2019年6月、国税庁より法人保険の定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いについて見直しが行われ、税制改正のよる通達で法人保険に関する新たなルール案が公表されました。
法人保険の取り扱いは税制改正後の新しいルールによる運営され、当記事に関しても新ルールに基づいた解説をしております。
税制改正後の法人保険に関する新ルールについての詳細は、国税庁・金融庁・各保険会社が公表する内容を合わせてご参照ください。
経営者や役員の退職金を準備する際、法人保険を活用される方は多くいらっしゃいます。
しかし、法人保険にも様々な種類があり、特徴が異なります。
会社にとって得のある退職金準備をしていくには、社長・役員の退職時期や会社の経営状況にあった最適な法人保険を選ばなければいけません。
そこでこの記事では、退職金貯蓄に向いている法人保険の紹介と、それぞれの法人保険をどんなケースで活用すべきかを解説。
「5年ほどの短期間で退職金を準備したい」
「10年~20年ほどの長期的な目線で考えていきたい」
など、経営者の皆さんにニーズにあった法人保険の種類がわかります。
あわせて法人保険加入時の注意点も紹介しますので、法人保険を活用した退職金貯蓄を考えている方はぜひ最後までチェックしてみて下さい。
当記事の監修者:金子 賢司
- CFP
- 住宅ローンアドバイザー
- 生命保険協会認定FP(TLC)
- 損保プランナー
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。
以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。
趣味はジャザサイズ。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・情報発信しています。
経営者の退職金を法人保険で準備するには「保険の種類」が重要
法人保険を活用して経営者の退職金を準備する場合、加入する法人保険の種類をきちんと選ぶことが重要です。
退職金準備に用いられる貯蓄効果の高い法人保険は「逓増定期保険」と「長期平準定期保険」の2種類がありますが、どちらも解約返戻金の貯まり方が異なります。
退職金準備に使われる法人保険
- 逓増定期保険:契約してから5~6年ほどの短期間で解約返戻金のピークを迎える法人保険
- 長期平準定期保険:契約してから10年~20年ほどで解約返戻金のピークを迎える法人保険
上記のような解約返戻金の貯まり方の違いを把握した上で、経営者の退職のタイミングに合う法人保険を選ばなければ意味がありません。
では、逓増定期保険と長期平準定期保険はどんな場合に向いているのでしょうか。それぞれの法人保険の特徴を解説していきます。
逓増定期保険:近い将来の退職金を貯蓄する法人保険
逓増定期保険は、5~10年後程度の近い将来に退職を迎える役員や経営者の退職金貯蓄に向いている法人保険です。
逓増定期保険は、加入後一定期間が経った後に死亡保険金が当初の5倍まで増加する定期保険ですが、大きな特徴として解約返戻率のピークが早い時期に来ることがあげられます。
多くの場合、逓増定期保険の返戻金のピークは契約から5~10年後。
そのため、すでに定年近い年齢で具体的な退職時期を考えはじめている法人経営者・役員の方に適しているのです。
注意:キャッシュフローに大きな影響がある点に注意
逓増定期保険は、死亡保険金がどんどん増加していく、なおかつ契約後早い段階で高い解約返戻金を受け取ることができるという面がある分、保険料が割高に設定されています。
よって、会社のキャッシュフローに大きな影響を与える可能性があります。
法人保険に加入したことによって会社の経営が立ち行かなくなってしまうのでは本末転倒です。
逓増定期保険の加入時には、キャッシュフローへの影響をきちんと確認した上で契約を検討することをおすすめします。
長期平準定期保険:10年~20年後の退職金を貯蓄する法人保険
