役員が退任するときの退職慰労金について、「そもそも規程を作らなければいけないのか」「作るなら何を書けばよいのか」という悩みはよくあるものです。

法律上、役員退職金規程(役員退職慰労金規程)は必ず作成するものではありません。規程がない会社でも、定款の定めや会社法上必要な決定手続を経て、退職慰労金を支給することは可能です。

一方で、規程を整備しておくと、支給対象や算定基準、その他具体的な手続を事前に整理できます。そのため、役員が退任するたびに支給基準を一から検討する負担を減らしやすくなります。

この記事では、役員退職金規程の位置づけと、規程がない場合の決め方、規程に定めておきたい主な項目、作成から支給までの実務の流れ、作成時の注意点を順に解説します。

※本記事では、主に指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社ではない株式会社(非委員会型の株式会社)を想定し、取締役と、監査役を設置している場合の監査役について解説します。指名委員会等設置会社などでは役員報酬等の決定手続が異なるため、自社の機関設計に応じた確認が必要です。

目次
  1. 役員退職金規程とは?
  2. 役員退職金規程は必須ではない
  3. 役員退職金規程に定めておきたい主な項目
  4. 役員退職金規程の作成から支給までの流れ
  5. 規程を作るときの注意点と運用のポイント
  6. よくある質問
  7. まとめ

役員退職金規程とは?

役員退職金規程とは、取締役や監査役といった役員が退任した際に支払う退職慰労金について、社内ルールをあらかじめ定めておくものです。「役員退職慰労金規程」と呼ばれることもあります。

取締役や監査役の退職慰労金は、職務執行の対価として会社法上の報酬等に位置づけられ、定款の定めまたは株主総会の決議など、会社法に沿った対応が必要です。

つまり、役員退職金規程は、会社法上の手続を前提としたうえで、社内の支給基準と運用の流れを文書化したものになります。

役員退職金規程を作る目的とメリット

規程を整備する最大の目的は、支給額の決まり方を退任前に共有しておくことです。基準が文書になっていれば、退任のたびに「いくら払うのか」「誰が決めるのか」を一から議論せずに済み、統一された手順に則って支給できます。

また、役員本人や遺族との認識のずれによるトラブルを防ぎやすい点もメリットです。事業承継を控えている会社であれば、先代経営者の退任時にどの程度の支給が見込まれるかを早い段階で把握でき、承継計画と資金面の検討を並行して進められます。

役員退職金規程は必須ではない

法律の観点からいうと、役員退職金規程の作成は必須ではありません。また、規程がない会社でも、役員に退職慰労金を支給することは可能です。

ただし、規程がないからといって、会社が自由に支給額を決められるわけではありません。役員の退職慰労金は会社法上の報酬等にあたるため、定款に必要な定めがない場合は、株主総会の決議など所定の手続を経て支給内容を決める必要があります。

本記事で想定する株式会社(非委員会型の株式会社)では、役員退職金規程がない場合、おおむね次の流れで退職慰労金の支給内容を決めます(退任者が取締役の場合)。

  1. 定款や過去の株主総会決議を確認する
  2. 支給の対象や金額の算定方法を検討する
  3. 定款に必要な定めがなければ、株主総会で支給額や算定基準などを決議する
  4. 具体的な金額の決定を取締役などに一任する場合は、決議した基準や委任の範囲に沿って金額を決める

【比較表】役員退職金規程がある場合とない場合の違い

役員退職金規程の有無で変わること

規程の有無で何が変わるのかを、退任時の実務の観点から整理すると次のようになります。

比較点規程がある場合規程がない場合
支給基準の明確さ対象者や算定方法が事前に文書化されている退任のつど検討が必要になる
退任時に決める内容規程に沿った金額の確認と決議が中心支給の要否や算定方法から決める
手続の流れ規程で想定した流れに沿って進めやすいそのつど手続を組み立てる必要がある
支給額の説明根拠規程の算定基準を根拠として示せる個別の判断理由を都度説明することになる
社内トラブルのリスク基準が共有されており認識のずれが生じにくい金額の妥当性をめぐる不満が生じやすい

このように、役員退職金規程を整備しておくことで、退任時に検討すべき事項をあらかじめ整理でき、支給額の決定や社内手続を進めやすくなります。

特に、複数の役員に共通する基準を設けたい場合や、将来の事業承継を見据えて支給ルールを明確にしておきたい場合には、規程を設けるメリットが大きいといえます。

役員退職金規程に定めておきたい主な項目

役員退職金規程の主な項目

規程に何を書くかは会社の実情によって変わりますが、退任時に判断が割れやすいところを先に埋めていくという観点が大切です。

ここからは主な項目を、なぜその定めが必要になるのかとセットで見ていきます。

①目的(規程の適用範囲を定める)

