「全額損金(保険料の全額を損金=経費として扱うこと)」で処理できる法人保険は、当期の課税所得(税金計算のもとになる利益)に影響するため、利益が大きい年の費用計上として検討されることがあります。
しかし、2019年(令和元年)に国税庁の取扱いが見直され、法人保険の保険料を損金に算入できる割合は、契約内容(解約返戻率など)に応じて変わるルールになりました。これにより、当期に全額を損金算入できる契約は限られるようになっています。
今回は、法人保険の損金算入の考え方(新ルール)と、全額損金になり得るケースのポイントについて解説します。

当記事の監修者:西岡 秀泰
- 社労士資格
- FP2級
- 生損保各種販売資格
生命保険会社に25年勤務。また、子供英会話教室(SCの中の教室に特化)の東日本本部長代理(所属員600名)として、2年間マネジメント全般を担当。直近は、社会保険労務士として日本年金機構・相模原年金事務所の年金相談員として週2回程度勤務。
現在では、社会保険労務士として活動するとともに、日本年金機構・年金事務所の相談員業務を受託。また金融全般(特に生命保険と公的年金)、人事・労務、マネジメントをテーマにライティング活動中。
西岡社会保険労務士事務所 http://anshin-roumu.com/
法人保険の「全額損金」が税金対策につながる仕組み
法人税の計算では、必要経費として認められるものを「損金」と言い、必要経費として計上することを「損金算入する」と言います。
損金の反対として、会計上の収益(売上など)に当たるものは「益金」と呼ばれます。
損金と益金は、法人に課される税金(法人税)の金額に関係します。法人税を考えるときは、損金として計上できる金額がどれくらいあるかが一つのポイントになります。
法人税 = 法人所得(課税所得) × 法人税率
法人所得(課税所得) = 益金 − 損金
…つまり、損金が大きいほど、法人所得が小さくなり、法人税も小さくなります。
このように、法人税の計算では損金がポイントになります。法人保険は、保険料の全部または一部を損金として計上できる場合があるため、税負担のタイミング調整(利益が大きい年に損金を増やす等)として検討されることがあります。
保険の種類によって損金算入の割合が異なる
法人保険は、保険の種類や契約内容によって、損金に算入できる割合が異なります。
保険料の全額を損金にできるものは「全額損金」、半分を損金に算入できるものは「半額損金」などと呼ばれます。
一般に、当期に損金算入できる割合が大きいほど、当期の法人所得(課税所得)を抑えやすくなります。一方で、全額損金で処理できる法人保険は限られる点に注意が必要です。
これまでは、貯蓄性(解約時に戻るお金が多いこと)も期待でき、かつ当期に大きく損金算入しやすい設計が注目されましたが、現在は取扱いが変わっています。
では、現在の法人保険の損金算入ルールはどうなっているのでしょうか。見ていきましょう。
2019年の税制改正による損金の新ルール(定期生命保険・第三分野保険)
2019年(令和元年)に国税庁の取扱いが見直され、法人保険の保険料を損金に算入できる割合は、契約内容に応じて決まるルールになりました。大きくは、「①定期保険」と「②第三分野の保険(医療保険・がん保険)」で考え方を押さえると理解しやすいです。
大まかに言うと、貯蓄性が高い(解約時に戻るお金が多い)保険ほど、当期に損金にできる割合は小さくなりやすい方向の取扱いになっています。
「解約返戻率」とは、法人保険を解約したときに、これまで支払った保険料のうちどれくらいが戻ってくるか(割合)を示したものです。
解約時に受け取るお金は「解約返戻金」と呼ばれ、解約返戻金があるタイプの法人保険は、事業保障や退職金準備などの資金準備に利用されることがあります。
解約返戻率が高いタイプほど、支払った保険料の一部を資産(前払保険料)として計上し、後の年度に取り崩して損金算入する取扱いが基本になります。
実際、どのような取扱いになるのか、まずは定期保険の考え方を表で確認していきましょう。
①定期生命保険に関するルール
定期生命保険の保険料は、原則として「保障(役務提供)期間の経過に応じて」損金算入します。
