2019年6月(令和元年6月28日)に国税庁より法人税基本通達等の一部改正が公表され、法人向け定期生命保険などの損金算入の取扱いが見直されました。
それに伴い、従来「節税」を前面に出して設計されていた法人向け保険商品は、各社で販売停止や商品設計の見直しが進みました。
現在は、多くの保険会社で改正後の取扱いを踏まえた商品が提供されていますが、税制改正後のルールに沿って経理処理が必要です。販売再開以前との違いを確認したうえで検討しましょう。
今回は、法人保険の販売再開にあたって何が変わったのか、変更点を解説します。
「節税」を主目的に法人保険へ加入していた場合は、特に注意してご確認ください。
国税庁の税制改正により節税保険に待ったがかけられる
法人保険は、本来企業の事業保障や資金準備のために用いられるものです。
ところが、法人保険に加入し支払った保険料を損金に算入できる点から、法人保険を活用した法人税対策を行う経営者の方も少なくありませんでした。
保険会社も経営者のニーズに応え、損金に算入できる割合が大きい、いわゆる「節税保険」を展開してきました。
しかし、このような節税保険は保険本来の目的と離れやすい面もあり、国税庁から税務上の取扱いの見直しや業界への対応が続いてきた経緯があります。
そして2019年6月、国税庁から「法人税基本通達」等の一部改正が公表され、節税保険に対する規制が強化されました。
この見直しにより、法人保険の中でも特に節税を強く打ち出していた保険商品は販売停止や改定となり、取扱いが大きく変わったのです。
見直しの影響が大きかった法人保険は貯蓄性の高い定期生命保険(全損・半損タイプ等)
2019年の見直しで影響が大きかったのは、解約返戻率が高く、損金算入を大きく見込みやすい設計の法人保険です。
見直し以前には、解約返戻率が70%~98%と貯蓄性が高いうえ、支払保険料の半分以上を損金として計上できる設計の商品が多く流通していました。
このような法人保険は主に逓増定期保険に多く見られ、「半損タイプ」「全損タイプ」などと呼ばれていた商品です。
現在は、従来型の高い返戻率を前提とした設計は各社で見直しが進み、取り扱いが変わっています。
そのかわり、改正後の損金算入ルールに沿って、節税一辺倒ではなく法人保険本来の保障や資金準備も踏まえた商品として販売再開が進みました。
では、販売再開後はどのようなルールに基づくのか、次の章で見ていきましょう。
販売再開後の「損金計上の新ルール」とは

法人保険の販売再開にあたり、法人向けの保険商品は税制改正で示された損金算入の新しい取扱いに沿って経理処理を行います。
今回の見直しの対象は、「法人向けの定期生命保険」と「短期払いの第三分野保険(医療保険・がん保険)」の2つです。
販売再開後の新ルールは大枠として、ピーク時の解約返戻率に応じて、資産計上と損金算入の割合や期間が定まるという内容です。
①販売再開後の法人向けの定期生命保険の損金ルール
以下は、法人が契約者となる定期保険・第三分野保険のうち、最高解約返戻率が50%を超えるなど一定の要件に該当する契約を前提としたイメージです(契約内容により取扱いが分かれます)。
| 最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上額 | 取り崩し期間 |
|---|---|---|---|
| 50%以下 | 全額損金算入 | ||
| 50%超~70%以下 | 保険期間の 当初40%の期間 |
支払保険料×40% (支払保険料×60%は損金計上) |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
| 70%超~85%以下 | 保険期間の 当初40%の期間 |
支払保険料×60% (支払保険料×40%は損金計上) |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
| 85%超 |
①保険期間の開始日から最高解約返戻率となる期間等の終了日まで ②1の期間経過後において、年換算保険料に対する解約払戻金の増加割合が0.7を超える期間があれば、その期間の終わりまで |
保険期間開始日から10年経過日までは、保険料×90%を資産計上 11年目以降は、支払保険料×最高解約返戻率×70%を資産計上 |
解約返戻金が最高金額になったあと、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩し |
| 最高解約返戻率:50%以下 | |
|---|---|
| 全額損金計上 | |
| 最高解約返戻率:50%超~70%以下 | |
|
資産計上 期間 |
保険期間の当初40%の期間 |
|
資産 計上額 |
支払保険料×40% (支払保険料×60%は損金計上) |
|
取り崩し 期間 |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
| 最高解約返戻率:70%超~85%以下 | |
|
資産計上 期間 |
保険期間の当初40%の期間 |
|
資産 計上額 |
支払保険料×60% (支払保険料×40%は損金計上) |
|
取り崩し 期間 |
