役員を退任したのに退職金の話が一向に出てこない、規程はあるはずなのに支給されない。そうした場面で最初に押さえておきたいのは、役員退職金(役員退職慰労金)は退任したという事実だけで当然に請求権が生まれるものではない、という点です。

同じ「もらえない」でも、そもそも請求できる権利が発生していない状態と、権利はあるのに会社が支払っていない状態では、取るべき行動も別物です。

本記事では、役員退職金がもらえないときに確認すべきこと、どのようなケースでもらえないかなどをわかりやすく解説します。

役員退職金は退任すればもらえる?まずは支給根拠を確認する

役員退職金の支給を会社に求めるとき、出発点になるのは「支給の根拠がどこにあるか」です。

役員退職金の支給に関するルールや決定は、主に次の3つです。

  • 定款の定め:
    役職に応じて、報酬等の額や支給に関する事項を定める会社の基本ルール
  • 役員退職慰労金規程:
    支給対象や算定方法、支給時期などを定めた内部の規程
  • 会社で行われた決定:
    株主総会決議をはじめ、役職や会社の機関設計に応じて必要となる支給・金額に関する決定

必要となる決定や手続きは、役職や会社の機関設計によって異なります。どのルールや決定にもとづき、どこまで手続きが進んでいるのかを確かめることで、その後の見通しを立てやすくなります。

具体的な請求権が発生するまでの流れ

役員退職金の請求権がいつ発生するかは、役職や定款・規程の内容、会社で必要な決定がされているかなどによって異なります。

典型的には、次のような段階を経ます。

  1. 役員が退任する
  2. 定款や規程に支給条件が定められている場合は、その条件を満たす
  3. 法令や定款上、株主総会決議などの手続きが必要な場合は、役職や機関設計に応じた決定・協議が行われる
  4. 個別の金額について別途決定・協議が必要な場合は、その手続きを経て金額が確定する

役員退職金がもらえない4つのケース

役員退職金がもらえない4つのケース

役員退職金が支払われない状況は、大きく4つに分けて考えられます。

ケース状況見分けるポイント
① 支給根拠がない定款・規程に定めがなく、必要な決定・協議も行われていないほかに支給の根拠となる決定や資料があるか
② 規程はあるが株主総会決議など必要な決定がされていない役員退職慰労金規程はあるものの、役職や機関設計に応じて必要な決定・協議が完了していない株主総会決議があるか、その後に必要な個別額の決定・協議まで済んでいるか
③ 不祥事などを理由に減額・不支給とされた会社が不祥事や損害を理由に退職金を減額する、または支給しない減額・不支給の根拠があるか、会社として正式に決定されているか
④ 支給内容が確定しているが支払われない支給や金額が決まっているが入金がない支払時期、入金状況、分割払いの状況

同じ「もらえない」でも、権利がまだ生まれていない状態と、権利があるのに会社が動かない状態とでは、性質がまったく違います。

自分がどのケースに立っているかによって、会社に尋ねるべき内容も、確認すべき資料も変わります。

① 役員退職金の支給根拠がない

定款や規程、株主総会決議など、役員退職金の支給根拠がない場合は、原則として退職金はもらえません。

ただし、役員退職慰労金規程がないだけなら、支給される可能性はあります。株主総会決議など、役職や会社の機関設計に応じて必要な決定・協議によって、個別に支給が決まる場合があるためです。

役員退職慰労金規程がない場合は、定款や株主総会議事録などから、規程以外に支給の根拠となる決定がないかを確かめましょう。過去の役員に退職金が支給されている場合は、どのような定めや決議に基づいて支給されたのかも確認の手掛かりになります。

② 規程はあるが株主総会決議など必要な決定がされていない

役員退職慰労金規程に勤続年数や役位に応じた算定方法が定められていても、それだけで具体的な請求権が確定するとは限りません。

法令や定款上、株主総会決議などが必要な場合や、個別額について別途決定・協議が必要な場合は、それらの手続きまで確認する必要があります。

たとえば、退職金の議案が株主総会に出されていないケースや、議案が否決されたケース、株主総会決議はあるものの個別の金額について決定・協議が終わっていないケースなどがあります。

