
役員退職金を受け取るとき、額面の金額から税金が引かれて、最終的に手元にいくら残るのかは気になるところです。
役員退職金の税金は、退職所得控除を差し引いたうえで、その2分の1に課税するのが原則です。役員報酬など他の所得とは分けて税額を計算するため、給与に対する税負担とは考え方が大きく異なります。
ただし、役員等として勤務した期間が5年以下の場合は、2分の1にする計算が使えないなど、同じ支給額でも在任期間によって手取りが変わる可能性があります。
この記事では、役員本人が受け取る退職金について、退職所得控除額の求め方から所得税等・住民税の計算、手取り額の概算までを順に解説します。
※2027年以後に支給される退職金は、防衛特別所得税の導入などにより所得税等の仕組みが一部変わります。実際の支給時には、その年の国税庁・自治体の最新情報をご確認ください。
役員退職金にかかる税金の内訳
2026年までに支給される役員退職金の税金は、所得税・復興特別所得税・住民税の3つです。
所得税と復興特別所得税は、会社が退職金支給時に源泉徴収する国税です。復興特別所得税は、退職金額ではなく所得税額に対して掛けられます。
一方、住民税は市町村民税(東京23区は特別区民税)と道府県民税を合わせたものです。
2027年以後、防衛特別所得税が導入され、復興特別所得税の税率が下がります。改正前の復興特別所得税率と、改正後の合算税率(防衛特別所得税1% + 復興特別所得税1.1% = 2.1%)は同率であり、計算方法にも変更はありません。
退職所得は分離課税で計算する
役員退職金は、原則として「退職所得」に区分され、役員報酬などの給与所得とは分けて税額を計算する「分離課税」が適用されます。
たとえば、退任した年に役員報酬を多額に受け取っていても、その給与所得と退職所得を合算して退職所得の所得税率を決めるわけではありません。退職金については退職所得だけをもとに税率を判定します。
ただし、確定申告をする場合、他の所得から控除しきれなかった所得控除があれば、その残額を退職所得から差し引けるため、税額が下がることがあります。
役員退職金の税金を計算する方法

役員退職金の税額は、次の流れで概算できます。
- 退職所得控除額を計算する
- 課税退職所得金額を計算する
- 所得税等を計算する
- 住民税を計算する
- 手取り額を計算する
支給額そのものに税率を掛けるのではなく、まず勤続期間に応じた控除額を差し引き、残った金額をもとに税額を求める流れです。
Step1. 退職所得控除額を計算する

退職所得控除額は、退職金から差し引くことのできる控除額で、原則として勤続期間の長さによって金額が決まります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数 ※80万円未満なら80万円 |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年) |
※1年未満切上げ
たとえば、勤続年数が15年であれば600万円、30年であれば1,500万円という計算です。
40万円 × 15年 = 600万円
800万円 + 70万円 × (30年 - 20年) = 1,500万円
同じ会社で従業員として働いたあと役員になり、そのまま退職した場合は、原則として使用人として勤務した期間も含めて勤続年数を確認します。
ただし、役員就任時などに使用人期間に対応する退職金をすでに受け取っている場合は、その退職金の計算の基礎となった期間を除いて勤続年数を計算することがあります。
Step2. 課税退職所得金額を計算する(原則1/2課税)
退職所得控除額が分かったら、課税の対象となる金額を求めます。計算式は次のとおりです。
※1,000円未満切捨て
退職金額が退職所得控除額より低ければ、原則として所得税等も住民税もかかりません。たとえば勤続30年で退職金1,000万円の場合、控除額1,500万円を下回るため課税退職所得金額は0となります。
なお、役員等勤続年数が5年以下の特定役員退職手当等の場合、2分の1にする計算を適用しません。この場合、課税退職所得金額は「退職金の支給額 - 退職所得控除額」で計算します。

Step3. 所得税等を計算する
課税退職所得金額が求まったら、そこに所得税の税率を当てはめます。退職所得も他の所得と同じく5%から45%までの超過累進税率が使われ、実務で計算するときは速算表が便利です。
