請負業を営む企業経営者の方におすすめの、請負賠償責任保険。
賠償責任のリスクを考えた保険はたくさんありますが、請負賠償責任保険は、その名の通り“請負業”を営む企業に向けた保険です。
今回は、請負賠償責任保険の基本的な特徴や補償内容、特約、契約の種類などについて解説します。
加入のメリットや、請負賠償責任保険で補償できる範囲なども解説しているので、「請負賠償責任とはなんぞや?」という保険初心者の方だけでなく、「加入を検討しようと思っているが、更に詳細を知りたい」という方にも参考にしていただけるかと思います。
請負業を行っている企業の方は、是非ご一読ください。
請負業向けの保険 請負賠償責任保険の特徴とは?
請負賠償責任保険は、賠償責任について補償する保険の一種です。
特に、請負形態で仕事を行った場合に生じる損害賠償責任についての補償が得られます。
請負形態の作業で発生する損害賠償責任は、請け負った仕事のために所有や使用、管理している施設が原因となって他人の身体や財物に危害や損害を与えてしまった場合などが考えられます。
例えば、「請け負った工事中に足場が崩れて通行人にけがをさせた」というケースが挙げられるでしょう。
請負賠償責任保険に加入しておけば、請負に関する損害賠償の経済的なリスクを軽減できることが特徴です。賠償金の支払いは、事故などの規模や被害状況によっては多額になることもあります。
工事の請負を事業として行っている会社は、加入しておくことがおすすめです。
というのも、保険に加入しておけば、資金面での賠償対応能力が上がり迅速な対応が可能になるからです。
この資金面での対応能力というのは、非常に重要なのです。単純に、事故後に企業を運営し続けるための資金を得られるから良いというだけではありません。
企業が賠償責任を負った時には、外部からのイメージダウンは避けられないことでしょう。今後、作業を依頼してくる請負先が減る可能性もあります。
しかし、賠償責任問題に迅速に対応できれば、このイメージダウンを最小限にできます。
万が一のことが起こった後、自分の会社をどう運営するかを考えた際、やはり請負賠償責任保険に加入していた方が良いと言えるでしょう。
ただし、加入を検討する前に、請負賠償責任保険がカバーするのは他人の損害であることは必ず認識しておきましょう。
請負中の事故が起こった場合は、他人に対する損害とともに、請負作業を行っている会社側にも損害が発生することがあります。
他人に対する賠償責任はこの保険に加入することでカバーできますが、請負事業者側の損害をカバーするためには、別途、建設工事保険などに加入する必要があるので、要注意です。
保険加入が必要な会社
では、請負賠償責任保険はどのような業者に必要なのでしょうか?
請負賠償責任保険へ加入したほうが良い主な業者としては、4つあげられます。
1つ目は建設業者です。
建設業者は、建物の建築などを請け負って建設工事を行うことが主となります。そのため、請負賠償責任保険への加入は欠かせません。
建設工事が大規模になればなるほど、請負工事中に事故が発生した場合の第三者の損害は大きくなります。
損害額を自社の自己資金で賄うことができなければ、賠償責任を果たせずに倒産してしまうリスクがあるでしょう。
また、請負賠償責任保険に加入せずに施工する業者は、依頼主から信用を得られない可能性もあります。
賠償金の支払い能力の担保と社会的な信用を得るためにも、請負賠償責任保険への加入が必要になる場合もあります。
2つ目は、建設以外の工事業者です。
道路工事や地下工事など、さまざまな請負工事を行う事業者があります。いずれも、工事中の事故による第三者への賠償という点では、建設工事業者と同じリスクを背負っているため、請負賠償責任保険への加入は有効です。
3つ目は、引越業者です。
引越も請負作業の一種で、作業中に第三者の身体や財物を害する可能性があります。例えば、家具を運んでいるときに落としてしまったり、ぶつけてしまったりということはよく起こることでしょう。このような場合に備えて、請負賠償責任保険への加入がおすすめです。
4つ目は、配送業者です。引越作業を行う業者と同様工事を行う事業者ではありませんが、作業中に第三者の身体や財物を害する可能性が大きいです。
以上の4つが、請負賠償責任保険に加入したほうが良い業者でした。
特に、引越し業者と配送業者については、工事作業を行わないため第三者に損害を与えるリスクは少ないと思われがちです。
第三者の財物に対する損害も賠償責任の1つとなることをしっかり認識して、保険への加入を検討しましょう。
事業総合賠償責任保険でもいい?
