役員退職金は数千万円から数億円規模になることも珍しくなく、退任時に一括で支出すると経営を大きく圧迫するリスクがあります。

そこで多くの企業が活用しているのが、生命保険を法人契約で活用する「法人保険」です。法人保険なら毎期の保険料で計画的に資金を準備しながら、在任中の万一に備えた死亡保障も同時に確保できます。

とはいえ、法人保険にはさまざまな種類があり、「結局どれを選べばいいのか分からない」と感じる経営者も多いのではないでしょうか。

本記事では、役員退職金の準備に使われる法人保険として、代表的な5つの保険種類と、その商品例を紹介します。

「どの保険タイプが自社に向いているか」を選べるよう、具体的な判断軸を解説しているので、役員退職金を検討中の方はぜひ最後までご覧ください。

役員退職金の準備に法人保険を活用する3つのメリット

法人保険で役員退職金を準備する仕組み

役員退職金の原資を準備する方法はいくつかありますが、法人保険が広く活用されている理由は「死亡保障機能」と「一定条件下での損金算入機能」の2つがあるためです。

これらの機能により、法人保険を使った役員退職金準備には3つの経営メリットが生まれます。

  • 勇退退職金と死亡退職金の両方に備えられる
  • 税負担の平準化(繰延)が可能
  • 事業承継と一緒に対策できる

退職金のための資金を毎期積み上げながら、毎期の税負担を調整、さらには万一のリスクにも同時に備えられるのが法人保険の特徴です。

メリット① 勇退退職金と死亡退職金の両方に備えられる

法人保険の最大のメリットは、1つの契約で勇退退職金と死亡退職金の両方に対応できることです。

役員が予定どおり退任する場合は、保険を解約して受け取る解約返戻金を勇退退職金の原資に充てます。一方、在任中に役員が亡くなった場合には、死亡保険金が会社に支払われるため、そのお金を死亡退職金や弔慰金として遺族に支給できます。

預金で退職金を積み立てている場合、役員の死亡というリスクに対する保障はありません。積立途中で万一のことが起きると、必要な資金が大幅に不足する可能性があります。

法人保険であれば、保障開始後から保険金額の死亡保障を確保できるため、積立途中で万一のことが起きた場合にも、会社として必要な資金を準備できます。経営リスク対策としても法人保険が選ばれる大きな理由の1つです。

メリット② 税負担の平準化(繰延)が可能

役員退職金準備における資金・税務の流れ

法人保険の保険料には、一定の条件で損金に算入が可能です。損金算入が認められる分だけ、その期の法人税の課税所得を抑えられるため、各期の税負担を平準化する効果が期待できます。

ただし、損金算入できる割合は保険種類によって異なり、一律ではありません。たとえば役員退職金でよく活用される定期保険などは、保険期間が3年以上で最高解約返戻率が50%を超える場合に、最高解約返戻率に応じて損金算入割合が全額・6割・4割などと変わります。

注意しておきたいのは、保険を解約して返戻金を受け取るタイミングで益金(収益)が発生するため、トータルの税負担が消えるわけではないことです。

法人保険の活用で想定しているのは、解約返戻金を受け取る年度に退職金を支給し、益金と損金を同じ期で相殺する設計です。この仕組みによって税負担のタイミングをコントロールしながら、退職金の資金を準備できるのがメリットといえます。

終身保険や養老保険など、異なる保険種類ごとに損金算入のルールも異なるため、違いを理解したうえで選ぶことが大切です。

メリット③ 事業承継と一緒に対策できる

役員退職金の準備は、事業承継と密接にかかわるテーマです。

退職金を支給すると会社の純資産が減少し、結果として自社株の評価額が下がる場合があります。これを活用し、後継者への株式移転コストを抑える設計がとられるケースは少なくありません。

法人保険で退職金原資を確保しておけば、退任と事業承継のタイミングに合わせて資金を用意しやすくなります。「退職金の支払い」と「株価の引き下げ」、そして「後継者への株式移転」を一連の流れとして計画できる点は、法人保険ならではの活用法です。

ただし、事業承継の設計は相続や税務が複雑に絡み合うため、保険だけで完結するものではありません。税理士や事業承継の専門家と連携しながら、会社ごとの状況に合わせた個別の計画を立てることが不可欠です。