| 課税退職所得金額 | 所得税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超~330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万円超~695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万円超~900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万円超~1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
課税退職所得金額に税率を掛け、表の控除額を差し引いた金額が所得税額です。この所得税額に復興特別所得税(2027年以後は復興特別所得税 + 防衛特別所得税)を加えた金額が源泉徴収されます。
例:課税退職所得金額が425万円の場合
※所得税 + 復興特別所得税は所得税額 × 102.1%でも計算可能(42万2,500円 × 102.1% = 43万1,372円)
Step4. 住民税を計算する(原則10%)
退職所得にかかる住民税は、課税退職所得金額に原則10%を掛けて計算します。内訳は区市町村民税6%と都道府県民税4%です。
所得税のように税率が段階的に上がる仕組みではないため、金額の大小にかかわらず同じ割合で計算できます。
例:課税退職所得金額が425万円の場合
※市町村民税・道府県民税の端数100円未満切捨て
給与にかかる住民税は前年の所得をもとに翌年6月以降に納めますが、退職所得の場合は特別徴収が適用され、退職金支給時に会社側が差し引きます。
Step5. 手取り額を計算する
最後に、支給額から税金を差し引いて手取り額を求めます。
ここまでの4つのステップで計算した数字を当てはめれば、手元に残るおおよその金額が分かります。
ただし、ここで求められるのはあくまで概算です。過去や同じ年に受け取った他の退職金の有無、退職所得控除の対象となる勤続期間、役員等勤続年数が5年以下かどうかといった個別の事情によって、実際の税額は変わります。
最終的な金額は、会社や税理士に確認してください。
【早見表付き】退職金額別の税額と手取りシミュレーション
下記は、支給額と勤続年数の組み合わせごとの概算を一覧にしたものです。
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| 支給額 | 勤続10年 | 勤続20年 | 勤続25年 | 勤続30年 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 税額合計 | 手取りの金額 | 税額合計 | 手取りの金額 | 税額合計 | 手取りの金額 | 税額合計 | 手取りの金額 | 税額合計 |
| 1,000万円 | 50万6,752円 | 949万3,248円 | 15万1,050円 | 984万8,950円 | 0円 | 1,000万円 | 0円 | 1,000万円 |
| 2,000万円 | 202万9,284円 | 1,797万716円 | 138万8,722円 | 1,861万1,278円 | 85万6,372円 | 1,914万3,628円 | 40万5,702円 | 1,959万4,298円 |
| 3,000万円 | 411万1,834円 | 2,588万8,166円 | 323万7,974円 | 2,676万2,026円 | 247万3,346円 | 2,752万6,654円 | 186万1,869円 | 2,813万8,131円 |
| 5,000万円 | 883万8,484円 | 4,116万1,516円 | 782万1,684円 | 4,217万8,316円 | 693万1,984円 | 4,306万8,016円 | 607万8,019円 | 4,392万1,981円 |
※個別の条件によって実際の税額は異なる場合があります。
ここからは、いくつかのパターンで計算シミュレーションを解説します。
① 勤続20年・退職金5,000万円の場合
勤続20年の場合、退職所得控除額は「40万円 × 20年」で800万円です。
課税退職所得金額は、次のように計算します。
2,100万円は所得税の速算表で「1,800万円超~4,000万円以下」に該当するため、税率40%・控除額279万6,000円を使います。
したがって、税額合計は782万1,684円、手取り額は4,217万8,316円です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職所得控除額 | 800万円 |
| 課税退職所得金額 | 2,100万円 |
| 所得税・復興特別所得税 | 572万1,684円 |
