企業が経営者・役員・従業員の退職金制度を導入する際、法人保険の活用は柔軟性や税制上のメリットがあり、有力な選択肢となります。
本記事では、法人保険を活用した退職金制度のメリットや他の制度との比較、導入時の注意点などを詳しく解説します。
退職金制度の導入に法人保険の活用を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
退職金準備で法人保険を活用する仕組みとは?

法人保険を活用した退職金準備は、「解約返戻金」や「満期保険金」を退職金の資金に充てるのが基本的な仕組みです。
- 解約返戻金…解約時に保険会社から支払われるお金
- 満期保険金…保険期間が満期を迎えたときに保険会社から支払われるお金
企業を契約者、経営者・役員・従業員を被保険者として保険に加入し、保険料は企業側が負担します。
保険商品によって解約返戻金や満期保険金の有無は異なるため、退職金準備に適したプランを選ぶことが大切です。
企業の退職金制度で法人保険を活用するメリット4つ
退職金制度の導入にあたって法人保険を活用するメリットは以下の通りです。
- 保険料を損金算入できる
- 病気やけがの万が一に備えられる
- 契約者貸付制度が使える
- 名義変更による現物支給ができる
ただ退職金を準備できるだけでなく、財務戦略や人材確保の観点から多くの恩恵があります。
それぞれどのようなメリットなのか、詳しく解説していきます。
1.保険料を損金算入できる
法人保険の保険料は、一部または全額を損金として計上できます。これにより、法人税の負担を軽減しつつ、退職金の原資を積立可能です。
ただし、損金算入できる割合は最高解約返戻率※が高いほど割合が少なくなります。また、解約返戻金や満期保険金の受取時には益金として計上するため、総合的な課税額は変わらないことにも留意が必要です。
※最高解約返戻率…保険期間中、支払済保険料に対して解約返戻金の割合がもっとも高いときの比率。
あくまで課税の繰延(先延ばし)ですが、損金算入により保険期間中の税負担を軽減できるため、資金繰りの柔軟性を高められます。
2.病気やけがの万が一に備えられる
退職金準備に使える法人保険は、一般的な保険の保障機能も備えています。具体的には、被保険者の病気やけが、死亡や高度障害などの保障です。
経営者や役員を被保険者にすれば、キーパーソンがいなくなったときの信用力低下や事業承継などにかかる対処費用を保険金から支払えます。従業員に対しては、福利厚生として勤労意欲向上や人材定着に効果的です。
遺族の生活保障や相続税対策としても活用できるため、予期せぬリスクに手厚く備えられます。
3.契約者貸付制度が使える
法人保険には、解約返戻金の一定割合を担保として融資を受けられる「契約者貸付制度」が付いているものがあります。一般的に、その時点の解約返戻金に対して70〜90%相当額まで借入可能です。
審査不要で利用できるので、金融機関で融資を受けるよりスムーズに資金調達ができます。また、一般的なローンと比べて、利息や返済期間などの条件もそれほど厳しくありません。
所定の期間内に返済すれば保険契約も維持できるため、柔軟な資金繰りが可能になります。
4.名義変更による現物支給ができる
退職時、保険契約を会社から個人へ名義変更することで、保険そのものを退職金代わりに支給できます。退職後に保険の新規加入が難しい場合でも、現物支給なら従来の保険契約を継続可能です。
相続や健康状態など、退職時の状況に合わせて支給方法を選べます。
退職金準備におすすめの保険タイプ

さまざまな種類がある法人保険の中でも、特に退職金準備に適しているタイプをいくつか紹介します。
あくまで一例なので、詳しくは法人コンサルティングに強い保険代理店へ相談しましょう。
逓増定期保険(経営者・役員向け)
逓増定期保険は、保険期間の経過とともに保険金額が増加する定期保険です。契約から数年間は基準保険金額が設定され、その後段階的に最大5倍まで上がります。
短期間で解約返戻金が増加する特性があり、近い将来の退職金準備に適しています。
長期平準定期保険(経営者・役員向け)
長期平準定期保険は、保険期間中の保険金額が一定の定期保険です。保険期間が90歳~100歳前後の商品が多く、終身保険に近い保障を受けられます。
解約返戻金のピークはおおむね10〜20年後に設定されており、その後の低下も緩やかなので、勇退時期が流動的な経営者の退職金準備に適しています。
養老保険(従業員向け)
養老保険は、一定期間内に被保険者が死亡した場合に死亡保険金が、満期まで生存した場合には満期保険金が支払われる保険です。
全従業員を対象にするなど「福利厚生」としての要件を満たせば、最高解約返戻率にかかわらず保険料の半額を損金算入できる点が特徴です。
他の退職金制度との比較

