2019年6月、国税庁より法人保険の定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いについて見直しが行われ、税制改正のよる通達で法人保険に関する新たなルール案が公表されました。
法人保険の取り扱いは税制改正後の新しいルールによる運営され、当記事に関しても新ルールに基づいた解説をしております。
税制改正後の法人保険に関する新ルールについての詳細は、国税庁・金融庁・各保険会社が公表する内容を合わせてご参照ください。
2019年の税制改正後、法人保険の損金の取り扱いに関するルールが変わり、法人保険の節税効果は以前よりも小さくなりました。
いわゆる「全損(全額損金)」「半損(半額損金)」と言われる保険商品は販売中止となり、現在では保険商品の最高解約返戻率に応じて損金に計上できる割合が定められています。
しかし、実は現在でも半損・全損の法人保険があることをご存知でしょうか?
保険解約のタイミングをよく見極め、きちんとルールに則って経理処理をすれば、半損を超える損金を計上できる保険商品はあるのです。
今回は、現在販売されている保険商品を例に挙げながら、半損・全損の法人保険について具体的に紹介していきます。法人保険で節税を考えている経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
全損・半損の法人保険はある!税制改正後の新ルール
以前は、法人保険は保険料の一部を損金として計上することで節税効果を期待でき、経営者の多くの方が活用していたかと思います。半損・全損と呼ばれるような保険商品が代表的な節税保険で、高い解約返戻率を持ちながら保険料の半分以上もしくは全額を損金として計上でき、大きな節税効果がありました。
しかし、2019年に国税庁から節税保険にメスが入り、法人保険の損金取り扱いに関して新たなルールが設けられました。それにより、保険商品の最高解約返戻率に応じて損金として計上できる割合が定められ、以前と比べて節税効果が小さくなったというのが現在の見方です。
2019年の税制改正による法人保険の新ルール
最高解約返戻率 | 取扱い |
---|---|
50%以下 | 全額損金 |
50%超え 70%以下(※) |
契約期間の4割までは60%損金計上、 40%資産計上。 (それ以降は全額損金計上) |
70%超え 85%以下 |
契約期間の4割までは40%損金、 60%資産計上。 (それ以降は全額損金計上) |
85%超え | 当初10年間、保険料×最高解約返戻率×0.1が損金、残りは資産計上。 (それ以降は全額損金計上) |
※被保険者1人あたりの年間保険料が30万円以下となる契約については、保険料の全額を損金に計上することができる。
上記の表は、2019年の税制改正による新ルールを簡単にまとめたものです。最高解約返戻率が高いものほど、保険期間当初の損金計上割合が少なく設定されています。
このことから、以前のように解約返戻率の高い半損・全損の保険商品はなくなり、「法人保険による節税効果はもう期待できない」と考える経営者の方も多くいらっしゃるでしょう。
しかし、実はこの新ルールが施行されたあとも、高い解約返戻率を持った半損・全損の法人保険はまだ存在しているのです。
解約のタイミングによっては半損を超えることがある
2019年の税制改正では、保険商品の最高解約返戻率によって、一定の期間は〇〇%のみを損金に計上する(残りは資産計上)というルールが主です。
たとえば、最高解約返戻率が50%超70%以下の場合、契約期間開始から4割の期間が過ぎるまでは60%損金。しかし、契約期間開始から4割の期間が過ぎた後は、全額を損金として計上することが可能です。
つまり、契約期間の4割が過ぎた後も加入し続けていれば損金として計上できる割合は増え、保険に加入してから解約するまでの通算で考えれば損金計上割合が半分を超え、半損の節税保険として活用できる場合もあり得るのです。
更に、法人保険を解約した際の解約返戻金を含めれば、実質返戻率(※)が100%を超えるような節税効果のある法人保険商品はまだまだ販売されています。「貯蓄効果が高ければもう半損の法人保険は望めない」と思っていても、しっかりと保険プランを設計すれば半損以上の割合で損金として計上することは可能です。
※実質解約返戻率:
保険料の損金計上による節税によって浮いたお金を差し引いた保険料総額、つまり企業が「実質的に支払った保険料総額」に対して、どれほどの解約返戻金を得られるかを示した数字。
100%を超えると、企業の手元に残るお金が元本よりも大きくなったと言える。
年間保険料額が30万円以下は全損になる
また、保険料の全額を損金として計上できる法人保険も、まだ販売されています。
「全額損金計上できるのは解約返戻金が50%以下の貯蓄性のない保険」と思っている経営者の方もいるかと思いますが、実は違うのです。