保険期間の75%相当経過後、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩して損金計上 |
| 最高解約返戻率:85%超 | |
|
資産計上 期間 |
①保険期間の開始日から最高解約返戻率となる期間等の終了日まで ②1の期間経過後において、年換算保険料に対する解約払戻金の増加割合が0.7を超える期間があれば、その期間の終わりまで |
|
資産 計上額 |
保険期間開始日から10年経過日までは、 11年目以降は、 |
|
取り崩し 期間 |
解約返戻金が最高金額になったあと、保険期間終了日までの期間で均等に取り崩し |
販売再開後のルールでは、ピーク時の解約返戻率が高いほど、契約当初の資産計上割合が大きくなる傾向があります。短期間で損金算入を大きく積み上げる設計は取りにくくなりました。
②短期払いの第三分野保険(医療保険・がん保険)に関する新ルール
2019年の見直しにより、以前は税務上のメリットが出やすい加入方法として注目されていた短期払いの第三分野保険(医療保険・がん保険)も取扱いが変わりました。
医療保険やがん保険の短期払いとは、経営者や役員が終身タイプの医療保険・がん保険に法人名義で加入し、保険料を短期間で全て払い込むことを指します。この方法によって、一度に損金計上する金額を大きくすることが可能になり、高い節税効果を期待できます。
更に、保険料の支払いが終わった医療保険・がん保険を法人から経営者・役員の個人名義に変更することで、経営者や役員は自分で保険料を支払うことなく終身の保障を得ることに。
つまり、会社にも個人にもメリットが大きいものとして、大きな人気を集めていたのです。
それが、法人保険による節税に対する規制強化を主とした2019年の税制改正により、販売再開後は保険料の損金計上額に制限がかけられることになりました。
第三分野保険:保険料短期払いの場合
法人保険の第三分野保険(短期払い)は、損金計上のルールが下記の2つに分けられます。
年間支払保険料額が被保険者1人につき30万円以下の場合(※)
保険料の全額を損金として計上。
※被保険者が1人で複数の医療保険・がん保険(短期払い)に加入している場合、全ての支払保険料を合計しなければいけません。
※解約返戻金相当額の有無や短期払の形態など、所定の要件により取扱いが分かれます。
年間支払保険料額が被保険者1人につき30万円を超える場合
手順1
保険料の払込期間中は、年間保険料のうち「年間保険料×保険料払込期間÷保険期間(※)」で求めた金額を支払保険料として損金に算入。
そして、残りは資産として計上します。
※終身タイプの第三分野保険の保険期間は、税務上の計算では「116歳-契約年齢」で算定します。
手順2
保険料の払込期間の終了後は、被保険者が116歳になるまで先程求めた支払い保険料を損金に計上。
また、手順1で資産計上していた分の保険料を、被保険者が116歳になるまで取り崩します。
大きくまとめると、販売再開後の短期払いの第三分野保険は、全額損金計上の対象が年間合計支払保険料30万円以下の枠に限られます。
30万円を超える場合には、保険料の一部を資産と損金に分けて計上します。
なお、短期払いではなく保険期間を通じて保険料を支払う場合には、法人向け定期生命保険と同様に、ピーク時の解約返戻率に基づくルールで損金算入を行います。
ポイントは「ピーク時の解約返戻率に応じた損金計上」
販売再開後の法人保険で押さえるべき点は、下記の3つです。
- ピーク時の解約返戻率に応じて、契約当初の一定期間は資産計上と損金算入に分かれます。
- 取崩し期間(保険期間の後半)では、当期分の保険料を損金算入しつつ、資産計上した分を一定の方法で取り崩して損金算入に上乗せします。
- 医療保険・がん保険の短期払いは、年間合計支払保険料が30万円のラインで経理処理のルールが分かれます。
特に重要なのは、ピーク時の解約返戻率に応じて、所定の期間は資産計上と損金算入が必要になる点です。
あわせて、取崩し期間(保険期間の後半)には、資産計上した分の取崩しが損金算入に加わります。
資産計上の期間や割合は、法人保険の解約返戻率に応じて細かく定まっています。販売再開後は、経理処理で混乱しないように確認しておきましょう。
販売再開前に加入していた法人保険は以前のルールのまま
経営者の方の中には、法人保険が販売再開する前から法人保険に加入しているという方も少なくないでしょう。
販売再開以前から加入していた法人保険については、加入時に適用されていた取扱いが継続します。途中から販売再開後の損金ルールに切り替わるわけではありません。
販売再開後の新ルールが適用されるのは、下記の日程以降に新規加入・更新をした法人保険です。
| 法人保険 | 新ルールの適用日 |
|---|---|
| 最高解約返戻率に 関する保険料の取扱い |
2019年7月8日以降 |
| 第三分野の 短期払い終身保険 |
2019年10月8日以降 |
今後法人保険の新規加入や加入済み保険の更新を行う場合、原則として販売再開後の取扱いに基づく損金算入となります。
特に、加入中の法人保険を更新する場面では、販売再開以前と経理処理が変わるため、保険商品の見直しが必要になる場合があります。
販売再開後の法人保険は節税効果を期待できる?

