2019年6月、国税庁より法人保険の定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いについて見直しが行われ、税制改正のよる通達で法人保険に関する新たなルール案が公表されました。
法人保険の取り扱いは税制改正後の新しいルールによる運営され、当記事に関しても新ルールに基づいた解説をしております。
税制改正後の法人保険に関する新ルールについての詳細は、国税庁・金融庁・各保険会社が公表する内容を合わせてご参照ください。
2019年6月に国税庁より税制改正の通達が行われ、法人向け定期生命保険などの損金計上に関するルールが変更。
それに伴い、今まで節税目的を強く押し出していた法人向け保険商品が販売中止となりました。
2021年現在、多くの保険会社が保険商品を販売再開していますが、税制改正後の新ルールに基づいた保険となっているため販売再開以前との違いをしっかり確認した上で加入を検討する必要があります。
今回は、法人保険の販売再開にあたって何が変わったのか、変更点を解説します。
「節税」を大きな目的として法人保険に加入していた経営者の方は、特に注意してご確認いただければと思います。
国税庁の税制改正により節税保険に待ったがかけられる
法人保険は、本来企業の事業保障や資金貯蓄のために用いられるものです。
ところが、法人保険に加入し支払った保険料を損金に計上できるということから、法人保険を活用した法人税の節税対策を行う経営者の方も少なくありませんでした。
保険会社も経営者のニーズに応え、損金に計上できる割合の大きいいわゆる「節税保険」を売り出してきました。
しかし、このような節税保険は保険本来の目的とは異なっているということもあり、国税庁から税制の見直しや保険業界への指導がたびたび行われてきた経緯があります。
そして2019年6月、国税庁から「法人税基本通達」の一部改定が発表され、ついに節税保険に対する大きな規制がしかれることに。
この税制改正によって、法人保険の中でも特に節税を大きく打ち出していた保険商品が販売停止となり、節税保険に待ったがかけられることになったのです。
販売停止になった法人保険は貯蓄性のある全損・半損の定期生命保険
2019年の税制改正の通達によって販売停止となったのは、貯蓄性が高く、なおかつ節税効果も高い法人保険です。
2019年以前には、解約返戻率が70%~98%と貯蓄性が高いうえ、支払払保険料の半分以上を損金として計上できる保険商品が多く販売されていました。
このような法人保険は主に逓増定期保険に多く見られ、「半損タイプ」「全損タイプ」などと呼ばれていた商品です。
今では、貯蓄性の高い半損・全損タイプの保険商品は全て売り止めとなり、販売されていません。
そのかわり、改正された損金計上の新ルールに基づいて、節税ではなく法人保険本来の保障を目的とした保険商品として販売再開されました。
では、販売再開後はどのようなルールに基づいているのか、次の章で詳しく見ていきましょう。
販売再開後の「損金計上の新ルール」とは
法人保険が販売再開されるにあたり、法人向けの保険商品は税制改正によって通達された損金計上の新たしいルールに従うことになりました。
今回の改正で見直しの対象になったのは、「法人向けの定期生命保険」と「短期払いの第三分野保険(医療保険・がん保険)」の2つ。
販売再開後の新ルールについて大まかにまとめると、保険商品のピーク時の解約返戻率に応じて損金に計上できる割合が細かく設定されたという内容です。
①販売再開後の法人向けの定期生命保険の損金ルール
最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上額 | 取り崩し期間 |
---|---|---|---|
50%以下 | 全額損金算入 | ||
50%超~70%以下 | 保険期間の 当初40%の期間 |
支払保険料×40% (支払保険料×60%は損金計上) |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
70%超~85%以下 | 保険期間の 当初40%の期間 |
支払保険料×60% (支払保険料×40%は損金計上) |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
85%超 |
①保険期間の開始日から最高解約返戻率となる期間等の終了日まで ②1の期間経過後において、年換算保険料に対する解約払戻金の増加割合が0.7を超える期間があれば、その期間の終わりまで |
保険期間開始日から10年経過日までは、保険料×90%を資産計上 11年目以降は、支払保険料×最高解約返戻率×70%を資産計上 |
解約返戻金が最高金額になったあと、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩し |
最高解約返戻率:50%以下 | |
---|---|
全額損金計上 | |
最高解約返戻率:50%超~70%以下 | |
資産計上 期間 |
保険期間の当初40%の期間 |
資産 計上額 |
支払保険料×40% (支払保険料×60%は損金計上) |
取り崩し 期間 |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
最高解約返戻率:70%超~85%以下 | |
資産計上 期間 |
保険期間の当初40%の期間 |
