中小企業退職金制度は、昭和34年に中小企業退職金共済法に基づき設けられた中小企業のための国の退職金制度です。
この制度は中小企業で働く従業員のための退職金の積み立てに使われています。また掛金は全額損金算入されますので会社にとっても従業員にとっても大変使い勝手の良い制度となっており、現在多くの中小企業が加入しています。
この中小企業退職金共済の基本情報とそのメリット、さらには問題点を見ながら、加入する上での注意点についてお話していきたいと思います。
そもそも中小企業退職金共済とは?
中小企業退職金共済とは、独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)によって運営されている共済制度です。
加入企業は全従業員を対象に会社が毎月掛金を支払い、国からも掛金の助成を一部分受けながら運営されています。
Q.加入条件は?
この中小企業退職金共済に加入するためには、加入予定の企業が「資本金の額または出資の総額」または「常時使用する従業員数」のどちらかを充たす必要があります。
中小企業退職金共済制度の加入条件
業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 | |
---|---|---|---|
一般業種(製造業、建設業等) | 300人以下 | 3億円以下 | |
卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 | |
サービス業 | 100人以下 | 5千万円以下 | |
小売業 | 50人以下 | 5千万円以下 |
上の条件を満たした規模の会社(=中小企業)が対象となるわけですね。
Q.国からの助成にはどんなものがありますか?
新規で加入する事業主に対しては、次の2つが助成されます。
- 掛金月額の2分の1(従業員ごと上限5,000円)が加入後4か月目から1年間、国から助成されます。
- パートタイマーなど短時間労働者については、①だけでなく、更に上乗せした金額が国から助成されます。
従業員が多い企業など、なかなか退職金制度の積み立てに慎重な会社にとっては、この助成制度はありがたいですね。
Q.税法上のメリットはありますか?
中退共制度の掛金は、法人の場合は損金となり、個人の場合は必要経費となります。
積み立てた分は全て経費になるわけですから、支払う側にとっても税制上のメリットを見込めますね。
Q.掛金はいくらから?
月額の掛金は、各従業員ごとに16種類から選択できます。 また、掛金月額は条件が整えばいつでも変更できます。
5,000円 | 6,000円 | 7,000円 | 8,000円 |
9,000円 | 10,000円 | 12,000円 | 14,000円 |
16,000円 | 18,000円 | 20,000円 | 22,000円 |
24,000円 | 26,000円 | 28,000円 | 30,000円 |
短時間労働者(パートタイマーなど)は、上記の掛金月額のほか特例として次の掛金月額でも加入できます。
2,000円 | 3,000円 | 4,000円 |
「前の会社でも小規模企業共済を掛けていたのですが…」という方。小規模企業共済は、以前の会社で加入していた分も通算できます。
また、転職した場合でも通算できます。それ以外にも、特定業種退職金共済制度や特定退職金共済制度との通算も可能です。
Q.退職金の受け取り方法は?
退職金の受け取り方法は2種類あります。
退職者本人が退職時60歳以上であれば、全額を一括支払いで受け取るか、一部を分割して受け取ることができ、どちらでも好きな方を選ぶことができます。
Q.具体的に加入するには?
銀行や商工会議所などに置いてある申込用紙に必要事項を記入し、書類を郵送すると共済手帳が交付されます。
その後、掛金を銀行などの金融機関から振り込むだけです。
Q.退職手続きは?
退職する従業員に対して、会社側が中小企業退職金共済から交付された共済手帳を渡し、従業員が共済手帳の中にある請求書を使って中小企業退職金共済に直接退職金を請求します。
退職金は中小企業退職金共済から従業員に直接支払われるため、会社側は面倒な事務処理をする必要がありません。
中小企業退職金共済のメリット
ここまで中小企業退職金共済の特徴を見てきましたが、次は中小企業退職金共済の具体的なメリットを見てみましょう。
メリット1.短期で掛金を上回る退職金が準備できる!
従業員が24ヶ月間務めると、退職金が掛金総額を上回るように設計されています。
そのお陰で、退職金の積み立てが企業経営の負担になりがちな中小企業にとっても、勤務年数が短い従業員にとっても、掛金以上の退職金を受け取ることができ、大変助かります。
メリット2.3年6か月を越えて加入していると、更に効率的に掛金が増える!