法人保険で役員退職金を準備する際のポイント5つ

法人保険を選ぶ5つの判断軸

法人保険にはさまざまなタイプがあり、それぞれ解約返戻率のピーク時期や保障内容、保険料水準が異なります。

自社の状況を整理しないまま「返戻率が高いから」という理由だけで加入すると、退任時期とピークがずれて想定より少ない資金しか受け取れなかったり、毎年の保険料負担で資金繰りが苦しくなったりする失敗が起こりがちです。

保険タイプの比較に入る前に、まず以下の5つのポイントを確認しておきましょう。

  • 退任予定時期と役員の年齢
  • 必要な役員退職金額
  • 必要な死亡保障額
  • 毎年の保険料負担とキャッシュフロー
  • 解約返戻率と返戻金ピーク

これらの条件を整理しておくことで、自社に合った法人保険を的確に絞り込めるようになります。

① 退任予定時期と役員の年齢

保険タイプを選ぶうえで最も重要なのが「いつ退任するか」です。

法人保険の解約返戻率にはピークがあり、そのピーク時期は商品によって契約後5年程度のものから30年前後のものまで大きく異なります。退任予定時期とピークが合っていなければ、積み立てた資金を十分に回収できません。

具体的には、まず役員の現在の年齢と退任予定年齢を確認し、そこから必要な保険期間の長さを逆算します。たとえば現在50歳で65歳での退任を想定するなら、約15年間にわたって返戻率が上昇し、退任時期の前後にピークを迎える商品が候補になります。

なお、退任予定はあくまで「予定」であるため、経営環境の変化で前後する可能性も考慮しなければいけません。ピーク期間が短い商品を選ぶと、退任時期が数年ずれただけで返戻金が大幅に減少するリスクがあるため、退任時期の確度もあわせて検討することが大切です。

② 必要な役員退職金額

保険で準備すべき資金の目標額を決めるには、役員退職金の概算が欠かせません。一般的に用いられる算出方法は次の計算式です。

役員退職金 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

功績倍率は役職ごとに異なり、代表取締役であれば概ね3.0倍が目安とされています。たとえば最終報酬月額が100万円、在任年数が20年、功績倍率が3.0倍であれば、退職金の概算は6,000万円です。

ただし、税務上「不相当に高額」と判断されると損金算入が否認されるケースもあります。適正額の判断には個別の事情が関わり、上記の「代表取締役は概ね3.0倍」も法的に定められた基準ではないため、まずは税理士への相談しましょう。

あわせて、退職慰労金の支給規程を整備しておくと、金額の妥当性を対外的にも説明しやすくなります。

③ 必要な死亡保障額

法人保険を選ぶ際には、在任中に役員が万一亡くなった場合に備える死亡保障をどの程度確保するかも重要な判断軸です。死亡退職金や弔慰金として遺族に支払う金額を想定し、必要な保障額を見積もっておきましょう。

ここで考えるべきなのは、勇退時の退職金積立と死亡保障を一本の保険でまかなうのか、それとも別々の契約で設計するのかという点です。一本でまとめれば管理はシンプルですが、保障額を大きくすると保険料が上がり返戻率とのバランスが崩れることがあります。

死亡保障がそれほど必要でない場合は返戻率を重視し、役員の家族の生活保障まで考慮したい場合は死亡保障を手厚く設定するなど、個別の事情に合わせてバランスを取りましょう。

④ 毎年の保険料負担とキャッシュフロー

法人保険の保険料は、保障額や保険タイプにもよりますが、年間で数十万円から数百万円になるケースが一般的です。この保険料が事業の資金繰りを圧迫しないかを、加入前にしっかり確認しなければなりません。

とくに中小企業では売上や利益の変動幅が大きく、好調な年に設定した保険料が業績悪化時には重い固定費になります。保険料の支払いが苦しくなり、やむを得ず早期に解約すると、返戻率が低い時期に当たって元本割れが発生するかもしれません。

目安として、年間の売上・利益・フリーキャッシュフローに対して保険料がどの程度の割合を占めるかをシミュレーションし、無理のない範囲で積立額を設定することが重要です。余裕をもった保険料設定が、役員退職金の資金準備を安定させます。

⑤ 解約返戻率と返戻金ピーク

退任時期と解約返戻率ピークの合わせ方

解約返戻率とは、その時点で保険を解約した場合に戻ってくる金額を累計保険料で割った数値です。たとえば累計保険料が3,000万円で解約返戻金が2,700万円であれば、返戻率は90%となります。

