
平成29年10月、経済産業省は「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」の中で、事業承継問題をこのまま放置すると、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性があるという試算を公表しました。
また、今後10年の間に70歳前後を迎える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人とされ、うち約半分の127万人(日本企業の約3割)が後継者未定とされています。
こうした状況を背景に、政府は平成21年に「事業承継税制」を創設し、その後も見直しを重ねてきました。一方で、制度は「使えば必ず税負担がゼロになる」といった単純な仕組みではなく、要件・手続きの理解が欠かせません。
この記事では、事業承継税制の基本と、制度を活用する際に押さえておきたい要件・注意点、あわせて生命保険の活用イメージを解説します。
これまでの事業承継税制
事業承継税制は、非上場株式等の承継に伴う贈与税・相続税について「納税猶予」と、一定の要件を満たした場合の「免除」を設ける制度です。
『事業承継税制』とは、平成21年度税制改正で創設された税制で、正式名称を「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除」および「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除」といいます。
中小企業が発行する非上場株式を、現経営者(現オーナー)から次の経営者(次オーナー)へ移す際に生じ得る贈与税・相続税について、一定の要件のもとで納税を猶予し、要件を満たし続けた場合に免除となる可能性がある仕組みです。
ただし、施行当初は適用要件が厳しく、実務面の負担も大きかったことから、利用が広がりにくい時期がありました。
そこで、平成27年に一部要件の見直しが行われ、さらに平成29年12月14日に公表された税制改正大綱で、事業承継を後押しする方向で要件の緩和が示されました。
平成30年度の税制改正と事業承継
平成30年度税制改正の「特例措置」では、一定の条件を満たす場合に、非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税が猶予され、継続要件を満たし続けることで免除となる可能性があります。
従来の枠組みと比べ、特例措置では対象範囲や運用面が拡充され、制度利用の選択肢が広がりました。ただし、制度は「税金を支払う必要が完全になくなる」といった一律の話ではありません。
要件(代表者要件、株式の保有継続、届出・報告など)を満たせなくなった場合には、猶予された税額(利子税を含む)の納付が必要になることがあります。
制度のメリットを見込むほど、要件管理・期限管理の重要性も高くなります。制度を使うかどうかは、事業計画や承継の選択肢と合わせて検討することが大切です。
特例措置を利用する際に押さえたい要件
特例措置では「要件を満たし続けること」と「届出・報告などの期限管理」がセットになります。
制度の細目は多岐にわたりますが、実務で特に確認が必要になりやすい論点を、代表的な3点に絞って整理します。
- 後継者の代表者要件(一定期間)
- 株式等の保有継続(一定割合・一定期間)
- 雇用要件(運用上の柔軟化を含む)
後継者の代表者要件(一定期間)
制度適用後は、原則として後継者が代表者であることが求められます。要件を満たせなくなった場合には、猶予された税額(利子税を含む)の納付が必要になることがあります。
株式等の保有継続(一定割合・一定期間)
特例措置では、承継した株式等について、一定の保有継続が求められます。M&Aや資本提携など将来の経営判断にも関わり得るため、承継後の資本政策・出口戦略と合わせて検討しておくことが重要です。
雇用要件(運用上の柔軟化)
雇用については、承継時点の従業員数に対して「5年間平均で8割以上」を掲げる要件があります。ただし特例措置では、業績悪化などやむを得ない事情がある場合に、理由を説明する手続きにより、直ちに猶予が取り消されない運用となっています。
一方で、制度利用後は継続的な届出・報告などの手続きが必要になるため、実務では「要件管理」と「期限管理」をセットで進めることが大切です。
「免除」ではなく「猶予」から始まる点に注意
特例措置は、まず「納税猶予」がかかり、要件を満たし続けた場合に「免除」となる可能性がある制度です。
たとえば、制度を使って承継した場合、本来は多額の贈与税(または相続税)が発生するケースでも、まずはその税額の納付が「猶予」されます。
