法人保険の名義変更プランは、過去に「企業や経営者の節税方法」として広まった方法のひとつです。

仕組みはシンプルで、会社で入った“解約返戻金のある生命保険”を、解約返戻金が低い時期に、会社から役員など個人へ名義を変えるというものです。

当時の税務では、名義変更時の「保険の価値」を、そのときの解約返戻金と同じ金額で評価する考えが基本でした。その結果、評価を低く見積もれるケースが生まれ、個人側の税金も抑えることが可能でした。

しかし、2021年から税制の取り扱いが変わり、現在は節税スキームとしての有効性はほぼゼロとなっています。

本記事では、節税スキームとして使われていた名義変更プランの仕組みや、税制見直しによる影響、「いま名義変更プランを活用するメリット」について、わかりやすく解説していきます。

名義変更プランの概要

法人保険の名義変更とは、法人が契約者になって生命保険に入り、途中で契約者を役員などの個人へ変えることです。つまり、契約者を「会社 → 個人」に切り替えることを指します。

そして、この手続きを使って「企業や経営者の税金を安くする方法」として広まったのが名義変更プランです。

節税スキームとしての名義変更プランの流れ

  1. 法人が解約返戻金のある保険に加入する
  2. 解約返戻率が低いうちに、法人から個人へ名義変更する
  3. 解約返戻率が上がったところで、個人は保険を解約し、解約返戻金を受け取る

【用語解説】

・解約返戻金…解約したときに保険会社から戻るお金。

・解約返戻率…これまで払った保険料に対して、解約返戻金がどれくらい戻るかの割合。

この方法が成り立っていたいちばん大きな理由は、当時は名義変更のときの“保険の価値”が、基本的にその時点の解約返戻金(前納保険料などがあればそれも含む)で決まる、と解釈されていたからです。

解約返戻金が小さい時期なら、名義変更のときの資産価値も小さくなります。そうすると、個人側の税金も小さくなり、税負担を抑えて資金移転ができました。

名義変更プランが節税スキームとして成立した3つの要因

名義変更プランが節税スキームとして広まった背景は、3つの要因があります。

1つ目は、返戻率の設計です。解約返戻金がしばらく低く抑えられ、あとから大きく上がるタイプの保険により、個人は少ない負担で高額の解約返戻金を受け取る、という形が作れました。

2つ目は、個人の税金のかかり方です。個人の税制上、役員報酬などの「給与所得」で課税されるより、解約返戻金などの「一時所得」として課税されたほうが、控除などの関係で税負担が軽くなります

3つ目は、法人側での経理処理です。法人が保険料を支払うことで、保険料の一部または全部が当期の損金になり得るため、短期的な利益圧縮(課税繰延)の効果が狙えます。

この3つが重なることで、法人にも個人にもメリットがあるスキームとして、人気を集めました。

要因①:「低解約返戻金型逓増定期保険」の存在

低解約返戻金型の逓増定期保険は、契約の最初の数年は解約返戻率を低くし、途中から解約返戻率が大きく上がるように作られた保険です。

契約から数年間の返戻率は1~10%程度で推移しますが、ある年にピークを迎え、85%などの高い返戻率になります(実際の期間や返戻率は商品によります)。

低解約返戻金型逓増定期保険の返戻率推移低解約返戻金型逓増定期保険の返戻率推移(例)

【例:保険料が年500万円の場合】

・4年目の解約返戻率が10%とした場合、
それまでの保険料合計は 500万円×4年=2,000万円、
解約返戻金は 2,000万円×10%=200万円 です。

・その翌年、解約返戻率が80%に上がったところで解約できるとした場合、
それまでの保険料合計は 500万円×5年=2,500万円、
解約返戻金は 2,500万円×80%=2,000万円 です。

4年目の「返戻金が200万円の時期」に名義変更すれば、「法人から個人へ、200万円の資産が移転した」と当時は解釈できました。これを翌年、「返戻金が2,000万円のとき」に解約すれば、個人は少ない負担で高額な資金を受け取れます。

名義変更のとき、法人からの名義変更をどのような形式で行うかで、個人の負担形式も変わります。

・例1:個人がそのときの解約返戻金額で保険を「買い取る」
→支払代金の支出

・例2:法人から役員報酬や退職金として「現物支給する」
→所得税の課税(給与所得や退職所得)

・例3:個人がそのときの解約返戻金額より「低額で買い取る」
→支払代金の支出+差額分の所得税(解約返戻金と買取代金の「差額」が給与等になる)

要因②:個人の税制(給与所得と一時所得の違い)

ただ法人から個人へ金銭を渡したいなら、単純に給与や賞与として現金を渡せば済みます。しかし、解約返戻金は「一時所得」として扱われることから、個人側の税制上メリットがありました。

一時所得とは、営利目的ではない「一時的な収入」に対する所得区分です。課税されるときは、次のような計算を行います。

一時所得 = { 受け取った金額 – (支出した金額) – 特別控除50万円 } × 1/2

計算式上、受け取った金額に対して大幅に課税所得が減るようになっています。

【例:買い取りで名義変更後、2,000万円を受け取って解約した場合】
(買い取り代金200万円、追加の保険料負担なし)