請負賠償責任保険に加入しなくても、事業総合賠償責任保険に加入すれば請負作業中の第三者に対する損害賠償責任をカバーできます。
もしかしたら、このページを見ている方の中にも、事業総合賠償責任保険とどちらに加入するか悩んでいる、という方もいるかもしれません。
事業総合賠償責任保険と、請負賠償責任保険の違いは、簡潔に言うと保険料です。
事業総合賠償責任保険は、広い範囲の賠償責任をカバーする保険です。この保険には、請負賠償責任も補償対象として含まれています。
しかし、多くの賠償責任をカバーすることになるため、単独で請負賠償責任保険に加入する場合よりも、保険料が高くなる場合があります。
具体的な例を挙げましょう。
請負賠償責任保険では、例えば作業が完成した後に起こった事故(看板を取り付ける工事を行った後、看板が落下して通行人にけがをさせた)は補償の対象になりません。
一方、事業総合賠償責任保険では、このような作業後の事故も補償の対象内になっているケースがあります。
「事業総合賠償責任保険の方が、手厚く補償を受けられる」というイメージが分かりやすいでしょうか。しかし、その分保険料は高いです。
請負賠償責任保険の補償内容・補償範囲はこの後に詳しく説明していきますが、
- しっかり網羅的に補償がほしい場合には事業総合賠償責任保険
- そこまで広く補償は無くても良いから保険料を抑えていきたい場合には請負賠償責任保険
というイメージでいると良いでしょう。
次の章から請負賠償責任保険の内容について解説しますので、自分の事業内容と照らし合わせながら、この補償内容は十分なのか?と考えながら見ていってください。
請負賠償責任保険の補償対象
請負賠償責任保険の補償対象は、大きく分けると2つあります。
- 請負工事
- 請負作業
まず、請負工事を見ていきましょう。
具体的には、地下工事や道路建設工事、ビル建設工事、設備工事、さらには解体取り壊し工事や高層建築物建築工事など各種工事が該当します。いずれも、多額の賠償責任につながりやすい工事でしょう。
例えば、地下での請負工事を行っている時に送電線の切断や地盤沈下など地上への影響が出るような工事の失敗が生じると、被害の範囲が大きくなり多額の賠償責任につながりやすいです。
また、高層建築物を建設する場合には、クレーンの横転や作業現場からの工具落下で、第三者の財物への損害が生じることもありえます。
さらに、工事現場では足場が外れて落下したり、資材置き場で資材が崩れたりといったことが起こる可能性も否定できません。
このような事故が起こった際、請負賠償責任保険に加入しておけば経済的リスクは軽減できます。
次に、請負作業について確認していきましょう。
こちらは、清掃業者が行う清掃作業、造園業者などが行う造園・芝刈・草刈作業、除草作業などが対象になります。
清掃作業においてワックスの処置が悪く通行人が滑ってケガしてしまったり、芝刈り中に芝刈機が他人の財物に接触して壊してしまったりといったケースが補償対象です。
さらに、引越作業中や運送中、調査・測量中に他人の財産を傷つけてしまうケースなども対象となっています。運送物が他人や他人の財物に接触すれば、ケガや破損が生じてしまうため、補償があった方が安心でしょう。
請負作業をしているときには、ミスのないよう安全に行うことが重要ですが、人がやることに完璧を求めるのは無理があります。
請負作業を行う事業者は、たとえ大きなケガや死亡事故につながる可能性が低い作業だとしても、万が一に備えて請負賠償責任保険を検討すると良いでしょう。
補償対象外のケース
請負賠償責任保険を理解するためには、補償の対象となるケースだけでなく、対象外となるケースについても知っておく必要があります。
場合によっては、先ほど少し説明した事業総合賠償責任保険に入った方が良いかもしれない、という場合もあるため、しっかり確認していきましょう。
請負賠償責任保険の補償対象外となる主なケースは、4つあります。
- 自然現象が原因の損害
- ちり・ほこり・騒音
- 食中毒
- 請負作業後の事故
1つ目は、自然現象が原因の財物の損害です。具体的には、建設外部から内部への雨や雪などの侵入によって生じた損害が挙げられます。