この返戻率は保険タイプによってピーク時期・ピーク率・ピーク後の下降カーブが大きく異なります。ピークが早い商品は短期間で高い返戻率に達する反面、ピークを過ぎると急激に下がる傾向です。

保険を検討する際は、保険会社から受け取る設計書で返戻率の推移を必ず確認しましょう。とくにピーク前後での返戻金の差額が大きい商品は、退任時期が数年ずれただけで受取額に大きな差が出ます。

返戻率のピークと退任予定時期を合わせることが、法人保険選びの基本中の基本です。

役員退職金に活用される法人保険の種類と商品例

役員退職金に活用される法人保険の種類

役員退職金の準備に活用される代表的な法人保険は、次の5種類です。

  • 長期平準定期保険
  • 逓増定期保険
  • 終身保険
  • 変額保険
  • 養老保険

それぞれの仕組みや解約返戻率の特徴、向いている企業像を整理したうえで、各タイプの商品例も紹介します。

なお、同じ保険種類であっても、被保険者の年齢・保険金額・保険期間・保険料の払込方法によって解約返戻金の推移は異なります。商品例はあくまで各タイプの特徴を理解するための参考であり、個別の契約条件での返戻率は設計書で確認してください。

長期平準定期保険:長期スパンで計画しやすい

長期平準定期保険は、保険期間を95歳や100歳満了などに設定し、長期にわたって一定額の死亡保障を確保する定期保険です。解約返戻率のピークは契約後20〜30年前後に訪れる商品が多く、返戻率のカーブが緩やかでピーク期間が比較的長いのが特徴です。

退任時期に数年程度の幅があっても返戻率が急落しにくいため、「おおむね15年以上先の退任を見据えて、じっくり積み立てたい」という中堅経営者に向いています。

保険料は契約期間を通じて定額なので、毎期の資金計画が立てやすい点もメリットです。一方、ピーク時の返戻率は後述する逓増定期保険ほど高くならない傾向があり、短期間で高い返戻率を求める場合には不向きといえます。

損金算入の割合は最高解約返戻率に応じて異なりますが、役員退職金の原資を長期で積み立てる法人保険として、最も基本的な選択肢の1つです。

商品例①:日本生命「ニッセイ長期定期保険(スーパーフェニックス・ジャストターム)」

保険期間を長期に設定し、経営者や役員の死亡保障と役員退職金・退職慰労金の財源を準備できる定期保険です。保険料を保険期間全体にわたって払い込む契約は「スーパーフェニックス」、短期間で払い込みを終える契約は「ジャストターム」と呼ばれます。

勇退時には解約払戻金を退職慰労金の財源に充てられるほか、一時的な資金需要に対して契約貸付制度を活用できる場合もあります。

ニッセイ長期定期保険|長期保証で退職慰労金などに活用
ニッセイ長期定期保険|長期保証で退職慰労金などに活用 日本生命「ニッセイ 長期定期保険」は、経営者・役員の死亡保障を長期で確保できる法人向け定期保険です。 契約者が法人で保険料払込が保険期...

商品例②:第一生命「長期定期保険サクセス」

長期にわたり一定額の死亡保障を確保できる法人向けの定期保険です。契約者を法人、被保険者を役員とする契約例が示されており、死亡保険金を死亡退職金などの財源に、解約返還金を勇退時の退職金原資に活用できます。

保険期間を99歳満了などに設定できるため、退任までの期間が長い役員や、退任予定時期に一定の幅を持たせたい企業に適しています。

長期死亡保障と解約返戻金を備える法人保険
長期定期保険サクセス|長期死亡保障と解約返戻金を備える法人保険第一生命「サクセス」は、経営者・役員の万一に備え、長期の死亡保障を確保できる法人向け長期定期保険です。 契約例では99歳満期の設計が示さ...

商品例③:ソニー生命「長期平準定期保険(障害保障型/無配当)」

死亡・高度障害状態に加え、ソニー生命所定の障害状態を長期にわたって保障する定期保険です。経営者や役員向けの大型保障として、事業保障資金や死亡退職金、弔慰金の財源確保に活用できます。

死亡保障だけでなく、障害によって経営者が業務を継続できなくなるリスクにも備えられる点が特徴です。

長期平準定期保険(障害保障型/無配当)|ソニー生命
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逓増定期保険:短中期の予定に向いている

逓増定期保険は、契約期間中に死亡保険金額が毎年逓増(段階的に増加)する定期保険です。保険金額は契約当初の最大5倍まで増える商品が一般的で、在任期間が長くなるほど死亡保障が厚くなる仕組みになっています。

