法人を経営していると、「退職金の準備は早めに考えたほうがいい」といった話を耳にすることもあるでしょう。退職金準備は、会社にとっても働く人にとっても大切なテーマです。
実際に、法人で退職金を積み立てておけば、その分を経費にできるため、法人税の負担を軽くできます。また、あらかじめ退職金の仕組みを整えておくことで、社員の定着や働くモチベーションの維持にもつながります。
この記事では、退職金準備について考え始めた経営者や役員の方に向けて、基本的な考え方や制度を活用する際のポイントをやさしく紹介していきます。
退職金準備が法人にとって重要な理由

退職金を準備することは、企業にとって税金対策や人材の定着に役立ちます。
また、制度を整えることで、社員の安心感や働く意欲の向上も期待できるでしょう。
ここでは、退職金制度を導入することで得られる具体的なメリットを紹介します。
役員退職金を法人で準備すると税制メリットがある
役員退職金を支払うとき、その金額が適正な範囲内であれば、法人側では経費(損金)として計上でき、法人税の負担軽減につながります。
たとえば、1,000万円の利益がある法人が、500万円の退職金を支給した場合、税務上の課税所得は500万円に圧縮され、結果として法人税の軽減が可能です。
また、退職金を受け取る側の役員にとっても、退職金には「退職所得控除」や「1/2課税」といった制度があるため、通常の給与よりも税負担が軽減されやすくなっています(※税率や控除額は勤続年数や金額により異なります)。
このように、退職金は法人と役員の双方にとって、税制上の優遇を受けやすい支給形態の1つです。ただし、税務上は「社会通念上相当と認められる金額」であることが必要であり、過大な金額は損金不算入とされる点に注意しましょう。
退職金制度は人材の採用・定着に効果がある
退職金制度の存在は、従業員に安心感を与えます。退職金制度が整っていることで、従業員は「長く働ける安心感」を得られ、離職防止にもつながります。
また、求職者にとっても将来への備えがある企業は魅力的であり、他社との差別化にもなります。安定した人材の確保を目指す企業にとっては、大きなメリットです。
なお、厚生労働省の統計によると、何らかの退職金制度がある企業は74.9%となっています。採用部門での競争力を高めるにあたって、退職金は重要なファクターの1つと言えるでしょう。
法人が利用できる主な退職金準備の方法6選

