役員退職金は、生命保険で計画的に準備する方法も選択肢の一つです。
役員の退職金は金額が大きくなりやすく、支給時期が重なると資金繰りに影響することもあります。保険を活用して準備しておけば、勇退退職金だけでなく、万一(死亡退職金)への備えも同時に進めやすくなります。
この記事では、役員退職金を保険で準備する際に押さえたいポイントを、メリットから順に解説します。
- 業績を安定させながら準備を進める考え方
- 役員退職金の相場感(目安)
- 保険タイプ別の特徴(選び方)
- 退職金準備の前に必要な社内手続
理解を深めるきっかけとなれば幸いです。
それでは早速どうぞ!

記事監修した保険のプロ:
40代/男性
- AFP
- トータル・ライフ・コンサルタント(生保協会認定FP)
- 個人情報保護士
外資系大手保険会社での営業経験を活かし、生保・損保問わず企業向けに保険提案を行っている。保険商品だけでなく、金融商品・税金に関する知識は幅広く、お客様からの紹介が後を絶たない。
役員退職金を保険で準備する際に押さえたい4つのポイント
理由1:保障を得ながら、資金準備と税負担のバランスを取りやすい
役員退職金を保険で準備する場合、保険料の経理処理は契約内容に応じた税務上の取扱い(損金算入・資産計上など)に従って行います。
また、解約返戻金を受け取ると、その金額は原則として法人の益金(収益)として扱われます。
一方で、同じ事業年度に役員退職金を支給し、税務上「適正な金額」と認められて損金算入できれば、課税所得の圧縮が期待できます。
そのため、退職金の支給時期と保険の出口(解約・保険金受取等)を合わせて設計すると、資金繰りと税負担のバランスを取りやすくなります。
このように、保険を活用する場合は加入目的(勇退退職金の準備/万一の備え等)を明確にすることが大切です。目的がはっきりしているほど、出口(解約・保険金受取・退職金支給)の設計が組み立てやすくなります。
理由2:資金繰りのブレを抑えやすい
内部留保から退職金を準備する場合、利益が出た年度に法人税等を納めたうえで資金を積み上げていくことになります。役員の勇退退職金は大きな支出になりやすく、支給時期が重なると資金繰りが不安定になりかねません。
また、役員が急に亡くなられた場合は、死亡退職金などの支払いが必要になることもあります。準備が十分でないと、会社としては借入で手当てせざるを得ないケースも出てきます。
結果として手元資金が減り、金融機関の見え方(格付け等)に影響する可能性もあります。
一方、保険で計画的に準備しておけば、退職時の資金手当てを事前に進めやすくなり、退職金支給による資金繰りのブレを抑えやすくなります。さらに、死亡保険金を死亡退職金の原資として活用できる設計にしておけば、万一の際の支払いにも対応しやすくなります。
理由3:役員退職金は「退職所得」扱いとなり、税負担を抑えやすい
役員が退職慰労金を受け取った場合、原則として所得税の対象になりますが、退職所得控除の対象となります。
※退職金は原則として課税対象ですが、退職所得控除や(一定の範囲での)2分の1課税により、給与より税負担が軽くなることがあります。
退職所得控除額の計算は、下記の通りです。
20年以下の場合(勤続年数=A)
⇒40万円×A(80万円に満たない場合は80万円)
20年超の場合(勤続年数=A)
⇒800万円+70万円×(A-20年)
退職所得の課税対象は、一般に次の計算式で求められます。
(退職金-退職所得控除)×1/2
※退職所得は原則として2分の1課税ですが、勤続年数が短いケースなどでは、2分の1課税が一部適用されない取扱いがあります(短期退職手当等など)。
一方、死亡退職金は「みなし相続財産」として相続税の対象になりますが、法定相続人が取得した金額の合計については、「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額があります(限度額を超える部分が課税対象です)。
また、弔慰金については下記が目安とされます。
業務上の死亡
⇒最終報酬月額の36か月分
業務外死亡
⇒最終報酬月額の6か月分
※弔慰金は原則として相続税の対象になりませんが、一定額を超える部分は「退職手当金等」として相続税の対象になることがあります。
理由4:死亡した時の保障になる
貯金は三角、保険は四角といわれます。
役員退職金を保険で準備するということは、勇退時の原資づくりに加え、万一の保障も同時に得ることにつながります。
いつ起きるかわからない役員の死亡による死亡退職金の支払いは、会社にとって大きな資金需要になり得ます。保険を活用しておけば、不測の事態でも保険金を原資として支払いに対応しやすくなります。
役員退職金の相場は?