| 住民税 | 210万円 |
| 税額合計 | 782万1,684円 |
| 手取りの金額 | 4,217万8,316円 |
② 勤続10年・退職金3,000万円の場合
勤続10年の場合、退職所得控除額は「40万円 × 10年」で400万円です。
課税退職所得金額は、次のように計算します。
1,300万円は「900万円超~1,800万円以下」に該当するため、税率33%・控除額153万6,000円を使います。
以上により、税額合計は411万1,834円、手取り額は2,588万8,166円となります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職所得控除額 | 400万円 |
| 課税退職所得金額 | 1,300万円 |
| 所得税・復興特別所得税 | 281万1,834円 |
| 住民税 | 130万円 |
| 税額合計 | 411万1,834円 |
| 手取りの金額 | 2,588万8,166円 |
③ 勤続3年・退職金2,000万円の場合
全期間が役員等としての勤続期間である場合、役員等勤続年数3年は「特定役員退職手当等」に該当するため、2分の1課税は適用されません。
退職所得控除額は「40万円 × 3年」で120万円となり、課税退職所得金額は以下の計算になります。
1,880万円は「1,800万円超~4,000万円以下」に該当するため、税率40%・控除額279万6,000円を使います。
以上を合算すると、税額合計は670万3,204円、手取り額は1,329万6,796円となります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職所得控除額 | 120万円 |
| 課税退職所得金額 | 1,880万円 |
| 所得税・復興特別所得税 | 482万3,204円 |
| 住民税 | 188万円 |
| 税額合計 | 670万3,204円 |
| 手取りの金額 | 1,329万6,796円 |
役員個人が確定申告を行うケースとは?

役員退職金は、原則として会社が支給時に税額を計算・源泉徴収するため、役員本人による確定申告は不要です。ただし、源泉徴収だけでは税額を精算できない場合や、確定申告によって還付を受けられる場合などは、本人が確定申告を行うことがあります。
| ケース | 申告しない場合の影響 | 確定申告の扱い |
|---|---|---|
| 「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない | 本来の税額との差額が精算されず、還付を受けられない場合がある | 還付のみなら任意 / 追加納税が必要なら義務 |
| 複数の退職手当等を受け取り、源泉徴収だけで精算できていない | 税額の過不足が残る | 還付のみなら任意 / 追加納税が必要なら義務 |
| 外国企業などから受け取った退職金に源泉徴収されていない | 本来納めるべき所得税等が未納となる | 義務 |
| 退職所得以外の所得控除に余りがある | 所得控除を退職所得に充当できず、還付を受けられない | 任意(還付) |
| 退職金以外の理由で確定申告する | 申告義務がある場合は申告漏れとなり、任意申告の場合は控除や還付を受けられない | 申告理由による |
「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していない場合
「退職所得の受給に関する申告書」は、会社が退職金の源泉徴収税額を計算する際の基礎となる書類です。勤続年数や、その年にすでに受け取ったほかの退職手当等などを記載して会社へ提出します。
申告書が提出されている場合、会社は退職所得控除や2分の1課税などを反映したうえで源泉徴収を行います。一方、未提出の場合は一律で「退職金額の20.42%」を源泉徴収するというルールです。
20.42%で源泉徴収された金額が本来の税額を上回っている場合、確定申告をすれば差額の還付を受けられます。
複数の退職手当等を受け取り、源泉徴収だけで精算できていない場合
同じ年に複数の会社から退職金を受け取る場合、後から支払う会社が先に受け取った退職金も含めて税額を計算します。その結果、先に源泉徴収した会社の額が大きかった場合、後から支払う会社は本来の税額を超えないよう徴収額を調整します。
一方、先に源泉徴収した時点で本来の税額を超えていると、後から支払う会社は0円(源泉徴収なし)という処理までしか行いません。払いすぎた税金を取り戻すためには、確定申告を行って還付を受ける必要があります。
