
役員退職金は、原則として、支給額が具体的に確定した事業年度(金額確定年度)の損金となります。ただし、退職金を実際に支給した事業年度(支払年度)に損金経理した場合は、その事業年度で損金算入も可能です。
気をつけたいのは、「役員が辞めた日」が損金算入時期になるわけではない点です。退任日、支給額の確定日、実際に支給した日がずれると、どの事業年度の損金になるのか判断に迷いやすくなります。
この記事では、税務上の原則と例外を整理したうえで、3月決算の法人を例に損金算入時期のシミュレーションを解説します。
退任日・支給額の確定日・支給日の関係を整理し、自社ではどの事業年度に損金算入できるのか判断できるようにしましょう。
役員退職金の損金算入時期|税務上の原則と例外
役員退職金をどの事業年度に損金算入するかは、法人税法上の取扱いによって決まります。

| 税務上の取扱い | 損金算入する事業年度 | 判断基準 |
|---|---|---|
| 原則 | 金額が具体的に確定した事業年度(金額確定年度) | 支給額が株主総会の決議等によって具体的に確定したか |
| 実際に支給した事業年度に損金経理した場合 | 実際に退職金を支給した事業年度(支給年度) | 実際に退職金を支給し、その支給額を損金経理したか |
いずれの場合も、支給額が役員の在職期間や職務内容などに照らして適正であることが前提になります。不相当に高額と判断された部分は、損金算入時期とは別の論点として損金不算入とされる場合があります。
原則は「金額が具体的に確定した事業年度」に損金算入する
原則としては、支給額が株主総会の決議等によって具体的に確定した日を基準に、その属する事業年度(金額確定年度)が損金算入時期となります。ここでいう「具体的に確定した」とは、誰にいくら支払うのかが決議によって定まった状態を指します
一方、株主総会に諮る前の段階で取締役会が支給予定額を内定しただけでは、金額が具体的に確定したことにはなりません。必要な決議を経ていなければ、原則の損金算入時期を判断するうえで「支給額は未確定」という扱いになります。
実際に支給した事業年度に損金算入できる場合もある
原則とは別に、実際に退職金を支給した事業年度に損金経理を行った場合、その支給した年度(支払年度)で損金算入することも可能です。
たとえば、金額確定年度に経理処理をせず、翌事業年度の支給時に退職金として費用計上した場合は、その支給年度の損金算入が認められます。ただし、原則どおり金額確定年度ですでに費用計上しているのであれば、重複して損金算入することはできません。
会社が取り得る損金算入時期の選択肢【3月決算の場合】
3月決算の法人で役員が3月に退任し、退職金を4月以降に支給する場合、支給額がいつ確定したかによって会社が取り得る処理が変わります。

| 状況 | 当期(3月期)に損金算入 | 翌期に損金算入 |
|---|---|---|
| 3月に支給額が確定し、4月に支給 | 可能 | 可能 |
| 3月に退任し、4月に支給額が確定 | 不可 | 可能 |
3月中に支給額が確定し、実際の支給が4月になる場合は、経理処理によって当期または翌期のいずれかで損金算入することが可能です。
3月に金額が確定して4月に支給する場合|当期・翌期のどちらも可能
たとえば、3月20日に役員が退任し、3月25日の株主総会で退職金の額が確定し、4月30日に支給するとします。
この場合、会社が取り得る処理は次の2つです。
- 当期(3月期)の損金とする場合
- 翌期の損金とする場合
3月25日に支給額が確定しているため、原則どおりの当期(3月期)に損金算入が可能です。ただし、実際の支給は4月になるため、3月期は未払金として計上して4月の支給時に取り崩します。
未払金…会計処理において、支払う金額が確定しているものの、まだ支払いが済んでいない金額を負債として計上するもの。
一方、翌期の損金とする場合は、3月期では損金算入せず、実際に退職金を支給した翌期に損金算入します。
3月に退任して4月に金額が確定する場合|翌期のみ
3月20日に退任したものの、支給額を決議したのが4月25日、実際に支給したのが5月31日だったとします。
上記の場合、3月31日の時点では退職金の額が確定していないため、原則に基づいて3月期の損金に算入することはできません。4月25日の金額確定後、つまり翌期の損金算入となります。
期末までに支給額が確定しているかどうかが、当期に損金算入するための境目です。
当期に損金算入したいなら「期末までの金額確定」が必要
以上を整理すると、3月決算の法人が役員退職金を3月期の損金とするには、原則として3月31日までに支給額を具体的に確定させる必要があります。

期末までに支給額が確定していれば、支給が翌期になっても当期の損金とすることが可能ですし、実際に支給した翌期に損金算入することも可能です。
「当期の損金にして課税所得を圧縮したい」「当期と翌期のどちらを損金算入するかもう少し検討したい」といった場合は、3月31日までに支給額の決議まで済ませる必要があります。
分掌変更の役員退職金は「退職の実態」と「未払額」の扱いに注意
役員が完全に会社を離れる通常の退任とは別に、分掌変更(役職や職務内容の変更)に伴って退職金が支給される場合があります。
分掌変更に伴う退職金の場合、通常の退職金支給と税務上の取扱いが変わるため注意が必要です。

