法人の節税手法として人気を集めていた法人保険。
特に、保険料の半分もしくは全額を損金計上でき、なおかつ解約返戻率も高いといった「全損」「半損」と呼ばれる生命保険は経営者の多くが加入していました。
しかし、こういった節税目的の法人保険は以前から国税庁が問題視しており、たびたび税務上の取り扱いについて規制を敷いてきた背景があります。
そしてついに2019年2月、国税庁が節税目的の法人保険について、税務上の取り扱いを見直し新たな損金計上ルールを適用させる方針を示したのです。
これにより、法人向けの節税保険を取り扱う生命保険会社は一斉に半損・全損の保険商品を販売停止に。
今回は、この法人保険の販売停止の背景や、現在適用されている法人保険の税務上のルールについて解説。また、2021年の節税保険の現状についても説明していきます。
法人保険の販売停止と今後の保険の活用法について気になる経営者の方はぜひご覧ください。
販売停止となった節税目的の法人保険。税制改正の中身とは
2019年2月、国税庁が節税目的の法人保険について税務上の取り扱いを見直すことを発表。これにより、生命保険業界はいっせいに節税効果の高い法人保険商品の販売停止に踏み切りました。
国税庁は保険業界が販売している節税効果の高い法人向け生命保険を問題視しており、法人保険の税制改正は2019年以前にもたびたび行われています。
しかし、これまでに行われていたのは生命保険商品に対し個別に指導が入るケースがほとんどで、法人保険市場全体を揺るがすような税制改正は滅多にありませんでした。それだけに2019年の税制改正ならびに保険商品の販売停止は保険市場に大打撃を与えました。
では、2019年に販売停止になった法人保険商品は具体的にどれがあたるのか見ていきましょう。
全損・半損タイプの法人向け生命保険商品が販売停止に
販売停止の対象となった法人保険は、「全損」「半損」と呼ばれる保険料の全額または半額以上を損金計上できる定期生命保険商品です。
当時人気を集めていた全損・半損タイプの法人保険は、保険料の大半を損金計上できるうえに解約返戻率も高く、節税保険として大きな人気を集めていました。
販売停止となった全損・半損タイプの保険は、具体的には下記のものが該当します。
- 「傷害定期」「災害定期」と呼ばれる全損タイプの長期定期保険
- 半損以上の長期平準定期保険、逓増定期保険
販売停止の中に全損タイプだけでなく半損タイプの法人保険が含まれているのは、国税庁が発表した税制改正の指針の中に「解約返戻率が50%を超える法人保険の税務取扱いの見直しを検討する」といった内容が含まれていたためです。
全損だけでなく半損まで販売停止となったことは、各生命保険会社の主力商品のほとんどを奪ったことを意味します。
しかし現在では販売停止も落ち着き、各生命保険会社は国税庁による税制改正の内容に沿った保険商品の販売を再開しています。
では、販売停止と国税庁による税制改正以降、どのようなルールの元に法人保険の販売が再開されたのでしょうか。
販売再開後の法人保険は「ピーク時の解約返戻率」に基づいて損金計上
2019年2月に国税庁が法人保険の税務取り扱い見直しの方針を発表。そしてその後のパブリックコメント募集等の検討を経て、同年6月末に税制改正の通達が発表されました。
そこで定められた法人保険の税務上の取り扱いに関する新ルールを簡単にまとめると、下記のとおりです。
- 法人向けの定期生命保険について、最高解約返戻率の高さに応じて区分を設定。それぞれ決められた割合で保険料の資産計上・損金計上をしなければいけない。
- 法人向けの第三分野(がん保険・医療保険など)について、今まで大きな節税効果を期待できた「終身タイプの短期払い」も規制対象に。損金計上できる割合が制限される。
たとえば、法人向けの定期生命保険は最高解約返戻率の高さに応じて以下のような資産計上・損金計上が必要です。
最高解約返戻率 | 経理処理方法 |
---|---|
50%以下 | 全額損金計上 |
50%超~ 70%以下 |
保険期間開始後、4割の期間は 60%損金、40%資産計上 (この期間が過ぎれば全額損金) |
70%超~ 85%以下 |
保険期間開始後、4割の期間は 40%損金、60%資産計上 (この期間が過ぎれば全額損金) |
85%超 | 保険期間開始後、最高解約返戻率を 迎えるまで25%ほどを損金計上、 75%ほどを資産計上 (この期間が過ぎれば全額損金) |
上記の表は法人保険の新ルールをざっくりとわかりやすく示したもので、詳細な説明は割愛しています。
税制改正で施行された新ルールでは、解約返戻率が高いほど損金に計上できる割合が低く、解約返戻率が低いほど損金に計上できる割合が高いです。
これは、法人保険による節税効果が以前と比べて小さくなってしまったことを意味します。経営者の方にとって、法人保険の節税効果が減ってしまうことは大きなデメリットでしょう。
しかし、ここで注意したいのが、「損金計上できる割合が制限される期間を過ぎれば、その後は全額損金計上」という点。
