法人保険に加入すると、保険料の支払い時と保険金の受け取り時にそれぞれ正しく経理処理を行う必要があります。
ただし、経理処理をするにも、法人保険の契約形態に応じて資産に計上すべきか損金に計上すべきか変わる点に要注意。
もし法人保険の経理処理を間違えてしまうと、確定申告の際に税務署から指摘され、修正の手間や金銭的なペナルティが発生する恐れもあります。
この記事では、法人保険の契約形態に応じた経理処理の方法を解説。受取人を誰に設定するかによって変わる法人保険の税務手続きを丁寧に説明していきます。
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法人保険の保険金受取人によって経理処理や課税内容が変わる
法人保険に加入した場合、保険料の支払い時と保険金の受け取り時には正しく経理処理をする必要があります。
法人保険の経理処理で厄介なのが、法人保険の種類と、契約形態によって経理処理方法が異なるという点です。
法人保険には、定期生命保険、養老保険、第三分野保険(医療保険・がん保険)、終身保険などの種類があり、それぞれ経理処理方法が決まっています。
また、契約形態とは、契約者や被保険者、保険金受取人をどのように設定するかを指します。
法人保険の場合、契約者と、被保険者、保険金受取人はそれぞれ下記のパターンで設定することが可能です。
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
法人 被保険者 被保険者の遺族 |
上記の契約形態で注目すべきは、保険金の受取人です。
保険金受取人をだれに設定するかによって、支払保険料と保険料受取時の経理処理が変わります。
では、法人保険の種類と契約形態のパターンごとに経理処理の方法を見ていきましょう。
パターン別の支払保険料の経理処理方法
まずは、法人保険の支払保険料に関する経理処理方法から解説していきます。
①定期生命保険
契約者:法人、保険金受取人:被保険者または遺族の場合
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
被保険者または被保険者の遺族 |
上記の場合、法人が支払う保険料は「給与」という扱いで保険料の一部を損金に計上します。
契約者:法人、保険金受取人:法人の場合
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
法人 |
上記の場合、法人が支払う保険料は「支払保険料」という扱いで保険料の一部を損金に計上します。
法人保険の定期生命保険は保険料の取り扱いに注意
先程も解説したとおり、法人保険の定期生命保険は、保険金受取人が被保険者であろうと法人であろうと、保険料の一部を損金に計上することができます。
この時、損金に計上できる金額は、法人保険の最高解約返戻率の高さによって異なります。
2019年の国税庁の税制改正により、法人向け定期生命保険は最高確約返戻率に応じて所定の期間は保険料の一部を資産に、残りを損金に計上するというルールが定められました。
ルールを簡単に解説すると、下記の通りです。
法人保険の最高解約返戻率 | 経理処理方法 |
---|---|
50%以下 | 全額損金計上 |
50%超~70%以下 | 保険期間開始後、4割の期間は60%損金、40%資産計上 |
70%超~85%以下 | 保険期間開始後、4割の期間は40%損金、60%資産計上 |
85%超 | 保険期間開始後、最高解約返戻率を迎えるまで25%ほどを損金計上、75%ほどを資産計上 |
②養老保険
養老保険は、被保険者が生存したまま保険期間満期を迎えれば満期保険金が、万が一死亡してしまった場合には死亡保険金が支払われる法人保険です。
従業員の退職金貯蓄に活用されることが多くみられます。
契約者:法人、死亡保険金・生存保険金受取人:被保険者または遺族の場合
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金受取人 | 生存保険金受取人 |
---|---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
被保険者の遺族 | 被保険者 |
上記の場合、法人が支払う保険料は「給与」という扱いで保険料全額を損金に計上します。
契約者:法人、死亡保険金・生存保険金受取人:法人の場合
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金受取人 | 生存保険金受取人 |
---|---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
法人 | 法人 |
上記の場合、法人が支払う保険料は「保険積立金」という扱いで保険料全額を資産に計上します。
契約者:法人、死亡保険金受取人:被保険者の遺族、生存保険金受取人:法人の場合
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金受取人 | 生存保険金受取人 |
---|---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
被保険者の遺族 | 法人 |
上記の場合、法人が支払う保険料は、半分を「保険積立金」という扱いで資産、残り半分を「福利厚生費」として損金に計上します。
ただし、支払保険料の半分を福利厚生費として損金計上するには、下記の条件を満たす必要があります。
- 従業員全員を原則として加入対象としていること
- 役員や従業員の大半を同族が占めていないこと
- 福利厚生に関する規定が作成され、内容が周知されていること など
もし上記の条件を満たしていない場合には、養老保険の保険料の半分は福利厚生費として認められず、従業員に対する「給与」という扱いで損金計上することになります。
③第三分野保険(医療保険・がん保険など)
契約者:法人、保険金受取人:被保険者の場合
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
被保険者 |
上記の場合、法人が支払う保険料は「福利厚生費」という扱いで保険料の一部を損金に計上します。
ただし、保険料の一部を福利厚生費として損金計上するには、下記の条件を満たす必要があります。