外国企業などから受け取った退職金に源泉徴収されていない場合
外国企業から受け取った退職金など、日本で課税対象となる退職金について所得税等が源泉徴収されていない場合は、確定申告が必要です。
ただし、受け取ったときの居住状況や、退職金が国内・国外のどちらで働いた期間に対応するものかによって扱いが変わります。
また、同じ退職金について海外ですでに税金を納めている場合は、二重課税にならないよう調整が可能です。一定の条件を満たせば、海外で納めた税金を日本の税額から差し引ける場合があります。
退職所得以外の所得控除に余りがある場合
退職所得以外の所得について、その所得控除を使い切れなかった場合、残額は退職所得から差し引けます。
たとえば、退職した年の給与所得が少なく、基礎控除や社会保険料控除などを給与所得から十分に差し引けなかったケースでは、残った控除額を退職所得の税額計算に反映できます。その結果、退職金から源泉徴収された所得税等が還付される場合があります。
退職金以外の理由で確定申告する場合
退職時、退職金とは別の理由で確定申告が必要になったり、還付申告を行ったりする場合があります。たとえば、医療費控除や寄附金控除を受けるために還付申告をする場合や、事業所得・不動産所得の確定申告が必要な場合などです。
このように、何らかの理由で確定申告を行う場合、たとえ源泉徴収で退職金の課税処理が完了していても、退職所得も含めて申告しなければいけません。
よくある質問
ここまでの計算方法や手続きとは別に、役員退職金の税金で判断が分かれやすい点をQ&A形式で整理します。
役員退職金の税率は勤続年数で変わりますか?
税率そのものが勤続年数で決まるわけではありません。ただし、退職所得控除額は勤続年数に応じて決まるため、同じ金額の退職金でも勤続年数によって課税対象額や最終的な税額は変わります。
また、役員等勤続年数が5年以下の期間に対応する退職金は「特定役員退職手当等」に該当し、通常の退職所得に適用される2分の1課税を利用できません。
役員退職金の非課税枠はいくらですか?
一般に「非課税枠」と呼ばれているのは退職所得控除額のことですが、金額は勤続年数によって決まります。20年以下なら「40万円 × 勤続年数」で、20年超なら「800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)」で計算します(80万円未満になる場合は一律80万円)。
退職金の支給額がこの控除額以下であれば、課税退職所得金額は原則0となり、所得税等も住民税もかかりません。
死亡退職金の税金は生前の退職金と同じですか?
役員の死亡に伴って遺族へ支給される退職手当等は、生前に本人が受け取る退職金とは税務上の扱いが異なります。
被相続人の死亡後3年以内に支給が確定した死亡退職金等は、原則として所得税ではなく相続税の課税対象です。相続人が取得した死亡退職金等には、「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額が設けられています。
支給の時期や退職金を受け取る権利が確定した時期によって、詳しい取扱いが変わります。
退職金は社会保険料の対象ですか?
退職を理由に支払われる退職金は、原則として健康保険料・厚生年金保険料の対象になりません。退職金は、社会保険上の「報酬」や「賞与」には含まれないためです。
ただし、退職金相当額を在職中の給与や賞与に上乗せして前払いする場合は、社会保険料の対象になります。
役員退職金の功績倍率とは何ですか?
功績倍率とは、役員としての職責や会社への貢献度を退職金額に反映するために用いる倍率です。法律で一律に定められた数値ではありませんが、会社が退職金額を決める際の算定要素として、実務で広く使われています。
功績倍率を使った役員退職金の算定は、次のとおりです。
具体的な功績倍率は役員の職責などを踏まえて設定します。また、功績倍率だけで「税務上妥当な退職金額」が決まるわけではなく、役員としての勤務期間や、同業種・同規模の会社における支給状況も考慮されます。
まとめ
役員退職金は、支給額が同じでも勤続年数や退職所得控除などによって税額が変わるため、額面だけでは実際の手取りを判断できません。
受け取る前に所得税等・住民税まで計算しておけば、「思ったより税金が引かれた」という事態を避け、手元に残る金額を具体的に把握できます。
退職後の資金計画を考えるうえでも、役員退職金は支給額ではなく、税金を差し引いたあとの手取り額で見ることが大切です。
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