会社を経営するにあたってはさまざまなリスクに備える必要があります。
時には損害賠償請求を受けることもありますが、損害を与える相手は社外だけとは限りません。
従業員が業務災害にあった場合は、従業員から損害賠償請求を受けることにも備えておくことが必要です。
業務災害の損害賠償請求額は多額になる可能性があり、労災でカバーできないリスクがあります。
そういった場合に役立つのが「使用者賠償責任保険」です。
今回は使用者賠償責任保険に関して、概要や必要性、加入時の注意点などについてお伝えします。
慰謝料もカバー!使用者賠償責任保険とは?
使用者賠償責任保険への加入を検討する場合には、まず概要を理解しておくことが重要です。
特に、どんな場合に保険金を受け取ることができるのか、カバーできる損害や費用の範囲はどこまでかについて知っておくことが必要でしょう。
使用者賠償責任保険とは、第三者に与えた損害について法的に賠償責任を負った場合に備えられる賠償責任保険の一種です。
賠償責任保険は、個人向けや法人向け、さらには補償内容の種類によってさまざまな保険商品が用意されています。
そのうち、会社が雇っている従業員に対して損害賠償責任を負った場合に保険金を受け取れるのが使用者賠償責任保険です。雇っている従業員は、仕事中にケガや病気になることもありえます。
業務遂行中に業務に起因して発生したケガや病気は会社に補償義務があります。従業員が業務災害にあった場合、会社は従業員に対して補償することが労働基準法によって義務付けられているのです。
資金力が豊富な大企業などの場合は、十分な補償を独自に行うことができる場合が多いですが、中小企業の場合は、必要な補償額を支払うことによって事業の継続ができなくなる可能性があります。
そういった中小企業でも労働基準法で定められている義務を果たせるように用意された制度が「労働者災害補償保険」です。
一般的には労災と略して呼ばれています。会社が保険料を支払うことによって、労災が発生した場合に給付を受けられる制度です。
しかし、労災からの給付額は、災害内容や障害の程度などによって上限が定められています。労働者災害の発生によって支払うべき補償額は多額になる場合もあり、労災からの給付では不足することも珍しくありません。
そういった場合に、不足額について保険金を受け取ることができるのが使用者賠償責任保険です。
使用者賠償責任保険でカバーできるのは、損害賠償額そのものだけではありません。そのほかにも、慰謝料や損害賠償請求に関する訴訟費用などもカバーできます。
さらに、労災に関して専門家に相談した場合に支払うコンサルフィーについても、特約を付けることによってカバーすることが可能です。労働災害に関する専門家としては社会保険労務士があげられます。
社会保険労務士との顧問契約を締結していない中小企業などの場合は、労災が生じたときにスポットでコンサルティング契約を結ぶことになるでしょう。
コンサルティング費用が少額で済まない場合もありますので、使用者賠償責任保険への加入は会社の資金負担を軽減できることに役立ちます。
労災認定されてから請求する
使用者賠償責任保険から保険金を受け取れるのは、労災の適用が確定した場合だけです。労災からの給付があった場合、保険金は賠償すべき金額が労災を超えている分に限られます。
そのため、労災として認定されない場合については、保険金の給付がない点はよく理解しておく必要があるでしょう。労災は、従業員を1人でも雇っていれば、原則として保険加入が義務付けられている公的な保険制度です。
アルバイトやパートでも対象になります。しかし、従業員などがケガや病気になった場合に必ず支給されるとは限りません。
業務中に発生したものであるという業務遂行性と、業務に起因して発生したものであるという業務起因性の両方を満たした場合だけにしか労災認定されない仕組みになっています。
使用者賠償責任保険の保険金支払い条件は、労災の認定基準と連動していることを認識しておきましょう。
労災に関する損害賠償金が1億円、会社の過失割合が7割、従業員の過失割合が3割、労災からの給付が1,500万円だった場合を例にとって保険金支払額を確認してみます。
まず、会社が負担すべき賠償請求額は、過失相殺が行われた結果である7,000万円です。
加害者と被害者双方に過失があった場合は、被害者は自らの過失に相当する分は相殺されて請求できないことになっています。そのため、1億円のうち、従業員の過失分である3割に相当する3,000万円については会社側が負担する必要がありません。