- 税務上の退職給与として扱うためには、「実質的に退職したのと同様の事情」が必要
- 退職金を未払金等として計上した場合、その未払額は原則として退職給与に含まれない
分掌変更では役員として在籍し続けるため、まず退職給与として認められる状況かを確認し、そのうえで損金算入を考える必要があります。
退職給与として扱うには「退職したのと同じ事情」が必要
分掌変更とは、役員として在籍したまま、地位や担当する職務を変更することです。分掌変更に伴い、それまでの職務に一区切りをつける形で退職金を支給する場合があります。
分掌変更に伴う退職金を税務上の退職給与として扱うためには、「実質的に退職したのと同様の事情」が必要になります。退職給与として認められなければ、その支給額を退職給与として損金算入できません。
「実質的に退職したのと同様の事情」の例として、国税庁が挙げているケースは次の3つです。
- 常勤役員から非常勤役員になった
- 取締役から監査役になった
- 分掌変更後の役員給与がおおむね50%以上減少した
ただし、これらに該当すれば必ず退職給与として認められるわけではありません。
分掌変更後も代表権を持っている、重要な経営判断に引き続き関与しているなど、実質的に経営の中枢に残っている場合は除外される可能性があります。
未払金として計上しただけでは原則として損金算入できない
通常の退任では、支給額が当期中に具体的に確定していれば、実際の支給が翌期になる場合でも、当期に未払金として計上して損金算入できます。実際に支給した際は、計上していた未払金を取り崩します。
一方、分掌変更に伴う退職金では、支給額を確定して未払金として計上しただけでは、その金額は原則として退職給与に含まれません。分掌変更に伴う退職金は、恣意的な損金算入を防ぐ観点から、原則として「実際に支給した金額」のみが損金算入の対象になります。
そのため、分掌変更に伴う退職金を当期に損金算入したい場合は、原則として実際の支給まで行う必要があります。
よくある質問
役員退職金の損金算入時期に関連して、実務で質問の多い論点を整理しました。
役員退職金引当金は損金算入できますか?
役員退職金引当金とは、将来、役員に退職金を支給することに備えて、見込額をあらかじめ会計上の費用・負債として計上するものです。役員がまだ退任しておらず、支給額も具体的に確定していない段階で計上されます。
将来支給する役員退職金の見込額を、役員退職金引当金などとして計上しても、その時点では損金算入できません。将来の支給額を見積もって引当金を計上する段階では、まだ支給額が具体的に確定していないため、この要件を満たしません。
役員退職金の支給が2年後・3年後になっても損金算入できますか?
通常の退任では、損金算入時期について「退任後○年以内に支給する」といった一律の期限はありません。そのため、退任から2年・3年後に支給した場合でも、支払年度での損金算入はできます。
ただし、税務上の損金算入時期に一律の期限がないことと、退職金の支払期限は別の問題です。支払期日を定めている場合はその期日に支払う必要があり、長期間未払いにすると消滅時効など税務以外の問題が生じる可能性があります。
また、分掌変更に伴う退職金の場合、長期間の未払いや長期の分割払いでは退職給与としての取扱いが認められず、損金算入できない場合があります。
役員退職金の損金算入を忘れていたらどうすればよいですか?
役員退職金の損金算入漏れは、原則として法定申告期限から5年以内であれば、更正の請求で是正できます。
損金になる年度は、原則として株主総会の決議等により金額が具体的に確定した年度(金額確定年度)です。支払年度に損金経理をしていれば、支払年度で損金算入することも認められます。
| 計上方法 | 更正の請求をする年度 |
|---|---|
| 支払年度に費用計上 | 支払年度 |
| 金額確定年度に費用/未払金 | 金額確定年度 |
| 金額確定前に費用/未払金 | 金額確定年度(計上年度で加算済みの場合の減算漏れ分) |
金額確定前に未払計上した年度で加算していなかった場合は、その年度が修正申告の対象となる可能性があります。
なお、損金算入によって更正の請求をする年度の所得が減少し、欠損金が発生・増加すると、翌期以降に繰り越す欠損金の額も変わる点に注意が必要です。この場合、提出済みの翌期以降の申告についても、あわせて更正の請求などが必要になる場合があります。
まとめ
役員退職金の損金算入時期を判断するときは、まず「支給額がいつ具体的に確定したか」と「実際にいつ支給するか」を整理することが重要です。特に決算期をまたぐ場合は、この2つの日付によって当期・翌期のどちらで処理できるかが変わります。
当期の損金とする可能性を残したい場合は、期末までに支給額を具体的に確定させておくことがポイントです。一方、分掌変更に伴う退職金は通常の退任とは取扱いが異なるため、同じ基準だけで判断しないよう注意しましょう。
すでに申告を終えた後で損金算入漏れに気づいても、更正の請求で是正できる場合があります。まずは決議日・支給日・会計処理・申告内容を確認し、どの事業年度で処理すべきかを整理するところから始めてください。
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