- 従業員全員を原則として加入対象としていること
- 役員や従業員の大半を同族が占めていないこと
- 福利厚生に関する規定が作成され、内容が周知されていること など
もし上記の条件を満たしていない場合には、保険料の一部は福利厚生費として認められず、従業員に対する「給与」という扱いで損金計上することになります。
契約者:法人、保険金受取人:法人の場合
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
法人 |
上記の場合、法人が支払う保険料は「支払保険料」という扱いで保険料の一部を損金に計上します。
第三分野保険の保険料取り扱いも新ルールに注意が必要
法人保険としての第三分野保険は、法人保険の定期生命保険と同じく、保険金受取人が被保険者でも法人でも保険料の一部を損金に計上することができます。
この時、損金に計上できる金額の割合は、保険料の支払期間が全期払いか短期払いかによって決められています。
保険料の取り扱いを簡単に説明すると、下記のとおりです。
保険料の支払期間 | 経理処理方法 |
---|---|
全期払い | 法人保険の定期生命保険と同様の経理処理を行う |
短期払い | 一人あたりの年間支払保険料が30万円以下の場合、全額を損金計上 |
一人あたりの年間支払保険料が30万円を超す場合、保険料の一部のみを損金計上、残りを資産に計上 |
④終身保険
契約者:法人、保険金受取人:被保険者または遺族の場合
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
被保険者または被保険者の遺族 |
上記の場合、法人が支払う保険料は「給与」という扱いで全額を損金に計上します。
契約者:法人、保険金受取人:法人の場合
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 |
---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
法人 |
上記の場合、法人が支払う保険料は「保険料積立金」という扱いで保険料の全額を資産に計上します。
パターン別の保険金受取時の経理処理方法
次に、法人保険の保険金(解約返戻金)を受け取った場合の経理処理方法を見ていきましょう。
保険金受取時には、主に保険金受取人の設定によって経理処理の方法が異なります。
①契約者:法人、保険金受取人:被保険者または遺族
※加入している法人保険が養老保険の場合には経理処理が異なりますので、こちらは飛ばしてお読みください。
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人(解約返戻金受取人) |
---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
被保険者または遺族 |
上記の場合、法人は支払保険料を「給与」として処理してきたため、受取時の経理処理は必要ありません。
ただし、資産計上されている配当金積立金などがある場合には、その額を取り崩して雑損失として損金に計上します。
一方、保険金または解約返戻金を受け取る個人は、受け取る金額は一時所得として税金が課せられます。
加入している法人保険が養老保険の場合には注意が必要
加入している法人保険が養老保険の場合には、経理処理の方法が異なります。
契約者:法人、死亡保険金・生存保険金受取人:被保険者または遺族の場合
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金受取人 | 生存保険金受取人 |
---|---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
被保険者の遺族 | 被保険者 |
上記の場合、死亡保険金・生存保険金の受取時には、法人の経理処理は必要ありません。
ただし、資産計上されている配当金積立金などがある場合には、その額を取り崩して雑損失として損金に計上します。
一方、保険金を受け取る個人は、受け取る金額は一時所得として税金が課せられます。
契約者:法人、死亡保険金・生存保険金受取人:法人の場合
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金受取人 | 生存保険金受取人 |
---|---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
法人 | 法人 |
上記の場合、死亡保険金・生存保険金の受取時には、法人は受取時までに資産計上していた保険料積立金を取り崩します。
また、保険料積立金と受け取った保険金または解約返戻金の差額は、雑収入もしくは雑損失として処理します。
(保険料積立金より保険金が大きければ差額を雑収入、小さければ差額を雑損失に。)
契約者:法人、死亡保険金受取人:被保険者の遺族、生存保険金受取人:法人の場合
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金受取人 | 生存保険金受取人 |
---|---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
被保険者の遺族 | 法人 |
上記の場合、死亡保険受取時には、法人は受取時までに資産計上していた保険料積立金を雑損失として損金に計上します。
一方、死亡保険金を受け取った個人は、一時所得として課税されます。
生存保険金受取時には、法人は今まで資産に計上していた保険料積立金を取り崩します。また、保険料積立金と満期保険金の差額を、雑収入として益金に算入します。
②契約者:法人、保険金受取人:法人
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人(解約返戻金受取人) |
---|---|---|
法人 | 個人 (経営者、役員、従業員) |
法人 |
上記の場合、法人は保険金受取時までに保険積立金として資産計上してきた金額を取り崩します。
また、保険料積立金と、受け取った保険金または解約返戻金に差額がある場合には、差額分を雑収入もしくは雑損失として処理します。
(保険料積立金より保険金が大きければ差額を雑収入、小さければ差額を雑損失に。)
法人保険の受取人は途中で変更できる?