最大の特徴は、解約返戻率のピークが契約後5〜15年程度と比較的早い時期に訪れることです。ピーク時の返戻率が高い商品もあり、短中期で退任を予定している役員の退職金準備に向いています。

ただしピーク期間が短く、ピーク後の返戻率が急激に下がる商品が多い点には注意が必要です。退任時期がある程度確定していないと、タイミングを逃して返戻金が想定を下回るリスクがあります。

保険料は長期平準定期保険より高めになる場合があるため、キャッシュフローとの兼ね合いを事前に確認しましょう。退任まで5〜15年で、効率的に役員退職金を準備したい場合に適した法人保険です。

商品例①:東京海上日動あんしん生命「低解約返戻金型逓増定期保険[無配当]」

一定期間の経過後に死亡保険金額が増加する、経営者向けの逓増定期保険です。在任中に経営者が亡くなった場合は、死亡保険金を死亡退職金や弔慰金の財源に活用できます。

勇退時には解約返戻金を退職慰労金の原資に充てることも可能です。低解約返戻金期間中は通常より解約返戻金が抑えられているため、低解約返戻金期間と退任予定時期を合わせた設計が必要です。

低解約返戻金型逓増定期保険
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商品例②:明治安田生命「新逓増定期保険」

一定の保険料で、所定の年度以降に死亡保険金額が増加する経営者向けの定期保険です。保険金額は契約時に設定した基本保険金額の5倍まで増加します。

死亡保険金は事業保障資金や死亡退職慰労金に、解約返戻金は生存退職金や予備資金の財源として活用でき、保障額の増加と役員退職金の準備を並行して進めたい企業の候補になります。

新逓増定期保険|保険金額が最大5倍に増える経営者向け大型保障
新逓増定期保険|保険金額が最大5倍に増える経営者向け大型保障 明治安田生命の「新逓増定期保険」は、経営者や役員の万一に備える大型保障を確保しながら、事業保障資金や死亡退職慰労金・弔慰金などの財源準...

商品例③:三井住友海上あいおい生命「逓増定期保険」

一定期間の経過後、死亡保険金額が所定の逓増率によって毎年増加する法人向け定期保険です。死亡保険金額は基本保険金額の5倍を限度に増加します。

経営者や役員が在任中に亡くなった場合の死亡退職金・弔慰金の財源に加え、勇退時には解約返戻金を退職金原資に充てられます。

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終身保険:退任時期が未定でも検討しやすい

終身保険は保障が一生涯続く保険なので、退任時期が明確に決まっていない経営者でも、役員退職金の準備に検討しやすい法人保険です。

ただし、解約返戻金の推移は商品によって異なります。とくに低解約返戻金型の商品は、保険料払込期間中の解約返戻金が抑えられているため、払込期間中に退任が前倒しになると大幅に元本割れするかもしれません。

退職金準備に使う場合は、保険料払込期間、低解約返戻金期間、各年度の解約返戻金を確認し、退任予定が前後した場合の受取額まで比較する必要があります。

保険料は同じ保障額の定期保険と比べて高くなります。損金算入の面では、終身保険の保険料は原則として全額が資産計上となるため、毎期の損金効果は期待しにくい点に留意してください。

商品例①:東京海上日動あんしん生命「終身保険[無配当]」

経営者の死亡保障を一生涯確保できる法人向けの終身保険です。在任中に経営者が亡くなった場合は、死亡保険金を事業保障資金、死亡退職金、弔慰金などに活用できます。

勇退時には解約返戻金を退職慰労金の財源に充てられるため、退任時期が確定していない場合にも検討できます。ただし、解約時期によって返戻金額は異なるため、複数の退任時期を想定した比較が大切です。

終身保険[無配当]
終身保険[無配当]|経営者の一生涯保障と資産形成 東京海上日動あんしん生命の「終身保険[無配当]」は、一生涯の死亡保障を備えられる法人向けの保険です。解約返戻金が積み上がる特性を活か...