勇退退職金の場合
役員勇退退職金の相場は、一般に下記の式で整理されます(あくまで目安です)。
役員退職慰労金=役員の最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率
役員の報酬月額や功績倍率は、企業規模・業績・職位・在任期間等で大きく異なります。以下は一例です。
- 会長2.0倍
- 社長2.4倍
- 専務1.8倍
- 常務1.5倍
- その他役員(取締役等)1.4倍
また、職位別退職慰労金の支払い予定額の平均として、過去の調査では以下のような例が示されています(調査年次が古いため、参考値として捉えてください)。
- 会長6030.4万円
- 社長5586.7万円
- 専務3293.1万円
- 常務1835.2万円
- その他役員(取締役など)1455.4万円
(セールス手帳社保険FPS研究所『平成24年企業経営と生命保険に関する調査』より)
死亡退職金の場合
役員死亡退職金の相場も、一般に下記の式で整理されます(目安)。弔慰金を合わせて支給する場合は、別途算定します。
役員の死亡退職金=役員の最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率
弔慰金=役員の最終報酬月額×弔慰金支払い月数
役員退職金は金額が大きく、会社の財務上大きな負担になり得ます。
在任期間中に計画的に準備しておくことが大切です。
役員退職金準備の前に知っておくべき3つのポイント
ここまで役員退職金の準備方法について説明しましたが、スムーズに支給するためには社内手続の整備も重要です。
こちらでは、役員退職金を準備する上で知っておきたい3つのポイントを補足としてお伝えします。
①株主総会の決議をして議事録を残す
役員退職金を損金として算入するためには、社内手続を適切に整えることが必要です。
会社法上、役員退職金を支払うために必要となるのが株主総会の決議です。金額・計算方法といった決議内容を議事録に残しておきましょう。
②退職慰労金規定を整備する
退職慰労金規程を整備して、退職金の計算方法の基準を明文化しておきましょう。
万が一、税務調査が入った時に、規程に従って退職金を支払っているという説明がしやすくなります。
③役員退職金の損金算入のタイミングは選べる
役員退職金の損金算入のタイミングは以下の2つから選ぶことができます。
- 役員退職金を決める株主総会の決議をした事業年度
- 会社が役員退職金を実際に支払った事業年度
今期は利益が少なく、来期は利益が見込める場合など、状況に応じて設計できます。損金算入のタイミングを見極めることが大切です。
以上の3つが、役員退職金を準備する前に気を付けるべきポイントです。
どの法人向け生命保険を選ぶべきか?
ここでは、退職金準備で使われることがある保険タイプを紹介します。
ただし、保険料の損金算入・資産計上の範囲は、保険期間・最高解約返戻率などの契約条件によって取扱いが変わります。退職予定時期と返戻金のピーク、毎期の損金算入イメージを合わせて設計することが重要です。
定期保険(退職時期が比較的近いケースで検討しやすい)
退職までの期間が比較的短い場合、定期保険の設計を活用して、退職金の原資を計画的に準備する方法があります。
解約返戻金が発生するタイプでは、解約時に返戻金を受け取ることで益金が計上されるため、退職金支給の年度設計と合わせることがポイントです。
長期の定期保険(長期で準備したいケース)
退職まで期間がある場合は、長期で準備できる設計を選ぶことで、返戻金のピークを60歳・65歳などの時期に合わせることも可能です(商品設計によります)。
毎期の会計・税務処理(損金/資産計上の割合)も、契約条件に応じて変わるため、退職予定時期との整合を取りながら設計しましょう。
逓増型の定期保険(短期間で積み上げたいケース)
役員の勇退時期が明確で、比較的短期間で積み立てたい場合に検討されるタイプです。
返戻金のピークと退職金支給時期を合わせる設計ができれば、資金手当てと税負担のバランスを取りやすくなります(契約条件により取扱いは変わります)。
退職の際の保険は今後を考えた上で加入を
保険を活用することで、役員退職慰労金対策と役員死亡退職金対策の両方を進めやすくなります。
保険の活用で退職金対策を進めることによって、下記のメリットが狙えますので最後に確認しましょう。
- 計画的に準備することで、役員退職金の支給を円滑に進めやすくなる
- 万一の際に、死亡退職金の原資を確保しやすくなる
会社の状況(利益水準・退職予定時期・必要保障額)に合わせて設計することで、より実務に沿った退職金準備が進められます。
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