最高解約返戻率が50%超70%以下の法人保険において、被保険者1人あたりの年間保険料総額が30万円以下となる契約については、なんと支払期間中全額が損金算入することが定められています(法人税基本通達9-3-5の2)。
実際に、最高解約返戻率が50%超70%以下で、年間の保険料が1人当たり30万円以下になるような全損の法人保険は販売されています。このような法人保険を活用すれば、全損で保険料を損金計上することが可能です。
では、こういった半損・全損タイプの法人保険について、実際の保険商品を例に挙げながらシミュレーションをしてみましょう。
半損(半分損金)の生命保険商品シミュレーション
最高解約返戻率70%超85%以下の法人保険
最高解約返戻率が70%超85%以下の法人保険は、契約期間の4割までは40%損金・60%資産、以降は全額を損金として計上します。
このタイプの法人保険を上手に活用することで、半損以上の節税効果を得ることが可能です。
N社「介護・障害保障型定期保険」60歳男性、通算52%損金(半損超)
【条件】
契約者:60歳男性
保険期間 / 保険料払込期間:80歳満了
年払い保険料:2,541,700円
最高解約返戻率:84.9%
解約する年齢:70歳
最高解約返戻率が84.9%の法人保険です。
保険期間は60~80歳までの20年間。つまり、8年間40%損金、9年目以降は全額損金となります。
◯70歳で勇退する場合
70歳勇退時、通算52%損金=半損超。
実質解約返戻率102.58%
※法人税率33%仮定
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【計算】
70歳勇退時点
保険料累計:25,417,000円 /
損金保険料累計:13,216,840円 /
資産計上料累計:12,200160円
・損金計上割合
13,216,840 ÷ 25,417,000 = 52%
よって、損金割合は52%(半損超)
・実質解約返戻率
25,417,000 × 84.98 ÷ { 25,417,000 – (25,417,000 × 0.52 × 0.33) }
= 21,599,367 ÷ 21,055,443
= 102.58%
N社「介護・障害保障型定期保険」70歳男性、通算64%損金(半損超)
【条件】
契約者:70歳男性
保険期間 / 保険料払込期間:85歳満了
年払い保険料:3,771,300円
最高解約返戻率:84.01%
解約する年齢:80歳
最高解約返戻率が84.01%の法人保険です。
保険期間は70~85歳までの15年間。つまり、6年間は40%損金、7年目以降は全額損金となります。
◯80歳で勇退する場合
80歳勇退時、通算64%損金=半損超。
実質解約返戻率106.35%
※法人税率33%仮定
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【計算】
80歳で勇退時点、
保険料累計:37,713,000円 /
損金保険料累計:24,136,320円 /
資産計上料累計:13,576,680円
・損金計上割合
24,136,320 ÷ 37,713,000 = 64%
よって、損金割合は64%(半損超)
・実質解約返戻率
37,713,000 × 83.89 ÷ { 37,713,000 – (37,713,000×0.64×0.33) }
= 31,637,436 ÷ 29,748,014
= 106.35%
H生命「総合生活障害保障保険」36歳男性(払済保険に変更パターン)
こちらは、損金計上割合は半損にはならないものの、実質解約返戻率で見れば他の半損保険と同程度の節税効果を見込める保険商品です。
【条件】
契約者:35歳男性
保険期間 / 保険料払込期間:100歳満了
年払い保険料:1,113,120円
最高解約返戻率:82.7%
解約する年齢:65歳
契約当初の保険金額:4,000万円
5年後に「払済保険」に変更
最高解約返戻率が82.7%の法人保険です。当初の保険金額は4,000万円。
保険契約後、26年間は40%を損金として計上できます。しかし、この法人保険は「払済保険」に変更することで、半損の法人保険と同じくらいの節税効果をあげることが可能です。
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このとき、加入から5年後(41歳時)に払済保険へ変更することで、当初の保険金額4000万円から保険金額556.3万円に。しかし、その後は保険料を支払う必要がなくなります。
払済保険に変更したことによる保険金額 | 5,563,200円 |
---|---|
払込保険料の累計 | 5,565,600円 →払済保険へ変更により、以降保険料の支払いは無し! |
払済保険にした場合、65歳勇退時の実質解約返戻率は104.72%!
