会社の経営者にとって、法人税やその他の税金に対する基礎知識を得ておくことは欠かせないもの。
ただ、法人にかかる税金の種類はさまざまなものがあるので、順序立てて整理をしておく必要があるでしょう。
例えば、法人の種類によって課税・非課税の違いがあります。それだけでなく、法人税の計算の仕方や申告・納付方法も踏まえておく必要があります。
法人税の税金対策を含めて、法人税に関する事務処理を行うときのポイントについて詳しく解説していきます。
法人税だけじゃない!法人にかかる税金の種類
法人にかかる税金には多くの種類があるため、一つひとつをしっかりとおさえておかないと、思わぬところで税金がかかり事業計画にも影響を及ぼします。
その中でも確実に覚えて欲しいのは、「法人税」と「法人住民税」、「法人事業税」で、その3つをまとめて「法人税等」と呼んでいます。
法人税
「法人税」とは、事業によって得られた所得金額に対して課せられる国税のことです。所得から税金を算出して申告するものであり、2018年では税率が23.2%となっています。
資本金が1億円以下の中小法人については税率が優遇されており、800万円以下の所得金額に対しては15.0%~19.0%の税率とされています。赤字企業については所得がないため、法人税はかかりません。
法人税は年度ごとに見直されるものであるため、こまめにチェックする必要があります。
法人住民税
「法人住民税」は法人が拠点を構えている自治体に対して支払う税金のことです。自治体から公共サービスを受けているという視点から、地方税として納めるものとなっています。
納付する税金は「法人税割」と「均等割」を足し合わせたもので、それぞれ算出方法が異なっています。
「法人税割」は法人税額に住民税率をかけ合わせたもので、均等割は資本金などによって一律に決められており、最低7万円がかかります。
さらに、法人住民税は道府県民税と市町村税を足し合わせたものを税金として納める形になっています。つまり、ある県に拠点を構える法人であれば、県民税法人税割・県民税均等割・市民税法人割・市民税均等割を合算したものが法人住民税となります。
ただし、東京23区に拠点を構える法人は都民税のみを納めればよいという決まりであるため、都民税法人税割と都民税均等割が法人住民税の支払いになります。
法人事業税
「法人事業税」は、各都道府県に納める税金のことで、所得金額に法人事業税率を掛け合わせることで算出されます。法人事業税は資本金の額によって違いがあり、資本金が1億円以下の法人は所得金額を基にした所得割のみが税金として課せられます。
その一方で、資本金が1億円を超える法人は所得割のほかに、資本金の額など外形的な要因を基にした外形標準課税も行われています。法人事業税は都道府県ごとに税率が異なるため注意をしておきましょう。
消費税と地方消費税
法人が支払う税金のなかには、「消費税」や「地方消費税」もあります。資本金または出資金が1,000万円未満の法人は、課税売上高が1,000万円を超えたら翌々年度から納付をしなければなりません。
資本金または出資金が1,000万円以上である法人は、設立より2事業年度から納税をする必要があります。
消費税や地方消費税の支払い基準
資本金または出資金の金額 | 納税条件 |
---|---|
1,000万円未満 | 課税売上高1,000万円以上の場合、翌々年度より納税 |
1,000万円以上 | 設立より2事業年度から納税 |
「消費税」は消費者から預かったものだという認識であるため、法人が赤字であるか黒字であるかにかかわらず納めるものとなっています。消費税は2018年4月現在では、国税分が6.3%で地方消費税1.7%と合わせると税率は8%となっています。
消費税の納付は法人の場合では、課税期間の末日となる翌日から2カ月に以内に、消費税と地方消費税を納めることになります。
固定資産税
「固定資産税」は法人が保有する土地や建物に課される税金で、地方税として取り扱われています。償却資産税は法人が保有する機械や備品などについて発生する税金です。
自動車関連の税金
自動車を保有している場合には「自動車関連の税金」もあります。都道府県税としての自動車税や自動車取得税、国税としての自動車重量税、市区町村税としての軽自動車税です。
このように法人税には多くの税金が課せられていますが、なんと法人の種類によって課せられる税金も変わってきます。次に法人の種類別に課せられる税金をみてきましょう。
法人の種類によって課税・非課税が違う