商品例②:ソニー生命「有期払込終身保険(無配当)」

保険料の払込みを一定期間で終えた後も、死亡・高度障害保障が一生涯続く終身保険です。死亡保険金は、経営者や役員の死亡退職金・弔慰金などの財源に活用できます。

将来は解約返戻金が発生するため、退職金原資としても活用可能です。退任予定時期を保険料払込期間の終了後に設定する場合は、払込満了前後の返戻金の違いを確認しておく必要があります。

有期払込終身保険(無配当)|ソニー生命
有期払込終身保険|一生涯の死亡保障と資金準備を同時確保 ソニー生命「有期払込終身保険(無配当)」は、一定期間で保険料の払込を終えつつ、死亡・高度障害の保障を一生涯確保できる終身型の商品です...

商品例③:メットライフ生命「USドル建終身保険 ドルアドバンス」

死亡・高度障害保障が一生涯続く、米ドル建ての低解約返戻金型終身保険です。メットライフ生命の法人向け商品として、経営者の万一への備えと退職金準備に活用できるプランが案内されています。

米ドル建てで資産形成を行える一方、保険料払込期間中は解約返戻金が抑えられます。また、円で保険金や解約返戻金を受け取る場合は、為替相場によって受取額が変動する可能性があるため、外貨建てのリスクを許容できるかの検討が重要な法人保険です。

ドルアドバンス|外貨建で備える経営者保障プラン
ドルアドバンス|外貨建で備える経営者保障プランメットライフ生命「ドルアドバンス」は、経営者の退職金・遺族資金など長期ニーズに対応するUSドル建の終身保険です。保険料払込期間中は低解約...

変額保険:運用実績と費用によって受取額が変動する

変額保険は、保険料から保険関係費用などを差し引いた金額を特別勘定で運用し、運用実績によって解約返戻金や満期保険金が変動する保険です。運用が好調であれば受取額が増える可能性がありますが、悪化すれば元本割れのリスクが高まります。

死亡保障については、基本保険金額が最低保証されている商品が一般的です。仮に運用実績が悪化しても、死亡時には契約時に設定した保険金額が支払われるため、死亡退職金としての機能は維持されます。

ただし、解約返戻金に最低保証がないため、運用実績や解約時期によって払込保険料を下回る場合があります。運用リスクを許容できる企業なら向いていますが、投資経験がない場合や、確実に一定額の退職金原資を確保したい場合には慎重な判断が必要です。

商品例①:ソニー生命「バリアブルライフ 変額保険(終身型/無配当)」

複数の特別勘定から運用先を選択でき、運用方針に応じたポートフォリオ設計が可能な変額保険です。積立機能に重きを置いた「オプションA」と、保障機能を重視した「オプションB」から取扱方法を選べます。

法人向け商品ページでも案内されており、役員退職金を含む法人保険としての活用実績があります。運用実績にかかわらず基本保険金額の支払いは保証されますが、解約返戻金には最低保証がありません。

バリアブルライフ変額保険(定期型/無配当)|ソニー生命
バリアブルライフ変額保険(定期型/無配当)|法人専用の運用型保険 ソニー生命「バリアブルライフ変額保険(定期型/無配当)」は、大型の死亡・高度障害保障を長期で備えつつ、特別勘定で資産運用に挑める法人...

商品例②:メットライフ生命「変額保険ライフインベストアドバンス」

契約後10年間の死亡・高度障害保障を抑制し、資産形成の比重を高めた有期型の変額保険です。国内外の株式や債券などを対象とする複数の特別勘定から運用先を選べます。

保険期間の満了時には、運用実績に応じた満期保険金を受け取れますが、積立金・解約返戻金・満期保険金に最低保証はありません。契約から10年間に解約する場合は解約控除もあるため、退任まで長期間を確保できる企業向けの選択肢です。

ドルアドバンス|外貨建で備える経営者保障プラン
ライフインベストアドバンス|運用で資産を育てる法人保険 メットライフ生命「ライフインベスト アドバンス」は、事業保障資金の確保と勇退後の資金準備を両立できる経営者向けの災害保障期間付変額保...

商品例③:マニュライフ生命「こだわり変額保険v2(変額保険Ⅰ型〈有期型〉)」

死亡保障と資産形成を組み合わせた有期型の変額保険です。健康状態などを告知するタイプと、告知を必要としないタイプから選択でき、複数の特別勘定を組み合わせて運用します。

契約後は特別勘定間のスイッチングや、今後払い込む保険料の繰入割合の変更が可能です。一方、解約返戻金と満期保険金には最低保証がなく、運用実績によって払込保険料の合計額を下回る場合があります。

こだわり変額保険v2|保障と資産形成を同時に叶える
こだわり変額保険v2|保障と資産形成を同時に叶える マニュライフ生命「こだわり変額保険v2(変額保険Ⅰ型〈有期型〉)」は、死亡保障と長期資産形成を両立できる変額保険です。 告知あり・告知...

