企業のリスクに備えるための法人保険ですが、その中でも「定期保険」はベーシックな保障内容が特徴です。
経営者の急病や事故に備えられるほか、解約返戻金の貯蓄機能により、退職金準備や事業保障にも使えます。必要な保障を必要な期間だけ確保でき、経費処理や資産管理の柔軟性も高いため、法人経営者にとって活用の幅が広い法人保険です。
本記事では、法人向け定期保険の特徴やメリット、税務上の注意点、経理処理方法などをわかりやすく解説します。
本記事を参考に、企業の「万一」に備える手段としてぜひ法人向け定期保険の加入を検討してみましょう
法人向け定期保険の特徴

まずは、法人向け定期保険の保障内容や保険期間など、詳しい特徴を解説します。
定期保険とは「保険期間に定めがある生命保険」のこと
定期保険とは、定められた期間内に死亡や高度障害状態となったとき、保険金が支払われる生命保険です。
商品によっては解約返戻金(解約時に保険会社から返還されるお金)があります。それまで支払った保険料の70%~80%、商品によっては100%近く戻ってくる場合もあります。
ただし、定期保険の解約返戻金は一定期間でピークを迎えた後、期間終了を迎えるまで減少していきます。最終的には0円になるため、契約前に長期的な資金計画を立てることが大切です。
主な用途は「保障+資金確保」
法人向け定期保険は、解約返戻金があることから貯蓄方法としても機能します。
一定期間の保障を確保しつつ、解約返戻金によって将来の資金需要に備えるという、二重に活用できる点が魅力です。
法人向け定期保険の加入により、企業は「経営陣や役員の死亡保障」に加えて「退職金の準備」や「事業継続資金の確保」など、さまざまな資金的リスクを低減できます。
保険期間は3~5年から100歳まで
法人向け定期保険の保険期間は商品によって異なりますが、短期なら3~5年、長期なら最長100歳までと幅広い期間に対応しています。
期間の定めがあるとはいえ、長期契約のプランなら終身保険に近い運用も可能です。
「長期平準定期」「逓増定期」など種類がある
法人向け定期保険には、保険金額や保険期間、解約返戻金の設計によっていくつかの種類があります。一般的に、定期保険といえば「平準定期保険」を指します。
以下は、主な定期保険の種類とそれぞれの違いです。
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種類 | 概要 | 保険料 | 保険金 | 解約返戻率※のピーク |
---|---|---|---|---|
平準定期保険 | 一般的な定期保険。保険金が平準的(契約時から変わらない) | 一定 | 一定 | 10年~15年程度 |
長期平準定期保険 | 保険期間が長期の平準定期保険 | 一定 | 一定 | 20年~30年程度 |
逓増定期保険 | 保険金が逓増(段階的に増加)する | 一定 | 期間経過とともに増加(例:毎年◯%ずつ、最大5倍まで増額) | 5~10年程度 |
逓減定期保険 | 保険金が低減(段階的に減少)する | 一定(他の定期保険と比べても割安) | 期間経過とともに減少(例:毎年◯%ずつ、最大5倍まで増額) | 基本的に掛け捨て |
※解約返戻率…支払済保険料の総額に対する返戻金の割合。
例えば、退職金準備を重視する企業には「長期平準定期保険」、設備投資と保障を同時に行いたい企業には「逓増定期保険」が適しています。
ただし、上記は商品設計や販売上の慣習的な分類であり、法的な基準によるものではありません。そのため、保険会社によって名称の付け方に差異があります。
税務上の取扱いも、名称ではなくプラン内容(主に「解約返戻率のピーク」が何%になるか)で変わるため注意しましょう。
法人向け定期保険に加入するメリット5つ