法人の経営者や役員が将来に向けて退職金を準備する方法としては、以下のような制度があります。
- 預金(社内留保)
- 中小企業退職金共済制度(中退共)
- 確定給付企業年金(DB)
- 確定拠出年金(DC)
- 小規模企業共済(役員個人)
- 法人保険
それぞれの制度には特徴があり、目的や働き方に応じた使い分けが大切です。
それぞれの制度の仕組みや特徴をわかりやすく紹介するので、自社に合った方法を考える参考にしてみてください。
準備方法① 預金(社内留保)
会社の口座に現金を積み立てて退職金として支払う方法は、もっともシンプルでリスクの少ない手段です。
運用先を選ぶ必要がなく、必要なときにすぐ使えます。ただし、運用益はほぼ期待できず、税務上の優遇もありません。
大きく増やすよりも、安全性を重視した退職金準備として考えたい方法です。
準備方法② 中小企業退職金共済制度(中退共)
中退共は国が設立した中小企業向けの退職金制度で、法人が従業員1人あたり毎月一定額の掛金を納付し、退職時に共済から給付金が支払われます。
新規加入時には、条件に応じて従業員1人あたり最大6万円までの国の助成があり、初期コストの負担軽減が図れます。掛金は全額が法人の損金として扱われ、節税効果も見込めます。
また、従業員が転職した場合でも、転職先の企業が中退共に加入していれば、最大10年までの勤務期間を通算可能です。ただし、転職先が制度に加入していない場合は通算されません。
役員は原則として制度の対象外ですが、従業員として常勤し給与を受けている場合など、一定の要件を満たせば加入できる可能性があります。
準備方法③ 確定給付企業年金(DB)
確定給付企業年金(DB)は、会社が外部の運用機関に掛金を預けて、将来の退職金を計画的に準備する制度です。あらかじめ決めた額を従業員や役員に給付します。
掛金は原則として会社が負担し、全額損金として計上できます。
受取方法は年金または一時金方式があり、設計によって在籍年数や業績と連動した柔軟な仕組みも可能です。
中小企業でも導入しやすく、社外に資産を積み立てておきたい企業に適しています。
準備方法④ 確定拠出年金(企業型DC)
確定拠出年金は、会社が掛金を拠出し、従業員本人がその資金を自分で運用する制度です。将来受け取る退職金や年金の金額は、運用成果によって変わります。
本人が運用を行うため、投資信託や定期預金などから運用商品を選ぶことになります。運用状況によって受取額が増減するため、リスクとリターンの両方がある制度です。
また、運用益は非課税で、受取時には一時金として受け取れば退職所得控除、年金として受け取れば公的年金等控除の対象になります。
「マッチング拠出」を採用している企業では、会社の掛金に加えて本人が任意で掛金を上乗せでき、より多くの退職資金を積み立てることが可能です。この自己負担分についても、所得控除の対象となります。
準備方法⑤ 小規模企業共済(役員個人)
小規模企業共済は、経営者や個人事業主、または一定の条件を満たす法人の役員が、自分の退職金を準備するための制度です。
掛金は月1,000円から7万円まで自由に設定でき、途中で金額を変更することも可能です。掛金全額が「小規模企業共済等掛金控除」によって課税所得から差し引かれ、所得税や住民税の負担を軽減できます。
共済金は一括でも分割でも受け取ることが可能で、一括受取は「退職所得」、分割受取は「雑所得」として扱われます。受け取り方によって税制上の優遇措置が異なるため、あらかじめ確認しておくと安心です。
また、まとまった資金が必要になった場合には、積み立てた掛金を担保にして、低金利で借り入れができる「共済貸付制度」も利用できます。
準備方法⑥ 法人保険
法人が契約者となって保険に加入し、解約返戻金を退職金支給原資とする方法です。
さまざまな保険商品が販売されており、自社のニーズに合わせて柔軟な契約プランを立てられるのが魅力です。
たとえば、「逓増定期保険」は契約後5年~10年で解約返戻金がピークになるため、短期的な退職金準備に向いている保険です。一方、「長期平準定期保険」は保障額が一定のまま、100歳近くまで長期間続くため、若手役員の長期的な退職金準備に適しています。
また、資金が必要なときは、「契約者貸付制度」を利用すれば、保険を解約せずに借り入れることもできます。
ただし、2019年の税制改正により、全額損金処理できる保険商品は制限され、契約内容によって損金算入割合が必要なので注意しましょう。
各準備方法の比較と「どの制度がどんな法人に向いているか」の一覧

ここまで解説した退職金の準備方法を比較すると、以下のようになります。
制度名 | 主な対象 | 掛金の税務処理 | 運用益の扱い | 給付時の課税 | リスク負担 | 特徴・補足 |
---|---|---|---|---|---|---|
預金(社内留保) | 役員・従業員 | 損金算入なし(準備金は資産計上) | 金利ほぼゼロ | 退職金支給時に課税 | 企業 | リスク低いが非効率・節税効果なし |
中小企業退職金共済(中退共) | 従業員(※役員は原則不可) | 全額損金算入 | 共済機構が運用し、給付に反映 | 退職所得or雑所得 | 共済機構(国) | 加入・管理が簡便、国の助成あり |
確定給付企業年金(DB) | 従業員・役員(要規約設計) | 全額損金算入 | 給付予定額を超えても企業には利益にならず、掛金削減に活用 | 退職所得or年金雑所得 | 企業(予定利率下回ると追加負担) | 給付額固定、企業の信頼性向上に寄与 |
確定拠出年金(DC) | 従業員(企業型DC) | 全額損金算入 | 加入者が運用、成果は本人に直結 | 退職所得または年金雑所得 | 加入者本人 | 運用教育が必要、税優遇大 |
小規模企業共済 | 経営者・役員個人 | 掛金は所得控除(個人) | 共済機構が運用、元本保証性あり | 一括:退職所得、分割:雑所得 | 中小機構(元本保証型) | 自営業者や一人法人向け、貸付制度あり |
法人保険 | 役員(法人契約) | 損金算入は契約形態で異なる(最大1/2損金) | 解約返戻金の発生時に雑収入として益金処理 | 退職所得(支給時) | 企業(解約返戻リスク) | 税制改正により要注意(2019年以降) |
また、上記を踏まえて「各準備方法が向いている法人」をまとめると、以下のとおりです(あくまで一例です)。
- 預金が向いているケース
- – シンプルに現預金で退職金を準備したい法人
- – 運用リスクをとりたくない慎重な経営者
- – 近い将来に退職予定者がいる法人
- 中退共が向いているケース
- – 従業員向けの制度を手軽に整えたい中小企業
- – 管理負担をかけたくない法人
- – 福利厚生をアピールして採用強化したい会社
- 確定給付企業年金が向いているケース
- – 給付額を事前にコントロールしたい法人
- – 安定した利益があり、毎年の掛金を拠出できる中堅~大企業
- – 信頼性のある退職金制度を整備したい企業
- 確定拠出年金
- – 若年層の従業員が多く、将来の資産形成支援を重視する企業
- – 福利厚生の強化を図りたい法人
- – 従業員に運用の自己責任を任せられる社風
- 小規模企業共済
- – 1人会社や役員のみで構成される法人
- – 法人の資産とは別に、個人として退職金を準備したい経営者
- – 所得控除を活かした個人の節税をしたい
- 法人保険
- – 一定期間後に退職金を支払う予定のある会社
- – 将来の資金需要(退職金・事業承継)に備えたい中小企業
- – 節税+保障+資金計画を組み合わせたい法人
それぞれにメリットやデメリットがあるため、企業の現状や経営方針に合わせた制度設計が大切です。
退職金準備のための具体的なマイルストーン