中小企業退職金共済に3年6ヶ月以上加入すると、国からの助成が受けられ、効率よく積立額が増えていきます。
さらに、自治体によっては中小企業退職金共済制度に加入している事業所に補助を行っているところもあります。
このお陰で、会社側にとっては雇用の安定を実現でき、従業員にとっては退職後の不安を解消することができます。
メリット3.特別な資金繰りの必要がない
中小企業退職金共済に加入していない場合、いつ辞めるか分からない従業員のために退職金の積み立てをしておかなければならなくなります。
また不意の退職金の支払いにより資金繰りが一時的に悪くなる可能性もあります。
中小企業退職金共済は掛金を支払ったらおしまいですから、特別な資金繰りの必要がなく、管理が簡単です。
メリット4.会社側も従業員側も税制上のメリットがある
中小企業退職金共済の掛け金の積み立ては、全額損金算入ができるため、毎月支払った分は全額経費となり、その分だけ税制上のメリットが見込めます。
一方、もらう側の従業員にとっても、退職金を受け取る時は退職所得となるため給料と比べると大きな控除が受けられます。
メリット5.人材確保がしやすくなる
大企業と比べてどうしても福利厚生面で見劣りしてしまう中小企業ですが、こういった国が管理している中小企業退職金共済に加入し、退職金の規定もしっかりと組み込んで人材確保を行えば、会社が望む人材の確保や人材の定着が可能になります。
従業員側にとってもしっかりした退職制度があることで将来の不安も減り、働くモチベーションの維持にも役立ちます。
メリット6.提携割引サービスが利用できる
中小企業退職金共済の加入者は、中小企業退職金共済と提携しているホテル、レジャー施設等を、加入企業の特典として割引料金で利用することができます。
各種保養所や研修所などを持つ大企業と違い、中小企業がこういった施設を利用するのは単独では難しいのですが、中小企業退職金共済に加入していれば、各種提携施設を割引料金で利用する事ができるため、従業員の福利厚生に一役買うことができます。
さて、ここまでは中小企業退職金共済の仕組みやそのメリットについて見てきました。
何から何まで良いことずくめのように見える中小企業退職金共済ですが、実はいくつかの、そしてかなり大きい問題点があります。
その問題点を十分に理解した上でこの制度に加入しないと、大変なことになってしまいます。 いったい何が問題なのか、ポイントを絞って一つ一つじっくりと見ていきましょう。
ポイント1.懲戒解雇の場合でも退職金が支払われる
自己都合での退職であればともかく、さまざまな理由で懲戒解雇となった従業員に対しても、今までの掛け金が支払われます。
懲戒解雇の場合は退職金の減額はできますが、そのためには厚生労働大臣による認定手続きをしなければなりません。
そのための手続きは大変煩雑なため、実際は懲戒解雇でも泣く泣く全額支払われる場合が少なくありません。
また、仮に減額をしたとしても、減額分だけ掛金が会社側に戻って来るわけではありません。
退職金が従業員に直接振り込まれるのは会社側にとっては手間がかからず便利ではありますが、その分こういったリスクもあり、従業員に対しても会社のガバナンス上よくありません。
こういった事態を防ぐには、中小企業退職金共済と併用して養老保険に加入しておくことをおすすめします。
そうすれば、養老保険分に関しては、退職時に解約返戻金は会社に入るため、懲戒解雇の従業員に支払われることはありません。
こういった事情から、中小企業退職金共済と養老保険を組み合わせて退職金の積み立てをすることをおすすめします。
ポイント2.掛金の減額が実際はしにくい
中小企業退職金共済のパンフレットを見ると「掛金の減額も可能です!」と書いてありますが、実際はかなりしにくいです。
出来なくはありませんが、「しにくい」です。
掛金を減額してもらおうとする場合、現在の掛金の支払いを維持するのが著しく困難であると厚生労働大臣に認定してもらうか、もしくは従業員に説明をし、同意を得てから署名、押印をしてもらう必要があります。
厚生労働大臣に認定してもらうまでには時間もかかりますし、書類作成などのハードルも高いです。
