だと言えるでしょう。
月々の掛け金の支払いは全額を企業が負担しなければなりませんが、一部を損金として算入できるため税制上のメリットも期待ができます。
長く事業活動を行っていくうえでは、従業員が安心して働ける環境を整えていくことは大切です。しっかりと退職金の仕組みを形作っておくことで、人材確保の面でも役立ちますし、経営の見通しを立てやすくなるといったメリットもあります。
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