法人保険に契約している方の中では、契約期間の途中で諸事情により保険金受取人を変更したいという方もいます。
法人保険では、保険金の受取人を途中で変更することは可能です。ただし、変更後の受取人の指定には条件が課せられるため注意が必要です。
たとえば、保険金受取人を個人から法人に変更する場合、変更先の法人は契約者と同一の法人に限られます。
受取人を誰にでも変更できるというわけではないことを覚えておきましょう。
法人保険の契約者名義を変更することもできる
法人保険では、保険契約者の名義を変更することもできます。
多く見られるのが、法人名義で契約した医療保険を個人名義に変更し、退職金代わりに保険を譲渡するというケースです。
この場合、法人があらかじめ短期払いなどで保険料をすべて払い込んでおき、個人に名義変更後には個人は金銭的な負担なく一生涯の医療保障を得られます。
このような法人保険の名義変更を活用することで、経営者や役員、従業員に退職金に代わる老後の備えを準備することも可能です。
法人保険の被保険者は途中で変更できる?
法人保険の被保険者である従業員が退職した場合、途中から被保険者をほかの従業員等に変更することができるのでしょうか。
また、被保険者が退職した後も法人保険をそのまま放置しているとどのようなリスクが発生してしまうのでしょうか。詳しく確認していきましょう。
被保険者の退職後は解約または契約者変更が必要
被保険者が退職した場合、その法人保険は「解約」するか「契約者変更」手続きをとる必要があります。
そもそも、法人保険は被保険者である従業員等に万が一のことがあった場合に備えて契約するものであり、退職して在籍しなくなれば加入する必要のないものです。
また、法人保険から受け取れる解約返戻金は、従業員等の退職金として準備しておくケースも多く、法人が受け取る性質のものではありません。
そして法人にとって大事なこととして、従業員が退職した後の保険料は、損金算入が認められず税務上のメリットがなくなってしまうということがあります。
しかし、どうしてもその法人保険を継続したいという場合は、契約者変更をすることで継続することも可能です。
退職後に法人保険を放置することのリスク
退職して在籍していない従業員等を被保険者とした法人保険契約を、解約や契約者変更をせずに放置してしまうと、次のようなリスクが起こり得ます。
- 法人保険の保険料が損金算入できない
- 従業員等の遺族からのクレーム(従業員等が死亡した場合)がある
先にも解説しましたが、会社に在籍していない従業員等を被保険者とした保険料は、損金算入はできないと税務調査で指摘される恐れがあります。
また、従業員等が死亡退職をした場合、従業員等の遺族からクレームを受ける可能性があります。というのも、被保険者が死亡した場合は保険会社が指定する死亡診断書が必要なため、法人は遺族に死亡診断書の提出を依頼する必要があります。
その際に遺族から、「すでに会社を死亡退職した従業員の死亡保険金を、会社が満額受け取るのは理にかなわない、遺族にも受け取る権利があるのではないか」と訴えに出られる可能性があるのです。
被保険者である従業員等の亡き後、遺族と思わぬトラブルにならないためにも、被保険者が退職した後はすみやかに解約や契約者変更手続きを取ることが大切です。
まとめ:契約形態に応じて税務手続きを正しく行おう
今回は、法人保険の契約形態に応じた経理処理について解説してきました。
法人保険の経理処理は、法人保険の種類や契約形態によって異なるため、税務上の手続きをする際には注意が必要です。
もし法人保険の経理処理を間違えてしまった場合には、税務署から指摘され修正の手間が発生したり、金銭的なペナルティを課せられたりするリスクもあるため、十分気をつけましょう。
法人保険の経理処理方法は、法人保険を取り扱う保険代理店または保険会社のスタッフが詳細に把握しています。不明点がある場合には、法人保険契約時によく確認することをおすすめします。
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