かといって、従業員に事情を説明し、退職金の積み立ての減額に同意をしてもらうのも実際にはかなり難しいと言わざるを得ません。
「退職金の積み立てまで減額するなんて、うちの会社の経営状態はかなり悪い!」という噂が社内に広まれば、予期せぬ従業員の退職を招きかねません。
このような事態も考えると、長期的な資金繰りまで視野に入れ、相当慎重に掛金を選ばなくてはならないため、実際は掛金を低めに設定している企業がほとんどです。
その不足分として利用されているのが養老保険です。養老保険で中小企業退職金共済の不足分を補い、会社のキャッシュフローに合わせて保険料を増額したり減額したりしながら、養老保険を調整弁として利用するのです。
ポイント3.24ヶ月以上掛けないと、積み立てた金額が支払われない
さまざまな国からの助成が受けられる中小企業退職金共済ですが、最低でも24ヶ月以上加入していないと、掛けた分すら支給されません。
まず、中小企業退職金共済に加入して12ヶ月未満で従業員が退職した場合、退職金は1円も支給されません。
会社が掛けた分は全額損金処理となりますが、従業員のためにとせっかく掛けた掛金も、12か月未満で退職した従業員には退職金は1円も支払われません。
そのため、退職金をあてにして辞めた従業員との間でトラブルが起こることがあります。
また、12ヶ月以上勤めていても24ヶ月未満で退職した場合、掛金の全てが支給されることはありません。
従業員のために入った中小企業退職金共済なのに、従業員のためにならない場合もあるため、こういったケースには注意しなければなりません。
ポイント4.役員は加入ができない
中小企業退職金共済は、中小企業に勤める従業員のための退職金の積み立てですから、役員は加入することは出来ません。
例えば、将来会社を継ぐ予定の次期経営者も、役員でなければ中小企業退職金共済に加入しなくてはなりません。
そこで、入社後12ヶ月未満に不測の事態により取締役などに就任した場合、取締役に就任した前日が中小企業退職金共済の退職日とみなされるため、せっかく積み立てた退職金は1円も支払われなくなってしまいます。
また同様のケースが入社後12ヶ月以上24ヶ月未満で起きた場合、掛金よりも少ない金額しか退職金として支払われることはありません。
近い将来役員に就任する可能性がある人の場合、せっかく加入しても掛金が無駄になる可能性もあるため、掛金の金額は慎重に決めなくてはなりません。
ポイント5.貸付金制度は一切ない
中小企業退職金共済の掛け金は、いかなる事情があっても会社には一切戻ってきません。
法人契約の生命保険には、解約返戻金の一定割合を契約者に貸し付ける契約者貸付金制度がありますが、中小企業退職金共済にはそういった制度は一切無いということです。
掛金の減額が難しいばかりでなく、掛けたうちの一部を短期的に借りられるような制度もありません。
ポイント6.契約が解除される場合がある
中小企業退職金共済は、「中小企業のための」共済です。会社の規模が大きくなり、加入条件から外れてしまった場合、契約が解除されるため、従業員に解約手当金が支払われることとなります。
そうでない場合、解約手当金相当額の別の制度への引き渡しが必要になりますが、それに相応しい制度をまた探さなくてはなりません。
せっかく苦労して維持してきた退職金制度が、順調に会社が成長したために共済の加入条件から外れ、契約解除になってしまったら、また一から社内の退職金制度を作り直さなくてはならなくなります。
中小企業退職金共済制度まとめ
中小企業退職金共済制度は、従業員の退職金の積み立ての管理や支給なども簡単で、国からの助成も受けられる便利な制度です。
しかし、早期退職や掛金の減額など、予定外のケースには対応が難しいデメリットも存在しています。
もちろん、自社で働く社員のために退職金の積み立ては必要ですが、中小企業退職金共済で全てを賄おうとしてしまうと経営リスクに対処しきれなくなってしまうこともあります。
緊急時にも柔軟な対応ができるよう、共済制度以外にも法人契約の養老保険などに加入をし、平時からしっかりと資金準備を行うことが重要です。
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