たとえば、年度の途中で年払いの保険料を支払った場合、その年に損金算入できるのは「当期の期間分」であり、残りは翌年度の損金になります(例:保険の開始日~決算日まで3か月間であれば、その3か月分の保険料のみ当期に損金算入する)。
ただし、法人税には「短期前払費用の特例」という制度があり、「1年以内の役務の提供に係る支払い」は当期の内に損金算入してよいことになっています(契約期間中は同じ支払い方を継続するなど要件あり)。
つまり、1年間分の年払いであれば、「期間の経過」のルールにかかわらず、支払った年に全額を損金算入できる可能性があります。
資産計上が必要になるケース
一方で、一定の定期生命保険(保険期間が3年以上で、最高解約返戻率が高いタイプなど)は、当期支払保険料のうち一定割合を税務上いったん資産計上し、将来、取り崩して損金算入する取扱いになります。
各期間の経理処理のイメージは次の通りです。
- 資産計上期間:
当期支払保険料の一定割合を資産計上し、残りを損金算入 - 資産計上期間の終了後(取り崩し開始前):
当期支払保険料は全額損金算入 - 取り崩し期間:
当期支払保険料の全額に加え、過年度に資産計上した金額を均等に取り崩して損金算入
資産計上期間・取り崩し期間および資産計上割合は、最高解約返戻率によって区分されています。
| 最高解約 返戻率 |
資産計上期間 | 資産計上額 | 取り崩し期間 |
|---|---|---|---|
| 50%以下 | (返戻率ルール上)資産計上なし | ||
| 50%超~ 70%以下 |
保険期間の当初40%の期間 | 当期支払保険料×40% (支払保険料×60%は損金算入) |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金算入 |
| 70%超~ 85%以下 |
保険期間の当初40%の期間 | 当期支払保険料×60% (支払保険料×40%は損金算入) |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金算入 |
| 85%超 |
①保険期間の開始日から最高解約返戻率となる期間等の終了日まで ②1の期間経過後において、年換算保険料に対する解約払戻金の増加割合が0.7を超える期間があれば、その期間の終わりまで |
保険期間開始日から10年経過日までは、保険料×最高解約返戻率×90%を資産計上 11年目以降は、支払保険料×最高解約返戻率×70%を資産計上 |
解約返戻金が最高金額になったあと、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩し |
| 最高解約返戻率:50%以下 | |
|---|---|
| (返戻率ルール上)資産計上なし | |
| 最高解約返戻率:50%超~70%以下 | |
| 資産計上期間 | 保険期間の当初40%の期間 |
| 資産計上額 | 支払保険料×40% (支払保険料×60%は損金算入) |
| 取り崩し期間 | 保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金算入 |
| 最高解約返戻率:70%超~85%以下 | |
| 資産計上期間 | 保険期間の当初40%の期間 |
| 資産計上額 | 支払保険料×60% (支払保険料×40%は損金算入) |
| 取り崩し期間 | 保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金算入 |
| 最高解約返戻率:85%超 | |
| 資産計上期間 |
①保険期間の開始日から最高解約返戻率となる期間等の終了日まで ②1の期間経過後において、年換算保険料に対する解約払戻金の増加割合が0.7を超える期間があれば、その期間の終わりまで |
| 資産計上額 |
保険期間開始日から10年経過日までは、 11年目以降は、 |
| 取り崩し期間 | 解約返戻金が最高金額になったあと、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩し |
上記の表で「(返戻率ルール上)資産計上なし」としている区分は、あくまで「返戻率に基づく資産計上割合が0%」という意味です。