法人向け定期保険に加入するメリットとして、以下の5つが挙げられます。
- 必要な期間だけ保障を確保できる
- 終身保険より保険料が割安
- 解約返戻金を受け取れる
- 保険料の損金算入ができる
- 特約や切替制度で柔軟にプランを組める
それぞれ解説していくので、自社のニーズに合っているか確認してみましょう。
①必要な期間だけ保障を確保できる
定期保険最大の利点の一つが、「必要な期間」に限定して保障を準備できる点です。
例えば、代表取締役が70歳で退任する予定であれば、その年齢までの期間のみ契約することで、退任後の保障コストを削減できます。
また、後継者の確定やM&Aなど、将来的な経営環境の変化にも柔軟に対応できます。財務戦略と連動した期間設定をすることで、無駄のない資金配分が可能です。
②終身保険より保険料が割安
定期保険は、終身型の保険と比べて保険期間が限定されているため、保険料が割安に設定されています。
限られた経費の中で効率的にリスクに備えられるため、特にコスト意識の高い中小法人に適した保険です。
③解約返戻金を受け取れる
先述の通り、法人向け定期保険には解約返戻金を受け取れる商品があります。
解約返戻金を貯蓄と考えれば、退職金や事業保障、事業拡大など、将来の資金需要に向けて資産形成が可能です。
貯蓄するだけなら預金など他の方法もありますが、保険を利用することで「保障を得られる」「無駄遣いしにくくなる」といったメリットがあり、計画的に資金を貯められます。
④保険料の損金算入ができる
法人が定期保険に加入した場合、保険料を損金に算入できます。課税所得の圧縮ができるため、法人税の軽減につながります。
ただし、定期保険の損金算入には一定の制限があり、全額を損金算入できるとは限りません。返戻率が高い商品の場合、一定の資産計上が必要です。
また、損金算入によって当該年度の法人税は減らせても、保険金や解約返戻金が収入として課税対象になるため、最終的な課税総額は変わりません。損金算入による税負担の調整は大きなメリットですが、あくまで課税の繰延(先延ばし)である点は注意しましょう。
⑤特約や切替制度で柔軟にプランを組める
法人向け定期保険には、基本の死亡保障に加えて、がん・介護・障害などに対応した多様な「特約」も付加できます。将来の課題に対して柔軟な対応が求められる法人にとって、保障内容を柔軟にカスタマイズできる点は重要な利点です。
また、契約満了後に終身保険や長期定期保険への切替ができる制度もあり、経営環境の変化や役員交代に応じた見直しができます。
経理処理の方法

法人が定期保険に加入する際、必ず押さえなければいけないのが経理処理の方法です。
特に、保険料の損金算入は2019年の国税庁通達改正により、厳格なルールが適用されています。
基本的な処理方法を解説していくので、ぜひ参考にしてください。
保険料:解約返戻率に応じて資産計上が必要
保険料については、返戻率50%以下であれば全額を損金算入できますが、それを超えると契約前期の一定期間、一部を資産計上する必要があります。
資産計上した分は、保険期間の後期に取り崩し、期間終了まで按分して損金算入します。
資産計上・取り崩しの具体的な割合や期間は以下の通りです。
最高解約 返戻率 |
資産計上期間 | 資産計上額 | 取り崩し期間※1 |
---|---|---|---|
50%以下 | 全額損金算入 | ||
50%超~ 70%以下※2 |
保険期間の当初40%の期間 | 支払保険料×40% (支払保険料×60%は損金計上) |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
70%超~ 85%以下 |
保険期間の当初40%の期間 | 支払保険料×60% (支払保険料×40%は損金計上) |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
85%超 |
①保険期間の開始日から最高解約返戻率となる期間等の終了日まで ②1の期間経過後において、年換算保険料に対する解約払戻金の増加割合が0.7を超える期間があれば、その期間の終わりまで |
保険期間開始日から10年経過日までは、保険料×最高解約返戻率×90%を資産計上 11年目以降は、支払保険料×最高解約返戻率×70%を資産計上 |
解約返戻金が最高金額になったあと、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩し |
最高解約返戻率:50%以下 | |
---|---|
全額損金計上 | |
最高解約返戻率:50%超~70%以下※2 | |
資産計上期間 | 保険期間の当初40%の期間 |
資産計上額 | 支払保険料×40% (支払保険料×60%は損金計上) |
取り崩し期間※1 | 保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
最高解約返戻率:70%超~85%以下 | |
資産計上期間 | 保険期間の当初40%の期間 |
資産計上額 | 支払保険料×60% (支払保険料×40%は損金計上) |
取り崩し期間 | 保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
最高解約返戻率:85%超 | |
資産計上期間 |
①保険期間の開始日から最高解約返戻率となる期間等の終了日まで ②1の期間経過後において、年換算保険料に対する解約払戻金の増加割合が0.7を超える期間があれば、その期間の終わりまで |
資産計上額 |
保険期間開始日から10年経過日までは、 11年目以降は、 |
取り崩し期間 | 解約返戻金が最高金額になったあと、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩し |
※最高解約返戻率…解約返戻率がピーク時のときの数値。
たとえば、保険期間が30年、保険料が年額100万円、最高解約返戻率が80%の場合、下記のように処理します。
期間 | 資産計上額 | 損金算入額 |
---|---|---|
資産計上期間 (30年×40%=12年目まで) |
100万円×60%=60万円 | 100万円×40%=40万円 |
全額損金となる期間 | 0円 | 100万円 |
取り崩し期間 (30年×75%=22.5年目以降) |
0円 | 100万円+((60万円×12年)÷22.5年)=132万円 |
最高解約返戻率が高いほど資産計上の割合も高くなるため、課税の繰延効果は減少してしまいます。
例外:「30万円特例」による全額損金算入
損金算入ルールの例外として、以下の条件を満たす場合は資産計上が不要になります。
- 被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下(複数加入している場合はすべての保険料を合算)
- 最高解約返戻率が70%以下の定期保険
上記を満たしていれば、契約後すぐに全額損金算入が可能です。
保険金・解約返戻金:資産計上した金額の差額を計上
保険金や解約返戻金を受け取ったときは、その時点で資産計上した金額との差額分を益金または損金として処理します。
→差額の7,000万円を雑収入として資産計上
→差額の2,000万円を雑損失として損金算入
この処理により、資産計上・損金算入の過不足がなくなります。
法人向け定期保険の人気商品