残りの7,000万円のうち、1,500万円については労災から受け取る給付でまかなえますので、不足額は5,500万円です。使用者賠償責任保険に加入している場合は、不足額の5,500万円について保険金を受け取ることができます。
また、会社によっては、業務災害時に従業員に金銭を支給することを就業規則などで定めている場合があります。
その分については、会社は負担することをあらかじめ決めてあったことになりますので、使用者賠償責任保険の保険金給付額から差し引かれる契約条件になっているのが一般的です。
たとえば、上記の例において、会社の規定により1,000万円の給付金を支払うことが定められていた場合は、労災からの給付を受けても不足する5,500万円を保険金として受け取ることはできません。
5,500万円から会社規定により給付する1,000万円を控除した4,500万円の保険金を受け取ることになります。なお、特約などを付加することによって会社支給の1,000万円まで保険金を受け取れる場合もあります。
損害賠償額以外の訴訟費用やコンサルティング費用などに関しては、実費で保険金給付を受けることになります。
ただし、保険契約によっては、支払いを行う前に保険会社に通知する義務が課されている場合もありますので、給付を受けるための条件をあらかじめ把握しておくことが必要です。
ないと大変!使用者賠償責任保険の必要性
「すでに労災への備えとして公的保険である労災保険に加入しているのだから使用者賠償責任保険にまで加入する必要はないだろう」と考えている経営者もいるでしょう。
しかし、労災だけではカバーできないケースもあるので、使用者賠償責任保険に加入する必要性についてもしっかり理解しておきましょう。加入の必要性に関するポイントは2つです。
加入時のポイント2つ
- 損害賠償金額は高額になるケースが多い
- 労働災害が発生したあとの対応を迅速に行うことにつながる
1つ目のポイントとしては、損害賠償金額は高額になるケースが多いことがあげられます。業務災害の発生状況によっては、労災ではカバーできない金額になる可能性があります。
使用者賠償責任保険に加入していなければ、労災給付を超える損害賠償額について会社の身銭を切って負担するしかありません。
過去の裁判においては、発生した業務災害に対する損害賠償額として約2億円の支払いを会社に命じた例があります。2億円とまではいかなくても、1億円、数千万円になる場合があります。
特に、死亡事故や脳障害などの高度障害につながる事故、過労による自殺などが発生した場合の賠償額は1億円を超える高額の賠償金を覚悟することが必要です。もちろん、労働災害が発生しないように労働環境を整備することが重要になります。
しかし、万が一に備え、賠償金の支払いによって会社経営が継続できなくなるリスクを回避するためにも、使用者賠償責任保険に加入しておく必要があるといえるでしょう。
2つ目のポイントは、労働災害が発生したあとの対応を迅速に行うことにつながる点です。労働災害が発生してしまったら、賠償額について話し合いが行われることになるでしょう。
話し合いで結論が出ない場合は裁判などで争うことになります。会社側も、経営への影響を最小限にとどめるために労災からの支給額を超える負担をできるだけ減らそうと考えるのが自然です。
しかし、労災への対応が長期化すると、風評被害により会社がダメージを受ける可能性があります。SNSなどで会社側が支払いを渋っているなどといった情報が流れてしまう可能性もゼロではありません。
そういった事態を避けるためには、速やかに事態に対応することが必要です。資金負担について悩むことなく迅速に対応できる体制を整えるためにも、使用者賠償責任保険に加入しておくことが必要でしょう。
労災では、業務災害に対して最低限度の補償だけしか得られません。また、風評被害を避けるためにも賠償金の支払いという経済面での対応を素早く行うことが重要です。
使用者賠償責任保険に加入することによって保険料の負担が生じますが、いざというときに役に立つのが保険のメリットです。
労災保険からの給付を超える補償が得られるのは使用者賠償責任保険だけですので、経営者として真剣に加入を検討してみることが必要でしょう。
加入する前の注意点
使用者賠償責任保険への加入を検討する場合は、保険契約の前に注意しておくべきことがあります。主な注意点は2つです。