長期平準定期保険は、経営者・役員の退職のタイミングが10年~20年後など、まだ先で明確に決まっていない場合に向いてる法人保険です。
長期平準定期保険はその名の通り長期の保険期間を設定できる定期保険で、満期の年齢を100歳などに設定できます。
また、解約返戻率のピークを迎える時期が契約後10年~20年と比較的遅いタイミングにあり、なおかつピーク期間が長く続きます。
もし当初考えていた法人保険解約のタイミングと実際の解約時期が多少前後しても、高い解約返戻金を受け取れる可能性が高いのです。
そのため、なんとなく退職の時期は考えているものの、まだ先の話で不透明だという若い経営者・役員に向いていると言えます。
特に中小企業などでは、役員の定年を決めていなかったり、社長の後継者がなかなか決まらず退職時期が後ろ倒しになったりするケースも多く見られます。
そういった場合でも、長期平準定期保険であれば比較的柔軟に対応できるでしょう。
注意:長期に渡る保険料支払いが必要
長期平準定期保険は、長い期間の保険契約が前提となります。
そのため、長期間保険料を支払っていける見通しがなければいけません。
保険料の支払いが苦しいからと解約返戻率のピークを迎える前に解約してしまった場合、想定していた退職金が貯まらないため、法人保険に加入した意味がなくなります。
そのため、長期平準定期保険に加入する場合には先々まで継続して保険料を支払っていけるか財政状況をよく確認することが重要です。
従業員の場合は養老保険がおすすめ
もし役員や経営者の退職金だけでなく、従業員の退職金制度もあわせて整えておきたい場合には、養老保険がおすすめです。
養老保険とは、保険期間の満期を迎えるまでは被保険者の死亡保障を、生存したまま満期を迎えたときには、「満期保険金」を受け取ることができる法人保険です。
養老保険は死亡保険金もしくは満期保険金のどちらを必ず受け取ることができるため、解約のタイミングを考えなくていいです。
そのため、従業員を被保険者に設定して会社が定める定年までの期間を保険期間として加入すれば、退職のタイミングにぴったりあわせて資金を準備することができるのです。
注意:全従業員を対象とする必要がある
福利厚生の一環として従業員の退職金制度を設ける場合には、全従業員を対象としなければいけません。
よって、従業員が大勢いる場合には法人保険の保険料がかさみ、会社の負担が大きくなってしまう可能性があります。
保険料がいくらになるかは被保険者の年齢等によって各々で異なりますが、社員の退職時まできちんと保険料を支払っていけるかよく確認する必要があります。
退職金準備におすすめの保険商品
現在販売されている法人保険の商品の中で、退職金準備におすすめな保険商品をご紹介します。
定期保険/
低解約返戻金型逓増定期特約Ⅱ
逓増定期保険
- 低解約返戻金期間(前期期間)の長さを6パターンから選択可能
- 被保険者の退職までの期間に合わせて柔軟なプランを設計できる
エヌエヌ生命「定期保険/低解約返戻金型逓増定期特約Ⅱ」は、基本補償としての定期保険と、特約としての逓増定期保険を組み合わせた法人保険です。
逓増定期保険の中でも高額な保険金をかけられる上に、低解約返戻金期間を柔軟に設定できるため、役員や経営者の退職の時期に合わせて保険プランを設計しやすい点が特徴です。
基本的には5年~10年程度の近い時期に向けて退職金を準備するのに適していますが、高額な事業保障を得ながら15年~20年程かけて退職金を準備することもできる万能型の法人保険と言えるでしょう。
スーパーフェニックス
長期平準定期保険
- 被保険者が100歳になるまでという長期の保険期間を設定可能
- 貯蓄性が高く、20年~30年ほどでの退職金準備に最適
日本生命のスーパーフェニックスは、長期平準定期保険の中でも人気の高い法人保険です。
貯蓄性が高いのが一番の特徴で、被保険者の加入時の年齢にもよりますが、条件によっては解約返戻率が85%~87%ほどになる場合も。
10年~15年程度での退職金貯蓄にも可能ですが、解約返戻率の推移を考えると、比較的若い年齢で加入し20年~30年かけて退職金を準備するケースに向いています。