企業が退職金制度を導入するときは保険以外にもさまざまな方法があり、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。
以下は、法人保険と他の主要な制度との比較をまとめたものです。
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制度名 | 特徴 | 注意点 | どのような企業に向いているか |
---|---|---|---|
法人保険 | ・保険料の一部を損金算入可能 ・解約返戻金を退職金原資に活用 ・契約者貸付制度の利用が可能 ・名義変更による現物支給が可能 |
・税制改正により損金算入の制限あり ・解約返戻金のピーク時期に注意が必要 ・保険商品選定の専門知識が必要 |
・役員や経営者の退職金準備を効率的に行いたい企業。 ・節税効果や資金の流動性を確保したい場合。 |
預金 | ・自社で柔軟な制度設計が可能 ・安定的かつ安全に資金を積み立てられる |
・資金流用のリスクあり ・退職時にまとまった資金が必要 ・資金増加の観点から見ると非効率 |
・制度設計や運用の柔軟性を重視する企業。 ・短期間での導入を検討している企業。 |
確定給付企業年金(DB) | ・退職金額が事前に確定 ・従業員の安心感が高い ・運用は専門機関が担当 |
・企業が運用リスクを負担 ・制度設計が複雑 ・導入・維持コストが高い |
・従業員に安定した退職金を提供したい企業。 ・長期的な人材確保を目指す企業。 |
企業型確定拠出年金(企業型DC) | ・企業の負担が掛金のみに限定 ・運用リスクは従業員が負担 ・税制優遇あり |
・従業員の運用知識が必要 ・運用成果により退職金額が変動 ・60歳まで引き出し不可 |
・従業員の金融リテラシーが高く、自主的な資産形成を促進したい企業。 ・企業が将来の退職金支払い額を固定化したい場合。 |
中小企業退職金共済(中退共) | ・国の制度で信頼性が高い ・掛金が全額損金算入可能 ・従業員の定着率向上に寄与 |
・経営者・役員は加入不可 ・掛金の減額が難しい ・死亡退職金の準備には不向き |
・自社で退職金制度を構築するのが難しい中小企業。 ・国の助成金を活用したい企業。 |
小規模企業共済 | ・個人事業主や役員向け ・掛金が全額所得控除対象 ・解約手当金の受取が可能 |
・加入期間が短いと受取額が少ない ・中途解約時の返戻率が低い ・加入資格に制限あり |
・経営者自身の退職金準備をしたい場合。 ・節税効果を活用しながら資産形成を目指す場合。 |
他の制度と比べると、法人保険は退職金準備・保障・資金繰り・節税(課税の繰延)のすべてに一定の効果が見込める点が特徴です。保険プランの選定や運用に専門知識は必要ですが、柔軟かつバランスよく資金計画を立てられます。
各制度を組み合わせることも可能
どれか1つの方法に絞らず、複数の制度を組み合わせて退職金制度を整備することも可能です。
- 預金 + 法人保険: 社内積立で基本的な退職金を準備しつつ、法人保険で万が一に備えた保障を確保。
- 中退共 + 企業型DC: 中退共で基本的な退職金を確保し、企業型DCで従業員の自主的な資産形成を促進。
- 確定給付企業年金(DB) + 企業型DC: DBで一定の退職金を保証し、DCで追加の資産形成を支援。
企業によって適切な組み合わせ方は異なるため、FPなどの専門家と相談しながら最適なプランを練りましょう。
導入時の注意点と手続きの流れ

最後に、法人保険で退職金準備を始めるときの手続きとポイントを解説します。
重要点を把握し、スムーズに導入できるようにしましょう。
1. 保険プランの検討と選定
まず、企業のニーズや退職金制度の目的に応じて、適切な保険商品を選定します。
「逓増定期保険」「長期平準定期保険」などの保険タイプが同じでも、商品によって細かい内容が異なります。保険代理店などに相談し、自社のニーズに合ったものを選びましょう。
2. 申込書の提出
契約者(企業)と被保険者(経営者・役員・従業員)が申込書に署名・捺印し、必要事項を記入します。
3. 告知(診査)
被保険者の健康状態や職業などについて、告知書に正確に記入します。告知義務違反は契約解除や保険金の支払い拒否といったリスクがあるため、虚偽せず正確に伝えることが大切です。
4. 保険料の払込み
1回目の保険料を指定の方法で支払います。払込方法は、口座振替や振込、クレジットカード払いなどがあります。
5. 契約の成立と保険証券の受領
保険会社が申込書類や告知内容を確認・審査し、承諾すると契約が成立します。その後、保険証券や契約内容通知書が送付されるので、内容に誤りがないか確認しましょう。
6. クーリング・オフ制度の確認
契約後、一定期間内であれば、クーリング・オフ制度を利用して契約を撤回することが可能です。詳細は、契約時に受け取る「ご契約のしおり」などの書類で確認しましょう。
7.退職金規程の策定
退職金制度を導入する際には、退職金規程を策定し、就業規則に明記することが重要です。これにより、従業員に対して制度の内容を明確に伝え、制度の透明性を確保できます。
具体的な記載項目は以下の通りです。
- 退職金制度の対象者や支給要件
- 退職金の計算方法
- 減額・不支給の条件
- 支払い方法
- 支払い時期
- その他必要事項
8.従業員への説明
従業員の福利厚生として導入する場合は、適切な説明と理解促進も大切です。説明会の開催や個人面談、資料の配布など、制度の詳細を丁寧に伝えましょう。
まとめ

法人保険を活用した退職金の準備は、保険料の損金算入や万が一の保障など、経営上のさまざまなメリットがあります。柔軟かつ効率的な退職金制度を導入したい場合、有力な選択肢の1つです。
ただし、保険会社も保険商品も数多くある中、最適なプランを選ぶためには専門的な知識が必要になります。
まずは法人コンサルティングに特化した保険代理店に相談し、自社のニーズからどのようなプランが良いかアドバイスしてもらいましょう。
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