退職金制度の導入や見直しを成功させるには、漠然と考えるのではなく、段階的なステップに分けて取り組むことが重要です。
ここでは、法人が退職金準備を進める際の具体的なステップを紹介します。
ステップ1:目的と対象者を明確にする
まずは、退職金を「誰に」「何のために」支給するのかを明確にしましょう。対象者や目的によって、選ぶべき制度やスキームが大きく変わってきます。
支給対象については、役員のみか従業員のみか、あるいはその両方が考えられます。役員であれば支給額が「社会通念上の相当額」を超えないよう注意する必要がありますし、従業員なら就業規則や退職金規程の明文化が必要です。
目的については、福利厚生や節税、事業承継・相続対策などが一般的です。どれか1つに絞る必要はありませんが、それぞれに適した準備方法があるため、必要に応じて複数を組み合わせると良いでしょう。
ステップ2:将来の退職予定と必要資金を試算する
次に、対象者がいつ退職する予定か、それに対してどの程度の退職金が必要になるかを見積もります。
たとえば、「10年後に2,000万円の退職金を支払いたい」という目標があれば、それに応じた積立方法や期間、運用利回りの目安が定まります。
また、積立期間中のキャッシュフローや税効果のシミュレーションも重要です。企業としてどの程度の負担があるのか、業績が悪化したときにも対応できるのか、しっかりと検討しましょう。
ステップ3:適切な制度を選定する
試算結果や会社の方針に基づいて、退職金準備に適した制度を選びます。企業の状況によりますが、従業員向けであれば中退共や企業年金、役員向けであれば法人保険や小規模共済などが適しています。
- 中退共:従業員向けに簡易で導入しやすい
- 確定拠出年金(DC):従業員の資産形成に◎
- 法人保険:役員向けで柔軟な資金準備が可能
- 小規模共済:一人社長にとって有効な選択肢
先述の通り、複数の制度を組み合わせることも可能です。それぞれの特性を生かし、自社のニーズを満たせる契約プランを練りましょう。
ステップ4:制度設計と社内ルールを整備する
選んだ制度を導入するにあたり、支給基準・規定・契約内容などを文書化します。
たとえば、役員退職金なら「支給規程」や「株主総会決議」が必要です。従業員向け制度では、労使間の合意や就業規則への明記も欠かせません。
また、税務上の要件(社会通念上の適正額、損金算入の条件など)も確認しておきましょう。ルールの範囲内で活用しないと、追徴課税などのペナルティが発生する可能性もあります。
ステップ5:積立開始と定期的な見直し
積立のスタート後も、毎年の決算時に拠出額の見直しや資金残高、制度の運用状況を確認しましょう。経営環境や退職予定の変更があれば、それに応じた修正も必要です。
特に法人保険や年金制度は、返戻率や運用状況に応じて戦略的に見直すことで、より効率的な資金準備が可能になります。
また、税制改正による影響を受ける可能性もあるため、常に最新のルールをチェックしつつ契約内容を修正させていくことも必要です。
まとめ

退職金の準備は、会社にとっても働く人にとっても大切なテーマです。税金の負担を減らしたり、人材の定着につながったりと、多くのメリットがあります。
中小企業共済や年金制度、法人保険など、それぞれの特性を理解したうえで、自社に最適な方法を選択することが求められます。
制度の導入や見直しにあたっては、税制の変更や契約条件の確認も欠かせません。専門家のアドバイスを得ながら、無理のない長期的な退職金準備を進めていきましょう。
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