③ 不祥事などを理由に減額・不支給とされた

不祥事や会社への損害を理由に、役員退職金を減額されたり、支給しないと告げられたりするケースでは、まず会社が何を根拠に減額・不支給としているのかを把握します。

規程や内規の条項を根拠としているのであれば、どの条項を適用しているのか、その条件に実際に当てはまるのかをチェックします。あわせて、担当者が口頭で説明しているだけなのか、会社としての正式な決定事項なのかも確認しましょう。

④ 支給内容が確定しているが支払われない

役員退職金の支給額まで確定しているにもかかわらず、会社から支払われないケースでは、まず支払時期を確認します。

支払日が具体的に定められている場合、その期日が過ぎていれば支払いを求めます。支払時期が定められていない場合は、会社に支払いを求めるとともに、いつ支払う予定なのかを問い合わせましょう。

会社に支払いを求めても応じない場合は、支払督促や民事調停、訴訟などの法的手続きを検討します。

「もらえない」と「未払い」は分けて考える

「もらえない」と「未払い」は分けて考える

役員退職金が支払われていない場合は、まず「支給や金額について必要な決定・協議がまだ終わっていない」のか、「必要な決定・協議が済んでいるのに支払われていない」のかを分けて考える必要があります。

確認事項や論点、対応方法などは次のとおりです。

必要な決定・協議が済んでいない状態支給内容が確定しているが未払いの状態
確認すること定款・規程などの支給根拠、株主総会などの決定状況支給額、支払時期、これまでの入金状況
会社との論点退職金の支給について必要な決定・協議が済んでいるか決まった退職金をいつ、どのように支払うか
対応の方向性支給根拠と決定状況を確認する会社に支払いを求め、応じない場合は法的手続きを検討する

「資金がない」と言われたときの対応

会社から「資金がないから退職金を払えない」と言われた場合は、まず「支払いに必要な決定・協議が済んでいるか」を整理します。

支給内容がすでに確定している場合、会社に資金がないという事情だけで支払義務がなくなることはありません。延期や分割払いを求められた場合は、支払額や支払日などの条件を明確にし、応じるかを判断します。

一方、支給自体が決まっていない場合や、支給は決まっていても具体的な金額がまだ決まっていない場合は、どの決定・協議が残っているのかを確認します。会社が資金不足を理由に判断を保留しているのであれば、いつ、どのような条件で決定する予定なのかを問い合わせましょう。

会社が退職金を支給しない方針を示している場合は、定款や役員退職慰労金規程、退任時の合意、これまでの決定経緯などから、不支給の判断を争う余地があるかを検討します。会社との話し合いで解決しない場合は、専門家への相談も選択肢です。

役員退職金がもらえないときに確認する資料

役員退職金がもらえない理由を確認するには、会社でどのようなルールが定められ、退任後の支給についてどこまで決定されているかを判断する資料が必要になります。

資料主に確認すること
定款対象となる役職の報酬等について、支給や金額に関する定めがあるか
役員退職慰労金規程支給対象、算定方法、支払時期、減額・不支給・一時差止めなどの定めがあるか
株主総会議事録株主総会決議で退職慰労金の支給や金額などが決められているか、さらに別の機関等による決定が必要とされているか
個別額の決定に関する資料(取締役会議事録、監査役等の協議内容が分かる資料など)具体的な金額について必要な決定・協議が行われているか
退任時の合意書・覚書退職慰労金の支給や金額、支払時期などについて会社とどのような取り決めをしているか
会社からの通知書・メールなど支給・不支給の判断、減額理由、支払予定日、分割払いなどについて会社がどのように説明しているか
不祥事に関する調査報告書など会社が減額・不支給の理由としている事実や調査結果がどのようなものか
過去の役員への支給資料過去にどのような基準や決定手続きを経て退職慰労金が支給されていたか
振込記録・通帳など支給済みの金額や、分割払いが予定どおり行われているか

実際に必要な資料は、自分が置かれている状況によって異なります。

支給や金額について必要な決定・協議が完了していない場合
定款、役員退職慰労金規程、株主総会議事録、個別額の決定に関する資料など
減額・不支給とされている場合
役員退職慰労金規程、会社からの通知、議事録、不祥事に関する調査報告書など
支給内容は確定しているが未払いの場合
支給額や支払時期がわかる議事録・合意書、会社からの通知、振込記録など