養老保険:満期保険金で貯蓄性が高い

養老保険は、契約が満期まで有効に継続し、被保険者が満期時点で生存している場合に満期保険金が支払われる保険です。保険期間中に被保険者が亡くなった場合は死亡保険金が支払われるため、「掛け捨て」にならない貯蓄性の高さが特徴です。

ただし、途中で解約した場合の解約返戻金は、払込保険料総額より低くなる場合があります。また、保険料は法人保険のなかでは高額になりやすく、同じ予算で確保できる保障額は定期保険や終身保険より小さくなります。

養老保険は従業員向けの福利厚生プラン(いわゆるハーフタックスプラン)で使われることが多い商品ですが、役員個人を被保険者とする場合は損金算入のルールが異なるため注意が必要です。

満期時期を退任予定に合わせれば満期保険金を受け取れるため、退任時期が明確で貯蓄性を重視する場合に選択肢となります。ただし保険料負担の大きさから、役員退職金の全額を養老保険で準備するケースは少なく、他の保険タイプや制度と組み合わせて活用されることが多い傾向です。

商品例①:明治安田生命「新養老保険E(5年ごと利差配当付新養老保険)」

保険期間中に被保険者が亡くなった場合は死亡保険金を、満期まで生存した場合は死亡保険金と同額の満期保険金を受け取れる養老保険です。死亡保険金は事業保障資金や死亡退職金の財源に、満期保険金は退任時の役員退職金などに活用できます。

満期時期と役員の退任予定時期を合わせて、受取時期を明確にしたい企業の候補となる商品です。

新養老保険E|満期保険金ありの福利厚生向け法人保険
新養老保険E|満期保険金ありの福利厚生向け法人保険明治安田生命「5年ごと利差配当付新養老保険 新養老保険E」は、満期保険金と死亡・高度障害保険金を備えられる法人向け養老保険です。 退職金...

商品例②:エヌエヌ生命「養老保険」

死亡・高度障害保障と満期保険金を備えた法人向けの養老保険です。従業員の退職金・弔慰金制度などの福利厚生に活用できるほか、役員も被保険者として申し込めます。

役員退職金の準備に用いる場合は、死亡保険金と満期保険金の受取人をどのように設定するかによって税務処理が変わるため、契約形態を確認したうえで設計する必要があります。

養老保険|福利厚生や資産形成に活用できる法人保険
養老保険|福利厚生や資産形成に活用できる法人保険 エヌエヌ生命「養老保険」は、死亡保障と満期保険金の両方を備えた法人向け保険です。契約者が法人の場合、従業員退職金や弔慰金制度として福...

商品例③:ジブラルタ生命「養老保険〔無配当〕福利厚生プラン」

役員・従業員の死亡保障と退職金財源の準備を目的とする、法人向けの福利厚生プランです。この商品は、特定の役員1人だけの退職金準備よりも、福利厚生規程に基づいて役員・従業員の退職金制度を整備する場合に適しています。

役員退職金だけを準備したい場合は、加入対象者の範囲や保険金受取人の設定が目的に合っているかを確認する必要があります。

養老保険〔無配当〕福利厚生プラン|従業員の退職金原資を準備
養老保険〔無配当〕福利厚生プラン|従業員の退職金原資を準備 ジブラルタ生命「養老保険〔無配当〕 福利厚生プラン」は、役員・従業員の死亡保障と退職金準備を同時に行える法人向け養老保険です。 死亡退...

【種類・退任時期別】法人保険のメリット・デメリット比較表

ここまで解説した5タイプの法人保険を、主要な比較軸で一覧にまとめます。

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比較項目長期平準定期保険逓増定期保険終身保険変額保険養老保険
返戻率ピーク時期契約後20〜30年前後契約後5〜15年前後明確なピークなし(緩やかに上昇)運用実績による満期時
ピーク時の返戻率水準中程度高め中〜やや低め運用次第で高い可能性商品・契約条件による
ピーク期間の長さ比較的長い短いピーク概念なし不確定満期時点のみ
死亡保障額保険期間中一定毎年逓増(最大5倍)一生涯一定基本保険金額を最低保証満期保険金と同額
保険料水準中程度やや高め高め中〜高め高い
損金算入の傾向一部損金(返戻率に応じる)一部損金(返戻率に応じる)原則全額資産計上一部損金の場合あり原則全額資産計上(役員向け)
退任時期の柔軟性やや高い低い高い(低解約返戻金型は注意)中程度低い(満期固定)
元本割れリスク早期解約時早期解約時・ピーク後早期解約時(低解約返戻金型は特に注意)運用実績・解約時期による早期解約時