資産 計上額 |
支払保険料×60% (支払保険料×40%は損金計上) |
取り崩し 期間 |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
最高解約返戻率:85%超 | |
資産計上 期間 |
①保険期間の開始日から最高解約返戻率となる期間等の終了日まで ②1の期間経過後において、年換算保険料に対する解約払戻金の増加割合が0.7を超える期間があれば、その期間の終わりまで |
資産 計上額 |
保険期間開始日から10年経過日までは、 11年目以降は、 |
取り崩し 期間 |
解約返戻金が最高金額になったあと、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩し |
販売再開後のルールでは、ピーク時の解約返戻率が高ければ高いほど損金に計上できる割合が少なくなっています。つまり、販売再開にともない法人保険で短期間で節税効果をあげることが難しくなったと言えます。
②短期払いの第三分野保険(医療保険・がん保険)に関する新ルール
2019年の税制改正によって、今まで節税効果の高い加入方法として注目されていた短期払いの第三分野保険(医療保険・がん保険)にも見直しが行われました。
医療保険やがん保険の短期払いとは、経営者や役員が終身タイプの医療保険・がん保険に法人名義で加入し、保険料を短期間で全て払い込むことを指します。この方法によって、一度に損金計上する金額を大きくすることが可能になり、高い節税効果を期待できます。
更に、保険料の支払いが終わった医療保険・がん保険を法人から経営者・役員の個人名義に変更することで、経営者や役員は自分で保険料を支払うことなく終身の保障を得ることに。
つまり、会社にも個人にもメリットが大きいものとして、大きな人気を集めていたのです。
それが、法人保険による節税に対する規制強化を主とした2019年の税制改正により、販売再開後は保険料の損金計上額に制限がかけられることになりました。
第三分野保険:保険料短期払いの場合
法人保険の第三分野保険(短期払い)は、損金計上のルールが下記の2つに分けられます。
年間支払保険料額が被保険者1人につき30万円以下の場合(※)
保険料の全額を損金として計上。
※被保険者が1人で複数の医療保険・がん保険(短期払い)に加入している場合、全ての支払保険料を合計しなければいけません。
年間支払保険料額が被保険者1人につき30万円を超えるの場合
手順1
保険料の払込期間中は、年間保険料のうち「年間保険料×保険料払込期間÷保険期間(※)」で求めた金額を支払保険料として損金に算入。
そして、残りは資産として計上します。
※終身タイプの第三分野保険の保険期間は、「116歳-契約年齢」で計算します。
手順2
保険料の払込期間の終了後は、被保険者が116歳になるまで先程求めた支払い保険料を損金に計上。
また、手順1で資産計上していた分の保険料を、被保険者が116歳になるまで取り崩します。
大きくまとめると、販売再開後の短期払いの第三分野保険は、全額損金計上にできるのは年間合計支払保険料が30万円までの場合のみ。。
もし30万円を超える場合には、保険料の一部を資産と損金に分けて計上しなければいけません。
なお、短期払いをせずに保険期間の全期に渡って保険料を支払う場合には、法人向け定期生命保険と同様のルール(ピーク時の解約返戻率に基づくルール)で損金に計上して下さい。
ポイントは「ピーク時の解約返戻率に応じた損金計上」
販売再開後の法人保険で頭に入れておくべき情報をまとめると、下記の3点です。
- 法人保険のピーク時の解約返戻率に応じて、契約当初の一定期間は資産・損金に分け計上。
- 上記の一定期間が過ぎれば、保険料は全額損金計上する。
- 医療保険・がん保険の短期払いは、年間合計支払保険料が30万円のラインで経理処理のルールが異なる。
最も覚えておくべきポイントは、法人保険ピーク時の解約返戻率に応じて、所定の期間は資産・損金計上が必要になる点。
ここで意外と見落としがちなのが、「所定の期間が過ぎれば、資産計上はせず保険料は全額損金に計上する」という点です。
資産・損金に分けて計上する所定の期間も、法人保険の解約返戻率に応じて細かく決まっています。販売再開後は、経理処理の際に間違えないようにしましょう。
販売再開前に加入していた法人保険は以前のルールのまま
経営者の方の中には、法人保険が販売再開する前から節税目的の法人保険に加入しているという方も少なくないでしょう。
販売再開以前から加入していた法人保険については、加入時に適用されていたルールがそのまま継続して適用されます。つまり、販売再開後の損金ルールに途中で変更されることはありません。
販売再開後の新ルールが適用されるのは、下記の日程以降に新規加入・更新をした法人保険です。
法人保険 | 新ルールの適用日 |
---|---|
最高解約返戻率に 関する保険料の取扱い |
2019年7月8日以降 |
第三分野の 短期払い終身保険 |
2019年10月8日以降 |
今後法人保険の新規加入や加入済み保険の更新をしようと考えている経営者の方は、すべて販売再開後のルールに基づいた損金計上になります。
特に、今まで加入していた法人保険の更新の際には、販売再開以前の経理処理方法とは異なるルールが適用されるため保険商品の見直しも必要になる可能性に注意しましょう。
販売再開後の法人保険は節税効果を期待できる?
