「小規模企業共済」は中小企業などの小規模事業者や個人事業主のための退職金制度です。
経営者や役員が引退をするときの退職金を毎月積み立てていく仕組みになっています。ですので、引退後の人生プランを考えるうえでも役立つ制度なのです。
小規模企業共済に入ることのメリットやデメリットを押さえたうえで、賢く活用していく姿勢を持つことが大切だと言えます。また、加入するための要件や注意点も踏まえて、小規模企業共済を詳しく見ていきましょう。
経営者の退職金に!小規模企業共済の概要
小規模企業共済は1965年にできた小規模企業共済法に基づく制度です。個人事業主や小規模企業の役員が事業を止めたり、退職をしたりしたときに積み立てていた資金を受け取れる仕組みとなっています。
経営者の退職金制度と呼べるものであり、引退後の生活の安定や事業の再建を図るための資金を準備しておくことを目的としているのです。
毎月の掛金を全額所得控除できる税制上のメリットもあるため、節税対策としても効果があります。
引用元:「小規模企業共済制度の加入状況」中小機構
2017年3月現在で加入者数は約132.7万人で、運用残高9兆465億円となっているのです。加入者数は年々増加傾向にあり、運用についても8割程度が国内債券となっているため安定的だと言えるでしょう。
では次にそんな小規模企業共済のメリットが何なのかをチェックしていきます。
嬉しい4つのメリット
小規模企業共済に加入することで、4つのメリットを受けることができます。
所得控除の対象になる
まず、確定申告を行う際に「小規模企業共済等掛金控除(所得控除)」の対象となるのです。
全額が所得控除の対象となるため、毎月の掛け金が7万円の場合には年間最大84万円の所得控除が受けられることになります。
共済金の受け取りについても所得控除が受けられるため、支払い時と受け取り時の両方で税制上のメリットを期待することができるのです。
資産運用に適している
20年(240カ月)以上の加入が要件となるものの、掛け金よりも多い金額の給付を受けられるのです。最大で120%の掛け率となるので、資産運用の側面も併せ持っています。
役員給与として損金計上できる
株式会社の役員などの場合には、役員給与に上乗せできます。つまり、給与として損金算入が可能なのです。
7つの貸付制度
掛け金の範囲内という制限はあるものの、無担保・無保証人で事業資金などの貸付を受けることができます。貸付制度については7種類があり、それぞれの用途に合わせて借り入れることが可能です。
「一般貸付制度」
迅速に事業資金を借り入れられる制度であり、年利は1.5%となっています。
申し込みの受付は随時行っており、仮に借入金を返済できないような場合であっても、新たな借り入れを行うための利子を支払うことによって、借り換えられるのが特徴です。
「緊急経営安定貸付け」
一時的な売上の減少や資金繰りの悪化によって、経営環境が不安定化したときに借り入れが行える制度となっています。
50万円以上、1,000万円以内の範囲で借り入れを行うことができ、年利は0.9%です。登録をした金融機関か、商工中金で借り入れの申し込みをすることができます。
「傷病災害時貸付け」
病気やケガによる一定期間の入院や災害救助法が適用された災害による被害によって、経営が不安定化したときに借り入れることができる制度です。
年利は0.9%で借入期間は500万円以下で36カ月、505万円以上で60カ月となっています。入院や災害発生から6カ月以内に申し込みをすることが条件です。
「福祉対応貸付け」
加入者や同居する家族の福祉向上を目的としており、住宅の改造資金・福祉機器の購入などの資金を貸し付けてもらうことができます。年利は0.9%で、改築や機器の購入予定日の6カ月前から申し込みを受け付けているのです。
「創業転業時・新規事業展開等貸付け」
新規開業や転業に伴う事業資金を借り入れられる制度となっています。年利は0.9%となっており、50万円~1,000万円の範囲で借り入れを行える仕組みです。
「事業承継貸付け」
株式の取得などの費用として借り入れることができる制度となっています。年利0.9%で、借入金の返済は6カ月ごとに行っていくという特徴があるのです。
「廃業準備貸付け」
個人事業の廃止や法人の解散を円滑に行うことを目的としたものだと言えます。設備の処分費用や債務の清算などに使うことができ、年利は0.9%です。廃業予定日の1年前から申し込むことが可能で、申し込みは中小機構を通じて商工中金に対して行います。
所得控除や様々な貸付制度など、事業を継続させるためのメリットがあることがお分かり頂けたかと思います。
しかし、これだけ聞くと”加入するべき”と考えてしまいがちですが、メリットだけでなくデメリットの部分もしっかり把握しておきましょう。
長期的な視点が必要!デメリットを知る
小規模企業共済のデメリットについても把握しておくことが大切です。
まず、20年以上加入しなければ元本割れのリスクが発生してしまいます。
経営者の退職金という意味合いが強いものであるため、早期の解約や加入期間が短い場合にはマイナスになってしまうこともあるのです。現在の年齢から引退を考える年齢までの期間を考えたうえで、試算しておく必要があるでしょう。
加入期間が1年未満の場合は掛け捨てとなり、加入期間90カ月以上96カ月未満で支給割合は81.25%となっています。これ以降は6カ月ごとに0.75%ずつ増加し、20年を上回ると6カ月ごとに0.25%ずつ増加する仕組みです。
最大で120%の支給割合となる一方で、加入期間が20年未満だと全額は戻ってこない点に注意をしておきましょう。
ただ、事業を継続したまま20年未満で解約をしたときには元本割れのリスクはあるものの、廃業の場合などには100%戻ってきます。事業譲渡や加入者の死亡、老齢給付の場合も同様です。
老齢給付を受けるためには、65歳以上で180カ月以上の掛け金を払い込むことが要件となっています。
したがって、50歳から小規模企業共済に加入したとしても、65歳のときには180カ月加入していることになるため、20年未満であっても元本割れをすることはないのです。