決算をまたぐ保障分がある場合は、原則通り「保障期間」に応じて前払費用(資産)等に振り替える点に注意してください。
②第三分野保険に関するルール
第三分野保険(医療保険・がん保険・介護保険・就業不能保険など)も、基本は定期生命保険と同じように、原則「保障(役務提供)期間の経過に応じて」損金算入します。
また、解約返戻金があるなど貯蓄性が高いタイプも同じく、上述の返戻率に応じた損金算入ルール(資産計上期間・取り崩し期間)が適用されます。
終身型の第三分野保険の「保険期間」はどう扱うか
第三分野保険を定期生命保険と同じルールで損金算入する場合、「終身タイプの保険期間をどうするか」という問題が出ます。保険期間がわからなければ、資産計上期間も取り崩し期間も決めようがありません。
結論を言うと、税制では計算上の保険期間を「開始日から被保険者が116歳に達する日まで」と扱います。
後は通常通り、返戻率による損金算入ルールが適用されます。
30万円要件による例外(定期生命保険・第三分野保険の例外ルール)
ここまで解説した定期生命保険・第三分野保険の「最高解約返戻率による損金算入ルール」は、2つの「30万円特例」という例外があります。
簡単にいうと、「一定の要件を満たせば例外的に当期の損金算入が認められる(資産計上が不要になる)」という制度です。
①年換算保険料相当額が被保険者1人あたり合計30万円以下で、最高解約返戻率が70%以下の場合、原則である「保障期間の経過に応じて損金算入」に戻る(「最高解約返戻率による損金算入ルール」の対象にならない)。
②解約返戻金相当額のない短期払の定期保険または第三分野保険で、被保険者1人あたりの合計支払保険料が年間30万円以下の場合、当期の全額損金算入を認める※。
※短期前払費用の特例のように「1年間の役務提供」の要件はありません。
2019年以降の新ルールと全額損金のまとめ
定期生命保険・第三分野保険の損金算入ルールをまとめると、次のようになります。
- 原則は「保障期間の経過に応じて損金算入」を行う(ただし「短期前払費用の特例」で年払いの全額当期算入ができる場合がある)。
- 貯蓄性がある保険(一定の定期生命保険)や第三分野保険は、「返戻率による損金算入ルール」が適用される。
- 「返戻率による損金算入ルール」の対象でも「30万円の特例」が適用されれば全額損金算入になる場合がある。
また、これらのルールで全額損金算入になり得るのは以下の場合です。
- 解約返戻金がない定期生命保険・第三分野保険
- 最高解約返戻率が50%以下の定期生命保険・第三分野保険
- 30万特例が適用される定期生命保険・第三分野保険
※一律に全額損金算入となるわけではありません。詳しくは税理士にご相談ください。
損害保険の場合
損害保険は、事業で発生する賠償責任や、火災などによって自社の財物に損害が起きるリスクに備えるための保険です。
損害保険は掛け捨てタイプが多い一方で、契約期間が1年を超える場合などは、支払った事業年度に全額を損金にできず、期間に応じて前払費用として計上するケースがあります。※契約期間と支払方法をあわせて確認しましょう。
損害保険に加入する際には、必要な補償(リスク)に合っているかを第一に考えることが大切です。
メリットの大きさを考えて全損以外も要検討
今回は、全額損金タイプの法人保険について解説してきました。
2019年(令和元年)の見直し以降、貯蓄性(解約返戻金)が高い保険ほど、当期に損金算入できる割合は小さくなりやすい取扱いになっています。そのため、以前のように「貯蓄性が高いのに、保険料も当期に大きく損金算入しやすい」タイプを税務面だけで狙うのは難しくなりました。
最高解約返戻率が高い法人保険は全額損金にはできませんが、それでも支払保険料のうち所定の割合を損金算入できる場合があります。また、資産計上した分も将来取り崩して損金算入していくため、目的によっては検討の余地があります。
そもそも、法人保険は企業の事業に関するリスクに備えるためのものです。
損金算入割合の大きさだけを見るのではなく、保障内容・資金繰り・解約時期など、会社にとっての総合的なメリットを考えた上で、全額損金以外の法人保険も検討してみましょう。

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