ここまで解説したとおり、法人保険の販売再開後の損金計上ルールでは、解約返戻率が大きい法人保険ほど損金に計上できる割合が小さくなってしまいました。
このことから、販売再開後の法人保険の節税効果は全く期待できなくなってしまったのでは…と思う経営者の方も多いでしょう。
しかし、実際のところ、販売再開後も法人保険を活用した節税対策は可能です。
というのも、法人保険の保険料は契約期間当初は資産・損金に分けて計上するとはいえ、その期間を過ぎれば全額損金になります。
そのため、契約当初はたしかに販売再開以前ほどの節税効果を期待できないものの、「法人保険を解約するまで」という目線で考えれば、損金計上できる合計金額が支払保険料の50%以上になることも十分ありえるのです。
販売再開後の法人保険を活用した節税対策については、下記のページで詳しく解説していますので、節税について詳しく知りたい方は合わせてご覧ください。
養老保険は売り止め・販売再開に関係ない法人保険
2019年の税制改正では法人保険の多くが規制の対象となり、販売再開はされたもののかつてのような節税効果が期待できなくなってしまいました。
そんな状況の中で、税制改正の対象にならず、なおかつ法人保険の販売再開後も比較的大きな節税効果が期待できるものとして新たに注目を集めている保険があります。それが、養老保険です。
養老保険はどんな法人保険?
養老保険は、被保険者が保険期間中に死亡した際には死亡保険金が、保険期間満期まで生存していた場合には満期保険金が支払われる法人保険。
従業員の福利厚生として、退職金貯蓄の目的で利用されることが多くみられます。
養老保険は、社員の福利厚生の目的で加入をすれば、支払保険料の半分を損金に計上することが可能。つまり、退職金の貯蓄もでき、半損で節税効果も見込めるのです。
これはいわゆる「ハーフタックスプラン」と呼ばれるもので、法人保険の販売再開以前から現在も継続して販売されています。
法人保険の販売再開後、高い貯蓄性のある法人保険は以前ほどの節税効果を挙げるのが難しくなっているなか、養老保険は貯蓄性・節税効果の両方を期待できるものとして注目されています。
あくまで「福利厚生」のものであることに注意
ここで注意したいのが、養老保険はあくまで福利厚生目的の法人保険という点。
福利厚生目的で加入をしなければ、支払い保険料の半分を損金として計上することはできません。福利厚生目的で加入するには、原則全従業員を加入対象としたり、社内に福利厚生規定を作成するなど、会社側にとっても様々な負担があります。
むやみに節税効果だけを求めて加入すれば、全社員分の保険料支払いで企業のキャッシュフローを圧迫することもあり得るでしょう。
養老保険に加入をする際には、このような会社の負担面も考えて検討することが必要です。
また、法人保険の販売再開後は「法人保険は節税よりも保険本来の目的に立ち返る」という考えが強くなっており、この考えに沿わないものはまた見直しが入る可能性もゼロではありません。
そういった点も含めて考えると、販売再開後は法人税対策だけを目的とするのではなく、自社の福利厚生として利用価値があるかどうかという点も加味して加入を検討することが重要と言えるでしょう。
まとめ:法人保険の経理処理方法に注意が必要
今回は、法人保険の販売停止・販売再開によって変更となる損金ルールについて解説してきました。
販売再開後、法人保険の経理処理のルールは複雑化し、販売再開以前ほどの節税効果をあげることが難しくなってしまいました。
しかし、法人保険の販売再開後も、保険料を損金に計上することは十分可能です。上手に法人保険を活用すれば、自社にとって必要な保障を得ながら、大きな税制上のメリットを享受することができます。
そのためには、経理処理のルールと保険商品の特徴をよく知り、最適な法人保険を選択することがより重要になります。
また、販売再開以前に加入をしていた法人保険は以前のルールのままですが、更新の際には新しいルールが適用されることになります。そのため、更新に合わせて保険商品の見直しが必要になる方もいるでしょう。
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