冒頭に置く目的条項の役割は、その役員退職金規程がどの範囲に及ぶルールなのかを示すことです。誰に対する、どのような支給についての規程なのかを明確にし、解釈が分かれないようにします。

もう一つの役割が、会社法上必要となる決定手続との関係を明確にすることです。たとえば「本規程は、定款の定めまたは株主総会の決議など、法令上必要となる手続に基づき支給する役員退職慰労金について定める」とすれば、規程と会社法の関係が明確になります。

②支給対象者(取締役・監査役の範囲)

支給対象者の条項では、誰を役員退職慰労金の対象とするかを明確にします。「役員」だけでは範囲が分かりにくいため、取締役や監査役などを具体的に定めておくと運用しやすくなります。

取締役と監査役では、報酬等の決定手続に関する会社法上のルールが異なります。そのため、双方を1本の規程で扱う場合でも、それぞれに適用される手続が分かるようにしておく必要があります。

また、執行役員や使用人兼務役員を対象に含めるかどうかも、規程上で区別しておくとよいでしょう。

③退職・退任の定義と支給条件

退職・退任の定義と支給条件では、どの事由で退任したときに支給するのかを定めます。任期満了、辞任、解任、在任中の死亡など、事由ごとに支給の有無を明確にします。

また、在任年数が一定期間に満たない場合は支給しないなど、条件を設けることも可能です。

注意したいのが、代表取締役から取締役会長へ移るなど、役員として在任したまま職務や地位が変わるケース(分掌変更)です。分掌変更を支給対象に含める場合は、どのような役職・職務の変更を対象とするのかを規程で明確にしておきましょう。

④支給額の決定方法(誰がどの手続で決めるか)

支給額の決定方法では、算定基準に加えて、誰がどの手続で最終的な金額を決めるのかを明確にします。

非委員会型の株式会社の場合、取締役については、定款に規定があればその内容に従うのが基本です。規定がない場合は、株主総会で金額を決議するか、算定基準や上限額などを決めたうえで、具体的な支給額を取締役などに委ねる方法もあります。

一方、監査役が複数いて、各人の額を定款や株主総会で定めていない場合は、株主総会で定めた範囲内で監査役の協議により決定します。取締役とは決定方法が異なるため、規程でも対象者ごとに手続を分けておくとよいでしょう。

⑤算定方法(功績倍率法・特別功労加算)

規程では、支給額をどのように算定するかも明確にします。代表的な方法の一つが、最終報酬月額・在任年数・功績倍率を用いる功績倍率法です。

功績倍率法の計算式
退職慰労金 = 最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率

功績倍率法を採用する場合は、どの時点の報酬月額を使うのか、在任年数の端数をどう扱うのかなど、計算に使う数値の基準まで決めておきます。功績倍率には法的な数値基準はないため、役職や在任中の功績などを踏まえて設定します。

特別な功績があった役員への加算を設ける場合は、対象となる条件や加算の上限、決定方法なども規程に盛り込むとよいでしょう。

⑥減額・不支給の条件(背信行為への備え)

在任中の背信行為などに備え、退職慰労金を減額・不支給とする条件を規程に設けることがあります。会社への損害、信用失墜行為、法令・定款違反など、どのような場合に適用するのかを具体的にしておきましょう。

ただし、条項があれば常に減額・不支給が認められるわけではありません。実際の可否は、規程の内容や行為の程度、決議の内容などを踏まえて判断する必要があります。

⑦支給時期・支給方法(一括か分割か)

いつ、どのように支払うのかも、規程で決めておきたい項目です。支給が決定してからどれくらいの期間で支払うのか、一括にするのか分割にするのかを定めておくと、退任後のやり取りで条件を詰め直す手間がなくなります。

支給額が大きい場合は、資金繰りを踏まえて数年に分けて支払うケースもあります。分割で支給する場合は、支払期間、各回の金額の決め方、振込などの支払方法まで決めておくことが大切です。

⑧死亡退任時・遺族への支給

役員が在任中に亡くなった場合に備え、死亡退任を支給対象とするか、支給するなら誰に支払うかを定めます。

受給者については、配偶者・子・父母などの範囲や順位を明確にしておくと、支給時の判断がしやすくなります。弔慰金も支給する場合は、退職慰労金とは分けて、対象者や金額の決め方を規程に盛り込むとよいでしょう。