定款・規程・議事録を見せてもらえないときの対処方法

会社に資料の開示を断られる場合、まず自分の立場と閲覧したい資料を整理しましょう。

会社法には、株主や会社債権者が一定の要件のもとで会社の書類を閲覧・謄写できる制度があります。たとえば、定款や株主総会議事録、計算書類については、株主・債権者なら閲覧が可能です。

一方、取締役会議事録などは閲覧の要件が異なり、裁判所の許可が必要となる場合もあります。また、役員退職慰労金規程などの社内規程は、元役員でも当然に閲覧できるとは限りません。

そのため、会社が資料を出してくれない場合は、まず自分が株主や債権者として閲覧制度を利用できるかを確認します。あわせて、会社に対して支給・不支給や減額の根拠、どの機関でどのような決定がされたのかを確認し、回答や通知はできるだけ書面で残しておきましょう。

会社との話し合いで解決しない場合は専門家に相談

役員退職金をめぐる争いは、規程の文言や議事録の一行、株主構成といった個別の事情で結論が変わります。

次のような場面に心当たりがあるなら、弁護士など専門家に相談することを検討しましょう。

弁護士などへの相談を検討すべきケース
  • 役員退職慰労金規程があるのに、退任後しばらく経っても支給の話が進まない
  • 退職金の議案が株主総会に出されない、または否決された
  • 支給は決まったものの、個別の金額について必要な決定がされないまま手続きが止まっている
  • 不祥事や会社への損害を理由に、基準額から大幅に減額された
  • 支給決議も金額の確定も済んでいるのに入金がない、分割払いが途中で止まった
  • 定款や規程、議事録の開示を会社から断られている

相談の際は、手元に集めた資料と、退任に至る経緯を時系列で整理して持参すると話が早く進みます。どの段階で手続きが止まっているのかが見えれば、その後の方針も定まりやすくなります。

よくある質問

役員退職金について、支給されない場合や役員就任・死亡退任など、判断に迷いやすいケースを整理します。

退職金がもらえないのは違法ですか?

役員退職金が支払われないからといって、直ちに違法になるわけではありません。まず、定款や株主総会決議などに基づいて、具体的な退職金請求権が発生しているかを確認する必要があります。

具体的な退職金請求権がまだ発生していない段階であれば、支払われていないこと自体を債務不履行とはいえません。一方、支給額が確定し、支払うべき時期になっているのに会社が支払わない場合は、債務不履行として支払いを求められます。

従業員から役員になった場合、従業員時代の退職金はどうなりますか?

役員になったからといって、従業員時代の退職金が必ずその時点で支給されるわけでも、受け取れなくなるわけでもありません。従業員としての雇用関係が役員就任時に終了したのか、従業員としての地位も残っているのかによって扱いが異なります。

会社の退職金規程で、従業員から役員になった際に従業員期間分の退職金を精算することとしている場合は、役員就任時に支給されることがあります。

役員が死亡退任した場合、遺族は退職金を受け取れますか?

役員が死亡によって退任した場合、遺族に役員退職金が支給されることがあります。ただし、死亡したという事実だけで支給が決まるわけではありません。

まず、役員退職慰労金規程に死亡退任時の取扱いが定められているか、株主総会などで支給や金額が決定されているかを確認します。あわせて、規程や支給決議などで、誰が受取人として定められているかも確かめましょう。

支給が決まった後に会社が規程を廃止・変更した場合はどうなりますか?

すでに具体的な退職金請求権が発生している場合、会社がその後に規程を廃止・変更したからといって、発生済みの権利が当然に失われたり減額されたりするわけではありません。

一方、規程が変更された時点でまだ具体的な請求権が発生していなかった場合は、変更後の規程がどのように適用されるかを別途確認する必要があります。

まとめ

役員退職金がもらえないときは、まず「支給そのものが決まっていない」のか、「支給内容は決まっているのに支払われていない」のかを見極めることが重要です。

会社から説明がなくても、規程が見当たらなくても、それだけで結論は決まりません。定款や株主総会議事録、会社からの通知などを手掛かりに、自分がどの段階にいるのかを把握しましょう。

そのうえで、会社に確認すべきことを絞り込み、必要に応じて支払いを求めたり、専門家へ相談したりします。状況が曖昧なままでも、資料と経緯を一つずつ押さえていけば、次に取るべき行動は見えやすくなります。

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