ここまで解説したとおり、法人保険の販売再開後の損金算入ルールでは、解約返戻率が大きい法人保険ほど、契約当初に損金算入できる割合が小さくなる傾向があります。
このため、「以前と同じような税務上のメリットは得にくいのでは」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、実際のところ、販売再開後も法人保険は税務上の取扱いを踏まえて活用できます。
改正後は、保険料の全額を損金算入する設計が中心ではなく、資産計上と取崩しを含む設計が前提になります。契約内容や期間により、税負担のタイミングに差が出ます。
販売再開後の法人保険を活用した法人税対策については、下記のページで詳しく解説していますので、税務効果の考え方を詳しく知りたい方は合わせてご覧ください。
養老保険は売り止め・販売再開に関係ない法人保険

2019年の見直しでは法人保険の多くが規制の対象となり、販売再開はされたものの、かつてのような節税効果を狙いにくくなりました。
そんな状況の中で、見直しの対象外で、節税(繰延)効果や税務上のメリットを見込みやすい設計として注目される保険があります。それが、養老保険です。
養老保険はどんな法人保険?
養老保険は、被保険者が保険期間中に死亡した際には死亡保険金が、保険期間満期まで生存していた場合には満期保険金が支払われる法人保険です。
従業員の福利厚生として、退職金準備の目的で利用されることが多くみられます。
養老保険は、契約形態によっては支払保険料の半分を損金に計上できます。つまり、退職金の準備を進めつつ、半損による税務上のメリットも見込めます。
※死亡保険金・満期保険金の受取人の組み合わせ、対象者の範囲(全従業員か等)など所定の要件があります。
これはいわゆる「ハーフタックスプラン」と呼ばれるもので、法人保険の販売再開以前から継続して販売されています。
法人保険の販売再開後、高い貯蓄性のある法人保険は以前ほど税務効果を狙いにくくなっているなか、養老保険は貯蓄性と税務上のメリットの両面から検討されるケースが増えています。
あくまで「福利厚生」のものであることに注意
ここで注意したいのが、養老保険は福利厚生目的の法人保険という点です。
福利厚生としての設計(加入対象の範囲や社内規程等)を欠くと、半損の取扱いを前提にしにくくなります。原則として全従業員を加入対象にする、社内に福利厚生規程を整備するなど、会社側の対応が必要です。
むやみに節税効果だけを求めて加入すれば、全社員分の保険料支払いで企業のキャッシュフローを圧迫することもあり得るでしょう。
養老保険に加入する際には、このような会社の負担面も踏まえて検討しましょう。
また、法人保険の販売再開後は「法人保険は節税よりも保険本来の目的に立ち返る」という考えが強くなっており、この考えに沿わないものはまた見直しが入る可能性もゼロではありません。
そのため、販売再開後は法人税対策だけを目的とせず、自社の福利厚生として利用価値があるかどうかも加味したうえで検討するのがよいでしょう。
まとめ:法人保険の経理処理方法に注意が必要
今回は、法人保険の販売停止・販売再開により変更となった損金算入ルールについて解説してきました。
販売再開後は、法人保険の経理処理が複雑になり、販売再開以前ほど短期間で税務効果を狙いにくくなりました。
しかし、法人保険の販売再開後も、保険料を損金に算入できる設計は十分にあります。自社にとって必要な保障を得ながら、税務上のメリットを見込めるプランを選ぶ余地も残っています。
そのためには、経理処理のルールと保険商品の特徴を把握し、自社の目的に合う法人保険を選ぶことが重要です。
また、販売再開以前に加入していた法人保険は以前の取扱いが続きますが、更新の際には新しい取扱いが適用されます。更新に合わせて保険商品の見直しが必要になる方もいるでしょう。
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