請負作業による不備が原因というよりも、自然現象が原因の財物の損害だといえるため、請負賠償責任保険では対象外となります。
2つ目は、ちり・ほこり・騒音です。
ちりやほこりがたまることは、どこでも起こりえます。そのため、ちりやほこりによる損害は補償の対象外です。
また、騒音については人体への影響がないとは言いきれませんが、請負作業の騒音と経済的な損害を直接結び付けることが難しいため対象外という扱いになっています。
3つ目は、販売した商品・製品や飲食物による食中毒です。
いずれも、請負作業中に生じた問題ではなく、請負作業が完了した結果の製造物が原因で生じる損害であるため、請負賠償責任保険の補償対象外となります。なお、PL法上の生産物による損害は、生産物賠償責任保険でカバーすることが必要です。
最後は、請負作業後の事故が原因で生じる賠償責任です。
例えば、請負作業で取り付けた看板が作業不備などの原因で落下によって下を歩いていた通行人がケガをするなどの場合は、請負賠償責任保険でカバーすることはできません。
作業後の損害賠償をカバーした場合も、別途、生産物賠償責任保険に加入することが必要です。
以上が請負賠償責任保険の補償対象外のケースでした。
3番目、4番目のケースについては、事業総合賠償責任保険でカバーすることができるので、どちらの保険に入ろうか検討している方は、比較項目の1つとしてみてください。
特約を付ける
請負賠償責任保険は、ほかの保険と同様に、特約を付けることで補償範囲を広げることが可能です。
主な特約は5つあります。
- 管理財物損壊補償特約
- 信用財物損壊補償特約
- 支給財物損壊補償特約
- 工事遅延損害補償特約
- 地盤崩壊危険補償特約
管理財物損壊補償特約
1つ目は、管理財物損壊補償特約です。管理財物とは、請負作業に必要となる自社管理の財物などが該当します。
請負作業中に他人の身体や財物に損害を与えてしまった場合は、請負賠償責任保険の補償対象です。
一方、請負作業中に自社管理の財物に損害が生じても原則としては補償対象外となり、経済的な損失のすべてを負担しなければいけません。
この特約を付けておけば、他者に対する賠償責任だけでなく、自社管理の財物に対する補償も得られることがメリットです。
信用財物損壊補償特約
2つ目は、信用財物損壊補償特約です。この特約は、他人から借りた財物に関する損害を補償対象にしていることが特徴です。
請負業務遂行に必要な財物を第三者から借りて作業を行い、作業中に破損や汚損してしまった場合には、貸し主に対する損害賠償責任を負うことになります。この特約を付けておけば補償対象となるため、安心です。
ただし、注意すべき点が2つあります。
1つは、契約で定められた場所で生じた破損や汚損だけが対象となること。もう1つは、紛失や盗難は対象外であることです。
この注意点を把握した上で、特約を付けるかどうか検討しましょう。
支給財物損壊補償特約
3つ目は、支給財物損壊補償特約です。
請負工事や請負作業を行う場合、工事などに必要なものを発注者から支給を受けて作業を行うことがあります。
支給された財物は最終的には返還する必要があり、作業中に破損や汚損してしまうと、支給者に対する損害賠償責任が生じることになります。
このような損賠賠償責任を負うことで生じる損害が、この特約の補償対象です。ただし、紛失や盗難は対象外になっているので、要注意です。
工事遅延損害補償特約
4つ目は、工事遅延損害補償特約です。
請負工事では、工事完了時期が遅れると損害遅延金を負担する契約になっている場合も多い傾向です。この特約を付けることにより、事故などが原因で工事が遅れることで生じる損害賠償責任について補償を受けられます。
「どのぐらいの期間遅れると補償されるのか」などの条件は契約により異なるため、加入前によく確認しておくことが必要です。
地盤崩壊危険補償特約
5つ目は、地盤崩壊危険補償特約です。
地価公示や基礎工事、そのほか土地の掘削工事を行った場合における土地の沈下や隆起、軟弱化、土砂崩れ、さらには地下水の増水などで他人の財物が損壊したときの損害賠償責任について補償します。
以上の5つが、請負賠償責任保険に付けられる特約でした。