つまり、法人保険の契約直後は確かに節税効果が小さいが、長期的な目線で見ればまだまだ節税効果は期待できる、とも言えるのです。
今回割愛した法人保険の経理処理に関する新ルールの詳細と、現状期待できる節税効果については別記事で細かく解説していますので、興味のある方はあわせて御覧ください。
ここでは、引き続き法人保険の販売停止に関するトピックとして、販売停止・税制改正の対象にならない法人保険について解説していきます。
税制改正の適用は施行以後に契約する場合のみ
先ほど説明した2019年の税制改正による新ルールは、改正の施行以降に契約する法人保険に適用されます。
具体的には、下記のとおりです。
法人保険 | 新ルールの適用日 |
---|---|
法人向けの定期生命保険 | 2019年7月8日以降 |
第三分野の保険 終身タイプの短期払い |
2019年10月8日以降 |
この適用日以前に契約していた法人保険は、以前のままの経理処理を続けて問題ありません。
また、生命保険会社が販売停止を行った保険商品についても、販売停止以前に保険契約が開始されていた場合には契約がそのまま続行されますので、契約当時の経理処理方法で損金計上を行って下さい。
今後、新たな生命保険に加入する、もしくは契約更新の際に保険商品の見直しをするという場合には、税制改正後の新ルールが適用されるので、注意しましょう。
補足:販売停止の対象にならなかった保険もある
ここまで、2019年に保険業界を揺るがした税制改正とそれに伴う一連の保険商品販売停止について解説してきましたが、実は販売停止の対象にならなかった法人向け生命保険もあります。
それは、「養老保険」です。
養老保険は社員向けの福利厚生として活用されることが多く、被保険者が死亡した際には死亡保険金が、生存したまま保険期間満期を迎えた場合には生存保険金が支払われます。
死亡時・生存時どちらの場合でも保険金が支払われるため、社員の死亡退職金・定年退職金の準備のために使われるのです。
2019年の税制改正では養老保険は対象とならず、生命保険会社も販売停止には含めませんでした。そんな養老保険ですが、使いようによっては保険料の半分を損金に算入できるため、節税手法として注目を集めつつあります。
法人保険の販売停止後、注目を集めるハーフタックスプラン
養老保険で保険料の半分を損金に計上する手法は「ハーフタックスプラン」とも呼ばれ、法人保険の販売停止以前から存在する方法です。
特に複雑な手法ではなく、従業員の福利厚生として養老保険を活用することで「福利厚生費」の扱いで保険料の半分を損金計上できるのです。
ただし、従業員の福利厚生として活用するには、事前に福利厚生規定の作成が必要。また、従業員の全員を加入対象にしなければいけない等の条件があります。
従業員全員を養老保険に加入させるとなると、その分保険料も膨らみます。節税効果は期待できるものの、保険料支払いの大きな負担というデメリットも発生することから、どんな企業でも簡単に導入できるとは言い難いのが現状です。
法人保険による法人税対策は今後も可能?経営者が気になる節税の現状
今回解説してきたとおり、節税効果の高い法人保険は販売停止となり、今後新規に加入する法人保険は税制改正後の新ルールに従わなければいけません。
そんな状況の中で、経営者の方の一番の懸念は「今後も法人保険による節税はできるか?」という点ではないでしょうか。
ここでは、法人保険の販売停止や税制改正が行われて以降、法人保険による節税効果はどう変わったのかを解説します。
販売停止以降も節税効果の期待できる法人保険はある
実際のところ、確かに販売停止以前よりも法人保険を活用した節税対策は難しくなっています。しかし、今後も法人保険による節税効果は十分見込めます。
たとえば、70%超~85%以下の生命保険では、保険期間開始後4割の期間は40%損金、60%資産計上です。
一見すると、「この保険は40%損金」と判断してしまいがちですが、実際は契約当初4割の期間を過ぎれば保険料の全額を損金に計上することが可能。
保険を解約するタイミングにもよりますが、保険解約までの長期的な目線で考えれば累計の損金計上割合は50%~60%にものぼります。これを踏まえて考えると、法人保険による節税対策はまだ十分可能と言えるのです。
法人保険の経理処理のルールが複雑になり、一見しただけでは法人保険の節税効果をはかりにくくなってしまいました。しかし、よくよく考えれば今後も経営者の皆さんに役立つ節税対策はできます。
節税対策にお悩みの経営者の方は、今一度法人保険を選択肢の1つとして検討してみるのも良いでしょう。法人保険を活用した節税についてより詳しく知りたいという方は、下記の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。
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