特殊養老保険
養老保険
- 養老保険の中でも貯蓄性が高い
- 保険期間中、満期年齢を延長することも可能
養老保険は、従業員の退職金貯蓄に向いた法人保険です。養老保険の中でも、ソニー生命の「特殊養老保険」は、貯蓄性の高さと保険期間を柔軟に設定できる点がポイント。
契約当初の死亡・高度障害保険金額が、保険期間の前半はそのままですが、後半になると当初の2倍になるまで毎年増加します。
したがって、被保険者の死亡保険金・満期保険金が高額になるため、十分な退職金を準備することができます。
また、保険期間を途中で延長することも可能。企業の雇用状況に合わせて従業員の退職年齢を引き上げるといった場合でも、柔軟に対応することができます。
事前に確認!役員退職金慰労金規定を作成しておくべし
役員や経営者の退職金を法人保険で準備する際には、保険に加入するだけでは十分ではありません。
あわせて「役員退職金慰労金規定」を作成しておく必要があります。
役員退職金慰労金規定とは、退職金の支給基準などを明確に示した規定です。
この規定を作成しておかなければ、会社も退職金を受け取る個人も不利益を被る可能性があるのです。
税務署から「退職金が高すぎる」と指摘を受ける可能性がある
役員や経営者に支払う退職金は、経理処理をする際に「損金」として計上することができます。
退職金を法人保険で準備する際、会社が解約返戻金を受け取った時点では解約返戻金は資産として計上。
すなわち法人税課税対象となる益金が増えることになります。
しかし、同じ年度に解約返戻金と同じ金額分の退職金を支払うことで、増えた資産分を相殺することが可能。
会社側は法人税が増えずにすみます。
ところが、もし会社が支払った退職金に関して税務調査時に「金額が高すぎる」と指摘が入れば、退職金を損金として計上できなくなる可能性があるのです。
そうなってしまえば、会社側は損金に計上できる金額が減り、結果的に法人税が増加。
退職金を受け取る個人も、高すぎると指摘をされた部分は退職所得よりも課税割合が高い「給与所得」として受け取ることになるため、手元に残る額が減ってしまいます。
このように、税務署から退職金が高すぎると指摘を受けてしまえば、会社も個人も両方が不利益を被ってしまいます。
それを避けるために、退職金の金額は適正だと根拠をもって示すことができる「役員退職金慰労金規定」を用意しておくようにしましょう。
従業員の福利厚生も規定を作るべき
従業員の福利厚生として退職金を準備する場合にも、福利厚生規定の作成が必要です。
従業員の福利厚生として法人保険に加入した場合、保険料の半分を「福利厚生費」として損金に計上することができます。
しかし、福利厚生規定がなければ法人保険の保険料が福利厚生費として認められない可能性があります。
従業員の退職金を準備する場合も、忘れずに福利厚生規定を作成しておくことをおすすめします。
資金準備に法人保険を活用するメリット
経営者の方の中には、退職金を貯蓄するためにわざわざ法人保険に加入をして、解約のタイミングなど細かなことを気にしているのは面倒だという方もいるかもしれません。
しかし、法人保険を活用することは会社にとって役立つメリットがあるのです。
ここでは、法人保険で退職金を準備するメリットをご紹介します。
死亡退職金・生存退職金の両方を準備できる
退職金には、社員が在職中に亡くなった際に支払われる「死亡退職金」と、定年退職などの際に支払われる「生存退職金(勇退退職金)」の2種類があります。
法人保険に加入した場合、死亡保険金を死亡退職金に、解約返戻金(もしくは満期返戻金)を生存退職金にあてることで、2種類の退職金を一気に準備することができます。
退職金と聞くと生存退職金が先に浮かぶ方も多いかと思いますが、社員が万が一死亡してしまった場合にも退職金は必要です。
不測のタイミングで死亡退職金が必要となった時、法人保険に加入しておけば滞りなくお金を用意することができるでしょう。
生存退職金の適正額は?