役員退職金規程の作成から支給までの流れ

役員退職金規程の作成から支給までの流れ

規程は作った時点で完結するものではなく、退任が実際に発生したときに使われて初めて意味を持ちます。

ここでは、規程を社内で制定するところから、支給後に資料を残すところまでを4つの段階に分けて整理します。各段階でどんな書類を作り、何を残しておくかを押さえておくと、退任時の対応がぐらつきません。

Step1. 規程案を作成し、社内の制定手続を行う

まず原案を作ります。経営者や総務・経理が既存の社内規程の体裁に合わせて骨組みを組み、支給対象者や算定基準といった中身を埋めていく形が一般的です。

原案ができたら、税理士や弁護士などの専門家に内容を確認してもらう方法があります。このとき確認しておきたいのが、定款に役員報酬や退職慰労金に関する定めがないか、過去の株主総会で支給に関する決議をしていないかという点です。

定款や過去の決議と整合しない規程を作ると、規程どおりに運用できない可能性があります。制定前に既存のルールや決議内容との整合を確認しておきましょう。

内容が固まったら、自社で定めている社内規程の制定手続に沿って決定します。あわせて、いつから適用する規程なのかが分かるよう、施行日も明記しておきます。

Step2. 退任時に規程に基づき支給額を算定する

役員の退任が決まったら、役員退職金規程に定めた算定方法に沿って支給額を計算します。

功績倍率法を採用している会社であれば、最終報酬月額、在任年数、規程で定めた功績倍率などを確認します。特別功労加算を設けている場合は、その適用条件を満たすかどうかも確認します。別の算定方法を採用している場合は、当然ながらその規程に定めた基準に沿って計算します。

このとき大切なのは、計算に使った数字の根拠を残しておくことです。在任期間や報酬額、役職の変遷などについて、どの資料を根拠に算定したのかが確認できるようにしておけば、支給額を後から説明しやすくなります。

Step3. 株主総会など必要な手続を経て支給を決定する

規程に基づいて支給額を算定したら、対象となる役員と自社の機関設計に応じて、会社法上必要な手続を進めます。

非委員会型の株式会社の場合、次のような決め方になります。

対象支給額の決め方
取締役定款に必要な定めがなければ、株主総会で決定する
監査役定款に額の定めがなければ、株主総会で決定する。複数の監査役がいて、各人の額を定めていない場合は、株主総会で決めた範囲内で監査役の協議により決定する

役員退職金規程に算定方法が記載されていても、それだけでこれらの手続を省略できるわけではありません。規程、定款、株主総会の決議などが矛盾しないように確認しながら進めることが重要です。

Step4. 支給し、議事録・証拠資料を保管する

決議にもとづいて支給したら、一連の資料をまとめて保管します。株主総会議事録、取締役会に委ねた場合はその取締役会議事録、算定の根拠を示した資料、支給内訳、振込の記録までをセットにしておくと、支給の経緯を後から一続きで追えます。

支給の経緯を後から確認できるよう、議事録や関連資料を通じて、少なくとも次の内容を確認できる状態にしておくとよいでしょう。

  • 支給対象となった役員
  • 決定した支給額、またはその算定根拠
  • 支給時期
  • 支給方法
  • 具体的な金額の決定を別の機関や者へ委ねた場合は、その内容と範囲

なお、なお、株主総会議事録や取締役会議事録には、会社法上の備置期間があります。

書類備置期間
株主総会議事録本店で10年間。支店がある場合は原則として写しを5年間
取締役会議事録等本店で10年間

株主総会議事録を電磁的記録で作成し、法令上必要な措置を講じている場合は、支店での備置が不要です。

算定資料や振込記録なども、必要な保存期間を確認してあわせて管理しておきましょう。

規程を作るときの注意点と運用のポイント

役員退職金規程は、条文を整えて機関決定すれば終わりというものではありません。どう書くかによって将来の会社の判断が縛られることもあれば、実際に支給する段階になって原資が足りないという事態も起こり得ます。

ここでは、規程を作る過程と、作った後の運用で押さえておきたい4つの観点を取り上げます。

ひな形をそのまま使わず自社に合わせて調整する

規程を一から書き起こすのは負担が大きいため、公開されている他法人の役員退職金規程や、税理士・社会保険労務士などが公開しているひな形を参考に作成する方法があります。

ただし、公開されている規程例はその法人固有の機関設計、役員構成、報酬体系を前提に作られたものです。取締役会を置いているかどうか、監査役がいるかどうかだけでも、決定手続の条項は変わってきます。