法人に課せられる税金は、法人の種類によって異なる点をおさえておきましょう。法人の種類は、「普通法人」「公益法人」「公共法人」などに分けられます。
各法人ごとの課税の有無
法人の種類 | 代表的なもの | 課税の有無 |
---|---|---|
普通法人 | 株式会社、有限会社、合同会社、 相互会社、医療法人、協業組合、企業組合 |
課税 |
公益法人 | 宗教法人、社会福祉法人、NPO法人、学校法人 | 原則、非課税 ※収益事業の場合、課税 |
公共法人 | 地方公共団体、国立大学、金融公庫 |
普通法人とは株式会社・有限会社・合同会社・相互会社などの会社組織、医療法人・協業組合・企業組合などです。
これらの法人は法人税が課税されます。ただし、一般社団法人や一般財団法人は最低税率の適用です。公益法人は収益事業を行うものと行わないもので分けられています。
宗教法人・社会福祉法人・NPO法人・学校法人などは原則的に非課税であるものの、収益事業の所得は課税対象となります。信用金庫・農業協同組合・漁業共同組合は課税対象です。公共法人である地方公共団体や国立大学、金融公庫などは非課税となっています。
法人税の計算方法を知っておくといろいろ便利
法人税の計算方法を理解しておくと、納付予定の税金額をあらかじめ知ることができますし、納税のための準備を整えることができるでしょう。課税所得の金額を算出するためには、益金から損金を引けば割り出すことができます。
ポイントとしては、法人が儲けた会計上の利益に課税されるのではなく、決算調整などを行ったものが課税所得となる点です。
課税所得金額に法人税率をかけ合わせたものが法人税額となり、計算自体はシンプルなものとなっています。税率は法人の種類と規模によって異なるため、その点をおさえて計算をしていきましょう。
法人税の計算方法
課税所得金額 × 法人税率 = 法人税額
たとえば、普通法人で資本金が1,000万円、課税対象となる所得が700万円の場合には、軽減措置が取られています。
軽減措置とは、資本金が1億円以下で年間所得が800万円以下の法人に適用されるものです。
したがって、支払う税金は700万円×15%で105万円となります。資本金が3,000万円で課税対象となる所得が1,500万円の場合には、年間所得が800万円を超えているため軽減措置の要件を満たしていません。
しかし、800万円を超える部分に23.2%の税率が適用される点をおさえておきましょう。
つまり、課税所得1,500万円を800万円の部分と残りの700万円の部分に分けて計算します。それぞれ計算をすると、800万円×15%で120万円、700万円×23.2%で162万4,000円です。
合計すると282万4,000円の税金を支払うことになります。
延滞注意!法人税の申告と納付方法
法人税の申告と税金の納付は、決められた期限内に行う必要があります。
申告期限は事業年度末の翌日から2カ月以内に確定申告書を作成して、所轄税務署に提出することになっています。
納税についても2カ月以内に済ませなければなりません。申告した内容に間違いを見つけたときは訂正を行うことができます。税額を多く申告してしまったときには「更生の請求」、税額を少なく申告していた場合には「修正申告」を行いましょう。
また、申告期限を過ぎてからの申告は「期限後申告」と呼ばれています。無申告のままの状態が続いてしまうと、納付税額の50万円までに15%、50万円を超える部分については20%の延滞金が発生するおそれもあるので注意が必要です。
そして、税金の納付は「e-Tax」と呼ばれる電子納税や口座振替による納付、クレジットカードによる納付などです。金融機関や税務署の窓口で、現金納付を行うこともできます。
納付期限内に納税を行わないと、延滞税がかかる場合もあります。延滞税は納付期限の翌日から2カ月までは7.3%、2カ月後からは14.6%です。
やむ得ない事情で納税ができないときには、早めに所轄税務署に相談をするほうがいいでしょう。
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法人税の税金対策いろいろ
法人税を抑えるためには、いくつかの税金対策があります。事業年度によっては大幅な利益が出てしまい、多額の納税額に困らないためにもポイントをおさえておきましょう。
税金対策は決算が終わってからではほとんど取れる方法がなくなってしまうので、普段から法人にとって意味のある税金対策を行う必要があります。