2つの注意点
- 保険金額を決める
- 使用者賠償責任保険以外の生命保険も併用して備える
保険契約を締結する場合、保険金額を決める必要があります。保険金額とは、保険金支払い事由が生じた場合に支払われる保険金の上限金額のことです。
使用者賠償責任保険の保険金支払い条件は、1名についての上限金額と1災害についての上限金額の2種類が定められることに注意しておきましょう。
保険金額を高く設定することによって、多額の損害賠償責任が生じた場合でも対応が可能です。
しかし、保険金額を上げればそれに応じて保険料も上がる仕組みになっています。そのため、損害賠償額の想定だけでなく、保険料の負担が経営に与える影響も考慮して保険金額を設定する必要があるでしょう。
保険金額設定のポイントは、1名あたりの保険金額を高めに設定することです。
1名あたりの保険金額を高くすることによって、従業員などに対して十分な支払いを行うことが可能になります。
1災害の保険金額については抑えることになりますが、災害発生時に複数名の被災者が生じないような対策を行っておくことが重要です。
2つ目の注意点は、使用者賠償責任保険以外の生命保険も併用して備えることです。
労災の補償について、すべて使用者賠償責任保険で対応するのではなく、別の生命保険への加入によって備えることも検討してみましょう。
従業員を被保険者とする定期保険や養老保険、終身保険などに加入することによって、死亡事故や高度障害事故が発生した場合に、一時金として死亡保険金や高度障害保険金を受け取ることができ、その保険金を労災に関する損害賠償に充てることができます。
特に、掛け捨てタイプの定期保険は安い保険料で高額の死亡保障を得ることができます。定期保険と使用者賠償責任保険を併用することによって、低コストで効率的に労災リスクに備えられる点がメリットです。
生命保険にはさまざまな種類がありますので、保険に詳しい専門家に相談してみるとよいでしょう。
経営者はあらゆるリスクに備えて
経営者は、事業を発展させて売り上げを伸ばし利益を最大化させることが求められます。そのためには、新規顧客開拓や事業拡大などの攻めの対策だけでなく守りも重要です。
守りに関しては、あらゆるリスクを想定して備えておく必要があるでしょう。経済的なリスクに関しては、保険に加入することによって備えることが可能です。
経営上のリスクとしては、会社の所有物に関する損害に備えるための普通火災保険、法人向け地震保険や自動車保険、機械保険などがあげられます。また、不良品などの補償に備える生産物賠償責任保険などへの加入も必要になるでしょう。
請負業務中に損害を発生させた場合に備えて請負賠償責任保険への加入を考えておくことも大切です。さらに、対外的な賠償だけでなく、会社の従業員に対する労災補償にも使用者賠償責任保険へ加入することで備えておくことも検討する必要があります。
使用者賠償責任保険は、労災からの給付を超える経済的な負担を軽減できる可能性があります。労働災害に対する賠償金額は高額になるケースも珍しくありません。従業員が安心して働ける環境を整えることは経営者の重要な仕事のひとつです。
使用者賠償責任保険への加入は、福利厚生の充実にもつながり、働く環境を整える役割も果たしてくれます。国が整備した労災からの給付には限度額が設定されており、高額になる賠償金に対しては不足する可能性があります。
使用者賠償責任保険に未加入の経営者は、保険の内容をよく理解したうえで加入を検討してみることをおすすめします。
保険のプロの無料相談をご活用下さい。
当サイトでは、法人保険を扱う保険代理店と提携し、お忙しい経営者の方に向けて、法人保険の資料送付や、財務状況に合った最適な保険商品のご提案を無料で行っております。
- 法人向けの損害保険に加入したい
- 決算対策として最適な法人保険を検討したい
- 経営リスク・事業継承に備えたい
- 退職金を準備したい
忙しくて自分で法人保険をチェックする暇がない、どんな保険があるのか調べるのが面倒。そういった経営者の方に向け、法人保険や税の専門知識をもつ保険のプロが、本当に最適な保険を選ぶための力になります。
経営者の皆様の目的に合わせて、ニーズにあった最適な選択肢をご提案いたします。お問い合わせは無料ですので、ぜひご活用ください。
WEB問い合わせ(無料)※無料相談サービスは、法人保険を取り扱う保険代理店と提携して運営しております。