特約に関しては、契約時にしか付けることができない場合もあるため、加入前に保険商品の契約内容をよく確認するようにしましょう。
請負賠償責任保険の契約形態
請負賠償責任保険には、2つの契約形態が存在します。
補償対象範囲を確認するだけでなく、契約の種類も十分検討することが必要です。細かく見ていきましょう。
契約の種類1:年間包括契約
1つ目の契約形態は、年間包括契約です。
包括という言葉には、「いろいろひっくるめて」「一括して」という意味があります。年間包括契約とは、あらかじめ定めたすべての請負工事や請負作業について一括して保険の対象とする契約形態です。
損害保険の一般的な保険期間は1年であるため、契約期間中、あらかじめ定めた工事や作業によって生じた賠償責任について、広くカバーすることができます。
あらかじめ定めた工事というと、ひとつひとつの工事契約を特定しなければいけないのかと疑問を持つ経営者もいるでしょう。しかし、そういったことは必要ありません。
例えば、「被保険者が施工する道路建設工事すべて」「A社が元請業者となる請負工事すべて」といった形で定めることができます。
この契約形態のメリットは、保険のかけ忘れを防止できることと、契約事務を簡素化できることです。
包括契約にすれば、個々の工事などに関する保険加入手続きは不要になります。その結果、付保漏れ防止と契約事務作業効率向上の両方を実現可能です。
手間がかからず確実の付保できることから、年間包括契約は広く活用されています。
契約の種類2:個別スポット契約
請負賠償責任保険の2つ目の契約形態は、個別スポット契約です。
この契約形態では、ひとつひとつの工事ごと、業務ごとに保険加入の手続きを行うことになります。
個人スポット契約のメリットは、個々の請負工事や請負作業の期間に合わせて、保険期間を設定できることです。
工事や作業によって、かかる期間は様々です。そのため、個々の工事や作業に合わせて保険期間を最小限に設定すれば、保険料の節約につながります。
逆に、作業遅延の備えとして、実際の業務期間よりも保険期間を長めに設定することもできます。
工事ごとに保険期間を設定できるからこそ、基本的な工事は保険期間を最小限に、長引きそうな工事だけはリスクを考え保険期間を長くするなど、柔軟に対応することができるでしょう。
一方、個人スポット契約のデメリットは、個々の工事や作業ごとに契約手続きを行わなければならないことです。
契約事務手続きは、さまざまな書類を用意する必要があり、事務負担が少ない作業とはいえないでしょう。個別スポット契約を選択する場合は、契約の手間がかかることを覚悟しておく必要があります。
また、付保漏れが生じる可能性があることもデメリットです。数多くの契約手続きを進めていると、契約すべき工事について契約手続きを忘れてしまう可能性もあります。個別スポット契約形態を選択する場合は、契約事務管理体制を整えておくことが大切です。
保険加入は専門家に相談しよう
請負賠償責任保険は、請負工事や請負作業中の事故などによる第三者への損害賠償を補償する保険です。
請負業務を行っている事業者は、保険に加入することで損害賠償の負担を補償されるだけでなく、社会的な信用を確保することにもつながります。請負業務に関するトラブルに備えたい経営者は、請負賠償責任保険への加入を検討してみましょう。
請負賠償責任保険の契約形態を選んだり、特約を付けたりすれば、自社にあった保険内容にカスタマイズすることができます。
また、会社によっては、請負賠償責任保険の補償の範囲が狭いため、事業総合賠償責任保険に加入、もしくは請負賠償責任保険と合わせて生産物賠償責任保険にも加入したいと思っている方もいるかも知れません。
そういった場合には、どのように保険に加入するのが良いのか保険代理店に相談してみると良いでしょう。
保険内容や、保険料の観点から、最適な保険を選ぶ手助けをしてくれます。
本当に請負賠償責任保険だけでいいのか?と悩んだら、保険代理店の専門家の意見を聞きながら、自社にあった保険に加入するようにしてみて下さい。
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