法人保険を利用する役員の生存退職金を積立しながら準備できるメリットがあります。
また、積立によって準備をした退職金を退職金に支払った場合、退職金を損金扱いにできます。
ただし、無制限に役員の退職金を大きくして損金扱いとすることはできません。
損金扱いにできる役員の退職金額の目安は以下の式で計算をします。
最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率 = 死亡退職金・生存退職金の適正額
それぞれの言葉を説明すると、下記の表の通りです。
最終報酬月額 | 役員退任直前に支給された報酬 死亡退職金の場合は、死亡直前に支給された報酬額となる |
---|---|
役員在任年数 | 役員になってからの在職年数 |
功績倍率 | 役員の役職に応じて、「次の表」の倍率を加算 |
役職 | 功績倍率 |
---|---|
会長 | 2.0倍 |
社長 | 2.4倍 |
専務 | 1.8倍 |
常務 | 1.5倍 |
その他役員(取締役等) | 1.4倍 |
例)
最終報酬月額:100万円
役員在職年数:20年
功績倍率:2.4倍
100万円 × 20年 × 2.4 = 4,800万円
損金として認められる役員への退職金の目安は4,800万円ということになります。
法人保険で退職金を準備する場合、ここで紹介した計算式を目安に設計をすることがありますが、あくまでも目安なので、個別の案件については必ず担当の税理士に確認をしてください。
節税効果(税金対策)を期待できる
法人保険は、保険料の一部を損金に計上することで節税効果(税金対策)を期待できます。
2019年の税制改正以降、法人保険を活用した節税はできなくなったという見方もありますが、全くできなくなったわけではありません。
以前より経理処理のルールが複雑になったものの、現在でも保険料の一部を損金として計上できるため、実際のところ法人保険を活用した節税・税金対策は可能なのです。
どれくらいの節税効果があるかは加入する保険商品によって異なりますが、上手に法人保険に加入すれば会社にとっても退職金を受け取る個人にとっても税金面で大きな節税メリットを生むことができます。
会社の事業保障としても活用可能
法人保険に加入をしている間、解約返戻金の90%ほどの金額内で無担保・無審査で貸付を受けられる「契約者貸付制度」を利用することができます。
この制度を利用することで、会社が万が一経営危機に陥った際も緊急資金を用意することが可能。
貸付なので利子がつき、被保険者が受け取る解約返戻金も貸付金額分だけ減ってしまいますが、もし解約までに貸付金を返済できれば解約返戻金はもとの金額に戻ります。
先々の退職金を準備しながら、不測の事態にも備えることができる点が、法人保険の大きなメリットと言えます。
法人保険を退職金として受け取ると税制優遇のメリットがある
法人保険を利用し積立をして、退職時に退職金として受け取ると3つの税制優遇のメリットを受けられます。
分離課税
所得が大きくなると、所得税・住民税も高額になります。
しかし、退職金は長年の功労に報いるために優遇されており、他の所得とは切り離して計算されます。
退職所得控除
退職金を受け取ると、退職所得控除という大きな控除を受けられます。退職所得控除の計算式は次の通りです。
【勤続年数20年以下の場合】
40万円 × 勤続年数
【勤続年数20年超の場合】
800万円 + 70万円 × (勤務年数 - 20年)
2分の1課税
分離課税された所得から、退職所得控除を差し引き、さらにその金額の2分の1が課税対象となります。
例)25年勤務をして、3,000万円の退職金を受け取った
800万円 + 70万円 (勤務年数25年 - 20年) = 1,150万円
3,000万円 - 1,150万円 = 1,850万円
1,850万円 × 1/2 = 925万円
退職金3,000万円のうち、課税されるのは925万円ということになり、退職金として受け取ることで大きなメリットがあります。
死亡退職金の場合
法人保険に加入をしていて、被保険者である役員に万が一のことがあった場合、役員の相続人が死亡退職金を受け取る場合、500万円×法定相続人の数の非課税枠が適用となります。
まとめ:法人保険を活用することで会社にも利益のある積立が可能
今回は、法人保険を活用した退職金準備について解説してきました。
退職金準備に活用される法人保険は、経営者・役員向けであれば「逓増定期保険」、「長期平準定期保険」。従業員向けであれば、「養老保険」が多く活用されます。
逓増定期保険と長期平準定期保険は解約返戻率のピーク時期が全く違うため、被保険者となる経営者・役員の年齢や退職のタイミングなどを考慮した上で適切な方を選びましょう。
法人保険を上手に活用することで、退職金準備だけでなく、税金対策や万が一の事業保障もカバーすることができます。
一方で、保険料支払いによるキャッシュフローへの影響も忘れてはいけません。
皆さんの会社の経営状況や将来の資金計画を考えた上で、最適な法人保険を選んでみて下さい。
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