テンプレートの支給対象者や算定基準をそのまま引き継ぐと、自社の実態と噛み合わない条文が残るかもしれません。支給対象者の範囲、算定の基準、支給額を決める手続、改廃の方法といった中核部分は、自社の状況に置き換えたうえで、税理士や弁護士に確認してもらってください。

規程の文言によって運用の幅が変わる

規程を作る際は、支給条件の書き方にも注意が必要です。株主総会で規程の基準に沿って支給することを決議する場合などには、規程の内容が具体的な支給判断の基準になります。

減額・不支給や特別功労加算についても、「どのような場合に適用するのか」「誰が判断するのか」を整理し、自社の運用方針と決定手続に合った条文にしておくことが大切です。

規程の改定・廃止と適用開始時期の決め方

規程には、改定や廃止をどの機関の決定で行うのかも定めておくと、見直しが必要になった際の手続が明確になります。取締役会の決議によるのか、株主総会の承認を必要とするのかなど、自社の制定手続に合わせて整理しておきましょう。

あわせて、改定後の規程をいつから適用するのかという施行日や、経過措置も定めておくことが重要です。たとえば算定基準を引き下げる場合、改定前から在任している役員について旧基準と新基準をどう適用するのかを決めておかないと、退任時の計算で混乱が生じるおそれがあります。

また、すでに退任した役員や、支給に関する決議が済んでいる案件への遡及適用は慎重な判断が必要です。改定内容をどこまで適用するかも含め、必要に応じて専門家に確認するとよいでしょう。

規程整備とあわせて支給原資も確認する

役員退職金はまとまった支出になりやすいため、規程を整備する際は、原資をどのように確保するかも考えておきましょう。

まずは、規程に定める算定基準をもとに、現在の役員が退任した場合の支給額を試算します。そのうえで、手元の現預金で対応できるのか、今後どの程度の資金を準備する必要があるのかを把握しておくことが大切です。

原資の確保には、現預金の積立や法人保険などの選択肢があります。支給予定の時期までに必要額を準備できるか、通常の運転資金を圧迫しないかといった点も踏まえ、自社に合った方法を検討しましょう。

よくある質問

役員退職金規程について、よくある疑問をまとめます。

役員退職金規程は誰が作りますか?

役員退職金規程を誰が作成するかについて、法律上の決まりはありません。

実務では、経営者や総務・経理の担当者が原案を作り、必要に応じて税理士や弁護士などの専門家に内容を確認してもらう方法があります。

役員退職金規程はいつ作ればよいですか?

役員退職金規程は、特定の役員の退任が決まる前の平時に整備するのがおすすめです。退任直前に作成すると、特定の役員を前提とした基準と受け取られやすく、他の役員や株主との調整が難しくなる場合があります。

あらかじめ規程を設けておけば、将来の退任に備えて支給条件や算定基準を整理でき、必要な資金も準備しやすくなります。

役員退職金規程があれば株主総会の決議は不要ですか?

規程があるだけで、株主総会など会社法上必要な手続が不要になるわけではありません。

非委員会型の株式会社では、定款に規定がなければ、取締役の退職慰労金は株主総会の決議によって決めるのが基本です。規程は支給条件や算定基準をあらかじめ整理するものであり、個々の退職慰労金を決定する手続とは役割が異なります。

役員退職金規程は株主や役員に開示する必要がありますか?

役員退職金規程そのものを公開する義務はありません。ただし、株主総会の議案によっては、規程に定めた算定基準などを株主に示す必要があります。

たとえば、株主総会参考書類を作成する場合は、議案の内容によって、退職慰労金の算定基準を参考書類に記載する必要があります。

「規程」と「規定」の違いは何ですか?

一般的には、「規程」は複数の条項からなるルール全体、「規定」はその中の個々の定めを指します。そのため、文書名としては「役員退職金規程」とするのが自然です。

「役員退職金規定」という表記も見られますが、意味を区別するのであれば、文書全体には「規程」、個々の条項には「規定」を使うとよいでしょう。

まとめ

役員退職金規程は必須ではありませんが、退任時の判断をその場任せにしないための土台になります。

大切なのは、規程を作ること自体ではなく、自社に合った支給基準と決定手続をあらかじめ整理しておくことです。これから整備する場合は、まず定款や過去の決議、現在の役員構成を確認し、どのようなルールが必要かを整理するところから始めてみましょう。

将来の退任や事業承継を見据えて早めに準備しておけば、いざというときにも落ち着いて対応しやすくなります。

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