定期保険は法人向け保険の定番であり、多彩な商品が各保険会社から販売されています。
主な人気商品を紹介するので、ぜひ商品選びの候補に加えてください。
定期保険[無配当]:東京海上日動あんしん生命
東京海上日動あんしん生命の「定期保険(無配当)」は、企業が経営者・役員の万一に備え、必要な期間に適切な保障を確保することを目的に設計された法人向け定期保険です。
定期保険としてはベーシックな内容で、払済保険への変更や終身保険への変換、契約者貸付制度など、契約の柔軟性も確保されています。
このほか、東京海上日動では解約返戻金をなくして保険料を引き下げた「スマートあんしん定期」など、多種多様な商品を用意しています。
クオリティ:エヌエヌ生命
エヌエヌ生命の「定期保険」は、50万円から9億円までの保険金額に対応した法人向け定期保険です。
10万円単位で保険金額を設定できるため、企業規模や経営資産に見合ったリスクカバーができます。
エヌエヌ生命は法人保険をメインに展開しており、ほかにも中小企業向けの商品が多数提供されています。
定期保険(100歳満了タイプ):三井住友海上あいおい生命保険
三井住友海上あいおい生命保険の「定期保険(100歳満了タイプ)」は、最長100歳までという長期契約ができる法人向け定期保険です。
リビング・ニーズ特約を付加すると、余命6か月と診断された時点で死亡保険金の一部もしくは全額が支給されます。
契約者貸付制度や終身保障への以降などにも対応しており、長期的な保障を確保しつつ柔軟な活用が可能なプランです。
介護定期保険 ブライトビジョン:メットライフ生命
メットライフ生命の「介護定期保険 ブライトビジョン」は、死亡や高度障害状態に加えて、介護リスクにも手厚い備えができる法人向け定期保険です。
被保険者が死亡・高度障害・所定の介護状態・災害で亡くなった場合、契約時に設定した金額の保険金が支払われます。
経営者だけでなく従業員向けにも対応しており、福利厚生として導入しやすい設計となっています。
ネオdeきぎょう:ネオファースト生命保険
ネオファースト生命保険の「ネオdeきぎょう」は、契約前期の死亡保障を災害死亡に絞ることで、保険料を低額に抑えた法人向け定期保険です(災害死亡以外でも一定の責任準備金は支給)。
後期期間には通常の死亡保障へ切り替わるため、加齢や経営責任の増大に応じた保障を段階的に確保できます。
特約の付加により逓増型にも対応しており、後期の保障をより手厚くすることも可能です。
保険を選ぶときのポイント

法人向け定期保険は魅力の多い保険ですが、メリットを最大限活かすためには適切な商品選びが必要です。
特に、以下のポイントは押さえておきましょう。
- 保険金や特約の設定は適切か
- 自社のニーズに対して過不足のない保障になっているか確認する。
- コストは適切か
- 保険料の支払いでキャッシュフローが悪化しないよう注意する。
- 損金算入はどうなるか
- 最高解約返戻率によってルールが変わるため、想定通りの処理になるか確認する。
自社にとって適切な商品がわからない場合は、法人保険に詳しい保険代理店など専門家に相談してみましょう。想定されるリスクや将来の展望に合わせて、最適なプラン設計を提案してもらえます。
まとめ

法人向け定期保険は、経営上のリスクヘッジ、経営者の万一に備えた保障、資産保全の三拍子がそろった経営ツールです。
「契約」「解約」「損金算入」などの各プロセスには一定の専門知識が求められますが、正しく活用すれば安定した事業の継続に役立ちます。
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