【計算】
~65歳時~
保険料累計:5,565,600円 /
損金保険料累計:2,226,240円 /
資産計上料累計:3,339,360円
・実質解約返戻率
5,565,600 × 90.9 ÷ { 5565600 – (5565600 × 0.40 × 0.33) }
= 5,059,130 ÷ 4,830,941
= 104.72%
N生命「定期保険」36歳男性、通算50.35%損金(半損超)
【条件】
契約者:36歳男性
保険期間 / 保険料払込期間:96歳満了
年払い保険料:1,110,000円
最高解約返戻率:84.1%
解約する年齢:パターン① 65歳 パターン② 70歳
最高解約返戻率が84.1%の法人保険です。
保険期間は36~96歳までの60年間。つまり、24年間は40%損金、25年目以降は全額損金となります。
この法人保険は配当がつくタイプの保険ですが、配当が支払われなかったのは戦後2回のみ。そのため、非常に高い確率で配当を含めた解約返戻金を受け取ることができます。
◯65歳で勇退する場合
65歳勇退時、通算50.35%損金=半損超
実質解約返戻率110.70%
※法人税率33%仮定
◯70歳で勇退する場合
70歳勇退時、通算57.65%損金=半損超
実質解約返戻率125.85%
※法人税率33%仮定
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【計算】
~65歳時~
保険料累計:32,190,000円 /
損金保険料累計:16,210,000円 /
資産計上料累計:15,980,000円
・損金計上割合
16,210,000 ÷ 32,190,000 = 50.35%
よって、損金割合は50.35%(半損超)
・実質解約返戻率
32,190,000 × 96.1 ÷ { 32,190,000 – (32,190,000 × 0.5035 × 0.33) }
= 30,930,000 ÷ 27,940,000
= 110.70%
~70歳時~
保険料累計:37,740,000円 /
損金保険料累計:21,760,000円 /
資産計上料累計:15,980,000円
・損金計上割合
21,760,000 ÷ 37,740,000 = 57.65%
よって、損金割合は57.65%(半損超)
・実質解約返戻率
37,740,000 × 101.9 ÷ { 37,740,000 – (37,740,000 × 0.5765 × 0.33) }
= 38,460,000 ÷ 30,560,000
= 125.85%
こちらで紹介したように、法人保険の解約のタイミングを見極めれば、半損以上の割合を損金として計上することが可能です。半損はもうないと諦めていた方も、ぜひご検討ください。
まとめ:法人保険をうまく使えばまだ節税は可能
今回は、現在も節税効果を見込める全損・半損の法人保険について紹介してきました。
2019年の税制改正以降、法人保険の節税効果は小さくなり、貯蓄性があり半損・全損で計上できる法人保険は無くなったと思っている経営者の方も多いでしょう。
しかし、実際には半損・全損の法人保険はまだまだあります。保険商品をよく選び、計画的な保険プランを設計することで、通算の保険料で考えると半損以上の損金算入ができたり、全額を損金に算入することができるのです。
法人保険を利用して節税を考えている経営者の方は、ぜひ半損・全損の法人保険を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、どの保険商品を選び、どのタイミングで解約をすれば半損・全損として活用できるのかは、保険代理店や保険会社、法人保険のプロに相談するのが一番です。
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