代表的なものとしては、役員報酬の改定や生命保険への加入、設備投資などがあげられます。役員報酬について考えるときのポイントは、事業年度の開始月から一定額を支給することです。
原則として事業年度の途中で変更することができないため、慎重に検討しましょう。
役員報酬や退職金
役員報酬を増額したい場合には、報酬そのものを増額するよりも、役員賞与という形で支給するほうが税制上のメリットを期待できます。役員賞与の額と支給時期をあらかじめ税務署に届け出をしておいて、予定通り支給しましょう。
共済制度を活用した退職金の準備によって税金対策を行うこともできます。「経営セーフティ共済」「小規模企業共済」「確定拠出年金」などは、掛け金を全額損金として算入できますし、将来に対する備えにもなるでしょう。
安易に役員報酬を引き上げてしまうと、役員個人の所得税や住民税が高くなる可能性があります。共済制度を活用しながら、役員報酬の適切な額を決めていくことが大切です。
また、医療保険などの掛け捨てタイプの保険に加入しておくことも税金対策につながる可能性があります。病気やケガに遭ったときの医療保障にもなりますし、保険料を損金として算入させられる場合があります。
不動産や公共料金
ほかには、法人が所有している不動産の賃貸料を社長個人に支払うといった方法もあります。不動産所得として経費にできるため、税負担を減らすことができるでしょう。
また、「役員社宅制度」を活用して役員が住んでいる賃貸住宅の賃料を会社が負担する方法もあります。
99平方メートル以下の住宅が対象といった条件はあるものの、賃料の一部を法人の損金として取り扱うことができます。税金対策として意識しておきたいことは、法人のために支出されているのに経費として計上されていないものを探すことです。
社長個人の携帯電話代や通勤費、光熱費などの部分で業務に関係があるものを経費として計上できる可能性があります。
社長個人のクレジットカードで支払っている経費なども細かくチェックをしてみましょう。
出張費や設備投資
経費として見落としがちなのは「出張費」にあたる経費です。遠距離出張の交通費や日当など、社員が請求し忘れているケースは意外と多いでしょう。
出張旅費規程を作成して、経費を精算する仕組みを整えておくなどして、適切に経費申請できるようにすることが大切です。また、必要な機材や車両などを購入する設備投資も、税金対策としてつながります。
ただ、不必要な物品を大量に購入したり、交際費を無駄に使ったりすることは避けましょう。特に決算期にそうした支出が多いと税務署から納税逃れとみなされてしまい、経費として認められない可能性があります。
あくまでも、業務に必要な物の購入や福利厚生制度を整えるといった意味合いで、正しく税金対策を行っていくことが重要です。
正確な法人税については専門家に相談を
法人として活動を行っていると、日々の事業活動に意識が向いてしまいがちなものです。
しかし、法人税の申告や納税は毎年行わなければならないものなので、日頃から経理処理を適切に行っていく必要があります。
法人が納めるべき税金の種類を理解したうえで、法人税などの計算を行うようにしましょう。あらかじめ納税額を把握しておくことで、納税のために必要な資金を準備する余裕ができます。
また、申告と納税は事業年度が終了してから2カ月以内に行わなければならないため、事前の準備が何よりも大切です。申告が遅れてしまったり、無申告の状態が続いてしまったりすると、延滞税などが課せられる点も意識しておきましょう。
期限内の納付が難しい場合には、1人で悩まずに税務署へ相談することが大切です。
さらに、法人税を賢く抑えていくためには税金対策を行っていくことも重要でしょう。業務にとって意味のある設備投資をしたり、福利厚生制度を整えたりすることは職場環境を良くすることにもつながります。
共済や保険に加入することで役員の生活を保障し、退職金の準備や万が一のときの備えを整えることができます。
掛け金は全額もしくは一部を損金として算入することができるため、税金を抑えることにもつながるでしょう。税金対策を通じて、業務のあり方や経営の仕方を見直す良い機会となるはずです。
ただ、経営者が法人税にまつわるすべての仕組みを正しく理解するのは大変だと思います。
しかし、間違った税金対策を取っていては、税務署から経費として認められないおそれもあるので、税金やその対策について考えるときには一度、税理士や保険のプロに相談してみることをおすすめします。
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