続いて、退任予定時期別に確認すべきポイントを整理します。

退任まで5年以内

逓増定期保険が候補になる場合もありますが、商品によっては退任予定時点で返戻率のピークに達していない可能性があります。設計書で5年以内の解約返戻金を確認し、預金など短期間で準備できる方法とも比較しましょう。

退任まで5〜15年

逓増定期保険または長期平準定期保険が候補になります。逓増定期保険は返戻率ピークの高さで有利ですが、15年に近づくほど長期平準定期保険のほうが返戻率カーブの安定性でメリットが出てきます。

退任まで15年以上

長期平準定期保険が計画を立てやすい選択肢です。ピーク期間が長く、多少の時期変動にも対応しやすい特徴があります。運用リスクを取れる企業であれば、変額保険を組み合わせる方法も検討に値します。

退任時期が未定

終身保険が検討しやすい保険タイプです。返戻率の急落リスクが低く、退任時期が前後しても対応しやすい特徴があります。ただし、低解約返戻金型の商品は払込期間中の返戻率が抑えられるため、設計書で複数の退任時期を想定して返戻金を比較してください。

いずれのパターンでも、同じ保険種類であっても商品ごとに返戻率の推移は異なるため、設計書での確認が欠かせません。返戻率の数字だけにとらわれず、保障内容・保険料負担・ピーク期間の長さを総合的に見て選ぶことが大切です。

保険と退職金準備の注意点

法人保険には多くのメリットがある一方、契約前に把握しておくべきリスクやデメリットも存在します。ここでは実務上よくある失敗パターンを4つに分けて整理します。

「加入してから想定外だった」とならないために、契約前の段階で確認しておきましょう。

早期解約・元本割れのリスクに留意する

法人保険は契約初期ほど解約返戻率が低く設定されています。加入から数年以内に解約すると、累計で支払った保険料を大きく下回る金額しか戻らず、元本割れが生じます。

問題は、解約時期が計画どおりにいかないケースです。業績の急激な悪化、想定外の設備投資や借入返済、あるいは役員の体調不良による予定外の退任など、契約時には見込んでいなかった資金需要が発生する可能性はゼロではありません。

このため、契約前には「もし3年目・5年目に解約せざるを得なくなった場合、いくら戻り、どれだけの損失が出るか」という最悪のシナリオを設計書で確認しておくことが重要です。返戻率がピークに達する前の解約は大きなキャッシュアウトにつながるため、保険期間中に資金ショートを起こさない前提があってこそ、役員退職金の準備手段として法人保険は機能します。

保険料負担による資金繰り悪化を想定する

法人保険の保険料は毎年一定額を長期間にわたって支払い続ける固定費です。契約時点では余裕があっても、売上の変動が大きい中小企業では、数年後に保険料の支払いが資金繰りを圧迫するかもしれません。

対処法としては、「契約者貸付」で一時的に資金を借りる方法や、保険料の払い込みを止めて「払済保険」に変更する方法があります。ただし、契約者貸付には利息がかかり、払済保険への変更は保障額が減少するなど、それぞれにデメリットを伴います。

保険料は「支払える最大額」ではなく、業績が落ち込んだ年でも無理なく継続できる水準で設定するのが鉄則です。年間のフリーキャッシュフローに対して保険料が過大になっていないか、契約前に慎重にシミュレーションしてください。

損金算入と益金算入の税務処理を正しく理解する

法人が契約者となる保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険で、最高解約返戻率が50%を超える契約では、2019年の国税庁通達改正以降、最高解約返戻率の水準に応じて保険料の一部を資産に計上します。

最高解約返戻率資産計上期間資産計上額取崩期間
50%以下なしなしなし
50%超〜70%以下保険期間開始日から40%を経過するまで保険料の40%保険期間の75%経過後から終了日まで
70%超〜85%以下保険期間開始日から40%を経過するまで保険料の60%保険期間の75%経過後から終了日まで
85%超次のいずれか長い期間まで
①保険期間開始日から最高解約返戻率となる期間の終了日まで
②①の期間経過後で「(当年の解約返戻金相当額-前年の解約返戻金相当額)÷年換算保険料相当額」が70%を超える期間
保険期間開始日から10年経過するまでは「保険料×最高解約返戻率の70%」、11年目以降は「保険料×最高解約返戻率の90%」解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間経過後から保険期間終了日まで