小規模企業共済は退職金という目的があるため、事業資金の貸付けなどを除いて、民間保険よりも柔軟性に欠ける部分があります。通常の保険だと医療保険や労災保険の代わりとするなど、さまざまな用途で活用することができるでしょう。
ただ、小規模企業共済とは別に必要に応じて他の保険に加入することで、デメリットがカバーできる部分もあるので複数の保険を検討することも視野に入れてみましょう。
これまでにメリット・デメリットをご紹介していきましたが、ここで加入を検討しているあなたへ加入要件がどんなものかチェックしていきます。
誰でも加入できる?加入要件を確認しよう
小規模企業共済は誰でも加入できるというものではありません。
例えば、建設業・製造業・運輸業・サービス業・不動産業、農業などの業種では、常に雇用している従業員数が20人以下の個人事業主か会社役員が加入対象となっています。
そして、小売業や卸売業、宿泊業・娯楽業を除くサービス業であれば、常に雇用している従業員数が5人以下の個人事業主や会社役員となっています。
企業組合・協業組合・農業組合などについては、組合員や従業員の数が20人以下と決められています。従業員数が5人以下の弁護士法人や税理士法人なども加入することが可能です。経営者本人だけでなく、経営に携わる共同経営者も加入が認められています。
注意点としては、家族の従業員は含まれない点です。加入ができる役員とは、株式会社や有限会社の取締役・監査役、合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員のことを指していますが、家族が役員という場合は加入できません。
また、学校法人や社団法人、NPO法人など直接的な利益を目的としない法人の役員は含まれません。さらには、給与所得者や全日制の高校生、商業登記簿謄本に役員登記されていない相談役や顧問なども加入ができないことになっています。
加入するときの立場や手続きを行う窓口によって、加入のための手順が異なってくるので注意をしておきましょう。
加入のための手続きとは
誰もが必要になる書類として「契約申込書」と「預金口座振替申出書」があります。申込書や申出書は中小機構に資料請求することによって得ることができます。
そして、個人事業主の場合では「確定申告書の控え」か「開業届の控え」が必要になります。
株式会社などの役員では、役員登記がされていることを証明する書類として、交付日から3カ月以内の「履歴事項全部証明書」の原本が必要です。
掛け金の引き落としができる口座は、契約者本人の個人名義の口座に限られているので注意しておきましょう。
必要な書類を取りそろえたのであれば、中小機構が業務委託契約を締結している団体や金融機関の窓口に提出をしましょう。
郵送による手続きは行っていないため、直接窓口に出向く必要があることを忘れないようにしましょう。前納する場合や初回の掛け金を現金で支払うときには、支払う金額も用意しておく必要もあります。
申し込みを行ってから40日程度で中小機構から「小規模企業共済手帳」と「加入者のしおり及び約款」が届くので大切に保管をしておきましょう。
加入するために必要な手順・書類はわかりましたが、この共済に加入をすることでどのようなメリットがあるのでしょうか?
次で年々加入者が増えている理由もわかるのではないでしょうか。
加入する際の注意点
小規模企業共済に加入する際には2つ注意点があります。
1つ目は、事業を拡大する前に加入をしておくということです。
加入のためには従業員の雇用者数など一定の要件があるため、注意が必要なのです。加入をしてから事業規模が拡大した場合には継続できるものの、事業規模が大きくなってからの加入は認められないので気をつけておきましょう。
そうした事態を防ぐためにも、できるだけ創業時に加入をしておくことが重要です。毎月の掛金は1,000円から始められるので、とりあえず加入手続きをとっておくほうが無難でしょう。
経営の状況に合わせて、掛け金は後から増額することもできるので早い段階で加入をしておくことが大切です。
2つ目の注意点は、途中で掛け金を減額してしますと、減額分については運用されないということがあります。
例えば、月2万円の掛け金を支払っていたものを1万5,000円に減額をすると、減額分の5,000円については運用されないままの状態になるのです。
そのまま積み立てておいてもメリットが得られないため、掛け金を途中で減額しないほうが良いと言えます。先のことも考えたうえで、最初の段階で無理のない掛け金を設定しておくようにしましょう。
小規模企業共済で退職金を捻出しよう
企業の利益だけで引退時の退職金を捻出するのは、なかなか難しい部分があります。
今回ご紹介した「小規模企業共済」はさまざまなメリットがあるので、創業時などの早い段階で加入を検討することが大切になってきます。
そして、加入後は毎月の掛金が所得控除の対象となるため、税金対策効果も期待できるでしょう。
また、退職金の受け取り時も退職金所得や雑所得扱いとなるため、税制上のメリットを受けられます。掛け金の範囲内ではあるものの、経営が悪化したり加入者本人が病気やケガに遭ったりしたときには、独自の貸付制度も設けているのです。
引退後の生活設計から事業のセーフティーネットとしての役割など、幅広く活用できるのが小規模企業共済だと言えます。加入には要件があるため、事業規模が拡大してからの加入は認められていません。
したがって、事業規模が小さなときに加入を検討する姿勢を持っておくことが大切になります。経営者自身がきちんと備えをしておくことによって、経営に打ち込むことができるでしょう。
さて、ここでは小規模企業共済について詳しく解説してきましたが、この共済以外にも退職金を確保できる方法はあります。その方法を6つご紹介しているのでぜひそちらも参考にしてみて下さい。
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