「{ 2,000万円 – 200万円 – 50万円 } × 1/2 = 875万円」で、875万円が一時所得として課税対象になる。

※上記は「追加の保険料負担なし」のケースですが、もし名義変更後に個人が支払った保険料があれば、「そのために支出した金額」として控除に加えます。

給与所得にも一定の控除(給与所得控除)はありますが、一時所得ほどの圧縮効果はありません。

このように、給与所得より一時所得のほうが優遇されていることが、節税スキームの成立要因として機能していました。

要因③:法人の税制(損金算入と利益圧縮)

法人側の視点で見た場合、短期的な課税の繰延と、その出口戦略が取れるというメリットがあります。

詳しい条件や計算方法は省きますが、法人が保険に加入すると、次のような経理処理が発生します。

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定期保険・第三分野保険の資産計上ルール(概要)
最高解約返戻率 資産計上期間 資産計上(当期分) 資産計上期間の終了後 取崩期間
※資産計上分を損金化する期間
50%超~70%以下 保険期間の40%まで 40%資産/60%損金 全額損金 75%経過後~満了:
当期分は全額損金+資産累計を均等取崩して損金
70%超~85%以下 同上 60%資産/40%損金 全額損金 同上
85%超 返戻率推移などをもとに別計算 返戻率などをもとに別計算 全額損金 90%経過後~満了:
均等取崩(細目あり)

法人が保険に加入すると、保険料の損金算入(経費計上)によって、当期の所得圧縮ができます。つまり、短期的に課税負担を減らせる(繰延べられる)ということです。

ただし、法人が解約返戻金を受け取ると益金になり、それまでに計上した「取り崩し前の資産計上分」と精算のうえ課税処理が生じます。解約返戻金が資産計上額より高ければ、その差額が益金になります。

一方、解約返戻金が少ないうちに名義変更すれば、そのときの解約返戻金額と資産計上額で精算し課税処理を行います。すると「解約返戻金が資産計上額より低い状態」を作りやすくなり、結果として名義変更した年度の利益圧縮にもつながります。

つまり、名義変更プランなら「損金算入による課税の繰延」だけでなく、繰り延べた課税をキャッシュアウトなしで解消し、資産計上額と解約返戻金額の差額による「さらなる利益圧縮」を狙うことが可能でした。

税制通達の見直しで何が変わったか

ここまで解説した税務スキームとしての名義変更プランですが、2021年7月1日から適用された税制の見直し(ホワイトデーショック)により、その有効性が失われています。

この見直しで最も大きく変わったのは、保険を名義変更するときの評価方法が、従来の「解約返戻金額」では評価しないパターンが明示された点です。

これにより、「評価額(解約返戻金額)が低いときに名義変更を行う」という手法が、原則として成り立たなくなりました。

名義変更時の評価方法が「資産計上額」で判断されるケースが明示された

見直しでは、“保険の価値”をそのときの解約返戻金で評価する方法に、以下のような制限が加えられました。

解約返戻金額が名義変更時点の「資産計上額の70%」より小さいときは、そのときの資産計上額で評価する

つまり、返戻率10%などの解約返戻金が低いときに名義変更しても、「安く移す」というスキームが使えなくなりました。

具体例

【前提】:
年500万円、保険料の資産計上割合60%、加入4年目(返戻率10%)で名義変更するケース

  • 解約返戻金:
    →500万円 × 4年 = 2,000万円
    →2,000万円 × 10% = 200万円
  • 資産計上額:
    →500万円 × 4年×60% = 1,200万円
  • 資産計上額の70%:
    →1,200万円 × 70% = 840万円

この例では、解約返戻金(200万円)が資産計上額の70%(840万円)より小さいので、名義変更のときの価値は資産計上額(1,200万円)で評価します。

つまり、以前のように「解約返戻金が低いうちに名義変更」という形をやっても、評価額を抑えられないため、個人の負担が大きくなります。

また、法人も「解約返戻金額と資産計上額を精算」という過程がなくなり、名義変更による当期の利益圧縮ができません。

つまり、この見直しで個人側も法人側も、従前のメリットを享受できなくなったのです。

節税スキーム以外で名義変更をするメリットは?

節税スキームとしてのメリットは失われましたが、現行制度においても、法人保険の名義変更には一定のメリットはあります。

そもそも法人保険は、役員などに万が一があったときの運転資金や弔慰金準備など、事業保障を目的として加入するのが基本です。

しかし、事業保障のために入っていた保険を、被保険者である役員が退任後に法人側で維持し続けるのは非合理的です。

そこで名義変更を行えば、法人は解約返戻金によって「利益の出すぎ」を避けられ、個人は保障を継続したまま引き継ぐことができます。

経営者本人の「老後の保障」として確保しても良いですし、役員退職金や従業員の福利厚生として設計すれば、モチベーションアップにつながるでしょう。

いま加入している保険の名義変更を検討する、あるいは加入段階から名義変更を想定しておくことで、法人保険の柔軟な活用が可能になります。

まとめ

名義変更プランは、過去に「節税スキーム」として成立していた考え方がありました。しかし、span class=”marker-bold”>2021年7月以降の税制通達見直しにより、現在は節税効果をほぼ失っています。

一方で、名義変更プランではなくても、法人保険には様々な利点があります。「法人から個人への名義変更」という手法自体は、老後保障や退職金代わりなどのメリットがあるため、設計段階から出口戦略として組み込むのもひとつの方法です。

法人保険の加入は、企業の財務、さらには経営そのものにも影響を及ぼし得る施策です。保険代理店や税理士など、専門家にも相談しつつ、自社に最適な保険プランを設計しましょう。

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