※1人あたりの年間保険料が30万円以下で、最高解約返戻率が70%以下の定期保険も全額損金算入。

ここで注意すべきは、解約返戻金を受け取った際の税務処理です。それまで資産計上していた保険料積立金を取り崩し、解約返戻金との差額を損益として計上します。

解約返戻金の受取りと同じ年度に役員退職金を支給することで、収益と損金を対応させる設計が一般的ですが、解約と退職金支給のタイミングがずれると想定外の法人税負担が発生するリスクがあります。

税務処理のルールは契約内容や改正動向によって変わる可能性があるため、最終的な判断は必ず税理士に確認してください。

その他の退職金制度との比較

ここまで法人保険を中心に解説してきましたが、役員退職金を準備する方法は保険だけではありません。代表的な制度として「小規模企業共済」と「企業型確定拠出年金(企業型DC)」があり、それぞれ法人保険とは異なる特徴を持っています。

自社に合った資産形成の手段を選ぶためにも、他の制度との違いを押さえておきましょう。

VS.小規模企業共済

小規模企業共済は、中小企業の経営者や役員が個人として加入する国の退職金制度です。掛金は月額1,000円〜70,000円の範囲で設定でき、全額が個人の所得控除の対象になります。

一方、法人保険は法人が契約者となって保険料を負担し、契約内容に応じて損金または資産として処理します。つまり、税メリットを受ける主体が「個人か法人か」という点が大きな違いです。

加入には従業員数の要件があり、業種によって常時使用する従業員が5人以下または20人以下の企業に限られます。また、掛金の上限が月7万円(年間84万円)であるため、数千万円規模の退職金を準備するには単独では不足するケースが少なくありません。

ただし、法人保険と小規模企業共済は併用が可能です。法人保険で大きな退職金原資を確保しつつ、小規模企業共済で個人の所得控除メリットも活かすという設計をとれば、法人・個人の双方で効率よく生活資金や退職後の資産を築けます。

VS.企業型確定拠出年金(企業型DC)

企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が拠出した掛金を加入者自身が運用し、その成果に応じた年金または一時金を将来受け取る制度です。掛金は全額損金算入となるため、法人側の税負担を抑える効果があります。

ただし、企業型DCの老齢給付金は原則として60歳以降の受取です。また、加入期間によっては受給開始が61〜65歳に繰り下がる場合もあります。

これに対し、法人保険は解約手続きを行えば任意のタイミングで返戻金を受け取れるため、退任時期に合わせて柔軟に資金化できる点が特徴です。

したがって、退任予定年齢が60歳以降であれば企業型DCも有力な選択肢になりますが、50代前半での退任を想定しているなら、役員退職金の準備には法人保険のほうが使い勝手がよいといえます。

もちろん両制度の併用も可能なので、役員の年齢や退任計画に応じて組み合わせを検討するのが現実的な方法です。最終的な制度設計は、保険や税務の専門家に相談したうえで判断しましょう。

まとめ

本記事では、役員退職金の準備に活用できる法人保険として、長期平準定期保険・逓増定期保険・終身保険・変額保険・養老保険の5タイプを比較してきました。

自社に合った保険を選ぶためには、まず以下の5つの条件を整理することが出発点になります。

  • 退任予定時期と役員の年齢:返戻率のピークと退任時期を一致させるための基本情報
  • 必要な役員退職金額:最終報酬月額・在任年数・功績倍率から概算を出しておく
  • 必要な死亡保障額:勇退時の積立と万一の保障を一本で兼ねるか、別で設計するかの判断材料
  • 毎年の保険料負担:経営のキャッシュフローを圧迫しない水準かどうかの確認
  • 解約返戻率とピーク時期:設計書で返戻率の推移を確認し、退任計画との整合を取る

これらを踏まえたうえで、小規模企業共済や企業型DCとの併用も視野に入れると、より柔軟な準備が可能になります。

最終的な保険の選定や退職金の支給設計は、保険・税務の専門家と相談しながら進めてください。自社の経営状況と将来計画に合った設計ができれば、法人保険は役員退職金を準備するうえで有力な手段になります。

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