その後、一定の要件を満たし続けることで免除となる可能性がありますが、要件を満たせなくなった場合には、猶予税額(利子税を含む)の納付が必要になることがあります。
制度の恩恵が大きいほど、万が一のときのインパクトも大きくなり得ます。制度の利用は、承継後の事業計画や資本政策も含めて、無理のない前提で組み立てることが重要です。
リスクヘッジの考え方
制度のメリットを見込みつつ、別途リスクヘッジの選択肢を用意しておくと、承継後の意思決定がしやすくなる場合があります。
代表的には、後継者が株式取得などに使える資金を用意することと、株式評価に影響し得る要素(利益・純資産の見え方等)を整えることを、状況に応じて組み合わせて検討します。
生命保険を活用する考え方
生命保険は、資金準備やキャッシュフロー設計の一手として検討されることがあります。
生命保険の使い方は、承継の相手(法定相続人か、それ以外か)や、株式の保有状況、退職金の設計、資本政策によって変わります。ここではイメージを整理します。
なお、生命保険は「加入すれば必ず有利になる」ものではありません。契約形態・税務処理・出口(解約や退職金支給等)まで含めた設計が重要です。
CASE 1:法定相続人が事業承継をする場合(資金準備+設計)
資金準備の一例として、現経営者が個人契約で生命保険に加入し、後継者を受取人として設定する方法が検討されます。
生命保険金は遺産分割の対象になりにくい性質があるため、承継に必要な資金を後継者側へ確保する手段として使われることがあります(具体的な影響は個別事情により異なります)。
また、会社側の設計として、法人で逓増定期保険や長期平準定期保険などを活用する場合があります。保険料が損金算入となる設計にすれば、利益・純資産の見え方に影響し、結果として株式評価の引下げにつながる可能性があります(実際の影響は会社規模や評価方式、資産構成、契約内容によって変わります)。
ただし、保険料の損金算入の可否・割合は、商品性や解約返戻金の水準等により異なります。契約前に、税務処理と出口(解約・退職金支給等)を含めてシミュレーションしておくことが大切です。
関連:「逓増定期保険とは?2つの特徴と4つのメリットを徹底解説!」
CASE 2:法定相続人以外が事業承継をする場合(設計上の制約に注意)
法定相続人以外(親族外・従業員など)が後継者となるケースでは、生命保険の設計(契約形態・受取人設定等)に制約が出ることがあります。
受取人の範囲や設定可否は、保険会社・商品によって取扱いが異なるため、具体的な設計は個別に確認することが重要です。
そのため、ケースによっては「資金準備」よりも、会社側のキャッシュフロー設計や退職金設計と合わせて、株式評価や資本政策を踏まえた検討が中心になることがあります。
いずれのケースでも、事前に綿密な打ち合わせとシミュレーションを行い、承継のタイミングと資金の動きを無理なく揃えることが重要です。
事業承継・M&Aに関する補助金も確認
事業承継やM&Aに関する補助金は、公募回によって条件や上限が変わります。
事業承継やM&Aを契機とした設備投資、専門家活用、PMI(統合作業)などを支援する補助金が公募されることがあります。
補助対象や補助上限、申請期間は公募回によって変わるため、利用を検討する場合は最新の公募要領を確認しておきましょう。
自社の状況に合う枠があるか、スケジュール上申請可能かといった点も含め、早めに情報収集しておくと検討が進めやすくなります。
まとめ:制度の期限と要件を踏まえて、無理のない承継設計を
特例措置は、一定の要件を満たす場合に納税が猶予され、継続要件を満たし続けることで免除となる可能性がある制度です。
特例措置の対象となる相続等・贈与の期間は、平成30年1月1日から令和9年12月31日までとされています。また、制度利用の前提として、平成30年4月1日から令和8年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県へ提出していることが求められます。
制度の活用を検討する場合は、承継後の代表者要件や株式の保有継続、雇用要件の運用、届出・報告などの実務を含めて、全体像を把握しておくことが重要です。
生命保険を使った設計は、資金準備やキャッシュフロー設計の選択肢になり得ます。ただし、税務(2019年以降の取扱い)や株式評価への影響は条件次第で変わるため、出口(解約・退職金支給等)まで含めて検討しましょう。
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